自由にも限度がある
「えっ、でもリースの形は自由でしょ?」
皆も好き勝手に作っているんだから、ジオラマ型のリースがあってもいいと思うんだ。
「いえ、これは明確にリースじゃないわね」
「えぇっ!? 何処が? 材料だって森から採って来た物を使ってるよ?」
リースの作成に、素材の制限は無かったはずだ。
夏のあれこれや、大量輸送で余った竹なんかを使ったけど、他の人も竹で編み上げたリースを作っていたから問題ないはず。それに、ちょこっとだけ蔓も使っている。
「あのねアルム君……リースは壁に掛けられないと駄目なんだよ」
「……壁?」
リースを飾り付けるのは収穫祭が開かれる会場の壁面にずらりと並べるらしい。その際、下に置く物は邪魔になるので禁止されているらしい。
だから、台と一体になっているジオラマは展示する事が出来ないみたいだ。
「そんなぁ、苦労して作ったのに」
全身から力が抜ける。
何日もかけて村の縮尺を調べ、家一つ一つを調べて特徴を把握して、時には屋根にまで上って再現度に拘ったのに、それがまさか禁止事項に接触していたなんて……。
「まあ、でもリースだと最後は燃やされちゃうから良かったんじゃね? これ燃やすのはもったいないだろ」
「あっ」
自分の頑張りが無駄になりそうで落ち込んだけど、よく考えたらリースは最後に盛大に燃やす豊作を感謝する一種の捧げものだ。
当然、このジオラマを展示できても、最後は火柱に投入しなければならない。
リースじゃなくて良かったかも。
「アルムって変な所で抜けてるわね。父様に何処かに飾れないか聞いてあげるわ」
「そんな事できるの?」
「収穫祭は関係なくなっちゃうけど、これだけ出来がいいなら大丈夫だと思うわよ」
「おおっ!」
流石権力者の娘、なんとも頼もしい一言だろうか。
「でも、そうなるとアル君のリースは無しになっちゃうね」
「そうね。今から作るとなると時間も材料も足りないものね」
そう言えば、今はリースの話をしていたんだった。
確かにこのままだと僕だけリースが無い。収穫祭に参加できないのに、リースもなしはちょっと嫌だ。
幸い竹なら大量に余っているから、何か、何かないか……。
「あっ! ちょっと材料採ってくるっ」
いい案を思いついた。
僕は皆の返事を待たずに一旦作業場を出て村の外へ出る。時期的に少し厳しいかもしれないけど、今年は暖かい期間が長かったから目当ての物がある事を祈るのみ。
「んーと、あったあった。ちょっと開いてるけどこの際仕方なしか」
僕が求めていたのは湖畔に自生しているススキの穂だ。
柔らかく、触り心地の良い穂先だけ集める。完全に穂が開いていると飛び散ってしまうから、できるだけ穂が開いていない物が好ましい。
この質感、癖になる触り心地だ。
「後は細かいパーツを集めれば素材は十分かな」
大量の穂を束ねて背負う。
乾燥しているススキの穂は、大量に担いでも普段背負っている獲物より軽い。残りの素材を集めるのにそれ程邪魔にならないのは助かる。
細かな装飾に使う素材は何処にでも落ちている様なものだから少し歩けばみつかった。秋のススキが揺れる穏やかな日差しは、ちょっとした散策も気持ちいい。
「後は戻って組み上げるだけだね」
この気持ちのいい気候の中、このまま散歩していたい気持ちもあるけど、そこをグッと我慢して足を村に向ける。
今は一番気候が安定していて過ごしやすい季節だと思う。この収穫祭を過ぎればこの辺りは一気に寒くなる。この心地いい季節がもうすぐ終わると思うと少し寂しいけど、冬は家族と一緒に居られる時間が長く取れるから、それはそれで楽しみだ。
「ただいまー」
「おかえりー、アル君どこ行ってたの?」
「ちょっと材料集めだよ」
作業場に戻ると、みんなそれぞれリースの仕上げに入っていた。
ミミは可愛らしいネズミでサークル状のリースを飾り付け、エリザはシャドーをいれて、更にリアルに見える様に仕上げ、カレンは先程言っていたココル人形(?)に服を着せている。
スカート姿で可愛らしく着飾ると、これが不思議とココルに見えてくるから驚きだ。今ならあのリースがココルだと受け入れられる。
「今から作るの? 明日には飾り付けだよ?」
「大丈夫、竹を骨組みに、蔓で編み込むからそんなに時間はかからないよ」
流石に大きなものは作れないけど、サイズに拘らなければやりようは幾らでもある。
「そうなんだ。出来たら見せてね」
「うん、楽しみにしててね」
ミミは自分のリースが完成したようで、他のリースを作成している処に足を運んでいるらしい。あちこちに顔を出して人の作品をたのしんでいるようだ。
時間も無いので、早速リースの制作に取り掛かる。
まずは作る物の基礎となる部分から取り掛かって、次に側を蔓で編んで輪郭を作る。そこに先程採って来た穂を蔓の網目に挟んで体毛の質感をだす。
この時、身体の模様を再現するために色分けを確りするのがポイントだ。
最後にくりくりお目目と、一番大切な花の部分に毒でもなく、食用でもない触り心地がプニプニのキノコに穴を二つ開けて取り付ければ完成!
