サンタ・デビルの契約
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
pixivでも創作小説投稿をしております。
この国の人々(主に子供たち)の間で噂になっている、願いを叶える悪魔。
12月、真冬の真夜中。教会に魔方陣を記し、自らの名と願いを書いた誓約書を用意し、長い長い呪文を唱えると出てくるという。血のように赤い髪と瞳、雪のように白い肌。それがサンタと似ているから、愛称は「サンタ・デビル」。
悪魔はどんな願いでも叶えてくれる、悪魔が提示した代償を受け入れれば。本当に願った通りのことが起こるのか、それともただのおとぎ話なのか・・・。真夜中の教会とか代償とか危ない要素が多い。大人たちは「絶対にやるな」と強く言っているから、そう手を出す人はいない。
私もそういった危ないモノには手を出したくない。
でも・・・・・・やらなくちゃいけないの。こんな寒空の下で、家に入れてもらえないから。
私はシエラ・バーボネス、この国で3本の指に入る領家バーボネス家の娘。文面だけ見れば恵まれた立場かもしれない。
けど実際は違う。私は、バーボネス家の父と平民の母の間に生まれた庶子。病弱な母が亡くなった後、私は10歳の頃にバーボネス家に引き取られた。でも父には別の女性が本妻としていて、既に子供がいた。シャーロット・バーボネス、私と同い年の女の子。義母やシャーロットは庶子である私を頑なに嫌い、家族ではなく使用人として私を扱い始めた。
それから5年近く経ち、父が病に倒れた後は義母が当主として振る舞うようになり、私の扱いは一気に悪くなった。翡翠のような髪を持つのが常識のバーボネス家に対し、平民の母似の茶髪だったのが、余計に無理だったのだろう。
私はシャーロットと同じ学園に通っているけれど、シャーロットは日常的に私を良く思ってない。明らかに私をいじめたりなんてことはしないけど、色んな雑用を押しつけてくる。オマケに彼女は、他の人に「あの女に関わるとロクなことにならないわよ」「仲良くしない方がいいわ」と堂々と言っていた。でも学園ではシャーロットの方が明らかに好かれているから、多くの人がそれを鵜呑みにする。だから私は、家でも学園でも1人だった。
そんな日々が続いたある日のこと。学園で珍しくシャーロットが話しかけてきた。あまり関わりたくなかったけれど、無視すれば印象が悪くなる。おそるおそる返事をしたら、彼女の取り巻きに囲まれてしまった。不思議なくらい笑顔のシャーロットが、不気味な紙を私に押しつけてくる。
「ねぇシエラ、もうすぐ12月よね?サンタ・デビルの伝承、あなたやってみたら?」
「・・・・・・えっ?」
「お願いしたら叶うという、夢のようなお話じゃない!」
「やらない手はないわよね?ねぇ~」
取り巻きたちが口々に言いながら笑っている。サンタ・デビルは当然知っている。でも危ない行動だらけだから、そんなもの絶対やりたくない!やんわりとそう言えば、シャーロットの顔色が変わった。
「あらそうですか、貴女はなんて薄情者でしょうこと!」
「そうですわよ、貴女のお父様を助けたくないですの!?」
彼女たちの話では、サンタ・デビルに父の病気を治すようお願いしろ、ということらしい。確かに父は病を患っているし、今年に入って急激に悪化したから助けたい気持ちはある。でも、悪魔なんて・・・。
「やるまで家に帰ってこないでくださる?産んでくれた親を見捨てる貴女みたいな薄情者、バーボネス家の面汚しですこと!全ての使用人に言っておきます、嘘でもついたら1週間は食事抜きですので!!」
言いたいことだけ言われ、シャーロットたちは満足げに去って行く。父のことを利用され、私は悪魔の召喚を押しつけられたんだ。きっと後々やったことでさらに汚名を着せられる。でもやらなかったら、家でさらに虐められる。今は寒い季節だから、家には入れないなんて嫌・・・。
結局私は、悪魔召喚の儀式をするしかなかった。儀式に必要な物は全てシャーロットたちから渡されたから、もう後には引けない。
12月の深夜は、手がかじかむどころじゃない。最低限のコートは使い物にならないくらい、でも無いよりはマシなはず。教会に忍び込むのは心苦しい。父の病気を治すためと自分に言い聞かせても、やっぱり怖い。震える手で魔方陣を書き、しっかり書いた誓約書を置いて、ゆっくり呪文を唱える。呪文の最後は、えっと・・・サンタ・デビルの名と、自分の願いを叶えてほしいことを言えば良いんだっけ・・・。
