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【十年前ツグル】お疲れ気味の後輩

 マキナがなんでこんな、しょうもない時間つぶしをするのか。分かったのは六月に入ってからだった。

 毎日降り続く雨。ただでさえジメジメして陰気な部室棟が、もうキノコとか生えそうなレベルの湿度になって。


 それでもマキナは毎日やってきた。


 制服がブレザーから、ベージュのニットベストと半袖シャツに変わって。

 ふと、顔を上げると、女子のあらわな二の腕とか見えて、ドキッとする。

 

 マキナがスマホをいじりながら、何度目かのため息を吐いた。

 なに? これ、疲れてるアピール?

 どうしたの? って聞いた方がいいのか?

 などと考えている間にも、また来た。

 ため息。


「ど、どうしたんだ? ため息ばっかりついて」

 自分から話しかけると、未だにどもるのであった。声のトーンも若干高いしさ。


「なんか、最近、疲れちゃって。勉強のし過ぎですかねえ」


「お、すごいな。まだ一年なのに」


「嘘ですよ。そんなわけないじゃないですか。返し、下手すぎません?」


「悪かったな」

 知らねえよ、返しとか。なに、ここは陽キャ養成所か?


「カーストってあるじゃないですか」


「あるな。インドに」


「ああ、そういうのいいんで」


 なんだよ。さっき返しをひねれみたいな感じで言ってただろうが。


「私のグループ、まあ高いんですよ。カースト」


 確かに、ザ・陽キャって感じだった。騒がしかったしな。


「中学の時は、まあまあ、上から三番目くらいの? いい感じに力の抜けたグループで。それでも、なんか疲れちゃうですけど。あんまり、圧力って言うんですか? そういうのがないグループだったんですよ。あっ、分かります、そういうの?」


 こいつ、俺を超下に見てるな。

「たぶんな。遊びに行かない、って言われたら、いくいく、みたいに返せって感じだろ」


「まあ、だいたい、そんな感じです。今のグループそれがすごくて」


「アクティブそうな奴らだもんな」


「私、自分でなにかを決めたりって苦手で。人に言われたこと、いつもやっちゃうんですよ。だから、振り回されちゃって」


「楽してるな」


「そうですね。反対するの疲れるんで。流されるのが楽なんですよ」


 俺と真逆だな、と思った。

 俺なんて、人と合わせるのが苦手で。協調性もない。おかげで孤立するわけだが。


「だから、ここ避難場所です」


 なんと言えばいいのかわからなかったので、そのまま黙っていた。そうしたら、マキナはずいっと身を乗り出してきた。

 襟元からちょい胸元が見えた。チラッとだぞ、チラッと。


「先輩はいいです。なんの圧力もかけてこないし。話さなきゃあって感じでもないし」


「居心地悪いなら、抜けりゃあいいじゃん」

 無責任に言ってみた。まあ、他人事だしな。


「ボッチは嫌ですね」


 この野郎。喧嘩売ってのか。


「この部屋の空気、好きですよ」


 その言葉になんか、妙にドキドキしてしまった。

「かび臭いだけだろ」

 照れ隠しにそう言った。


 マキナとは連絡先の交換もしなかった。

 だから、一学期があと一週間で終わろうって頃。

 彼女がパタリと部室に来なくなっても、どうしたのか聞くこともできなかった。

 まあ、俺のことだから、もし連絡先を知っていても、聞きはしなかったと思うけどさ。


 そのまま夏休みになり。長い休みが明けて二学期となり。

 そのままマキナは二度と部室へは来なかった。

 その後、彼女のある噂を聞いた……。

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