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黒船到来

新章突入です。

「はい、到着。二回目ともなれば慣れたものだね」


 収穫祭も間近となり、その準備に追われる人も多い中、僕はいつも通りの狩りを行っている。狩人にとっての収穫祭の準備は、ゴノリアチキンの生け捕りだけなので、それさえ終わってしまえば比較的楽な物である。

 今年は去年に比べて多くのゴノリアチキンを捕まえられ、村全体に十分に行き渡る数を確保できた。寧ろ例年よりも若干多めに捕らえられたので、これは食事が期待できる。


「後は湖を行くだけだな。でもここからは未経験だから気を付けて行かないとね」


 前回の川下りが思いの外うまく行ったので、味を占めた僕は再び川下りを敢行した。既に水温は下がっていて、水に落ちたら寒い思いをしただろうけど、そのリスクを背負ってでも楽に獲物を運べる魅力に抗えなかった。

まあ、結果的に一度も濡れることなく湖まで下ってこれから、自然との闘いは僕の勝ちと言っても良いだろう。


「あー、この筏を押すのは意外と大変かも」


 軽い気持ちで川を下って、それが上手くいって浮かれてたけど、地味に筏を押す作業がきつい。流れの穏やかな湖は、押し返される事こそないけど全て人力で進まないといけないから大変だ。

 村までの道のり、湖岸沿いを只管竹竿で筏を押し続けて、両腕はパンパンになった頃にようやく村が見えてきた。


「これは……横着しないで背負って運んだ方が楽かも……」


 この方法、楽だと思ったけど大きな落とし穴があった。

 明日は筋肉痛まったなしだ。


「うん、そうしよう」


 これでは明日の狩りにも支障をきたす。前回みたいに緊急事態でもない限りこの方法は封印した方がよさそうだ。


「ああ……腕が重い。兎に角、あと少しだか……ら?」


 腕が張って辛いけど、ゴールの村は見えているから、気力を振り絞って竹竿で筏を押していると、次第に見えてくるはずの村が見えずに、大きくて鈍く光りを反射する黒い舟が村の港に停泊していた。


「……なにあれ?」


 今まで見た事無い舟が停泊している。

 普段見る船は漁師さん達が操る漁船と、定期的に村に訪れる荷の運搬をする定期船だけで、今停泊している黒い船はそれらの倍の大きさがある。

 こんな立派な船がこの湖にあるなんて思いもしなかった。

 これは誰か捕まえて聞くしかない。

 そこから急いで筏を進め、前回上陸した場所に筏を止めて近くに知り合いがいないか探すと、丁度ゴモンのおっちゃんが警備隊の指揮を執っていたので黒船について聞く事にした。


「ゴモンのおっちゃん、この騒ぎは何?」

「お、アル坊じゃねーか。ああ、これはパディー村からの客人だな」


 黒船について聞く為に近づくと、人が集まっていて何だか只事ではない雰囲気である。そもそも船が来ただけで警備隊が出動するなんて話は初めて聞いた。


「客人?」

「おう、あれよ、夏に助けたシーラ嬢が来てるんだ」


 シーラ姉ちゃんと言えば、ゴブリンにひん剥かれた姿が記憶に新しい。

 あれから領主様を交えて何か話し合ったとは聞いたけど、シーラ姉ちゃんがこの村を離れる時、丁度森に出掛けていたから別れの挨拶はできなかった。

 まあ、こうして再び来ることができるなら、両村の関係はそこまで悪くなっていないのだろう。パディー村には美味しい穀物があるから、それが食べられなくなるのは困る。

 そう言えば収穫祭の時期はいつも領主家の誰かが他の村に行って、互いの収穫祭に参加するから、シーラ姉ちゃんはその為に来たのかもしれない。

 そうなると、そのうち会えるだろう。

 取り敢えずこの騒ぎが上の人達が関わる様な事なら、僕には関係ない。興味が無いと言えば嘘になるけど、今は運んできた肉の方が優先しなければならない。それに収穫祭が関係しているのなら、直ぐに居なくなってしまう何てこともないだろうから、落ち着いてからゆっくりあの黒船を見させてもらおう。