ーーーサンタ・デビル、サンタ・デビル
ーーー我の願いを叶え給え
ーーー汝の代償、何なりと受け付けよう
呪文を唱え終わると同時に、バン!!と魔方陣が光り輝く。突然のことで、心臓が止まるかと思った。直後、背後に現れた気配・・・・・・紛れもなく誰かいる。慌てて振り返ると、そこには黒いフードを被った長身の人がいた。その人は少しだけ私に近づくと、ニヤリと笑いフードを外した。
若い男性(私より少し年上?)みたいな顔。血のように赤い髪に瞳、雪のように白い肌。額には、小さな2本の角が生えている。これは、間違いなく悪魔だ。私が呼んでしまった、サンタ・デビル。恐怖を感じていると、悪魔は笑みを深めた。
「・・・サンタ・デビル、貴様の命を受けここに来た」
低く冷たい声が響く。背筋が凍った気がした。は、早く・・・早くお願いをしなきゃ・・・。そんな私の様子など気にせず、悪魔は誓約書をマジマジと見つめている。
「シエラ・バーボネス・・・父の病を治してほしいのか」
「・・・か、叶えられ、ます、か?」
「代償さえ払えばな」
悪魔って、本当にいたんだ・・・その笑みが怖い。シャーロットに脅されたとはいえ、私はとんでもないことをしてしまった。でも、ここで今更無かったことに出来ない。父の病気を治すため、家に帰るため、私は悪魔と面と向かって話す。
「わ、私の命はあげられませんけど・・・私にできることなら何でもします!だから、だからどうか、父を救ってください!!」
私の言葉を聞いた悪魔はまた笑う。そしてゆっくりと私の方に歩み寄り、そっと私の顎をさする。
「貴様、気に入った。パラサイトとして、宿らせてもらおう」
「え?」
「俺が活動し続けるためには、生き物の生命力が必要なんだ。特に人間の生命力は、俺の力にとりわけ大きな源となる。だから生命力を得るために、お前の体に憑依させてもらう。なぁに、別に生命力を死ぬほど奪ったり、永久に吸い取ったりすることはない。今の俺に必要な分・・・数ヶ月の間、俺の存在を貴様の肉体と共存させてもらおう。
嫌とは言わせないぞ?俺を呼んでしまった以上、お前はもう逃げられない。大人しく受け入れろ」
覚悟を決めてうなずくと、悪魔は満足げに微笑んだ。悪魔は、私に顔を近づけてくる。咄嵯に目を瞑れば、唇に何か柔らかいものが触れて・・・そのまま私にキスをした。初めての口づけは冷たくて、血の味がする。
「んっ・・・・・・!」
「っ・・・・・・これで、契約完了だ。俺は今から、貴様の生命力の一部を貰い続けよう。貴様の願い、明日にでも叶うだろう」
唇を離し、そう言った悪魔はどこか可笑しそうに笑う。真夜中の教会に似合わない、悪魔のケラケラ声が響いていた。
○
彼の説明によると、悪魔は簡単に姿を見せたり消したり出来る。今は契約者である私以外には見えない状況。彼からは話しかけないよう努力するけど、1人で話している様子は滑稽だから、見られないように気をつけろ・・・と。
ファーストキスは奪われたけど、ひとまず命は助かった。けれど・・・これから私は、どうなるのだろう。家におそるおそる帰ると、既に家族も使用人たちも寝静まっていた。これだったら何もしなくて良かったのかな・・・。夕飯も残されてなかったので、途方に暮れていると・・・悪魔がふと、食事を出してくれた。
「貴様に死なれては、俺も不都合だからな。もうしばらくは生きてもらうぞ」
翌日、シャーロットは何も言ってこない。父の病気が快方に向かっていることで、家の話題は持ちきりだったから。シャーロットは「私のお祈りが届いたんだわ」と嬉しそう。使用人や学園の皆は次々に「シャーロット様はなんて健気な方なんだ」と、彼女を賞賛する声が相次ぐ。そんな中で悪魔は「馬鹿な人間どもだ」と、彼らを一掃した。
「奴の快方は、俺の魔術によって引き起こされたモノ。シャーロット・バーボネスが祈っていた様子など、微塵も無かったろうに。なんとも哀れな翡翠髪の女と、その狂信者どもよ」
悪魔であっても、真実を知ってくれている人がいることに、何故かホッとする私。そんな中「それに比べて、あの庶子は・・・」と、ひっそりと私の悪口も聞こえてしまう。いつものことだから・・・そうやって聞こえないふりをする私を見て、悪魔は心配そうな顔をする。「良いのか?」と聞いてきたから、「大丈夫」と少しぶっきらぼうに言った。悪魔にまで同情されたら、さすがに立つ顔がないからね。
