カレンの野外調理
〈sideカレン〉
「そろそろカレン様も、お料理の練習を始めた方が良いかもしれませんね」
皆が皆、料理が出来るなんて知らなかったわ。
私は小さい頃から火や刃物を使う調理場に入ってはいけないって言われていたから、料理なんてしたことがなかったから、皆も同じだと思っていたのよ。
「あ、いいね。皆と一緒にやれば間違える事はないだろうしね」
「わーい、ウチもカレンちゃんと一緒に料理するー」
「へへっ、アタイの腕をみせてやるよ」
皆もやる気みたいだし、これに水を差すのは駄目ね。
それに、これだけ経験者が居るし、他の人がどれくらい調理出来るのか見てみるのもいいわね。
「そうね。みんな教えてくれる?」
私が皆に聞くと、それぞれ快く返事を返してくれる。
一応私もこの地を治める領主一族の一員だから、大人であっても丁寧な対応をしてくれる。だから、私もそれに見合った姿勢を見せないといけないのだけど、この子達と居る時だけは素の自分が出せるから楽しいわ。
「あっ、ウチの持って来た食材も使ってー」
「俺もあるぜっ」
「アタイのも忘れるなよ」
「ふふっ、ぼくはちょっと珍しい物を持ってきましたよ」
みんなで材料を持ち寄って昼食を作る約束をしていたから、其々が何かしら料理の材料を持っているみたい。
かく言う私も、普段食べているパンより柔らかくて美味しい白パンを持って来たわ。
でも、何故かしら? みんなが食材を出す前から豪勢な食材が沢山並んでる……全部アルムが用意した物らしいけど、流石私達の中で唯一、本格的に仕事をしてるだけはあるわ。
それにこの森の事なら、アルムは村の大人よりも詳しいのよね。
「干し魚に干しキノコ、カットされた干し野菜に……トム、これはなに?」
「ふふっ、お答えしましょう。港町から取り寄せた干し貝ですよ。確かホタテと言う名前です」
トムが持ち寄ったのは、私も聞いた事が無い食材の名前だった。実家が商人ってだけあって、私の家より様々な物が入って来るだろうから、偶に珍味と呼ばれる物も手に入るのよね。
このホタテも美味しかったら取り寄せましょう。
「それは美味しいそうだね。——しかし、見事に乾物が揃ったね。これ纏めてスープにしたら、贅沢な美味しいスープになるかも」
確かにどれもスープの具材——ホタテ? ってのは解らないけど、海の物は美味しいって言うから大丈夫よね?
「いいですね。ホタテは一度水で戻せば、色々使えるみたいですから合うと思います」
「よしっ、それじゃ其々別れて調理しよう。カレンはそれを手伝う感じで色々経験してみるといいよ」
「「「「おっー」」」」
「わかったわ。皆よろしくね」
一人だと不安だけど、皆が居れば大丈夫よね!