「よしっ! でーきた」
かなり作成に集中してしまった。勢い余って四姉弟にしてしまったのはご愛敬だね。作りが簡単だったから、材料を余らせるのももったいないと思って二体目、三体目と作っていたら、どんどん姉弟が増えてしまった。
でも一体よりは賑やかで、これでよかったと思う。
「アル君できたの? 見せて見せてー」
「うん、いいよ」
期待を込めた目で見てくるミミに、簡単な壁掛け台に乗せた僕の作品を見せてあげる。時間がなくて全てを一帯にはできなかったけど、後から配置を変えられる方が色々な表現ができるから楽しいとも思う。
「わー、可愛い! これって“瓜ボア”だよねっ」
「そうだよ。そっくりでしょ」
「うん、よく数時間でこれだけの物作れるね!? アル君、一人で黙々と作ってたから大丈夫かなって思ったけど、杞憂だったね」
「そう? 普通に作ってただけだよ」
「ほら」
ミミが指さす方を見てみると、既に陽が沈みかけていた。
作業を始めたのが昼前だったから、昼食も忘れて作業に没頭していたらしい。自分の集中力が恐ろしい。
「なんてこったっ。昼食を食べ損ねた!」
「あ、そこなんだ」
ああ、狩人にとって身体は資本。その身体を作るのに大切な食事を抜いてしまうなど何たる失態。
今日の夕食はたくさん食べて損失分を取り戻さないといけない。
「なになに? アルムのリースできたのか?」
「へー、可愛いの作ったわね」
カレンとエリザも残っていたらしく集まって来た。
それぞれ一体ずつ瓜ボアを手に持って、眺めたり肌触りを確かめたりする。素材を厳選したので、その辺りは本物以上だと自負している。
現に、瓜ボアを触る二人の手は優しく、その顔は恍惚としている。僕の傑作の虜になってしまったようだ。
「……アルム、これは駄目ね」
「えっ?」
だが、カレンは神妙な表情を浮かべながらの駄目だし。
リースとして壁に掛けられるように専用の壁掛け棚まで作ったから条件として問題ないはずなのに、カレンはまるで瓜ボアを守るように抱きかかえて、その視線は真剣そのものだ。
「この子は……可愛過ぎるわ。アルムはこの子を供物として火にくべるつもり?」
「……どゆこと?」
そこからのカレンは、普段見せる事の無い真面目な顔で、子供に言い聞かせるように話す。いや、子供だから間違ってないけど、同い年のカレンに言われると違和感が凄い。
最初は可愛いから供物にするのに反対なのかと思ったけど、これが結構真剣な話だった。
本来リースにする動物は、この周辺に生息していない動物のみで、似たような動物の場合デフォルメ化して見た目を変えた物に置き換えるらしい。
何故なら、このお祭りは森の恵みに対する感謝を捧げる物で、森に無い物を捧げる儀式から発展したお祭りらしい。
だから、僕が作った瓜ボアは捧げものにするリースとしては相応しくないとなる。
知らなかったとは言えこれは僕の落ち度だ。これまで漠然と収穫祭を楽しんでいたけど、これからはそれに含まれる意味も学んでいかないといけないね。でも——。
「……もうちょっと早く知りたかった」
「アルムってやっぱり抜けてるよな」
エリザの言葉が今は痛い。




