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冬を体験

「おはようございまーす。アルム君いらっしゃいますかー?」


 地下に篭って準備を進めていたら、家の外から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


「はーい、今行くよー」


 今日は、以前話していたセフィーさんの冬ごもりの準備をする。

 その為に、先日引っ越し祝いを私に行った時、家の施設や作り、そして至急された物を確認してきたけど、あの状態で冬に突入したら、年を越す前に帰らぬ人となるのが確定したので、入念に準備をすることにした。

 それに伴い、まずはセフィーさんに自分がどれだけ無防備かを知ってもらう必要がある。

 どれだけ周囲の人が準備を手伝っても、本人に自覚がないのでは、備えも十全に生かす事が出来ない。

 だから、冬ごもりの準備をする前に、その自覚を本人に持ってもらう事から始める。


「お待たせー。いらっしゃい、さぁ入って」

「はい、今日はよろしくお願いします。お邪魔しますね」


 セフィーさんは、治癒師としてのローブではなく、プライベート用の薄手のワンピースを着ている。残暑の残る秋には丁度良く、快適に過ごせる格好だ。綺麗なセフィーさんに似合う落ち着いたデザインをしている。


「さあ、座って。これから冬ごもりの準備の流れを説明するね」

「え、ええ、分かりました。でも準備の流れ?」

「うん。兎に角、その辺りの説明もするから、まずは座ってね」

「は、はい、失礼します」


 セフィーさんが席に着いたのを見計らって、姉さん特性の冷えた果実水を出す。暑い日にはこれが一番だ。


「ありがとうございます。……あ、これはアルスさんの作った果実水とおなじですね。甘すぎずに飲みやすくて美味しいです」

「まあね。治療院のは家で作ったやつを持ち込んでいるだけだから、味は一緒のはずだよ」


 姉さんが作った果実水は本当に美味しいから、セフィーさんも喜んで飲んでくれる。

 そして、セフィーさんが半分ほど果実水を飲んだところで。僕は話を切り出した。


「それじゃあ早速説明するね」

「はい、お願いします」

「それじゃ、まずは今日の流れからね」


 そこから、今日行う冬ごもりの準備の日程を説明する。

 態々朝早くから来てもらったのもこの為で、冬ごもりの準備とは、本来一年を通して徐々に行うのだが、秋口にこの村にやって来たセフィーさんには余り時間が残されていないので、詰め込んだ日程で手早く準備する事にした。

 流石に長期間は僕も付き合っていられないので、短期間で確実に準備できる方法を考えた。それには、早い段階で多くの人に協力を仰ぐ必要があるので、今日一日で回れるように、朝早くから集まったのだ。


「成程、まずは冬の疑似体験と言う事ですか」

「そう、真冬より寒くはないけど、実感するには十分だと思うから、知らずに冬を迎えるよりも良いと思ってね。もう準備は出来てるから、早速向かおうと思うけどいいかな?」

「はい、あたしはいつでも大丈夫です。それで、何方に向かうのですか?」

「それはね——」


 僕は人差し指を一本立てて、それを下に向けた。


「さっ、さむっ、寒い。とっても寒いですっ」

「これで大体真冬の家の中で暖を取っていない時と同じくらいだよ」

「えぇ!? じゃあ、外はもっと寒いってことですか?」

「そうだね。それに風もあるから、体感温度はさらに下がるとおもうよ。——それで、セフィーさんの荷物にこの寒さを耐えられる物はあるかな?」


 僕はセフィーさんに手っ取り早く冬の空気を体験してもらおうと、家の地下に作ってある氷室へとご招待した。我が家の氷室はちょっとしたもので、家の地下深くに作ってある。その為、夏でもかなりの氷が残っているので、かなりの低温を保っている。


