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大量購入

「こんにちはー」

「こ、こんにちは」


 セフィーさんを伴って、村の東にある樵達を束ねるエリザの実家にやってきた。

 この村の木材関係の仕事は、ここで一手に受け持っていて、大量に薪を確保するならここしかない。


「んあ、……あれ? アルムじゃんか。どうしたんだ?」


 返事が無いので、勝手に中に入ると、カウンターで肘をついたエリザがうたた寝をしていた。

 まあ、ここは滅多に客が来なくて、固定の仕事が多いから急な来客を予測出来なかったのは分かるが、寝ぼけた目で涎をたらす姿を晒すのは如何な物だろうか。


「やっほー、薪を買いに来たよ」

「なんだぁ? アルムの所は薪なら足りて——うおっ、めっちゃ美人なねーちゃんだっ」


 寝ぼけ眼で此方を見ていたエリザが、僕の後ろに立っているセフィーさんを目に止めると、一瞬にして眠気が飛んだのか、目を開いてカウンターから身を乗り出す。


「ああ、紹介するね。新しく治療院に派遣されたセフィーさんだよ。こっちは僕の友達のエリザ、木材関係を一手に引き受ける樵達の元締め? の娘だよ」

「へー、よろしくなセフィーねーちゃん。あとウチは元締めじゃなくて管理を任されてるだけだから」

「はい、よろしくお願いしますね」


 二人が挨拶を交わした処で、早速本題に入る。

 今日はこの後、他にも行かないといけない所が有るから、残念ながらのんびりしていられない。


「それで、早速だけど親父さん達はいないの?」

「あー、親父達は森に入ってるな。切り出しが遅れてるから、総出で木を切り倒してるんだ」


 ゴブリンの騒動は、ここの樵達にも影響を与えた。危険な魔物の上位種が居る状態では、流石に森に入れないので、木の切り出しが止まっていたらしい。

 今はその遅れを取り戻すために、毎日朝早くから遅くまで頑張っているらしい。


「そっか、ならエリザに頼んで良いかな? 薪が必要なんだけど、一冬分——四か月分の薪が欲しいんだけど」

「ふーん、セフィーねーちゃんは一人か?」

「うん、だから一日50キロあれば足りると思う。炭もあるしね。だから……6トン。それに着火用の枝薪が500キロ、着火剤500回分欲しいんだけど、

在庫は大丈夫かな?」

「えっ!? そんなに必要なんですか!?」


 僕の注文量に、セフィーさんは目を見開いて驚く。でも真冬に乾いた薪を確保するのは大変だから、これくらいの備えは当然だ。


「なんだ? セフィーねーちゃんは外の人か?」


 そんなセフィーさんの反応を見て、エリザがこの感想を抱くのも仕方がない。寒い冬を知っている者であれば、今の量は必要最低限でしかない。


「あ、はい。お隣の国から来ました」

「南の方だって、冬でも半袖が着られるらしいよ」


 セフィーさんの説明に捕捉を加えて、互いの認識の差を補う。


「成程ね。セフィーねーちゃんはアレの最中なんだな。薪も一日中焚いてれば直ぐになくなるからこれ位は必要になるよ」

「そうなんですね。薪は料理を作る時くらいしか使った事がありません。あっ、そんなに沢山の薪なんて、あたし一人じゃ運べませんよ!?」

「あっはっはっ、それは大丈夫だ。届け先さえ教えてくれたらアタイらが運んでやるからね。まコッチは貰うけどさっ」


 そう言ってエリザは親指と人差し指で円を作る。意外とこういった処は確りしている。

職人は自分の仕事に誇りを持っているから、決して自分を安売りしない。まあ、輸送はただの手間賃なので、村内ならそれ程取られる事も無い。


「あっ、薪の使い方はアルムが教えるんだよな?」

「うん、その辺りは任せてもらっていいよ。実際使うようになってから一度確認には行くしね」

「それじゃセフィーねーちゃんの家を教えてくれ。支払いはどうする?」

「あっ、では今払います」

「分かったよ。後、これは冬用の薪だから、普段使いのはまた別で買ってくれよ」

「あ、はい。分かりました」


 人が生きていく上で、燃料の消費は意外と馬鹿にならない。だから、無作為に木を切り倒さないように、この村では樵達が確り管理している。

 それに、潤沢な森があるから、他の土地で薪を買うよりも安く手に入るし、薪割りはかなりの重労働なので、購入した方が余程楽だ。


「それじゃ、またなー」

「うん、又ねー」

「ま、またね?」


 薪の購入を済ませ、軽くエリザと雑談をした後、僕たちは次の目的地に向かって出発した。

 今度の目的地は、村の中心に位置する最も活気がある場所に店を構えているトムの実家だ。名前は……確かモルク商店だったと思う。この村に、商店は一つしかないので、名前を憶えていない。