*
「それじゃ、ウチはジャガイモを蒸かしていくよー」
「蒸かす?」
私は手始めにミミの所に来たわ。
でも、蒸かすなんて言葉初めて聞いたかも。料理と言えば、焼く、煮るは知っているけど、蒸かすってのは聞いた事も無い。
「そうだよー。とっても簡単だから、カレンちゃんも一緒にやろうね」
「ええ、よろしくね」
ちょっと不安だったけど、簡単な料理と聞いて正直安心したわ。これが私の初料理になるのね。
「じゃあねー、まずはジャガイモに十字に切れ込みを入れます。この時半分くらいまで切るのがポイントだよ」
「ええ、これくらいなら簡単ね」
どんな事をするのかと思ったけど、最初は本当に簡単で、ナイフでジャガイモに切れ込みを入れるだけだったわ。刃物の扱いなら多少心得があるから、直ぐに作業は終わったわね。
「次にー、御鍋に少しお水を入れます」
「ふむふむ、……お水が少なくないかしら?」
ミミが鍋に入れた水は、指先第一関節くらいの深さしか無くて、先程切れ込みを入れたジャガイモの半分も浸からないわ。
「大丈夫だよ。これは水蒸気で熱を通すからね。この籠にジャガイモを並べてね」
「え、ええ、並べるのね」
ちょっと不安だけど、ミミが言うんだから大丈夫よね。
なんだか平たく丸い籠にジャガイモを幾つも並べて、それを火に掛けた鍋の上に重ねて、最後に蓋を置いたわ。
「はい、これで火が通るまで放置だよー。火はウチが見てるから、他の人を手伝ってきてー」
「えっ? これで終わり? わ、分かったわ。次を手伝うわね」
なんだか拍子抜けするほど簡単だったわ。もしかしたら私って料理の才能ある? ……なんて勘違いは流石にできないわね。これが特別簡単な料理なのかも。
まあ次の調理をしたらそれも分かるわね。
「エリザ、手が空いたのだけど、何か手伝えることない?」
「んぁ? あー、じゃあ今沸かしてる鍋に具材を入れてくれるか?」
「ええ、任せて」
鍋に具材を入れるくらいなら簡単ね。
皆が持って来た材料を溢さないように鍋に入れる。エリザが事前に干しキノコと乾燥ホタテを水でもどしていたらしくて、先程とちがって瑞々しくなっているわ。
それらを含めて全部まとめて鍋の中に入れる。沸騰している鍋に材料を入れる簡単なお仕事だわ。
「よっし、あとは最後に塩胡椒で味を調えるだけだぜ。ここはこれで終わり」
「え? もう終わり?」
私、鍋に具材を入れただけなんだけど……
「まあ乾物って、半分調理が済んでるようなものだからな。全部乾物ならこんなもんだ」
「そ、そうなのね……」
確かに乾物は保存性を高める為だけじゃなくて、調理をお手軽にする工夫がされているって聞いた事があるから。具材全部乾物だとこんなものなのかな?
これまた火の番をエリザがしてくれるみたいだから、私は別の人を手伝う事にする。
「ねえ、アルム。私手が空いたの」
「ああ、じゃあソースを作って貰ってもいいかな?」
窯の前で、串に刺さったお肉を焼いているアルムが、自分の作業とは別に頼んできた。
アルムいわく、ただ肉が焼けるのを待つだけじゃ詰まらないから、ソース作りを教えてくれるみたい。
「ニンニクを一欠片、ナイフの腹で潰して小さく刻んでね」
「ええ、これ位簡単ね」
切る作業なら簡単にできるわね。板の上でニンニクを刻む楽な作業よ。
「次に、すり鉢で汁が出るくらいバジルを潰して、さっきのニンニク、オリーブオイル、それに松の実をいれて、最後に塩胡椒で味を調えて完成だよ」
「あら、簡単ね」
「まあね、でも塩胡椒の量を間違えると、美味しくなくなっちゃうから気を付けてね」
「大丈夫よ。任せなさい」
なんだかやっと料理らしくなってきたわね。すり鉢と擂粉木を使って、材料を混ぜていくわ。
このソース作りは意外と大変みたい。重労働って程じゃないけど、時間のかかる作業だったわ。
それでも、丁度良いペースト状にバジルをすり潰して、他の材料も混ぜる事ができたから、自分で言うのもなんだけど、中々の出来栄えになったわね。
