天使の憧れ
ある一人の天使の少女がいました。
その天使はいつも下にある下界の、人間たちを見つめていました。
そして溜息を吐いていました。
その天使は人間に憧れを抱いていました。
なんて綺麗で、なんて美しくて、なんて繊細なものだろう。
人間たちを見ると、いつもそう思います。
そんな人間たちに憧れ、いつしか自分も下界へ下りて行きたいと願うようになりました。
もちろん、そんなことは許されません。
天の使いであろう神聖な天使が、穢れた地上へ下り立つなんて考えられません。
それでもその天使は人間に憧れ続けました。
ある日その天使は、天使最大の禁忌を犯しました。
人間に恋をしたのです。
恋をしたのは少年でした。とても美しく、とても綺麗で、とても繊細な少年でした。
その天使は来る日も来る日も、その少年を見つめては溜息を吐いていました
深く、甘く、切なく、その想いで胸が張り裂けそうなくらいでした。
彼を想い続け、何度も彼を助けたり、幸運を授けたりしました。
そして彼が喜ぶのを、心から嬉しく思いました。
その天使はついに、地上に下りていってしまいました。
恋をした少年が、危険に晒されたのです。
心の優しい天使は放っておけません。
すぐにその少年を助けようと、力いっぱい使って悪者から少年を護りました。
襤褸襤褸になりながら、全力で少年を傷つけないようにしました。
そして少年は言いました。
「ありがとう、君は命の恩人だ。こっちを向いてくれるかい?」
天使は嬉しくなって、振り向いて、微笑みました。
突然少年は顔を真っ青にし、後に立ち退きました。
天使は少年に近づこうとしました。
すると少年はこう叫びました。
「近寄るな!!醜い化け物!!!」
そう叫び、少年は走り去っていきました。
天使の姿は、とても汚く醜かったのです。
天使は少年の去ったあと、こう呟きました。
「愛してるわ」
天使の、いえ、堕天使の恋は今、散ったのです。