「ふーん、まあいいや。それじゃお仕事頑張ってねー」

「お、おう。……アル坊の奴どうしたんだ?」


 僕はゴモンのおっちゃんに別れを告げて筏から獲物を運び出す。

 ただ、警備隊の荷車を借りようとしたけど、あの黒船の騒動で使用しているらしく、態々遠い場所まで足を運ばないといけなかった。

 それに、借りた荷馬車は警備隊の物より作りが悪く。何も考えずに物を乗せては荷車が壊れかねないので、筏から肉屋まで二往復する破目になった。


「ミガートのおっちゃーん。解体所借りるねー」


 獲物を運び終え、何時もの様に裏口から声を掛けるけど、中には誰かいる気配がない。


「あれ? 居ないのかな?」


 珍しくはあるけど、こういった事も偶にある。何処かに出掛けている可能性もあるので、勝手ながら場所を借りて解体作業に掛かる。肉の解体に使うのならミガートのおっちゃんは気にしないだろう。

 腕はすでに張っていて、解体ナイフを持つ手も辛いけど、これを終わらせなければ帰る事が出来ない。震える手で剥ぎ取りをすると、精細さに欠けるけどこの際仕方がない。元々秋の油の乗った獲物の皮剥ぎは難しく、万全な状態で解体しても完璧には仕上がらない。多少後の作業が増えるけど、そちらに力は必要ないので、最低限解体さえ今日中に済ませてしまえば、残りは後日作業するだけだ。

 だからといって適当に作業する訳ではない。大切な食材を無駄にすることなど出来ないので、皮剥ぎが多少雑になっても解体には手を抜かない。幸い吊るして解体するのにそれ程力は必要ないので、既に筋肉痛が始まっている両腕に鞭打ってなんとか四体の獲物を解体する事ができた。


「し、しんどい。これは一人でする作業じゃないよ……」


 全ての解体を終わらせたけど、もう身体は限界。寧ろよくやり切ったと自分を褒めてあげたい。

 いや、結局自分が楽をしようとした結果無駄に苦労を積み重ねただけなので、この状況も自業自得なので褒めたら駄目か。


「それにしてもミガートのおっちゃん遅いなー。何処でサボってるんだろ?」


 これまでもミガートのおっちゃんが不在だったことはあったけど、これだけ長時間肉屋を開ける事など無かった。

 今日は黒船が来た事と言い、ミガートのおっちゃんが居ない事と言い、珍しい事がよく重なる。収穫祭目前だから、色々普段と違う事が続いているのかもしれない。

 実際、村全体にどこか浮足立っている雰囲気がある。

 この時期ならそれ自体は珍しくないけど、昨年はギリギリまでゴノリアチキンの確保で森にいたし、その前は子供達で集まって細かい作業の手伝いをしていた。こうして村の雰囲気を肌で感じるのは初めてなので、なんだか新鮮な気持ちになる。


「帰ってこないのは仕方ないし、書置きだけ残しておけばいいかな」


 流石に、ミガートのおっちゃんが帰って来るまで待っていられないので、四体の獲物を解体して納めた旨をしたためた置手紙をして肉屋を後にする。

 獲物を四体も解体していたから、外はすっかり暗くなってしまった。あまり遅くなると姉さんに心配を掛けてしまうので急いで帰る。

 帰宅の途中、筏に寄って目立たない所に移しておく。流石にお客さんが来ているのに目立つところに放置しておくのは良くないと思っての配慮だ。

 筏を隠して速足で家に向かうと、既に家から光が漏れていて煙突から煙が出ているので姉さんが先に帰って夕食の準備をしてくれているみたいだ。


「ただいまー」


 この、誰かが待っている家に帰るというのは、何度味わっても良い物だ。誰も居ない家に帰るのは何処か寂しいものがある。誰も居ないと静かでどこ物悲しい。

 それに比べ、姉さんが居ると分かっているだけで、家の戸を開けるのも楽しくなる。一人増えるかどうかで家の暖かさが段違いなのだ。


「あら、おかえりなさい。夕食できてるから手を洗ってらっしゃい」

「はーい」


 姉さんに言われるがまま、僕は家を突っ切って裏の井戸から水を汲み上げて手を洗う。小さい頃から清潔を保つ大切さを、姉さんから耳にタコが出来るほど聞かされてきたから、今では自然とこうした行動がとれる。

 手を洗って食卓に付き、姉さんと一緒に食事を始めて暫く、不意にこんな事を口にした。


「そうそう、アルム。貴方にはパディー村に行ってもらうわ」

「え?」




ストックがなくなったので以降の投稿ペースは緩やかになります。

できるだけ間隔を開けないように頑張ります。

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