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3話

 コビャコヴォを突破した私たちは6km先のミチキノという街で敵の頑強な抵抗に遭遇した。

 敵は私たちから見て南西から迫っている。

「航空支援を要請しなさい!」

 砲火にさらされながら私はそう叫んだ。

 直前に戦った敵とは違い、敵は砲を有しており苦戦は必死であった。

「旅団長! 第1中隊の損害著しく!! 一時後退の許可願います!」

 敵の火点を潰しに行かせた第1中隊からの報告に私は思わず尋ね返した。

「損害は?!」

 直後、帰ってきた報告は私を絶望させるものであった。


「残り車両8両!」

 

 中隊の定数は15両である。

 そのうちの7両を失ったということは、半壊したということだ。

「わかったわ。下がりなさい」

 すぐにそう命じると、後方に目線をやった。

「アウグスト少佐!」

 私は頼れる古参兵の名を呼ぶ。

 彼はすぐさま、私の隣に車両をつけると、「如何さないましたかな」と微笑む。

「第2中隊と歩兵1個中隊を率いて迂回しなさい!」

「了解!」

 彼は威勢よく応じるとすぐに第2戦車中隊をまとめると、1個歩兵中隊を伴って南へと向かった。

 それを見届けると、私は無線機を手に取った。

「ロンメル閣下、ご相談があります」

 私の言葉に彼はすぐさま反応した。

「どうした」

「敵1個歩兵連隊が南東より向かってきております。私の旅団は遅滞戦闘に移行します」

 その言葉を聞いてロンメルは「わかった、貴官らの代わりに第1軍団を先鋒とする」と命じた。

 直後、航空偵察が彼の元へともたらされた。

「……なんだと! それは……なんだな!」

 無線機の奥から響く声に私は耳を傾けた。

「大佐、ミチキノの10km南東に行ったところに敵の飛行場が見つかった」

 それは、事前の情報ではつかめなかった話であった。

 敵はずる賢くも飛行場を偽装し、物資集積所と思わせていたらしい。

「敵はそこに2個師団程度配置しているものと思われる。貴官ら第1旅団では分不相応だ」

 ロンメルの言葉を聞いて私は首を傾げた。

「それにしては、砲火力が弱いわよ」

 今私たちに降り注いでいる砲弾の数はよくて1個師団程度の物。

 相手に2個師団もいるとは思えなかった。

「相手は砲を有さない歩兵師団が半数以上のようだ。戦車にとっては絶好の獲物だな」

 ロンメルの言葉を聞いて私は口角を吊り上げた。

 ようは敵は急増の歩兵師団ということだ。

 砲の配備や補充が間に合わず、慌てふためいているに違いない。

「第2旅団を私の配下に下さい。叩き潰して見せましょう」

「第2旅団だけでいいのだな?」

 私の言葉にロンメルはそう尋ね返した。


「私を誰だと思っているのかしら。5000もの兵があれば2個師団程度余裕よ」



「第3軍集団は北東に針路をとり戦果を拡大!」

 その頃、グデーリアンはクベンカの司令部で忙殺されていた。

 統合軍がこじ開けた戦線の穴を拡大すべく4個の軍集団を適切に運用する必要があった。

「閣下! 敵の予備部隊が動き始めました!」

 彼のもとに届いた報告。

 それは航空偵察によって発見された敵予備部隊とその動向であった。

「数は?!」 

「5個師団程度かと!」

 グデーリアンはその報告を聞いて優先度を低く設定した。

「後だ! 今は眼前の敵に集中する!」

 彼の脳裏には突然見つかった航空基地の存在があった。

 現状、航空優勢を確保できているものの、あの航空基地の影響でそれが揺らぎつつある。

 すでに第1旅団の周辺では敵戦闘機とこちらの戦闘機が五分の戦いを繰り広げている。

「飛行場は何個ある?!」

 グデーリアンの問いに参謀はすぐさま応じる。

