SNSドラゴン
SNSを始めたばかりのドラゴンのおはなし
ルールを守って楽しいSNSライフを!
邪龍 @jaryuuu_ 5分前
てすと
邪龍 @jaryuuu_ 3分前
ナロッタ―はじめました
邪龍 @jaryuuu_ 2分前
なに書けばいいんだろう
天使長∇ @angel_erai 1分前
――返信先 邪龍 @jaryuuu_
> 垢消せ
邪龍 @jaryuuu_ 30秒前
――返信先 天使長∇ @angel_erai
> 殺すぞ
天使長∇ @angel_erai3 10秒前
――返信先 邪龍 @jaryuuu_
> 通報しますた
「おい! 人間! なんだこれは!」
「どうされました邪龍様? あ、SNSですね。ナロッターですか」
ナロッタ―は世界で一番利用者が多いSNS――いわゆるソーシャルなネットワークサービスことだ。
サービス内容は『日常の何気ない一言をぼそっと世界に向けて発信すること』で、私はオープンな日記帳だと思っている。
どうやら機械音痴の邪龍様もとうとう『ナロッター』を始めたらしい。
「何なのだコレは! あの天使のクソが――ん? おい! 書き込めなくなったぞ!?」
「ちょっと見せてください。あぁ、これは……凍結ぅ、ですかね」
「凍結? 状態異常か?」
「いやいや。違いますよ」
「じゃあ、なんだというのだ!」
「SNSのルールに反する書き込みをするとペナルティで凍結されるんです」
「なんだとっ!? ……つまり、どういうことだ?」
「発言には気をつけましょうってことですよ、邪龍様」
「なに? 余の発言がダメだったのか……」
邪龍様がしょんぼりと巨大な尻尾を叩きつける。
柱は倒れたけれど、その様子はちょっとかわいい。
「そうだな……例えば、どんな発言がダメなのだ?」
「あぁ、簡単ですよ。『殺すぞ!』とか『死ね!』みたいな直球系はもちろん駄目です」
「それは分かった」
「あとは遠回しな脅迫系もアウトです」
「脅しが?」
「はい。『夜中に家に押しかけまーす』とか『家族の心配をしろ』みたいなやつですね」
「それだけのことでか? ただの悪魔の挨拶ではないか?」
「悪魔はともかく、邪龍様も勇者に同じことを言われたらいやでしょう?」
「それは……まぁ、そうだな。勇者は靴が汚いからな」
「そういうことです」
「なるほどのぅ」
邪龍様が腕を組みながら頭を傾げる。
あの姿勢は嫌なことを思い出している時のものだ。
靴の汚い勇者となにかあったのだろうか。
「……他には何かあるのか?」
「そうですね……確か、エッチなのもだめです」
「淫らがか!? 何故だ? 淫魔の連中なぞ庭で四六時中盛っておるではないか?」
「庭は関係ないです。ナロッタ―は天界が運営するSNSですから。天界基準で駄目なものはアウトなんです」
「天界だと!?」
「はい。度が過ぎてエチチなアカウントは天界が凍結します」
「ふーむ……そうなのか。それがルールなら余は従うが……従いはするが……」
「なにか疑問があるのですか?」
「……そもそもの話だが、余は邪龍であり、人類共が言う衣服の類などを身に着けてはおらんのだが」
「はぁ」
「もしも余がナロッタ―で自撮りとやらを試みると、これも凍結対象になるのかの?」
「えっ、邪龍様もするんですか自撮り??」
「いや、自撮りはしないが……」
「なら、問題ないのでは? それに邪龍様の身体は別にエッチではないので大丈夫ですよ。たぶん」
「そうかのぅ……」
邪龍様の翼が下がる。
口からは呪いの溜息を吐き、黒いモヤが周囲を漂い始める。
……随分と落ち込んでいるようだ。口では否定していたが、本当は自撮りしたかったのかもしれない。
この話題には、あまり触れないほうがよさそうかな。
「……そもそも天界のサービスを地獄の公爵である余が利用してもよいのか?」
「それは問題ありませんね。ナロッタ―は多様性を尊重しますから」
「多様性……か」
「天使、人類、魔族、鮫、龍、神様。それ以外のありとあらゆる種族も、規約さえ順守できるならナロッタ―を利用出来るんです」
「それはエッチな粘液でもか?」
「粘液? まぁ、利用規約を満たすなら問題ないかと」
「ほう。随分と懐が広いのだな!」
「それが多様性です」
「ふむ。だがそうなると……あのクソ天使共もナロッタ―を利用しているのか?」
「邪龍様にリプライしてたのが天使の偉い人ですね。公認マークついてましたし」
「公認が何かしらんが天使の連中は気にくわん。排除することはできないのか?」
「駄目です」
「何故だ」
「天使にもナロッタ―を利用する権利がありますから。それを妨害することは例え神様であっても認められていません」
「神がどうした! 余は邪龍ぞ!」
