【ツグル】やっぱり奴のせいか
翌日。富田君は休みだった。なんでも、激しい腹痛に見舞われて寝込んでいるとかなんとか。
やっぱあいつのせいじゃねえか。
仕事の方は抱えていた直近の納期のやつが終わった。すると、富田君の仕事が俺の方に来た。ちょっとぉ、すげえ、納期迫ってんですけど。
しかも、まだ、ぜんぜんじゃねえか。
あいつ、今までなにやってんだ。
おかげで、またもや残業することになった。クソっ、富田君め。
それでも二時間程度で目途が付く。
つうか、あいつはなんで、こんなチョロいヤマでここまで引っ張ってんだ。
いつもなにやってんの。なにカタカタ打ってんの。絶対、仕事じゃねえだろ。
会社から出て駅まで走る。
なんか、最近よく走ってんな、俺。
電車乗って。そんで自宅最寄り駅で降りて、また走る。
コンビニ寄らんと。夕飯がなんも無いや。
パスタと缶ビールを購入。
アパートの階段を上ると、マキナがちゃんといて。俺を見て、ニッコリ笑う。
「おかえりなさい。先輩」
「おう、ただいま」
こんな挨拶だけで、すごく癒される。
だって、マジで可愛いんだよ。目の前の女子高生幽霊は。
「ちゃんと富田、シメましたかぁ」
眠たげな目で、キツイことを言う。
「いや、あいつ休んだ。腹痛だってさ」
「やっぱり、富田のせいじゃん。マジで最悪」
「まあまあ、あいつも悪気があったわけじゃないから」
なんで俺が富田君のフォローをせんといかんのだ?
「とにかく、入ろうぜ。腹減っちゃったよ」
いつものようにローテーブルに対面で座って。
俺がパスタを食う様を、マキナがニコニコしながら眺めてる。
「明日も遅くなるんですか?」
「いや、なにも起こらなきゃあ、早く帰ってくるよ。金曜日だしな」
すると、マキナの顔がパッと輝いた。
「そっか。明日、金曜日なんだ」
ふふふっ、と笑う。
「そっか」
夕食の後、久しぶりにテレビを見た。
マキナのニュースの続報はなかった。そのまま、動物物のドキュメンタリー見て。
マキナは例に寄って、ピタリと俺の隣に寄りそって座り。気が付くと俺の指にマキナの指が絡んでいた。
ときどき、チラッとマキナの横顔を見る。
大きな目は目尻がしっかり下がった垂れ目。色素薄めの茶色い瞳。高くはないがすっと形の良い鼻。少し童顔ぎみで、美人顔ではなく可愛い顔。ギャルメイクが似合っているが、たぶんメイクをしていなくても十分可愛いと思う。
俺の視線に気が付いたマキナが、こっちに目を向ける。目が合った。柔らかい微笑みが浮かぶ。
結んで指がキュッと締め付けられた。
高校時代の俺は、なにやってんだろうな。
こんな可愛い子と毎日放課後、二人きりでいたのに。
お前、もっと、ちゃんと彼女と向き合えよ。
そう叱咤したくなる。
ドキュメンタリーで少し涙腺が緩んだ俺たちは、妙に照れ臭い気分でそのまま寄り添い続けた。
テレビはつけていたけど、俺の頭はマキナのことばかり考えていて。
たぶん、マキナもそうだと思う。
ベッドに横になるとマキナは少し残念そうな顔をして。俺の手を抱きしめる。
「おやすみなさい。先輩」
「おやすみ、マキナ」
 