「な、無いです。こ、こんなに寒いなんて予想もしてなかったです」

「うんうん、これで冬ごもりの準備の大切さを理解してもらえたかな?」

「は、はい、身に染みて理解しました。是非ともご教授下さい。そっ、そして何か服を下さいっ」

「うん、いいよ。じゃあ、まずはこれを着てね」


 そうして差し出したのは、この辺りでよく着られる厚手の毛糸のセーターだ。


「ああ、暖か……やっぱりまだ寒いですっ」

「そうだね。因みに、それは室内で暖を取った時の格好だね。続いてその上にこれを着てね」


 次に渡したのは、柔らかいファーを蓄えた革のジャケットだ。


「あ、少し寒いですけど、耐えられない程じゃないです」

「そうだね。冬でも暖かい日なんかはその格好でも出られるよ。よし、最後にこれとコレ、そしてこのマフラーをいってみよう」


 最後に渡すのは、全身を覆う事の出来る外套と手袋、そして毛糸で編まれたマフラーだ。


「暖かいです。これならこの部屋でも全然大丈夫です」

「そうだね。それは真冬に外に出る格好だからね。それでも寒い時は、下に重ね着して調節してね」

「はい、分かりました。——でも下は寒いままなんですが、どうしたらいいですか?」


 先程から渡しているのは、上半身の衣服ばかりなので、セフィーさんは先程から素足を出したままで、小刻みに震えていた。


「下はそこにあるズボンと、先程のジャケットと同じ素材で作られた革ズボンを履くよ。だから、真冬にスカートは厳禁だから覚えておいてね」

「は、はい。理解しました。痛い程に」

「それは良かった。実体験に勝る物は無いからね。それじゃ寒いし上に戻ろうか」


 もはや寒すぎて声も出せないセフィーさんは、首を縦に振る事で答えた。僕としては寒くはあるけど、そんなに直ぐに耐えられなくなるような寒さではないけど、本人曰く寒いのは苦手らしいので、仕方ないかもしれない。

 これは、村の人よりも確りと冬ごもりの準備をしておく必要がありそうだ。


「ああ、暖かいって素晴らしいです。——うっ、アルム君。お手洗いをお借りしても良いですか?」

「どうぞー、そっちの奥だよ」


 セフィーさんには寒さを直に体験してもらう為に、事前に冷たい果実水を出したけど、予想以上の利き目をみせたようだ。身体を冷やすのは、色々な意味で不味いので、これも実感できただろう。


「お待たせしました。はしたない処をお見せして、失礼しました」

「大丈夫だよー。これで、身体を冷やすと良くないって理解してもらえたと思う。そうしたら次行くよー」


 取り敢えず、今体験できる冬の環境は一通り終えた。次から、それらに対しての準備をどうするかだ。


「今さっきので、衣類の重要性は理解してもらえたと思っていいよね?」

「はい、アルム君が意外とスパルタだという事と共に理解しました」


 それでは何だか僕が虐めてるみたいに聞こえる。僕の行動にはちゃんとした理由があるのに。


「言っておくけど、さっきの冬の寒さ体験は、村で作られたマニュアルに基づいた教え方だからね」

「……恐ろしいマニュアルです」


 確かに、ちょっと強引な手段だと思うけど、実績があるから変わる事は無いと思う。最後には誰もがこの冬の寒さ体験をしたことに感謝してくれるのだ。


「それじゃ次に進めるね。今度は寒さを凌ぐ為の暖の取り方だけど、これは普通に薪や炭を使うんだけど、これは料理する時なんかも使うから分かっていると思うけど、冬場ではその補充も儘らないから、事前にどれだけ準備する必要があるかを教えるね」

「はい、もう冬を甘く見ません。それで、どれだけの薪が必要なのですか?」


 セフィーさんも良い感じに意識が切り替わっているようだ。やはり、あの事前体験は非常に有用だね。


「それなんだけど、各家庭で使用する薪の量も変わってくるから、その辺りは専門家を交えて話そうか」

「専門家ですか?」

「そうだよ。次は実際に薪を扱っている場所に向かうよ」


 さあ、今度は村で実地研修だ。




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