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6.と在る侯爵令嬢の場合

調子にのって書いたら、長くなりました。わはは(;^ω^)

こんにちは。

私は侯爵令嬢のパトリシアです。


今日は、王宮主催のお茶会に呼ばれました。

生まれて初めての王宮、初めてのお茶会です。


私は浮かれています。そりゃーもう。


なんてったって、花の王宮。

なんてったって、今をときめく王子様やお姫様のおわす場所ですよ!

なんてったって、生王子様アイドル!!


今日のお茶会に皇太子様もいらっしゃると聞きますから、これが浮かれずに居られましょーか!!

ドンドンドンドン、パーフーパーフ〜!!



ーーー失礼。ちょっと取り乱しました。


現在、この国の皇太子様は18歳。

私は15歳で、まだデビュタント前なので、お見かけした事はありませんが、聡明で温和な、剣も騎士団顔負けの腕前の素晴らしい方だと父からお聞きしております。


ワ〜オ!完璧かよ!こんちきしょーめ!!

天の神様は、王子様に2物も3物も与えたとくらぁ!!

羨ましいったらないねぇ、よっ!色男!!




ーーー失礼。


私、実は転生しているのでございます。

前世は日本の東京、下町……ではなく奥多摩寄り。

しがない落語家の娘でした。

父の落語と、祖父の好きだった時代劇で言葉を覚えました。

幼い弟を相手に『寅さんごっこ』をするのが大好きでした。


その日も『じゃぁ、さくら。行ってクラァ。』と弟に手を振って、格好つけて足を踏み出したら大きな側溝(川?)に嵌って、溺れて亡くなったのです。


よわい7歳の呆気ない最後でありました。

しくしく。


今世では、せめてお布団の上で死にたいと思っております。




さてさて。

私、前世の記憶が少しあるものの、それ以外は至って普通の侯爵令嬢で御座います。

侍女に、茶色のふわふわした髪をアップに結ってもらい、きつーいコルセットをキリリと締め上げ、流行りのデザインの紺色ドレスに身を包みました。

15歳という歳からは地味に思いますが、これで良いのです。


お父様とお母様から「あくまでも地味に!目立つな!」と厳命されておりますので。

全く。

一体、何を恐れているんでしょうね?


紺地に龍と牡丹の刺繍。これなら文句は無いでしょう。

出来れば桜吹雪が良かったのですが。



「姐さん!そろそろお時間です!」

「あいよ!分かった。」


侍従のサムが、馬車の支度が出来たと、呼びに来ました。


サムは私の一つ下で、幼い頃、屋敷の近所の悪ガキでありました。

確か、私が9歳の時、イタズラが酷いので懲らしめてやって以来、私の舎弟として仕えてくれております。



「姐さん、足元、お気を付けください。」

「サム、大丈夫だよ。ありがとね。」


私は裾を持ち上げ、サムの手を取り、そろりそろりと歩きます。


横でサムは、

「……いやぁ、馬子にも衣装というか、姐さん、見違えますねぇ。良いとこのお嬢様にしか見えねぇや。」

「馬鹿をお言いでないよ。一応、侯爵令嬢だよ。」


するとサムは、涙ぐみます。

「……う、姐さん、俺らと違う世界に行っちゃうんだなぁ………うぅ。」

「なんだい?サム。」

「だって……だって……姐さん、花嫁さんみてぇに綺麗だから………」

「馬鹿だねぇ。ちょっと茶ーしばきに行くだけじゃないか。すぐ帰ってくるよ。

 ……ほら、泣くのはおよし。」


私が差し出したハンカチで、サムはチーンと鼻をかみました。


向こうの方で侍女頭のマーサが叫んでいます。

「お嬢様!話し方!!」


あら、いけない。

どうにも江戸っ子の血が。

おほほほほ。



玄関先に待つお父様のコメカミに青筋が薄っすら見えました。

お父様、何に怒っているのでしょう?

血圧が上がりますわよ。



ーーーーーーーーーーーーー



さて、王宮に到着しました。

お茶会は、庭園で行われるようです。

今日は令嬢限定だそうで、お父様は王宮入り口で私を下ろすと、帰っていきました。


は〜。

出発直前に、お父様にドレス変更を言い渡され、紺の無地に見えるドレスに着替えさせられました。(ちぇーっ!)

お陰で時間ギリギリです。


おまけに、馬車の中でずっと

「口調と行いに気を付けろ!」

「地味に!目立つな!」

もう、耳にタコです。


そんなに心配なら、断れば良かったのに。




王宮の庭園はそれはそれは素晴らしく、色とりどりのお花が咲いております。

案内された先には、3名の御令嬢方が居られました。


うわ。

二人がこっちを見てる。

怖いわー。何か、肉食獣って感じで、怖いわー。

皇太子様にお近付きになって、あわよくば見初められたいって感じ。

そういえば、皇太子様に婚約者がいなかったわね。

お二人共、狙っているのかしら。

おー、怖っ。


生王子様は見てみたいけど、ダンナさんは普通の人が良いわ、私。

だって肩が凝りそうだもの。

王子様やお姫様は鑑賞物よっ!




