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【ツグル】今日は合コン

「楽しみっすね、先輩」


「えっ、なにが?」


 朝っぱらから、富田君が妙にテンション高かった。


「なにとぼけちゃってんすか。そのために昨日、あんなに頑張っちゃったんでしょ。ホント、先輩飢えまくりっすね」


「だから、なにがだよ。ぜんぜん伝わってこねえよ」


「もち、合コンすよ。花田さんプロデュースの合コンすよ。先輩に彼女を作るための企画っすよ」


「あれ、今日だっけ? つうか、平日だぞ。まだ火曜日だぞ」


「まあ、仕事帰りに軽くみんなで食事会みたいな。そういうライトなノリっすよ。ダメっすよ、あんまギラギラした目してたら。先輩、ただでさえそういうとこあるんすから」


 俺はため息をついた。ぜんぜん、気が乗らねえよ。

 こっちは昨日の今日で、マキナのことが整理ついてないっていうのに。合コンとかねえよ。

 でも、なんか俺のために、みたいな感じだしなあ。


「なんすかなんすか。最近、テンションおかしいっすよ。先輩らしさ、感じないっすよ」


「俺らしさってなんだよ」

 なんかいま、自分を見失いかけてんだよ、俺。


「なんすかね。やる気なさそうなとことか。面倒くさそうなとことか。どんよりした雰囲気とか。そういう感じっすかね。あれ、でもそれならいつも通りじゃないっすか。あっ、なんか、俺の勘違いっぽいっす。先輩、ぜんぜんいつも通りっすね」


 この野郎。ぶっ殺すぞ、マジで。


「七時からっすから。遅刻とか、マジ、ダメっすよ。俺、先輩のこと見損ないますよ」


「ほか、誰が来るんだよ。男、俺たちだけじゃあれだろ」


「ああ、俺の同期で総務部の保坂ってやつと竹下ってやつっす」


「えっ、俺、どっちも知らねえけど。なんだよ、すげえ、気まずいじゃん」


「しょうがないじゃないっすか。先輩、友達いないじゃないっすか。俺が一肌脱ぐしかないじゃないっすか。それともなんですか。先輩、男集められるんすか?」


 それならむしろ、斎藤君で良かった気も……いや、それもな。

 まあいいや。どっちみち気が乗らねえし。雰囲気、壊さん程度にノリを合わせてやり過ごそう。


「あと、先輩、金貸してくれません」


 こいつ、ホント、もうっ。


 富田君は三十分おきに、「マジ、楽しみっすね。どんな子来るんすかね。俺、途中で女の子といなくなったら、そういうことっすから」、みたいなことを言ってきて、いつも以上にうざかった。


 昼食はなんか知らんが、合コン出席男子メンバーでとった。そういや見たことあるなって、顔の富田君の同期二人。


「こんちゃっす。レオンの同期の保坂っす。マジ、よろしくお願いしゃっす。俺のことは、ノヴァでいいっすよ」


 えっ、ノヴァ? なにそれ、と思ったが、名刺を見ると、本当に名前が新星と書いてノヴァだった。

 ちなみにレオンは富田君のファーストネーム。彼のフルネームは富田怜音なのだ。


 ちなみにノヴァは茶髪ロン毛で、なんかホストっぽい雰囲気の男だった。そう、指名が付かない感じの。


「竹下です」

 もう一人の竹下君はすっと名刺を差し出す。俺も彼に名刺を渡しつつ、ノヴァよりは相性が良さそうだと思った。

 中性的な雰囲気というか。妙に男臭くない感じの青年だ。白っぽい金髪のいわるゆアッシュブロンドの髪。細い眉。すね毛剃ってそうだ。


「こいつのことは、レイって呼んで下さい」


 竹下零というらしい。下の名前かっこいいな。むしろ、ゼロって呼ぼ。心の中で。


 四人で昼食。

 まあ、ノヴァと富田君が話すこと話すこと。


「マジ、上がるな。どんな子くるかな。花田さんプロデュースだぜ。マジ、美人確定じゃね」と富田君。


「そりゃ、そうっしょ。花田さんの大学時代の後輩って話だろ。超期待できんじゃん。俺、途中で消えっから。二人いなくなったら、そういうことだから」とノヴァ。


 なんか富田君が二人になった感じだなあ。


 ゼロはまったくしゃべらなかった。無口キャラ? いや、単に人見知りしてるだけかもな。よく知らん先輩と同席してるわけだしな。


 なんて思っていたら会社へ戻る途中話しかけられた。前では富田君とノヴァがなんかまた「超期待できんだけど」「マジ、花田さん神だかんな」「いや、そこは女神っしょ」みたいな会話をして盛り上がっていた。