「先ほど発見されたものに加え、モスクワの北に1つ。南東に2つです!」

 本来であれば、真南にもう一つあったがそれは初動の爆撃で破壊することに成功している。

 ここで、グデーリアンは重大な決断を下した。

「空軍に今からいうことを要請しろ」

 彼の言葉を聞いた通信兵は電信の用意をする。


「地上支援を一時中断し、モスクワ北方の飛行場破壊に専念されたし」



「リューイ大佐。正式にグデーリアンから飛行場破壊の命令が下された」

 ロンメルからの通信を聞いて私は素直に感心した。

 この命令の本質は「ケツは俺が持つから好きにしろ」というグデーリアンからの言外の言葉であった。

「承知しました。残敵の掃討は任せますよ」

 私はそう言ってロンメルを試すような笑みを浮かべた。

「たった2個旅団の君らにそこまでは要求しないさ」

 彼はそう言うと「第4軍団を当てるから、安心したまえ」と答えた。

 ロンメルの力強い言葉を聞いて私は笑みを浮かべた。

「第4軍団のストヤノフ大将にこうお伝えください。」


「これより我らは餓狼となりますので、どうかお気をつけて」

 


「さぁ諸君行くわよ!」

 私は雄たけびを上げる。

 針路は南を取る。

 左手に敵の飛行場があるであろう方向を見て、反時計回りに迂回する。

「アウグスト少佐。敵はいたかしら?」

 私たちに先んじて南へと向かったアウグスト少佐を無線機で呼び出す。

「はっはっは! 敵の増援が急いでこっちに向かってきますが造作もありませんな!!」

 彼の言葉を聞いて私は小さく微笑んだ。

 ドロホヴォの南、アラビノには敵の1個師団がいたようだが、アウグスト少佐はそれを蹴散らしているようだ。

「さすがは、歴戦の雄ね」

 私がアウグスト少佐に賛辞を贈ると手を叩いた。

「で、戦況はどうなのかしら」

 その問いに、アウグスト少佐は答えた。

 彼から聞いた戦況は額面通り受け取れば絶望的なものであった。

「現在敵1個連隊と交戦中、後続はもっといるでしょうなぁ」

「貴男だけで、持ちこたえられるわよね?」

 私の問いに少佐は「いいえと言せてはくれないんですね」と苦笑いを浮かべると答えた。


「大佐の訓練の成果をお見せ致しましょう」



「第4中隊は戦車を盾に!」

 アウグスト少佐はリューイとの通信を終えると配下の歩兵にげきを飛ばす。

「敵の砲兵はないぞ! 恐れることなかれ!」

 彼は第2中隊の中から2個小隊を選抜すると戦車による防壁を構築させた。

 砲を持たない敵は4号戦車を破壊することができず、遠距離からの射撃戦に甘んじるほかなかった。

「第1小隊は我に続け!」

 小隊長が雄たけびを上げると、防壁となっていなかった戦車5両が右翼へと一気に飛び出した。

「火勢を強めよ! 第1小隊を援護するのだ!」

 アウグスト少佐の声に反応するように、歩兵中隊はその勢いをより一層強めた。

 彼らは現在、アラビノから3kmほとドロホヴァへと向かったところで交戦していた。

 アウグスト少佐の後方には、空港へと続く道があり、ソ連軍はこれを奪取しようと躍起になっていた。

「阿呆どもが! 砲のない歩兵などわれらの餌にすぎん!」

 少佐がそう言って笑うと、右翼へと回り込んだ第1小隊が、敵の後方へと突入した。

 その効果は目に見えて現れた。

「少佐ァ! 敵が崩れましたぞ!!」

 歩兵中隊長の言葉を聞いた少佐は勝利を確信した。

「ユリアン大尉。どうするか解るか?」

 少佐は、隣で戦況を見守る第2中隊長のユリアン大尉に尋ねた。

 彼は「えぇ」と笑みを浮かべると自信満々に答えた。


「突撃、ですね」




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