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41話

 首都に戻った第1旅団は速やかに補充を受け、再訓練に取り組み始めた。

 また、海蛇大隊に対して1個中隊分の試作水陸両用装甲車が配備され、第1中隊が水上機甲中隊となった。

 加えて戦車中隊は旧式化した2号戦車がすべて廃止となり、全小隊にバルトニアにてライセンス生産された3号戦車が配備され、火力が強化された。

 結果、第1旅団は大規模な火力増強を成しえたものの、大幅に練度が低下してしまった。

 これを何とか是正しようと2週間に及ぶ山岳訓練や長距離行軍訓練を行ったものの、あまり改善は見られなかった。

 そして2月28日。

 後方にて訓練を行う第1旅団に出撃命令が下された。

 内容は敵の大規模反抗作戦の情報が入ってきたためで、第1旅団はそれに対する即応部隊であると位置づけられた。

 しかしながら詳細な情報は一切ない。

 敵軍に潜り込んでいる諜報員によれば複数の方面による作戦が4つほど同時に出回っており、どれが実行されるかが不明だという。

 しかし翌週には敵軍が南部より40個師団を用いての大規模作戦を行うとの情報を入手。これはバルトニア軍のおよそ2倍に匹敵する数であった。

 同様にソビエト軍は北欧、フィンランドに対して70個師団以上を用いた大反攻作戦を実施し敵の要塞線を粉砕することを目的としていた。

 歴史は確実に狂い始めている。

 実際ならば2月初めにはフィンランドの要塞線は突破されていたが、現在においてもイギリスの支援のもと持ちこたえている。

 恐らくこの反攻作戦を跳ね返せばよりよい状態での和平を行うことができるだろう。

 しかし、これで敗北すれば独立を失うこととなる。

 ウルマニスは悩んでいた。

 故に、一度前線に送り出したリューイを呼び戻し、自らのもとへと呼び出したのであった。



「閣下、お呼びでしょうか」

 私はウルマニスの執務室に入り、ソファーに腰を掛けるとそう尋ねた。

 数か月ぶりに会うのだが、それにしては老化が早すぎる。

 おそらく心的ストレスだろう。

 頭髪も薄くなり、見るに堪えない状況になりつつある。

「あぁ」と彼は静かに答える。

 どうやら随分と大事な話らしい。

 私は心を切り替え耳を傾けた。

「君は、この戦争勝てると思うかね」

 率直に尋ねてきた彼の問いに動揺すると共に、弱気な彼の発言に私は驚いていた。

 彼は「バルトニアの独立維持のため」と「友邦フィンランドのため」に参戦を自らの意思で選んだというのに「勝てるか?」と問うてきた。

 何があったのだろうか。

 しかし、私は率直に答えなければならない。

 主観を一切除き、客観的な言葉で応えなければいけない。

「閣下、我々はいずれ敗北致します。これは必敗の戦争であります」

 私の言葉にウルマニスは肩を震わせた。

「では、なぜ君は未だ戦うのかね? わかっていてなお、なぜ戦う」

 彼は震える声でそう尋ねた。

 必ず負けるというのになぜ戦うのかと。

 そう尋ねてきた。

「今後の布石のために、そして『よりよい負け方』をするために」

 私の『よりよい負け方』という単語にウルマニスは反応を示した。

 しばし悩んだのちに口を開く。

「それは、つまり?」

 私はその問いに口角を吊り上げて笑う。

 彼は私の顔を見て目を見開く。

 あぁ、私は今この世のものとは思えない醜い悪魔のような顔をしているだろう。

 ならば、悪魔のように宣言しよう。

「ソビエト軍の脆弱さを世界中に知らしめ、彼の国を崩壊させるのです」

 その為に私はいる。

 このバルトニアという国が第二次世界大戦を切り抜け、戦後世界においてある程度の地位を確立するために私は戦う。

 その為にはドイツ・イギリス・日本など世界中と協力しなければならない。

 そして世界に知らしめるのだ。

 世界の敵はソビエトであると、ソビエトは腐った納屋である。と。

 彼らがいなくなれば我々は安寧の歴史を手に入れられるだろう。

 