侍従さんは、私が座ったのを見て、口を開きます。

「これで、全員揃われました。………ここで、皆様にお願いが御座います。」


さて、なんでしょう?


「今回のお茶会で見聞きした事を、決して他言なさいませんよう。

 ご家族にも、お話なさいませんよう。

 くれぐれも、くれぐれも、お願い申し上げます。」


何これ。

どういう事?


たかだか茶を飲むのに、何て前置きをしているんでしょ。

まぁ、王宮での話を言いふらすのは、淑女の嗜みとしてどうなの、ってことよね。





少し待っていると、王妃様がいらっしゃいました。


「御機嫌よう、皆様。本日は、ようこそいらっしゃいました。」


王妃様は淡い金髪を高く結い上げ、薄い黄色のドレスで、大変若々しくお美しいです。

ただ、すこぉーし目の下に隈がお在りになり、お疲れのご様子ですが。

如何がされたのでしょうか。


私達は立ち上がり、淑女の礼を取ると王妃様は、

「どうぞ、お座りになって。今日は、非公式の会ですもの。固くならなくて良いわ。」


王妃様が席に着くと、紅茶が配られ、菓子が並べられます。

まぁ、美味しそう。

私はサッと自分好みのケーキにターゲットを絞ります。

遠慮して食べ損ねたら、後々後悔してしまいますもの。



しかし、他の3人は、何だか様子が変です。

どうしたのかしら。

お手洗いでも我慢なさっているの?


王妃様も気がついたようです。

「どうしたの?」


「……あ、あの、皇太子様は………。」


そうですね。そういえば、席が一つ空いております。



すると、王妃様。溜息を一つ、つきました。

「……もう少し、お茶を飲んでからと思ったのだけれど。」


そして

「……驚かないで。お願い。出来れば、お友達になってやって欲しいの。」


不思議な事です。

皇太子様には、周りに人がいっぱい集まるでしょうに。


急かした令嬢は、にこやかに言います。

「勿論ですわ。」


私はその笑顔が、肉食獣の舌なめずりの様に見えました。

おー怖っ!




ふと、周りの侍従、侍女達の空気が変わりました。

私達から見えない位置に、どなたかいらっしゃる様です。


「………マリオン。来なさい。」


花に隠れる様に、どなたか、立っています。

なかなか出てきません。

やっと一歩前に出る、その姿に、その場に居た令嬢方が息を飲みました。




日の光に輝く、緩やかなウェーブした金髪。

恥ずかしげに伏せられた目には、カールした長い睫毛。

スッと通った鼻筋に、意志の強そうな顎。

首は太く、腕も身体も筋肉が盛り上がり、一目で鍛えられているのが分かります。

その御姿は紛れも無く皇太子様!


なのに。

なのに。

なーのーにー………。


何故、ピンクのドレス?

