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【ツグルからマキナ語る】気づいたときには遅くて

 へっ、と素っ頓狂な声が出た。

 マキナユーレイが、さらっと言った言葉に、心臓がものすごい勢いで暴れまわった。

 じっ、と俺を見つめる女子高生幽霊の頬は、ほんのり赤くなっていた。

 幽霊なのに血の気が昇るって、おかしくないか?

 いや、いろいろつっこみどころの多い幽霊だけどさ。


「マジですよ、これ」

 マキナユーレイがダメ押しに言う。


 えっ、いや、そういうこと、なんで十年前に言ってくんないの?

 死んで化けて出てから言われても困るだろ。

 そんな皮肉で頭を冷やそうとしても、幽霊からの告白は、思った以上に俺を動揺させた。

 なぜって、告白されたの、生まれて初めてだからな。しょうがないだろ。


「私が、一度だけ本気で好きになった人ですよ。先輩は」

 言って、マキナユーレイは寂しそうに笑った。

「付き合った人はいっぱいいるんですけどね」


 ああ、そうだ。

 思い出した。彼氏ができたんだよな、あの後、マキナに。

 それであの噂が……。


◇◇◇


 自覚はなかったんですよ。

 先輩のこと好きだって。

 ただ、毎日、放課後が楽しみでした。部室に行って、先輩の顔見ると、なんか胸の中にたまったモヤモヤが、すっと消えるんです。


 スマホをいじってて、ときどき、先輩の顔を見るんです。

 真剣に本を読んでいる顔を見てましたよ。

 にへらっ、て笑ったりするところとかも。

 私が見てたこと、気づいてなかったでしょう?

 それに、先輩とちょっとした話をするのも好きでしたよ。


 だけど、七月に入って、困ったことになったんです。

 エリと藤木君が付き合いだしたんです。

 そう、要領のいいもの同士のカップル。

 こう言ったら何ですけど、利害が一致したのかもしれませんね。

 それなりに見栄えが良くて、面倒くさくなさそうな相手と付き合っといた方がいいって。


 エリの方から、アプローチしたみたいですよ。じゃないと、斎藤君を押し付けられそうだったから。


 ええと、そうですね。斎藤君はクラスの男子のリーダーみたいな。声が一番大きい男子ですね。顔はまあ、普通。スポーツマン。体育会系ですかね。明るくて、あけすけ。

 はい、教師とかにタメ口利くタイプです。


 彼はとにかく、ヤリたかったみたいです。

 エッチがしたかったんですよ。彼女が欲しいってより、それですね。

 で、彼は私たち三人のうち、誰かと付き合あうつもりだったわけです。できれば、夏休み前に付き合って、休みの間、ヤリまくりたい、なんて考えてたんじゃないですかね。ああ、彼、バレー部に入ってたんですけど、あっさり、やめちゃってました。

 運動神経はいいけど、努力しないタイプですね。


 エリが藤木君と付き合ったから、残るは私とアリサですよね。普段の感じだと、アリサと斎藤君、結構、やりとりしてて。仲良さそうだったんですよ。

 だから、ひょっとしたら、斎藤君はアリサ狙いだったのかも。

 でも、アリサは長澤君狙いじゃないですか。

 そのアリサにしてみたら、私と斎藤君をくっつければ、残った長澤君と自然にくっつきやすいじゃないですか。


 長澤君ですか? プライド高いから、自分から告るなんて、絶対しませんよ。


 それで、アリサと斎藤君は手を組んだんですね。

 エリと藤木君が付き合ってから、やたらとアリサは私と斎藤君をくっつけようとしてくるんですよ。


 それに要領のいいエリ、藤木君カップルも乗っかって。もう、すごかったんですから。


 私たちのグループって、クラスを仕切ってる感じで。そのうち、クラス中で、なんか、私と斎藤君の噂が立つようになってきて。

 で、ある日、斎藤君に告られました。


「なあ、俺と、マジで付き合わない?」

 みたいな感じだったかな。


 あれは、断れないですよ。

 なんていうか、もう、そういうところに追い込まれていたんです、私。

 好きな人がいないとか、そういう、言質をちょこちょこ取られてて。断る理由を潰されてて。


 まずいなって思うんだけど、私、ずっと流されて生きてきたから。どうしようもなくて。


 斎藤君を振るには、もう生理的に無理っていうくらいしか言いようが無くなってたんです。

 でも、そんな風に断ったら、どうなるかなんて分かるじゃないですか。


 だから、私、オッケーしたんですよ。

 頷いたとき、先輩の顔が浮かびました。

 その時です。私がはっきり先輩のこと好きだって自覚したのって。

 おかしいですよね。今更って感じですよね。

 でも、そうだったんですよ。


 文芸部に行かなくなったの、そういう理由なんです。

 無理ですよ。先輩の顏なんて、絶対見れなかった。

 もっと早く、気づいて、先輩に告白してたら良かったんだけど。

 

 そうこうしているうちに夏休みになりました。

 斎藤君、すごかったですよ。すごい勢いでデートに誘ってくるんです。

 アリサもみんなで出かけたがって。ダブルデートならぬトリプルデートって感じですかね。


 手をつないで、キスして。

 そういう段取りってものをガンガン踏んでいくわけです。エッチしたいから。


 斎藤君って、俺が、俺が、なわけです。もう、自分の話を聞け。そして感心しろ。褒めろ。みたいな。だから、楽っていえば楽でしたけど。

 私、思うんですけど。

 楽しいと楽って、漢字は同じだけど、ベクトルは全然違いますよね。

 

 楽しいことって楽じゃないですよね。

 楽なことって、結局、楽しくないですよね。


 きっと、本当に好きな人と付き合ったら、感情がいろいろ揺れて、苦しいこととか、辛いこととかあって。でも楽しいんでしょうね。

 でも、私は、楽をしたから。

 ちっとも楽しくなかったですよ。


 七月の最後の日。斎藤君の家に行きました。両親は仕事で留守。もう、ここで決めるって雰囲気がビンビン伝わってきました。


「なあ、いいよな」って言って、私に断らせるつもりなんてない癖に。

 ゴムもバッチリ用意してあって。ホント、準備万端でしたよ。


 聞いてた通り、ものすごく痛くて。でも、それより、吐きそうなくらい気持ち悪かった。

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