でも悪魔は世話好きだった。生命力を得るためとはいえ、私の手助けを進んでしてくれた。私が押しつけられた家事や雑用には「見ているだけでは気が引ける」と、やり方を教えるのは大変だったけど、手伝ってくれた。「庶子に祝う程の豪華さはいらないでしょう」と家族から流された誕生日には、私の欲しい物をこっそり買ってくれたりもした。
「・・・ねぇ、サンタ・デビル。どうしてここまでしてくれるの?」
「まあ、何だ。代償を一方的に決める悪魔は、元来から気まぐれな存在だ。俺の気分がそうさせただけだ。あと・・・サンタ・デビルは通り名だ。俺の本名はアモン、そっちの方が呼びやすいだろう」
それはサンタ・デビル・・・アモンのからかいのような、でも本音のような。きっと彼なりの関わり方なんだろうな。そんなことを思いながら、「じゃあ、私のこともシエラって呼んで」と言った。
「契約者とか貴様とか・・・そういうのより、名前の方が嬉しいから」
「そうか、それが貴様の願いなら叶えよう。代償は取り憑き期間の延長だな、シエラ」
貴方にだったら、ずっと側にいてほしいかも・・・なんて言えないけれど。私にとっては、初めて出来た信頼できる人。悪魔召喚というおぞましいことをして得たモノは、いつしか大切な人になっていた。
でもあくまで契約、期間が終わればアモンはここから去って行った。充分な量の生命力を得られたと、満足そうな顔。
「アモン、また来ても良いんだよ」
「馬鹿か、契約以外で悪魔が人間と関わるのは違反だ。破った悪魔はろくな事にならない、俺はそんなのゴメンだ。・・・お前もこれ以上、悪魔と関わるなよ。真っ当に生きたければな」
彼なりの優しさで警告してくれると、黒いフードは影のように溶けていく。地面に吸い込まれたと思えば・・・誰かいたことが嘘のように、静かになっていた。・・・あぁ、また1人になったのね。悪魔から解放された安堵はなく、寂しさと空しさでポッカリ心に穴が空く。・・・むしろこうやって悲しむことが出来たんだと、不思議と自分に驚いていた。
○
父の快方が一段落つくと、次第にシャーロットは、私がサンタ・デビルの儀式を行った噂を流し出す。サンタ・デビルの儀式は、様々な観点から許されることじゃない。おかげで私は、様々な人からも疎まれることになる。やってしまったことは仕方ない、批判は甘んじて受ける覚悟だったけれど・・・シャーロットはわざと大事にしてしまった。
学園外からも様々な人が来る学祭、彼女は多くの人の目の前で、私を断罪し出したのだ!
「シエラ・バーボネス、貴女の行動は大罪!私欲のために悪魔と契約するなんて、言語道断!」
彼女の取り巻きの言葉に、辺りがざわめきだす。
「皆様、その私欲をご存じですか!?美しく優秀なシャーロット様に嫉妬した挙句、悪魔で名声高きバーボネス家を乗っ取ろうと企んだのですよ!」
「あの女自体が悪魔よ!」
「こんな外道、見るのも共にいるのも嫌ですわ!」
流石に酷すぎて我慢が出来なくなって、シャーロットに直接言及した。もう嫌なことをされて、黙っているような私じゃない。
「待って、それは貴女が指示したんじゃない!お父様の病気を治すため・・・」
「何を寝ぼけてるの?貴女はお父様の病気を治そうなんて、これっぽっちも考えてない。貴女は自分のために、サンタ・デビルを利用しようとしたじゃない!!証拠だってあるんだから」
シャーロットが見せつけてきたのは、私に無理矢理押しつけた儀式用の魔法陣。それと私の名前が書いてある誓約書。でも願いの内容が父の病気を治すのではなく、「バーボネス家の当主になりたい」と書き換えられていた。
「貴女がこんなに欲深いなんて、私は失望したわ。庶子でさえ嫌気が差したのに、貴女はただの犯罪者。やはりバーボネス家の面汚しね、もう貴女を同じ家の者と認めません!」
「・・・・・・」
反論しようにも、何も言えなかった。だって彼女の言うことは正しい。悪魔に願うことは、どんなことであれ禁忌。誰からも許されない。シャーロットに一部嘘をつかれても、それを覆せるモノではない。結局は悪魔召喚に手を出した私が悪いことになる。
周りから浴びせられる罵声、非難の声。「バーボネス家から出ていけ」「この学園から消えろ」など、酷い言葉ばかり。私に味方はいない、誰もいない。予想していたとはいえ、実際に起こってみると悲しい気持ちになる。もう私は、ここにはいられない・・・。もう私は、生きる理由なんか・・・。
ーーー貴様らは、悪魔を冒涜しすぎだ。
ーーーこの俺を、ここまで怒らせるとは・・・・・・愚かな奴らめ。
突然聞こえた、聞き覚えのある声。その瞬間、シャーロットの持つ魔法陣から溢れ出た黒い霧が、シャーロットとその取り巻きに襲いかかった!
