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煙々羅

 誤魔化されると知りたくなるのは、人も妖怪も変わらない。


 店先で和菓子を食べながら雨女とリバーシをしていた。リバーシとはオセロと同じルールのゲームで、白黒の石ではなく赤黒の石を使う点で異なる。珍しく浮き浮きしながら持ってきた雨女がそう説明してくれた。


「わたくしは源平碁げんぺいごという名称が好きなのですが、それでは今の人には伝わらないのですよ」


 しかしリバーシという言葉も若者には伝わらないのではないだろうか。そう思ったが得意げに話す雨女に言うのはなんとなくはばかれた。

 そういうわけで葛餅を食べつつ、リバーシを始めた。私の店では餡蜜ときな粉の二種類がセットだ。雨女は餡蜜の葛餅を食べ、私はきな粉のほうを食した。


 こういう考えるゲームは苦手だが、それほど雨女が強くなかったので、勝ったり負けたりを繰り返した。

 雨女は基本的には上品で大人な性格ではあるが、勝つと無邪気に喜び、負けると拗ねる幼稚なところがあった。見ていて面白い。


 十数回目の対戦をしていると部屋の中に霧か煙か判断つかないが、白いもやがかかっているのに気づく。

 私はタバコを吸わないし、雨女も吸わない。

 もしや火事か――


「……煙々(えんえん)()ですね。出てきなさい」


 凛とした雨女の声に対し、和菓子屋の中を反響する返事が返ってきた。


「ひひひ。そう怒らずともいいじゃん。雨女の姐さん」


 煙が一ヶ所に集まり、人の顔になった。不気味な顔だ。


「今、佳境に差し掛かっているのです。邪魔をしないでください」

「分かったじゃんよ。あんたがその気になれば、俺っちなんてひとたまりもないじゃん。ていうか水溜りになるじゃん」


 あまり上手いことは言えてない。

 煙は徐々に人の形となり、子供へと変化した。ストリート系のファッションをした子供で髪は脱色しており、腕にはチャラチャラとアクセサリーが付けられている。


「佳境って言っても、ほとんど負けじゃんか」

「ここから大逆転が始まるのですよ」

「そうかい。じゃあ俺っちは魔王の子孫に挨拶するじゃん」


 軽口を叩きながら煙々羅という妖怪は私にお辞儀をした。


「初めまして。煙々羅じゃん。よろしく!」

「どうも。柳友哉です。しかし……どうして妖怪たちは私に挨拶をしてくるんだ?」


 何気ない問いだったが煙々羅は「魔王さんから聞いてないじゃん!?」とひどく驚いた。


「そりゃああんたは――」

「黙りなさい」


 厳しい声で雨女は煙々羅を制した。


「それ以上余計なことを言ったら、怒ります」


 そして盤上に石を叩きつける。

 逆転の一手だった。


「……ひひひ。怒られる前に逃げるじゃんよ」


 煙々羅は冷や汗をかきながら煙と化し、どこかへ去っていった。


「雨女。君は私に何か隠しているのか?」

「女性にとって秘密は宝石のようなものです。多ければ多いほど輝きます」


 石を集めながら雨女は謎めいた笑みをする。

 それっきりゲームを繰り返しても、何も話さなかった。


 なんだか煙に巻かれた気分だった。

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