「あ、出来た?——うん、いい出来栄えだね。ザントがサワガニを揚げ始めるみたいだから、次はそっちを手伝ってもらっていいかな?」
「揚げ物ね、わかったわ」
先程からパチパチと音を立てる物には興味があったのよね。
「ザント、手伝いにきたわよ」
「おっ、カレンか。丁度いいや、油に投入するの任せていいか?」
「ええ、大丈夫よ」
私はザントと場所を代わって、先程私達で捕って来たサワガニを油に潜らせる。
少しお酒臭いのは、先程までサワガニをお酒に浸けていたからみたい。こうすると暴れずに美味しく出来上がるみたいよ。
それにしても、揚げ物って大変ね。高温の日の前で作業しないといけないから暑くて大変だし、油に入れたばかりのサワガニは——。
「きゃっ」
「お、油が撥ねるから気を付けろよ。それと、サワガニから出る泡が小さくなったら油から上げていいからな」
油が撥ねるなら先に言っておいて欲しいわ。咄嗟に避けたけど、熱せられた油を被るなんてまっぴらごめんよ。
それにしても、油に入れたサワガニは綺麗な赤色になるわね。家で出た料理で似たようなのを、見たことがある気がするわ。
「ザント、こんな感じでいいかしら?」
「おう、絶妙だな。それじゃ次はこのハヤを揚げるぞ。こいつは天婦羅にするから、この衣をこうやって——纏わせてから油に入れてくれ」
「この白いドロドロは何かしら?」
先程のサワガニと違って、この魚には白いペースとを纏わせるみたい。ドロドロで程よく魚に絡みついてくるわ。
「これは小麦粉を水で溶いた物だな。生姜の粉末を少し入れるのがポイントだぜ」
このドロドロが上げる事で、あのサクッとした食感の衣になるみたい。
今一信じられないけど、他の人も止めないから、間違ってはいないのよね。それに、サワガニみたいに油が飛び散ったりしないから安心だわ。
「……なんだかこの泡が弾ける音が心地いいわね」
「ああ、パチパチ弾けて期待が膨らむよな」
天婦羅の、あのサクサクした食感が私はすきなのよね。この音一つ一つが、美味しい天婦羅に出来上がる過程だと思うと、なんだか楽しいわ。
「よし、上げて良いぞ。これくらいの綺麗なきつね色になったら完成だ」
出来上がった天婦羅は、黄金色に輝くサクサクの衣で、仄かに魚の香りが漂ってきて食欲を誘うわ。
「あれ? このこはどうしたらいいの?」
「ん? ああ、テナガエビも同じように衣を纏わせて、両手を持って広げながら油に入れると綺麗な形に仕上がるぞ」
アルムが捕まえた唯一のテナガエビ。
それを、サワガニと同じようにお酒の中で泳がせた後、衣を纏わせて油に潜らせる。
広げて入れた両方の挟みがそのままの形で揚がって、迫力のある一品になったわ。
「後は塩をまぶして完成だぜ。トムがタケノコ切ってるからそれを手伝ってもらっていいか?」
「わかったわ。後は任せるわね」
この揚げ物は、料理をしたって気分が味わえたわ。実際料理をしているのだけど、これまでが簡単すぎて実感が沸かなかったのよね
「トム、手伝うわよ」
「そうですか。では、ぼくがカットしたのを参考に、同じように切ってね」
「任せなさい。切るのは得意よ」
タケノコを薄く、二口サイズに揃えて切り分けて、この料理は完成みたい。所謂タケノコの刺身ね。アルムが癖のないものを採って来たから出来る事ね。
そんな簡単な作業だから、タケノコ料理は直ぐに終わったわ。
これで一通り終わったけど、料理って意外と簡単ね。いや、私に意外な才能があったのかもしれないわね。
「カレン様、お料理を並べていきますので、あちらのシートにお座りください」
「ええ、お願いするわ」
コーニャは皆が料理をしている間に、食べる場所を準備していたみたい。
こういった外での食事は久しぶりだから、ちょっと楽しみなのよね。
皆もそれは同じみたいで、其々の料理をよそって並べると、みんなもう待ちきれないといった顔で待ってるわ。
私も、もう待ちきれないから早速食べましょう。
「さあ、揃ったわね? 頂きましょう!」
料理の味? 私が作ったんだから美味しいに決まってるわっ。