「ぎゃああああ!!」
悲鳴が飛び交う中、黒い霧は容赦なく彼女達を飲み込んでいく。あまりの恐怖で私が膝から崩れ落ちると、黒い霧から黒いフードの人物が、ゆっくりと現われる。血のように赤い髪と瞳、雪のように白い肌。そして、額の小さな2本の角。その姿は、当然彼だ。
「・・・・・・ア、アモン?」
そう呟くと、彼は私を見つめる。すると、フッと笑ってくれた。でも、どうして・・・?契約を終えた人間に、悪魔は近付かないって言ってたのに・・・。まさかまた会えるなんて思ってなかった。嬉しいのか何なのか、分からない感情が込み上げてくる。
周りにいる人々は「悪魔だ!」と、一気に騒ぎ始めた。でも騒々しさが嫌になったのか、アモンは「黙れ」と全てを凍てつかせるような冷たい声で言い放つ。周囲が静寂に包まれると、コツコツとシャーロットへと近寄った。笑みが多い彼が怒りに満ちた顔になっているのは、初めて見たかもしれない。
「シャーロット・バーボネス、貴様は俺たちの逆鱗に触れた。悪魔の契約を利用し、人の子1人を陥れようなぞ・・・実に浅はか。己の欲望をあたかも他者の願いと偽り、自らは穢れなく清廉潔白な存在だと偽る。なんとも滑稽で愚劣極まりない」
「何ですか!?そもそも、シエラはやはり悪魔と契約し・・・」
「馬鹿馬鹿しい。悪魔の契約と貴様の悪事は別物、ましてやシエラが俺に願ったことは“父の病気を治すこと”だ。そもそも悪魔召喚をやれと言い出したのは、貴様の方ではないか。シエラは貴様に利用されただけに過ぎない」
「そ、そんなはずはありませんわ!!私を巻き込まないでくださる?」
「往生際の悪い小娘だな。まぁいい、貴様と貴様の家には俺による厄災を後に下してやろう。・・・行くぞ、シエラ」
崩れ落ちた私は、彼にグイッと手を引かれる。「逃げるおつもりで!?」とヤジを飛ばすシャーロットに、「貴様が出て行けと言ったろう」とアモンは一喝する。
「俺はお前たちの言う通り、ここから去るだけだ。ここは居場所ではないことなど、とっくに分かっているからな」
そう言うと、私の手を引きながら学園から去って行く。それから2人、1度も振り返ることなくその場所を後にした。彼となら、何処までも走って行けるような解放感。ようやく何かから解き離れた幸せ。でも、勢いで出てきてしまって良かったのかな。私、何も持っていないのに・・・・・・。
「シエラ、お前には直に迎えの奴が来る。あの家を出て、新しい生活を送るためのな」
「迎え?一体誰が・・・・・・」
その時、目の前の地面に魔方陣が現われる。最初にアモンが出てきたように、魔方陣からは眩い光が。そこから見えてきたのは、黒いフードの人々。1番前にいた年配の男性が、1歩私たちに近寄った。
「デビル・アモン、この娘ですか?」
アモンはコクリと頷いた。彼より立場が上なのか、アモンはずっと敬語と敬称をつけて話している。しばらくして話が終わったのか、男性は私の方に近付き一礼した。私も慌てて礼を返す。
「ミス・シエラ、この度はデビル・アモンによる契約外での接触を犯し、お詫び申し上げます。我々は悪魔統治を担当する団体です。今回は違反を行ったデビル・アモンの拘束と、奴が介入した人間への救済措置を担わせていただきます。
貴女様のことは既に把握しております。バーボネス家を出ても自立して暮らせるよう、準備しております」
気付くと後ろでアモンは、他の黒いフードの人々に捕らえられていた。いつもは威勢があるアモンなのに、抵抗する気が一切なく、大人しく受け入れている。何が起きているか分からず彼に近寄ろうとする私に、彼は微笑んで説明してくれた。
「言っただろう、契約以外で悪魔が人間と関わるのは違反だと。俺はお前を救おうと色々介入して、その違反をしただけ。全ては俺の気まぐれさ」