商店で通じるからね。


「アルム君、今度は服を見に行くんですよね?」

「そうだよ。なんだか嬉しそうだね」


 セフィーさんは、今日一番に機嫌が良い。女性は買い物が好きだと言うから、彼女も自分の服を買いに行くと聞いて嬉しいのだろう。


「はいっ、あたしの住んでいた処では重ね着なんてお洒落ありませんでしたからね。どんな可愛いお洋服があるか今から楽しみです」


 確かに暑い時に重ね着なんてしないから、冬でも半袖でいられる地域から来たセフィーさんが重ね着に馴染みが無いのも頷ける。


「あー……可愛い服が見つかるといいね」

「はいっ、今から楽しみですっ!」


 うん、希望を持つのは自由だと思うよ。可愛いは個人の主観によるものだしね。


*


「可愛くないです……」

「まあ、実用品だからね」


 先程まで、あれほど買い物を楽しみにしていたセフィーさんが、半分回って反転、意気消沈している。

 それもそのはず、今日買いに来たのは、冬の過酷な寒さを耐え忍ぶ為の、無骨で丈夫な作りをした実用品なのだ。ファッション性は二の次とされている為、商店で売られている物は見た目を考慮されていない。


「うぅ……でも、アルム君のお家で着た物は可愛いデザインでしたよ?」


 セフィーさんに寒さを体験してもらう時に着せたのは、姉さんが冬に着ている物で、商店に並んでいる無骨なデザインと違い、お洒落なフリルや可愛らしいワンポイントが付いている。


「あー、あれは姉さんが自分でアレンジしたり、セーターなんかは手編みしたものだよ」


 この村の女性は、無骨な防寒具を嫌ってオリジナリティー溢れるお洒落な作品に仕立て上げるのが、一つのアイデンティティーとなっている。


「そんなぁ……あたし、そんな事した事無いです」


 見るからに落ち込んだ姿を見せるセフィーさんは、地味な防寒具を身体に当てながら暗い顔をする。

 余程楽しみにしていたのだろう。その落ち込み要は、見ている方も辛い。


「い、今は無理だけど、冬の暇な時間を使って姉さんに教えてもらうと良いよ」

「……そうですね。アリスさんに教えて頂くことにします」


 僕の提案に、セフィーさんが多少明るさを取り戻したところで、商店の奥からここの主が出てきた。


「おや? アルム君じゃないか、いらっしゃい」

「お邪魔してますモルクさん。今日は冬ごもりの準備をしにきたよ。今日はトムいないの?」


 店の奥から出てきたモルクさんは、随分設けているのか、恰幅の良い身体を揺らしながら店内へと入って来た。

歴戦の商人といった風貌を携えていて、特に膨れ上がった頬のお肉が目元を押し上げ、常に笑っている様に見えるから、人の良い商人に見える。


「ほぉほぉ、冬ごもりね。そちらのお嬢さんの物かな? トムはザント君の処にお使いに出したよ」


 モルクさんの視線は、セフィーさんを品定めするように上から下へとじっくり眺める。ちょっと目元が嫌らしいのは僕の気のせいだと思いたい。

 それにしてもトムもタイミングの悪い奴だ。できれば多くの人にセフィーさんを覚えてもらいたかったけど、居ないのなら仕方ない。


「はい、この度治療院に派遣されたセフィーと申します。今日はアルム君に手伝ってもらって、冬の準備をしにきました」

「そうですか。なんでも申し付けてください。在庫が無い物も急いで取り寄せれば間に合いますからね」


 さてと、セフィーさんが凍えないように、暖かい物を選びますかね。




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