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小父、小父、小子

「ほー、それにしても上手く捌くもんだな」


 ゴモンのおっちゃんが、僕の解体作業を見ながら、こんなことを呟く。でも、それは当然の事だと思う。


「まあ、これが本職だからね」


 狩人が獣の解体も出来ないなんてお話にもならない。


「まあ、確かにそうだがよ。皮剥ぎで肉が殆ど残ってねーのな」

「そこは慣れだね。昔はもっと下手くそだったよ」


 この一年、冬場意外殆ど毎日熟していた作業だから、慣れないはずがない。

 それに、水に浸していた時間が長い分、剥離しやすくなっているから、狩った獲物をすぐに解体するよりも簡単だ。


「そんなもんか? 俺はそこまで綺麗に剥げないぞ」

「大丈夫だよ。十分綺麗だから」


 なんだかんだ言いつつ、ゴモンのおっちゃんも本職でもないのに上手に解体している。兵士の仕事も出来て、斥候、獣の解体と万能タイプのようだ。


「しっかし、この吊るした状態で解体するのは楽で良いな。この魔糸? だっけか。戦いのときにも使ってたけど、便利過ぎないか?」

「そうだね。かなり助けられているよ。子供の僕でも狩人ができるのは、この魔糸のおかげかもね」


 魔糸は地味な力だけど、広い応用が利くから重宝する。多分、魔力の少ない人では、そんなに強い強度が出せなくて実用的な使い方は出来ないだろうけど、魔力だけは無駄にある僕からすると、丁度良い有効活用だ。


「それにしても、これだけの量解体するのは、結構大変だな」

「そうだね。普段は一体ずつだから気にならなかったけど、川で移動する以上、向こうで解体できないからどうしても数を揃えてから解体になっちゃうよね」


 皮を剥いだ状態で肉を水に浸けておくと、肉がふやけて駄目になってしまう。内臓を取り出すときに腹は割くけど、内臓と肋骨内には膜があるので、それを破かなければ、数日水に浸していても問題無い。


「そうそう、その話もう少し詳しく教えてくれよ。そんな突拍子もない方法使ったなんて初めて聞いたぞっ」

「そうだね。じゃあ昨日の——」


 ゴモンのおっちゃんが獲物の運搬について興味があるみたいなので、僕もこの二日の苦労話を披露する。

 昨日の失敗作から、その過程でどんな悲劇に見舞われたのか、茫然としながら流された後半の事、そして、今日の筏を作るに至ったかを事細かく説明してあげた。

 僕も苦労したから誰かに聞いて貰いたかったのかもしれない。


「成程なー。川下りって一重に言っても奥が深いんだな」

「そうだね。正直、僕も昨日まで簡単に考えていたよ」


 こうして、二人楽しく話をしながら解体していると、肉屋の裏口が開いて、ミガートのおっちゃんが出てきた。


「おうっ、アルム——に、大将じゃねーですかい」

「よっ、邪魔してるぜっ」


 ゴモンのおっちゃんを見つけたミガートのおっちゃんは驚いたように声を掛けた。なんだかおっちゃん率高いな。


「なに? 二人は知り合い?」


 僕が二人のやり取りを不思議思って聞いてみると、矢張り二人は窮地の仲だったようだ。


「ああ、大将はオレ達世代の頭だったからな」

「おい、やめろ。昔の話だろっ」


 ミガートのおっちゃんが何か面白そうに言うと、ゴモンのおっちゃんが何故か慌てて話を遮ろうとする。


「いいじゃないですか。アルムにゴモン伝説教えてやりましょうよ」

「ばっ、そんな「何それ、面白そうっ!」おい、アル坊!」


 ニヤつくミガートのおっちゃんとは裏腹に、ゴモンのおっちゃんはそれを遮ろうと必死になっている。

 なんだか余程聞かれたくない話の様で、その必死さからこの場で聞くのは難しそうなので、後日本人が居ない所で聞いてみよう。


「それにしても、えらく大量に持って来たな」

「まあね、運ぶのにちょっと苦労したけど、これだけあれば肉不足もなんとかなるかな?」


 ミガートのおっちゃんも一通りからかって満足したのか、目の前に積まれている肉の山に目を向ける。

 どの肉も狩って数日、ずっと川底で冷やしていたので、保存状態も良好だ。


「ああ、これだけあれば十分行きわたるだろう。ハンスの処も本格的に活動を再開したから、これで肉不足は解消されるだろうな」


 ハンスさんは手持ちの罠を、ホブゴブリンが森を荒らしていた時に壊されてしまって、その修復作業に殆ど回転休業状態だった。それこそ、全て一から作り直さないといけない程、滅茶苦茶に破壊されてしまったらしい


「そっか、これで安心だね。冬の準備に間に合った」

「だなぁ、一時はどうなるかと思ったけどな。もう直ぐ晩酌に干し肉を食えなくなるところだったわ」

「そりゃいけねぇな、ミガートの干し肉程、酒の肴になるもんわねぇ」

「へへへっ、大将にそう言ってもらえると嬉しいね」


 あれ? 肉不足だったんだよね?