「そんな・・・待ってください!彼は、私を助けてくれた・・・。悪い人なんかじゃ・・・!」
「悪魔として違反したんだ。俺はこれから、悪魔として裁かれるだけさ」
「でも・・・いなくなったら、私はまた、1人に・・・・・・!!」
「心配すんな、お前はこれから何でも出来るんだ。自分で選んだ道を行けば良い。お前はもう自由だ、誰からも縛られることはない。だから・・・・・・泣くんじゃねぇよ」
彼の言葉を聞いて初めて、自分が泣いていることに気付いた。止めようとしても、涙が溢れ出てくる。でもそれを拭う手もなく、彼は連れて行かれてしまった。本当に1人になったことに、私は再び膝から崩れ落ち、泣きじゃくるしかなかった・・・・・・。
●
あれから私は、団体の救済として新たな住処と仕事を与えられた。遠い地の平民として生きることを余儀なくされたけど、バーボネス家や学園での扱いより遙かに良いから、今のところ不満はない。元々庶子だったから、そこまで辛くないのもあるけど。
風の噂で聞いた、私が出て行った後の学園やバーボネス家のこと。アモンが言っていた厄災が降りかかったのか、シャーロットは今回の騒動をきっかけに、淑女に反する問題行動が次々と暴かれた。取り巻きもろとも退学処分を受けたのと同じ頃、義母が面白半分で手を出した事業にも失敗した。バーボネス家はあっという間に取り潰し直前まで追い詰められ、今は都から遠く離れた田舎に隠居しているらしい。贅沢三昧だった2人が、平民の質素な生活に耐えられるのかしらね。
父は・・・それなりに上手くやっていると願いたい。体調を崩していないかな、お金は足りているかな。でも義母やシャーロットの暴挙やワガママを黙認していたんだ。そんな2人を見逃した代償だと思うと、まぁ仕方ないかなとも思っちゃうけど。
・・・・・・あの後、アモンはどうなったのだろう。罰せられるなんてとんでもない。彼は自分を犠牲にしてまで、私を助けてくれたんだ。そしてこれからの私を、誰よりも信じてくれている。
また、1人になってしまったけれど・・・大丈夫、私は、大丈夫・・・・・・。
ーーードガァァアアン!!
突如、家の前に何かが降ってくる。それは大きな音を立て地面に激突し、煙が立ち込めている。一体なんなの!? おそるおそる近寄ると、そこには見覚えのある人物が横たわっていた。血のように赤い髪と瞳、雪のように白い肌の男性。
「あ、アモン!?」
思わず声を上げてしまう、何故か縄でグルグル巻きになっているのが不思議でならない。慌てて駆け寄ったけど、大きな怪我はなさそう。あれ、額にある角が無くなってる?服装も、ここに住む人とそこまで変わらないし。縄をほどく間に、何があったのか尋ねる。
「あの団体による罰だとよ。契約外のことで人生を狂わせた人間を、責任とって世話しろと。悪魔から人間に変えさせられてな」
「えっ、それってつまり・・・・・・」
「俺はお前と同じ人間ってことだ」
まさか、こんな形で再会することになるなんて。悪魔の力を失ってもアモンはアモンだ、声も顔も性格も変わってない。
「お前に迷惑をかけた償いをしなきゃならねぇし、それに・・・お前の側にいた方が、退屈しないだろうしな」
アモンはそう言って笑った。その笑顔を見て、胸が温かくなるような感覚が走る。そして同時に、ある感情が芽生えてくる。
「・・・・・・アモン、私」
「ん?」
「私・・・あなたのことが好きみたい」
「・・・・・・奇遇だな、俺もだ」
私は、サンタ・デビル・・・アモンの婚約者。自分のため、そして彼のため、共に幸せに生きていく。
fin.
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。