顔には化粧が施され、苦心の跡が見られます。




次の瞬間。

令嬢から悲鳴が上がったのは不可抗力でしょう。


「あぁ!」


一人、泡を吹いて倒れられました。

きっと初めて見られたのでしょうね。

ガチムチのオネェというモノを。


私は、お母様の懇意にしているデザイナーがこういう系統の人なので耐性があります。

なんなら、もっと迫力がありますから。

……しかし、皇太子様、ドレスから溢れる筋肉が見事だと感心してしまいました。

きっちり努力していらっしゃる。



「うっ………やっぱり!」


そう叫んで、皇太子様はドレスを翻し、駆け出して行ってしまいました。


「マリオン!」


王妃様は、皇太子様に声を掛けつつ、倒れた令嬢を気遣います。

私は

「王妃様は、マリオン様へ。こちらの令嬢は、私達が見ております。」



心配しつつ王妃様が席を立ったあと、私は侍従二人と倒れた令嬢を、王宮内のソファへ運びました。

冷たいタオルで顔を拭き、ドレスとコルセットを緩めると、薄っすら目を開けられましたから、気が付かれたのでしょう。

私は冷たいお水を少しづつ、彼女に飲ませます。

令嬢は青い顔をして、ふぅと息をされました。


余り急に動かしてはいけません。

侍従に、しばらく此処で休ませてもらうようお願いしました。




あとは侍女が見ててくれると言うので、私は庭園に戻ります。

すると庭園から大きな声が聞こえて参りました。


「……何?!あれ!!」

「初めて見たわ……。男女ってヤツ。」

「皇太子、詐欺じゃない?!」

「あれは、無いわー。」

「婚約者が決まらなかったのも、あのせいかしら。」

「きっとそうでしょ。」

「幻滅ぅー!」

「あんな皇太子じゃ、この国の将来、不安よねー!」

「ねー!」

「私、あんな皇太子だったら、婚約者なんて願い下げだわ。」


あれは、庭園に残した令嬢達です。

王妃様が退席し、侍従や侍女が倒れた令嬢にかまけて少ないのをいい事に、言いたい放題です。


私はムカムカしてきました。

皇太子様だって、人です。

これを聞いたら、深く傷付くに違いありません。


「あれは、汚……」

「ちょっと!」


私は堪らず、飛び出してしまいました。


「人が居ないのを良い事に、言いたい放題じゃありませんこと?」

「な、何よ!アナタ!」


散々悪口を言っていた令嬢は、私を見ました。

一方、私はテーブルを見て、愕然としてしまいます。

あ!私の狙っていたケーキがありません!

お菓子はほとんど食べ尽くされています!

私の居ない間に!


「……くっ!私達がいない間にっ!ケ、ケーキが……」


「何よ。文句があるの?勝手に居なくなったのに。」


こ、こいつ等………!!!

もう、許せません。



「……ケーキは、………仕方ない。

 でも、人として言って良い事と悪い事があるのは、分かるだろう?!」


「はァ?!アンタ、先生じゃないでしょ!」


「それを言うなら、アンタは貴族の令嬢だろ?!

 皇太子様がどんな人か知らずに、勝手に期待して、勝手に詐欺だなんて。

 アンタが、これから社交界でどんな噂されようが、知ったこっちゃあ無いが、同じ事をされたらどう思う?!」


「う。」


「皇太子様だって、あんな格好するのに、きっと勇気がいったんだ。

 だからなかなか出て来なかった。

 悩んだんだろう。

 それを馬鹿にするのは、お天道サマが許しても、この花吹雪がぁぁ………」


私は椅子に片足を掛け、ドレスのスカートを、ガッと一枚捲ります。

するとその裏地には、花吹雪の刺繍が!!


「許しちゃぁくれねぇぇぇぇ!!!」


ばばん!!!!

どぉぉぉだぁぁぁぁ!!!!!!




「……………………。」

お二人は、目を向いて固まってしまいました。


「そして!」

私は後ろを振り返ります。

さっきから後ろでビクビク、蹲って隠れているピンク色が見えていました。


「その格好をするのに、一度、腹を括ったなら、堂々としてろィ!」


ビシッと指を指します。


「ヒィィ!」


ぴょこんと、ピンク色、もとい皇太子は立ち上がると、泣き出しました。


「うぅぅぅ………。庇って下さって、ありがとうございますぅぅ。」


「泣くのはおよし。せっかくの化粧が台無しになっちまうよ。」


私はハンカチを取り出します。

今日、2枚目のハンカチです。


「……う、わ、わたし、ヒック、お友達が……欲しくてぇ……。」


「うん、うん。」


「……ヒック、グス、あ、あの!」


「なんだい?」


皇太子様は、涙でグショグショの顔を上げて言いました。

「お姉様って、お呼びして良いですか?!」



「……………………」




ーーーーーーーーーーーーー



それから。

私は、こってりお父様から説教を受けたのは、言うまでもありません。


「あれ程、目立つなと!」


「………お言葉ですが。私は間違っていないと思います。」


「分かっとる!こうなるだろう事は、分かっていたから、…………!!」


お父様は苦虫をかみ潰したような顔で言いました。


直後にノックして執事が、

「旦那様、お嬢様。皇太子様がいらっしゃいました。」


あれから毎日、皇太子様が我が家へ遊びに来るようになりました。

勿論、ドレスで。



どうやら皇太子様の女装癖は、一部に知られていたようです。

あのお茶会は、王妃様が皇太子様の為に、皇太子様のお友達を作る為に、開いたものでした。

最初は私と倒れた令嬢(大人しい優しい気質だった)を呼ぶだけだったのに、「すわ、婚約者選びか?!」と勘違いした高位貴族が、娘をゴリ押しで入れられたのだとか。



玄関ロビーに出ると、そこには皇太子様の姿が。


「あ!お姉様!」


駆け寄ってくる皇太子様。いえ、今はマリアン様。

現在16歳の弟君が成人したら、皇太子の座を譲るおつもりとのこと。

そしてマリオン様からマリアン様に名前も変えたいと。

……果たしてご希望通りになるかは、私には分かりません。


今は、マリアン様の前にサムが立ちふさがります。


「まて!姐さんは、俺の姐さんだ!」


「こらこら。」

私はサムだけのモノじゃないよ。


マリアン様は

「何よぅ!私のお姉様よ!」

…………貴方は、私より年上のハズですが。


「何をっ!」


私の目の前で二人は睨み合います。


毎回、このやり取りをしていますから……二人共、よく飽きませんね。



なにはともあれ。

今日も平和。


今世は、お布団の上で死ねそうです。


お読みいただきありがとうございます。

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