森長良もりながら先輩、専務と仲いいですよね」


「えっ、ああ、うん、仲良くしてもらってるよ」

 ビックリした。いきなり話しかけてくるんだもん。


「僕、専務と話したことないです」


「すげえ、気さくで話しやすいぜ。超エリートなのに、偉ぶったところぜんぜんなくてさ」


 そこから専務の話題。あの人はエピソードに事欠かないからな。

 ゼロは感情の起伏が少ないのか、それとも表情に出にくいのか、あるいは単に俺の話がつまらないのか、あまりリアクションがなかった。


 ちなみにゼロは総務部。ノヴァは企画部。


「カッコいいですよね。専務」


「ああ、超モテるぜ、あの人」


「……」


 なんか、会話が空転するなあ。

 まあ、俺もゼロもコミュ力低めだから、こんなもんか。


 会社について、じゃあ、今日はよろしく、みたいな感じで二人と別れた。


 まあ、あれか。一人でいるとマキナのことばっか考えちゃうし。むしろ、ちょうどいいのかもな。今夜は盛り上げ役に徹しよう。


 昨日、一心不乱に仕事したおかげで、午後はのんびり仕事できた。そうすると、どうしても、マキナのことを考えてしまう。

 あれでよかったのかな。もうちょっとやりようあったんじゃないか? 会いてえなあ。

 まあ、こんなことをグルグル繰り返し考えちゃって。


 時間が経つのがひどく遅く感じた。

 ちなみに隣からは、「マジ、ぜんぜん、終わんねえけど」という泣きそうな声が聞こえてきたが、気にしなかった。

 あんまり甘やかすの良くないもんね。


 やがて退社時刻。

 とはいっても、六時半に花田さんが迎えに来て、みんなで店に向かうことになってるから、一時間以上暇なんだけど。


 いつもの三倍くらいの気迫で頑張ってる富田君を微笑ましく見守っていると、ノヴァとゼロがやってきた。


「おいおい、レオン、なにやってんだよ? 終わってねえのかよ」


「うっせ。マジ、忙しいんだよ。邪魔すんな」


「でも、楽しみだな」


「おう、マジ楽しみ」


 こいつら、合コンへの期待だけで、どれだけ会話もたせてんだ。すげえよ、陽キャ。


 結局、富田君は仕事を諦めたらしく(つうか諦めんな、それ、マジで納期遅延できねえ案件だからな)、ノヴァとテンション高めの会話をして。

 相変わらずゼロは無口で。時々、ノヴァや富田君に振られて話す程度だった。


 そこへ専務がやってきた。それまで饒舌だったノヴァがピタッと口をつぐむ。


「なんか楽しそうだね。君たち、富田君の同期でしょ?」

 専務は相変わらず、フランクだ。


 ノヴァとゼロが緊張気味に名乗る。

 まあ、金田専務イケメンだし、専務だし、仲良くないと緊張するよね。


 それから富田君がこれから合コンに行くことを話す。


「そうか。楽しんできてね」


 富田君が専務も誘った方がいいのかな、みたいなアイコンタクトをしてくる。でも、誘ったら女の子全員専務狙いになっちゃうし、みたいな感じか?


「なんなら専務もどうですか?」

 いちおう、言ってみる。絶対、来ないだろうけど。富田君たちがモヤりそうだし。


「僕はいいよ。そういうの苦手だしね」

 さらっと断る。


 そっから、俺と専務は二人にしかわからないようなマニアックな会話を楽しんだ。それをゼロがなんとなく聞き。

 富田君とノヴァは、また合コンへの期待で会話してる。こいつらどんだけ期待してんだ。


 やがて、専務はいってしまい、ほどなくして花田さんが来た。

 富田君とノヴァがアイドルでも来たみたいに、すごいテンションで迎える。


「大丈夫? モリナガ君。なんか、元気ないけど」

 花田さんが言った。


 さすがに鋭いな。

「緊張してるだけだよ。気にすんな」


「そう? なんか失恋でもしたって顔してるけど」


 これだから女は怖い。まあ俺が顔に出やすいだけかもしれんが。


「気のせいだろ。さっ、行こうぜ」


「あ、そうそう。モリナガ君、次期課長候補ってことにしてあるから」

 花田さんが言った。


「はっ? なにそれ。絶対、ないだろ」

 管理職とか絶対無理。ストレスで禿げる。


「ほら。うちって、業界ではそこそこ名の知れてる方じゃない。特にシステム開発部は結構、お給料いいじゃない。モリナガ君、同年代の中では、かなり貰ってる方じゃない?」


「同年代がどんくらい貰ってるか知らんからな」


「しかも、モリナガ君、専務と仲いいじゃない。次期社長に目をかけられているってことで」


「はっ? 目をかけられてるわけじゃねえぞ。ただ仲いいだけだ」


「とにかく、そういうことにしてあるのよ。超有望株、みたいな?」


「まあ、いいけどさ」

 どうせ俺は盛り上げ役だ。三人の若者を完璧にフォローするぜ。

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