「関係ないですね。ナロッタ―では猫も家畜もただのユーザーなんですよ?」
「……だが、余は奴らの御高説など見たくないのだ!」
「見たくない物をわざわざ見に行く必要はありませんよ」
「それは……そうだな。確かに、そうかもしれぬな」
「ナロッタ―には特定の単語やアカウントを防御する機能がありますから」
「ミュートとかブロックというやつか?」
「えぇ。気に入らない物を叩きに行くのではなく、我々が遠ざかればいいんです」
「消すのではなく遠ざかるのか?」
「『自 己 防 衛』ってやつですよ。嫌いな連中を当てにしちゃいけないんです」
「ふむ」
「ナロッタ―で大事なのは住み分けなんですよ」
「……住み分けか。懐かしい言葉じゃ。天地開闢の頃を思い出すのぅ」
邪龍様が遠くの何かを見つめる。
大昔に暴れていた頃を思い出しているのだろう。
正直あまり興味がない。昔語りが始まる前に流してしまおう。
「昔話はそのへんにしておきましょう」
「……つれんやつじゃ」
「性分ですので」
「……まぁよい。それで、気を付けるべきことはそれだけかの?」
「うーん……あとは誹謗中傷ですかね」
「ひぼうちゅうしょう?」
「分かりやすく言えば『悪口』ですよ」
「どうしていけないのだ?」
「邪龍様も誰かの前で侮辱されたら腹が立つし、心が傷つくでしょう?」
「そうだな。我の名誉を汚すような輩を生かしてはおけんわ!」
「……邪龍様はお強いからそういう対応も出来ます。だけれど、皆がそうではないのです」
「ふむ?」
「心を傷つけられたものは簡単に立ち直ることはできません。精神は肉体より脆弱なのです」
「つまり悪口は精神攻撃か。……確かに、心が清いものにアレはよく効く」
「ナロッタ―は自由を尊重しますが、誰かを傷つける行為は自由には含まれません。それは罪です。規約違反なんです」
「規約違反か」
邪龍様が腕を組んでこちらを見下ろす。
「だから罪人には罰を与えると。天使が余を断罪するのと同じように――そう言いたいのか?」
「はい。規約違反者には裁きが下されます。その結果がアカウントの凍結や削除ですよ。あまりにも大きな罪は現実の――天界の法で裁かれることもあるんです」
「……互いの姿が見えずとも、我らを縛る法が――ルールが存在するということか」
「そのとおりです。それが世界の理ですから」
「ふむ。だから発言には気をつけねばならんのだな?」
「はい。放った言葉には責任が生じます。しかもナロッタ―に投げた言葉は未来永劫、天界に残り続けるのですよ」
「後悔しても言葉を投げた事実は消すことはできないと?」
「もちろんです。例え神様であっても過去を変えることはできません。だからこそ、ナロッタ―での発言は実際の言葉と同じだけの重みをもつのです」
「……つまりは勇者もクソも魔王も龍も、放った言葉には責任を持たなければならんわけか。そして言葉は取り消せず、過ちにはいずれ罰が与えられる」
「そうですね。おおむねそんな感じです」
「……なるほどのぅ。要するに、ナロッタ―は我らが生きている現実と何ら変わらんのだな」
「うーん、ある意味ではそうかもしれませんね。アカウントの向こう側には生きた生物が存在して、生物にはそれぞれ違った人格が――心があるのです。多分、SNSは心を繋げるツールなんですよ。良い意味でも、悪い意味でも。そのことを決して忘れてはならないのです」
「『心を繋ぐ』か。人間にしては悪くない例えじゃの。今の言葉はこの胸に刻んでおくとしよう!」
「ありがとうございます」
「長い話になったが、そもそも余は邪龍であり、地獄の公爵じゃ! 無知を理由に無様な姿を晒すつもりも無いのでな。今回は凍結されてしもうたが、同じ轍は二度と踏まぬ。要はルールを守って正しくナロッターを使えばよいのであろう?」
「はい。おっしゃる通りでございます! 流石です邪龍様!」
「そう褒めてくれるなよ。余は龍であり、天狗ではないぞ!」
「それは見ればわかりますよ」
上機嫌だった邪龍様が真顔になる。
そのまま大きな溜息を吐きながらその場に寝そべると、握っていたスマホを操作し始めた。……あの様子だと、最後の返事がお気に召さなかったようだ。
おそらく手元のスマホで開いているのはナロッタ―だろう。
『人間が冷たい』とかそんな感じのことをつぶやいたりなんかして――
「……ところで、疑問があるのだが。この凍結はどうすれば解除されるのだ?」
「ん? あぁ、簡単ですよ。天界に反省文を送るのです」
「……もう余はナロッタ―引退する」
このアカウントは削除されました。
初めて書いてみました
なかなかむずかしいですね
タグの付け方とかよくわからないです
初めて評価を貰えたのでうれしいハッピーしました。はぴはぴ




