表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラトビア転生記 〜TSしたミリオタが第二次世界大戦のラトビアを救う〜  作者: 雪楽党
2章 新天地

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/127

20話


「放て!」

 ジャスパーは民家に騎馬で牽引してきた砲を隠蔽し、最後尾の車両を砲撃した。

 先頭を撃破し、足を止めたあとに最後尾の車両を撃破する。

 対戦車戦闘での定石であった。

 しかも、敵は橋の上にある。

 そのまま橋を落とせればよかったのだが。

「どうやら、あの野良犬は随分と鼻が利くらしい」

 ジャスパーは苦々しくそう呟いた。

 手元には有線でつながれた爆薬の起爆スイッチがある。

 しかし、何度押しても反応しない。

「諸君、退くぞ」

 あの野良犬のことだ、すぐに我々の位置をかぎつけて反撃してくるだろう。

 ジャスパーの命令に従い兵たちが騎馬に砲を繋ぐ。

 それを確認すると、ジャスパーは騎乗を命じる。

「急げ!」ジャスパーが怒鳴ると砲を牽引した騎兵が続く。

 その場を離れた直後、砲を隠蔽していた地点が吹き飛ばされる。

「噂にたがわぬ練度だな」

 ジャスパーは表情をひきつらせながら笑った。

 スパイの彼が全力で隠蔽していたのにもかかわらずすぐさま看破して見せた。

 しかも、旅団長の車両が撃破されているのにもかかわらず、混乱するような素振りを一切見せなかった。

 これを精兵と言わずして何が精兵か。

「連隊長補佐殿。いかがなさいますか?」

 彼の後ろに続く曹長が尋ねた。

 ジャスパーは現在連隊長補佐という地位に立っている。

「まずは本隊と合流し、224連隊の撤退を支援する」

「敵に追い打ちを掛けなくてもよろしいので?」

「これ以上欲を出せばこちらが狩られる」

 彼はそう苦々しく応えた。

 いろいろな策を用意していたが、あの練度を見てしまうと下手な策は打ちたくない。

「なんでこんな風になったんだか」

 ジャスパーの呟きに答える者はいなかった。



「リューイ!」

 リマイナが飛び降りてこちらへ駆け寄ってきた。

 その間にヴェゼモアは私の車両を撃破した砲の位置を看破するとすぐに反撃していた。

「……やられたわね」

 衝撃で吹き飛ばされた私は戦車の残骸に身を隠していた。

 人生で2度目の撃破だ。

 情けないことこの上ない。

「被害は?」

 自戒する暇はない。

 リマイナに尋ねる。

「第1中隊の3号車が撃破されたのと、リューイの旅団長車が撃破されただけ」

 彼女は素早くあたりを見渡すとそう答えた。

 相変わらず頼りになる同期だ。

「……海蛇大隊を待つわ」

 私は苦渋の思いでそう呟いた。

 対岸に敵が待ち伏せている確率は非常に高い。

 そんな中で無防備に橋を渡るというのは被害を増大させる結果になりかねない。

 今ならまだ、戦車中隊しか橋に足を踏み入れていない。

「一旦後退して海蛇大隊が対岸を確保するまで待ちましょう」

 すでに海蛇大隊は南側で渡河に成功している。

 北上するのを待って確実に渡河すべきだ。

「消極的かしら?」

「旅団長殿にしては消極的ですな」

 気が付けばヴェゼモアがそばにいた。

 私はフッと笑いこう答えた。

「たまにはしおらしくしてみようかしら」

 と。


「旅団長、対岸の制圧完了いたしました」

 十数分後、海蛇大隊が到着し対岸の安全が確保された。

 いくつかの建物や道路に地雷や罠があった程度で敵の兵士はいなかった。

「意外ね」

 私はその報告をすべて聞いてそう呟いた。

 砲まで持ち出して遅滞させたのだから、さらに兵を潜ませて敵に大きな被害を与えるのが合理的な判断だろう。

 いや、待てよ。

 私が慎重策に出ることすら相手の予想の範疇だったのでは? 

 私とカミラ王女は初めて戦うはず。

 そんな彼女が私の考えをすべて読み切った?

 いや、ありえない。

 どんな天才だろうと知りもしない相手の心情を読むなんてできるはずがない。

ではあのアレックス・フォードだろうか?

 否、あの男は戦術眼に少しばかり優れているだけの平凡な男だ。

 それに、合理的に作戦を運ぶはず。

 他にいるとすれば……。

 キリがない。

 もしや、ソビエトのトゥハチェンスキが告げ口したのだろうか?

 これが一番可能性が高い。

 彼には何度も私の思考を読まれ、その裏をかかれた。

 まさか初戦から私の戦術を予想してあそこまで私を苦しめるとは思ってもいなかった。

 多数に負けたことや勝利を掴めなかったことは幾度もある。

 だが、自らよりも兵数で劣る相手にあそこまで追い詰められたのは初めてだった。

 そんな彼がカミラ王女に告げ口をし、私の戦術をすべて言い当てていたら?

 ……いや、杞憂だ。

 今、ドイツとソビエトは不可侵条約を交わしている。

 イギリスから見た時、それは同盟関係にあるといっても過言ではない。

 そんな準敵国からの助言を王室の人間が聞き入れるだろうか。

 まずありえないだろう。

 しかもそれが一介の少佐ともなればなおさらのことだろう。

 では、誰だろうか。

 私が思案にふけっているとヴェゼモアが急かすように私の方を見てきた。

 考える暇はない、か。

「全軍前進、敵を追撃するわよ」

 私はそう高々と命じた。

 


「神よ、天啓に感謝いたしますわ」

 プリマスから10kmほど北に行ったイェルバードンという町に移動したカミラ大佐はそう神に祈っていた。

「天啓、ですか?」

 アレックス大佐は不思議そうにそう尋ねた。

 カミラ王女が信仰熱心という話は聞いたことがなく、予想外の行動に彼は驚いていた。

「昨日の夜、神の天啓がありましてよ。『あの子は合理的だからそれを利用しなさい』とおっしゃってましたの」

 ジャスパーは感心したように「へぇ」と呟いた。

 天啓、それは近代において滅多に表れない事例。

 なんらかの錯覚や記憶の混濁だとされている。

「カミラ大佐殿。敵は思惑通りに進撃を停止いたしました」

 アレックス大佐の言葉を聞いたカミラ王女は嬉しそうに笑った。

「さて、リューイ・ルーカス。どう動くかしら?」

 


「敵はイェルバードンという町に指揮所を設置して付近の森に部隊を潜ませたようです」

 ヴェゼモアが偵察隊と共に帰って来るとそう報告してきた。

 相手はやはり合理的なだけか?

 地図のイェルバードンを睨むと周囲には森が存在しており防衛に適している。

 森といい、市街地といい。

 戦車や装甲車に不利な状況での戦闘を強いられる。

 できることなら平野で戦いたいものだ。

「後続の海兵連隊に任せますか?」

 ヴェゼモアの問いに私は首を振る。

 まだ後方の海兵連隊は再編成中だ。

「私達が行かなくて誰が行くのかしら?」

 私がヴェゼモアに挑発的な笑みを浮かべると彼もまた、笑った。

「我々以外にいませんな」

「でしょう?」

 そして二人で笑った。

 相変わらず戦争が好きなことだ。

「さぁ諸君行くわよ!」

 私の叫びにすべての将兵が「応!」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