「よっしゃ、オレも手が空いたから手伝うぞっ。アルム、大きいのを吊るしてくれ」

「ほいさっ」


 荷車に乗っている中でも、特に大きなボアの肉を吊るし台にセットする。天井に吊るしフックが付いてるから、獲物を下にもっていくだけで吊るせるのは楽でいいね。


「おうおう、こりゃ立派だな。ちゃちゃっとやるかっ」

「うん」

「おう」


 ミガートのおっちゃんが加わってからは、それまでの倍以上の速度で作業が終わっていく。

 僕たちよりも大きな獲物も、瞬く間にバラバラにして、二匹目に取り掛かる。

 僕たちもそれに負けじと、解体に集中して、解体作業は日の暮れる前には終りを迎えた。やっぱり皆でやると早く終わる。ゴモンのおっちゃんを捕まえられたのは大きい。


「いやー、終わったー。やっはり本職には敵わんな」

「コレで負けてたらオレの立場がないですよ。大将こそ、素人技じゃないですね。流石ですわ」

「やめろ、やめろ、成人もしてないガキんちょにも負ける腕なんて誇れねーよ」


 ガキんちょとは僕ですか? 僕にだって、狩人としての意地があるから、ゴモンのおっちゃんには負けてられないよ。


「よっしゃ、後の作業はオレに任せてくれ、アルムはそろそろ帰らないと拙いだろ?」

「んー、そうだね。それじゃお願いしようかな」

「おう、またよろしくな。大将もまた来てくだせぇ」

「ああ、また干し肉買いに来るよ」


 後の事をミガートのおっちゃんに任せ、僕たちは荷車を返しに警備隊の詰所へと戻る。

 その道すがら、ゴモンのおっちゃんが思いがけない事を言ってきた。


「褒賞金?」

「なんだ? ケントから聞いてないのか? コロニー討伐とホブゴブリン討伐の褒賞金が支払われるんだよ」

「へー」

「いや、へーって、お前が貰うんだぞ?」

「そうなの? そんな話聞いてないよ?」


 どうやら、ゴブリンコロニー討伐に参加した者は、それなりの褒賞金がでるらしい。

 更に、斥候部隊の人と、ホブゴブリン討伐に貢献したということで僕には追加のお金が支払われるらしい。初めて知った。


「なんで話が通ってないんだ? まあいい、荷車を返す時に聞いてやるよ」

「うん、ありがとう」


 どうやら、本人に話が通ってないのはおかしいとの事で、ゴモンのおっちゃんが聞いてくれる事になった。

 それから、暫くして警備隊の詰所に到着し、荷車を所定の位置に戻すと、先程の話を聞きに再び詰所に入る。


「あれ? ゴモンさんどうしたんですか?」


 そこには先程と変わらずケント兄ちゃんが生類仕事をしていた。警備隊の仕事は結構地味らしい。


「ああ、アル坊が褒賞金の話を知らないって言うからよ。どうなってるのか聞きに来たんだ」

「褒賞金? ああ、あれですか。それならアリスさんに代わり渡しておきましたよ」

「おいおい……」


 そこで、ゴモンのおっちゃんは呆れた顔をする。どうやら、褒賞金とはその名のごとく、その功績に見合った報酬を上の立場の者が評価する事を内外に見せる行為でもあるらしい。

 そして、今回の上の者と言うのが、一応一連の騒動で指揮を取っていたケント兄ちゃんになるらしい。

 だから、本当ならケント兄ちゃんから直接僕に手渡ししないといけないのだとか。

 この話を聞いた時に、ケント兄ちゃんが顔を青くしていたので、何か不都合があったのだろう。小声で「父様に怒られる」なんて言ってるから、お叱りコースらしい。

 まあ、頑張れ。


「アル坊、一応帰ったらアリス嬢ちゃんに聞いてみろ。まあ、あの嬢ちゃんがネコババなんてしないだろうけどな」

「うん、分かった。どのみちお金は姉さんに渡してるから変わらないんだけどね」

「あー、まあお前はそうだろうな。そう言う話もあったってだけだ。一応お前の金なんだから、どうせなら誰かにプレゼントでもしたらどうだ?」


 プレゼント……そう言えば、姉さんが使っていた櫛が古くなってたかな。今度見に行ってみよう。


「うん、考えてみる」



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