冒険者ギルド
ブチにしてやられてから数日、今日は珍しい獲物を発見した。
「へー、ラムトカゲか~、珍しい」
それは、全身を分厚い皮で覆われた、全長三メートルを超える巨大なトカゲで、この辺りではあまり見かけない獲物だ。
そしてこのラムトカゲ、その尻尾がラムというお酒と相性が良いらしく、ラムを飲む時の摘まみとして好まれるので、ラムトカゲなんて名前が付いたらしい。
「そうだっ。こいつ仕留めて、久しぶりに冒険者ギルドにでも顔を出そうかな」
更に、このラムトカゲの良い処は、その皮が非常に丈夫で、防具なんかに素材として人気が高い。実際、斥候部隊のメンバーはこのラムトカゲの革を用いた鎧を身に付けている。
軽くて丈夫、防具には理想的な素材だ。
「そうと決まれば、……ああ、あった。今の森なら見つけ放題だな」
そして、このラムトカゲ、見つけるのは大変だが、倒すのはとっても簡単なのだ。
一見全身の上部な皮で隙なく守られている様に見えるが、唯一鼻の部分だけ弱い。それはもうびっくりするくらい弱い。
そして、一度外的を発見すると、視線をそらさない限り動こうとしない。
だから、相手の目を見て近づき——。
「セイッ」
「ギョエエエエ!?」
先端の尖った物で鼻を刺すと驚きのあまり気絶する。
そして、気絶している間に、鼻周辺から皮を後ろに引っ張ると、驚くほど綺麗に全身が剥ける。しかも、ラムトカゲ自身が望んで皮を剥がれるかのように手足を動かすので、大した労力を必要としない。
最後に、尻尾の辺りまで剥いだら、ナイフでサクッと切り離せば完了。この間僅か十分である。
後は、ラムトカゲをほかっておけば、勝手に目を覚まして何処かに消えている。
そう、この程度ではラムトカゲは死なないのだ。寧ろ更に強靭な皮を纏って復活するし、尻尾も生えてくる。
多分彼らにとっては、一種の脱皮なのだと思う。
因みに、ラムトカゲの肉は酷く不味いらしく、野生の獣も滅多に襲わないらしい。だったら、何故尻尾を食べるのかと疑問も残るが、所詮珍味の部類なので、美味しいかは又別の話だ。
取り敢えず、今日は面白い獲物が狩れたので、村に戻って素材を売却しよう。
*
「こんにちはー」
分厚い両開きの扉を開けて、正面カウンターの中に知り合いが居るのを見つけて、挨拶をする。
村に戻って、ラムトカゲの尻尾を肉屋に引き渡した後、そのまま冒険者ギルドに来た。
ここは、村の建物としては大きな作りで、ちょっとやそっとじゃ壊れないように頑丈に作られている。冒険者ギルドは全国に展開していて、その組織力を見せつけるかのようだ。
「あれ? アクム君じゃない。久しぶりね」
「うん、レイラ姉ちゃん久しぶりっ。相変わらず暇そうだね」
カウンターの中で、暇を持て余した顔をしていたのは、この冒険者ギルド唯一の受付を担当、レイラ姉ちゃんだ。少し癖のある茶色い髪を頭の後ろで結んで、少し吊り上がった目を気だるそうにしている。
基本的に田舎の冒険者ギルドは暇らしく、少数でも回せて、それでも時間を持て余すらしい。本人曰く、これ程楽な仕事はないとのことだ。
「殆ど出払ってるからねー。あっ、それよりも、聞いたわよ。アルム君大活躍だったって?」
「何の話?」
「ほら、あれよ。魔物の上位種を討伐したんでしょ?」
「あー、でもあれって斥候部隊の人と一緒にだよ。それに相手はホブゴブリンだし」
何の話かと思えば、随分と昔の話題な気がする。いや、久しぶりに会った人としては最近の話題なのかな?
