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34話


 敵2個連隊を撃破した我々は順調に進撃を重ねていった。

 一時は敵の第2防衛線によって進撃が遅滞したものの、バルトニアから4個師団が前線に参加するとそれもまた打ち砕かれた。

 高度に機械化されたドイツ軍と多数の実戦経験を有するバルトニア歩兵部隊の連携は予想を上回っており、ソビエト軍は本領を発揮することも出来ずに次々と壊滅していった。

 最終局面の市内攻防戦において我々第1旅団は後方警戒任務に就き火力支援等多数の任務を遂行した。

 1941年5月28日。

 開戦から1週間としないうちにソビエトの主要都市レニングラードは陥落。

 以後、北方軍集団はフィンランド軍、バルトニア軍と協力しながら南進を開始しモスクワを目指すこととなった。

 しかしながら、中央軍集団や南方軍集団の進撃は北方軍集団ほど順調ではなく、ひとまず北方軍集団は東進しながらフィンランド方面のソビエト軍掃討に乗り出すこととなる。

 結果として北方軍集団向けに用意されていた予備兵力が南方へ向かうことと、バルトニア軍の早期参戦が作用し2週間後の6月12日にはスモレンスクという大都市も中央軍集団が陥落させた。

 対して南方軍集団は戦域に対しての兵力が脆弱であること、そして予想以上に敵戦力が多大であることもあり攻勢はとん挫。

 6月20日には完全に停止してしまった。

 南方軍集団が担当するウクライナ方面は肥沃な資源地帯であり、これの奪取は最大目標と言えた。

 事態を重く見たヒトラー総統は中央軍集団へ南進を命じたようであった。



 戦争は北部を除けばほぼ史実通りに進行している。

 各地から集まって来る情報を前に私はコーヒーを啜っていた。

 その北部もレニングラードの陥落という良い面で史実から逸脱した進展をとげ、おおむね史実より改善されていると言えよう。

 一つ挙げるとするならば、北方軍集団のおよそ半分が投入されたこのレニングラード攻囲戦において多くの部隊が決して少なくない損害を追ったことだろうか。

 史実ではただ包囲するばかりであまり損害を受けなかったこの部隊が受けた損害がどう作用するか。

 それが心配だ。

 あぁ、そういえば私はこの度正式にバルトニア軍へと復帰した。

 第1旅団もそのまま復帰するかと思ったが、少し違う展開となった。

 というのも、現在第1旅団を構成しているのはほとんどがドイツ兵で、バルトニア兵というのは僅かなのだ。

 その部隊を丸ごとバルトニア軍へと編入するのは無理があったようで、代案が提示された。


「同盟国軍の連合部隊である『統合軍』を編成する」


 これはバルトニアとドイツのことだけではなく、フィンランド・ルーマニア・ブルガリア・ハンガリー・イタリアまでも含み、話が進むにつれその規模は大きくなっていった。

 結果、試作部隊として第1旅団がそれに抜擢され、配下には元々いた部隊に加え、父が指揮するバルトニア装甲部隊3個大隊も組み込まれた。

 結果的に今までの部隊編成を大きく変えた編成とすることを迫られた。

 故に大規模な再編が行われた。


 まず独立部隊としての第1旅団は廃された。

 そして新たに第1特務戦闘団が編成され、これの指揮官にはバルトニア陸軍ベルント・シューマイン大将が任命された。

 シューマイン大将は先のバルトニア統一戦争においてエストーニャ首都上陸作戦を指揮した人物であり、この人選はヒトラー総統及びウルマニス大統領による合同の指名だった。

 この特務師団の配下に私率いる第1旅団。そして父率いる第2旅団が組み込まれた。

 他にもイタリア・イベリア合同部隊である第3旅団が編成された。

 同部隊はイタリア第73連隊とイベリア人義勇兵大隊で構成され3個の旅団のうち最も兵力が多い大隊数を有する。

 第3旅団の旅団長はアレッシオ少将が指揮する。

 彼はすでに連隊長を退任し休暇を過ごしていたようで、私と縁があることもあり今回の抜擢となった。

 また、他のハンガリー・ルーマニア・ブルガリアの部隊は現在南方軍集団での戦闘が激化していることもあり不参加となった。

 合計大隊数は9個となり、その戦力は立派な戦略的単位としての地位を確立しつつある。


 