 3月12日。

 ソビエト軍の攻勢は大規模な砲撃によって幕を開けた。

 どうやらこれで決着をつけるつもりらしい。

 今までに体験したことのないような砲弾の雨嵐が前線部隊を襲った。

 結果、砲撃をうけた前線部隊の3個歩兵師団がほぼ壊滅し、敵の突破を許した。

 各方面から引き抜いた結果、現在この南方方面には第1旅団含めバルトニア軍のおよそ7割が集結している。

 その各部隊は分散して配置され、壊滅覚悟で時間を稼ぐ。

 時間を稼いでいる間に第1旅団が攻撃を仕掛け、敵の司令部まで浸透して首を狩る。

 そして連携の取れなくなった敵を残存する部隊で殲滅する。

 絵にかいた餅とはこのことだろう。

 しかし、私はこれを成し遂げなければならない。

 私の成果によって世界史が変わる。

 失敗すれば独立は消えてなくなる。

 失敗は許されない。

 私は拳を握り占める。

 そして高く振りかざし――


 ――振り下ろすとともに叫ぶ。

「戦車前進!」と。

 その号令とともに第1旅団は全速力で街道を駆け抜ける。

 バルトニア軍の総力を結集し、機甲化されていない海蛇大隊の第2、第3、第4中隊にトラックが運転手とともに配備され、それに随伴するための自動車化砲兵中隊まで配備された。

 これにより後方の自動車による輸送部隊はほぼ消滅し、前時代的な馬車による輸送となったため、各方面で物資不足が目立ち始めている。

 もう我々には後がないのだ。

 これに全力を振り向ける。

 前進を開始してから数分としないうちに進行中の敵歩兵連隊と遭遇した。

「第1自動車化中隊及び第2自動車化中隊は中央へ! 戦車中隊はそれの支援よ!」

 接敵の報告を聞いた私は手早く指示を出す。

 ミスは許されないが時間もない。

「海蛇大隊は後方又は側面に展開し、敵を撃滅するわよ!」

 私の指示を聞いた海蛇大隊は機甲化された第1中隊を先頭に右翼へと展開する。

 素早く展開した各部隊が戦闘を開始すると1時間と経たないうちに敵の連隊は後退していく。

「各員乗車! 速やかに追撃に移るわよ!」

 私はそう怒鳴ると自らを先頭として敵の追撃に移る。

 敵の隊列はすでに瓦解しており、追撃は大変容易だった。

 あらかた殲滅を終えると再度前進を開始し、敵の司令部を目指す。

 敵司令部の位置は無線傍受によりある程度割り出されている。

 我々はそれを目指すだけだ。

 しかし、40分後には敵の歩兵連隊と騎兵大隊が姿を現し、それぞれ右と左から我々の行く手を妨害しようとする。

 クソッタレと内心毒を吐きながら怒鳴るようにして命令を出し続ける。

「海蛇大隊で敵歩兵連隊を足止めしなさい! 残りで敵騎兵連隊を排除する!」

 そう命令すると旅団がどんどん二手に分かれていく。

 私は左側に向かっていく戦車中隊に続いてどんどん敵騎兵に近づく。

 敵もまた、我々に向かってくる。

 騎兵部隊で戦車部隊に立ち向かおうとはと少し敵をあざ笑いながら「砲撃開始」の号令をかける。

 するとすぐに敵は反転して逃げていこうとする。

 私たちはすぐに追撃に移ろうとするものの、代わりに別の部隊が姿を現した。

「敵戦車発見!」

 先頭を進んでいた第1小隊長のリマイナが無線に叫ぶ。

 その瞬間、リューイは本能的にどの部隊かわかった。

 いや、おそらくリューイだけではない。

 リマイナも、ヴェゼモアも、そしてあの部隊と戦ったことがある者ならわかる。

 この威圧感。

 私はその疑惑を確信に変えるべく双眼鏡を覗く。

 先頭の車両には短髪黒髪の将校、そして次には紅に染まった長い髪をもつ士官がそれぞれ砲塔から身を乗り出していた。

 私の疑惑は確信へと変わった。

 接近してくる部隊は―――


 ――第1親衛戦車大隊だった。


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