「そんな風にサラリと言えるアルム君が凄いわ。ホブゴブリンの討伐なんて、中堅冒険者を集めて討伐するような魔物よ?このギルドを拠点にしている冒険者だと、相手にできるのは片手で数えられるくらいしか居ないわ」
「正面から相手にするのは無理だよ。僕は狩人だからね。罠に嵌めちゃえばどうにかできるもんだよ」
「それが行える冒険者が何人いることか……ねぇ、やっぱりアルム君冒険者にならない?」
レイラ姉ちゃんは事ある事に僕を冒険者にしようと誘ってくる。でも、それは不可能なんだ。
「僕はまだ11歳だから冒険者にはなれないよ」
「……私、アルム君って年齢詐欺だと思うの。本当は15歳なんじゃない?」
冒険者ギルドに所属するには、15歳からと年齢制限が設けられている。冒険者は、町や村を頻繁に移動するので、親の庇護下に居る子供を迎え入れても、真面に仕事に成らない。
だったら、最初から自分の事は自分で判断できる成人を超えてからと言う制限が設けられたらしい。
因みに、僕の保護者は姉さんになっている。
「ほらほら、おバカな事言ってないで、仕事してよ。今日は素材の持ち込みだよ」
「そうだったのね。私に会いに来てくれたんだと思ったわ」
確かにそれも一つの理由だけど、流石にそれだけで態々来たりしない。僕がこの冒険者ギルドを利用する最大理由は、田舎では素材を買い取ってくれる場所が無いからだ。
これで、防具職人でも居れば、直接そこに卸すのだが、そんなご立派な職人さんはこの村には居ない。
「それも半分かな。それで、鑑定はしてもらえる?」
「ええ、……大きそうね。隣の鑑定台に置いて貰えるかしら?」
「うん、これだよ」
ラムトカゲの皮は結構な大きさなので、丸めてロープで軽くしばってあった。
それを鑑定台に置いて広げる。三メートルを超えるラムトカゲの皮だが、半分は尻尾なので、意外とコンパクトに纏まるのだ。
「あら、立派なラムトカゲね。……ねぇ、尻尾の肉はないのかしら?」
レイラ姉ちゃんの視線は、萎んだ尻尾に集中している。そう言えば、レイラ姉ちゃんは村でも有名な酒飲みだったね。
「それは肉屋に卸したから、そちらにどうぞ」
「肉屋ねっ! 買いに行ってくるわ!」
今にも財布を握って飛び出していきそうなレイラ姉ちゃんだが、今は仕事をしてもらわないと困る。
「熟成や加工もあるから、販売は後日だとおもうよ?」
取り敢えず、自分が勇み足であったと、理解してくれれば、大人しくなるだろう。
「そう、じゃあ後で予約しておくわ。ラムのストックはあったかしら?」
既に心ここに在らず、レイラ姉ちゃんは数日先の晩酌に思いをはせている。姉さんも偶に弱いお酒を飲んでいるけど、そんなに美味しいものなのかな?
「あ、それより、鑑定してよ、レイラ姉ちゃんっ!」
「はっ、そ、そうだったわね。えーっと、何だったかしら?」
「ラムトカゲだよ」
「ああ……少し炙ったお肉が美味しいのよね~」
「いや、もうその件はいいから」
レイラ姉ちゃんは一度脱線すると長い。特にお酒が絡むと、引き戻しても直ぐに脱線してしまう。
「ごほんっ、そうだったわね。えーっと……うんっ、状態はばっちりね。それに、厚みも十分、それに——」
でも、一度仕事モードに入れば、その鑑定眼は目を見張る物がある。レイラ姉ちゃんは貴族でもないのに、王都の学園に入学、そして様々な書物を読み漁り、王都の冒険者ギルドでアルバイトをして、その鑑定眼を鍛えたらしい。
それも、王都で仕事をしないか誘われる程高い技術を身に付けたけど、それを断って地元であるこの村に戻って来たようだ。
その理由が、冷えたエールを夏にも楽しむ為、なんて何処かで聞いたような身も蓋もない話だ。
「よしっ、アルム君。終わったわよ」
「うん、それで幾らで引き取ってくれる?」
鑑定を終えて、こちらに顔を向けたレイラ姉ちゃんは、普段のだらしない顔と違って、どこか商人のような油断ならない雰囲気をしている。
「そうね、全体的に状態はいいけど、持ち運ぶときに変な癖が付いちゃってるから、小金貨四枚ってところが妥当——」
レイラ姉ちゃんは少しでもこちらに油断があれば、そこを突いて値下げしてくる。その交渉力は商人顔負けで、僕では絶対に歯が立たない。
だから、僕は僕なりの交渉を身に付けた。
「あっ、忘れたた。実は、ここに少しだけラムトカゲの肉が有るんだけど……」
僕はレイラ姉ちゃんが喋り終わる前に、腰のポーチから、葉で包んだラムトカゲの肉を取り出す。
「——でも、最近出回ってる数が少ないから、金貨一枚と小銀貨二枚でどうかしら?」
それを見たレイラ姉ちゃんの鑑定眼は、即座に評価基準を改定してしまう。
「ついでにこのお肉も小銀貨一枚でどう?」
「買った!」
欲望に忠実なんです。