「なんだか、肩の荷が下りた気分ね」

 私は久々の休暇を旅団長執務室でリマイナと共に過ごしていた。

「軍集団連中に意見しなくていいのが楽でしょうがないわ」

 わずか数週間のことだったが北方軍集団の首脳連中は頭が固すぎる。

 事前計画がその場で変更されることなどいくらでもあるのにそれを認めようとしない。 

「あれではいつか破綻してしまうわよ」

 私はそう吐き捨てた。

 綿密に計画された作戦計画は成功しているうちはすさまじい威力を発揮する。

 だがそれは柔軟性に欠ける諸刃の剣だ。

「それはリューイが考えることじゃないよ」

 リマイナはそう苦笑いしながら私を諫めた。

「でも――」

「リューイは前線指揮官。やるべきことはもっとあるでしょ?」

 リマイナは私にそう言ってきた。

 ……考えてみればそうだ。

 作戦計画よりもやるべきことはいくらでもある。

「旅団長!」

 だが、それだけの暇を神は私に与える気はないようだ。

 突如として若い士官が息を切らして駆け込んできた。

「モスクワ方面より敵機甲部隊が出現! 第2旅団、第3旅団は現在占領地治安維持任務のため急行すること敵わず! 第1旅団出撃を求む! だそうです!!」

 それは戦闘団本部からの悲痛な叫びだった。

「いつも私の元には厄介ごとばかりね」

 私はそうわらった。

 リマイナはそれに「もうこの旅団やめてもいい?」と冗談で返した。

 私はペシッと軽くリマイナの額を叩くと若い士官向かって毅然と命令した。


「すぐに各中隊長と大隊長を呼びなさい! 3時間以内には出撃するわ」

 


 私の命令から数分としないうちに全員が集合した。

「では諸君、戦闘よ」

 私は集まった彼らを前にそう笑った。

 そして地図を広げ、敵の部隊を示す1つの駒を置く。

「敵は1個大隊、まっすぐこちらに向かってくるわ」

 一瞬中隊長たちにどよめきが起きる。

 だが、私は動じることなく言葉を続ける。

「この部隊は恐らく精鋭部隊である親衛戦車大隊であると私は考えているわ」

 今向かってきている部隊は前線を維持していた2個歩兵大隊を瞬く間に蹴散らしてこちらに向かってきているらしい。

 そう、こちらにまっすぐ。

「この部隊に私は1度は引き分け、2度目には負けているわ」

 彼らには負け越している。

「私の顔に泥を塗った不敬者を征伐するわよ」

 私はそう言って地図に指揮棒をたたきつけた。

 戦術や戦略なんてあったものじゃない。

 敵はこちらに向かってきている。

 必ず不意遭遇戦になる。

 事前計画はその際に柔軟な対応を阻害する足かせでしかない。

「諸君! 今度も勝つわよ!」

 私はそう叫び右手を振り上げた。



「では、よろしくお願いします」

 風に吹かれながらトゥハチェンスキは無線機を置いた。

「どう?」

 横からエレーナが尋ねてくる。

 その問いにトゥハチェンスキは微笑むと「怖いぐらい順調さ」と笑った。

「敵奥深くまで潜り込んで直接首を狩る。奴がやろうとしたことを逆にやってやるさ」

 トゥハチェンスキはそう笑った。

 2年前。

 リューイ・ルーカス率いる第1旅団は捨て身の特攻でソビエト軍司令部へと迫った。

 結果は惜しくもあと1歩届かなかったがその結果バルトニア侵攻が大きく遅れることになったのは言うまでもない。

 戦術的に言えばトゥハチェンスキは勝利した。

 だが、戦略的には『番犬』の手のひらの上であった。

「トゥハ、楽しそうだね」

 エレーナは嬉しそうに笑う。

「お前は楽しくないのか?」

「トゥハと一緒に入れればそれだけで楽しいよ」

 トゥハチェンスキの問いにエレーナは破顔し、そういった。

「相変わらずだな」彼は呆れるように笑った。

 だが決して嫌なわけではなかった。

 むしろ彼女のこういったところは好ましくさえあった。

「では行こうか」

「うん」

 トゥハチェンスキの言葉にエレーナはそう答える。

 

「野良犬狩りだ」


 二人は声をそろえてそう言った。


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