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狩人の戦い方

「アル君、本当にこれでヤルの?」

「うん、聞く限りこれで狩れると思うよ」


 僕たちは二手に分かれた後、移動中にジェモさんに知る限りのゴブリンやホブゴブリンの習性を聞き出し、これまでの暴れた痕跡から導き出した対ホブゴブリン用の罠を仕掛けた。

 罠を仕掛けたのは、少し開けていて、太くて丈夫な木の枝が頭上に渡る場所を選んだ。今回の罠で、最も重要になる部分なので、態々三人で木に登って、その強度を調べておいた。

 大人の体重三人分の重量を確り支えられる物を、更にロープで強化して、ちょっとやそっとじゃ撓むことは無い。


「アルムは罠を使わない狩人だと聞いていたが、こういった罠を即席でつくれるんだな」

「これくらいはね。ただ、ハンスさんみたいに複雑な仕掛けで確実に動作させる技術はないから、罠を見張らないと十分な効果が見込めないだけ」


 今回仕掛けた罠は、単純な括り式の罠だけど、幾つかの仕掛けを罠の発動に連動させる技術も時間も無いので、ある程度手動で発動しないといけない。今回は、その手動部分をジェモさんとミーニャさんに担って貰えるから、単純な仕掛けだけど確実性が高い物を作る事が出来た。


「なんだか、私が想像していた戦闘には成りそうに無いわね」


 ミーニャさんが何を想像していたのか知らないけど、そもそも僕は狩人なので戦闘はしない。獲物の習性を利用して、退路を断って、確実に仕留める。これが狩人の戦い方だ。


「これが兵士と狩人の戦い方の違い——考え方の違いなのかもな」


 ジェモさんは何かを納得するように頷く。

 確かに、兵士と狩人では獲物を仕留める方法が根本的に違う。兵士は、敵を複数で取り囲んで戦う事を前提にしているが、狩人は基本的に一人で狩りをするので、一対一、もしくはこちら側が一人でも、獲物が単独で行動しているとは限らないので一対多を想定している。

 だから、正面きって戦う事を考えもしない。狩猟とは最も小規模な戦場なのだ。罠を張り、敵を追い込み、時には誘い出し、勝利を手にする。これは、人が戦争する時も変わらない。ただ規模と人数が増えて、相手が人間になるくらいだ。

 だから、狩人は何方かと言えば兵士よりも、軍師や参謀といった方に近いのかもしれない。


「私達とは根本的に考え方が違うのね。ああ、だから二手に分かれる方を選んだんだ?」

「うん、少数でホブゴブリンに対峙するのは危険だけど、ただ逃げるだけならそれほど難しくないしね」

「それに罠を使えば無駄なリスクも減らせる訳か……確かに戦闘中の回避には万が一があるが、逃げるだけならどうとでもなるな」

「私上位種との戦闘って分かってから、被害が出る覚悟もしてたけど、なんだか杞憂に終わりそうね」


 確かに兵士の戦い方だと、大なり小なり被害は出るだろう。前提が違えば、想定する被害の見方も変わってくるものだ。


「だからって気を抜くなよ。討伐するまでは気を張っておかないと、どんなヘマするか分からないぞ」

「そうですね。気を引き締めます」


 兵士でも狩人でも変わらないのは、獲物の息の根を止めるまで油断しないことだろう。手負いの獲物は最後にどんな悪あがきをしてくるか分からないので、一瞬の気の緩みが命取りになりかねない。


「むっ、近づいて来たぞ」


 ジェモさんが何か異変を感じ取って、地面に耳を付けて音を拾う。その報告から幾ばくかもしないうちに、森の中を暴れながら向かってくる音が聞こえてきた。


「それでは指定の場所にお願いします。お二人のタイミングが、罠の鍵になるのでよろしくお願いしますね」

「ああ、任せろ」

「アル君にばかり良い処もってかれないように頑張るわね」


 ジェモさんはニヒルな笑顔と共に去り、ミーニャさんは可愛らしいウィンクを飛ばして所定の位置に向かった。

 ゴモンのおっちゃんとケリーさんには、斥候部隊で使われている連絡方法でこの場所を伝えてあるので、見事罠の場所に誘導してくれるだろう。

 誘導後は各自で動いてもらう事になるけど、事前にこちらの目論見は伝えてあるので、彼等ならうまくやってくれる筈だ。


「はぁ、派手に暴れてくれるね。エリザの所に苗木を頼まないといけないね」


 段々と破壊音がこちらに近づいて来る。木々がへし折れる音を上げ、叩きつけられた地面から土煙が立ち上る。

魔物の上位種は災害だと言われるけど、ホブゴブリンも局所的には間違いなく災害と呼べるような被害をもたらす。

 その災害が視界に入ると、少し前方を慎重に獲物の誘導をしながら向かってくる二つの影が見えた。


「あっ、アル君~。助けてー」

「ごらっ、ケリー確り誘い込めっ」


 それは一見必死に逃げ回っているケリーさんと、それをフォローするように動くゴモンのおっちゃんだ。

 助けを求める割に、その声色には余裕が見て取れる。

 ホブゴブリンは事前の情報どおり、動きそのものは鈍いようで、攻撃の構えを取った後に回避しても十分余裕を持って避ける事ができるようだ。

 ケリーさんは途中で拾ったであろう小石を、嫌がらせ程度にホブゴブリンの顔面に向けて投げる余裕すらみせている。意外と楽しんでいるのかもしれない。

 ゴモンのおっちゃんも真面目に引き付けている様に見えるけど、地味な嫌がらせをしてヘイトを稼いでいる。多分ここ数日の鬱憤を晴らす目的もあるだろう。

 そんな二人の姿に苦笑を禁じ得ないが、作戦範囲に入ったらそうも言ってられない。


「姿勢を低くして移動してっ、ワイヤーが張ってあるよ。各員戦闘開始」


 ホブゴブリンが暴れる騒音に負けないように、声を張り上げて此方の意図を伝える。

 僕が戦闘の合図をいれると、スイッチが入ったのかケリーさんの気配が一瞬で消える。これを見たのは二度目だけど、やっぱり視界に入っている筈なのに、こちらの意識に残らない程気配が薄い。

 それに続く様にゴモンのおっちゃんも気配を消して森に紛れる。こちらはある意味一般的な技術を用いた気配の消し方で、突然消えたようには見えないけど、認識しにくくなる。


「ぐぐぎゃぁ?」


 突然追っていた獲物が、消えたように錯覚したホブゴブリンは一瞬混乱したが、直ぐに張り巡らされた魔糸が身体に纏わりつきだして、鬱陶しそうにそれを引きちぎって行く。

 本来、ゴブリン程度ならその首を撥ね飛ばすほどの鋭さがあるのだが、ホブゴブリンの鈍足と、その丈夫な皮膚によって僅かな切り傷を作るだけで終わった。


「ほら、お前の相手は僕だよ」


 そこに、間髪いれずに矢を放つ。

 僕は狩人だけど、はっきり言って弓の腕は並みだ。距離が離れると命中率は下がるし、威力も相応に下がる。幸い、今回はホブゴブリンの肩口に浅く刺さり、意識をこちらに向ける事に成功した。


「ググぎゃうぎゃうあっ」


 こちらの思惑通り、ホブゴブリンは僕を標的に定めたようで、その怒りを全身で表すように手に持つ巨大なハンマーを地面に叩きつける。

 あのハンマーは本来両手で持って打ち付けるような重い武器なのだが、ホブゴブリンの怪力をもってすれば片手で軽々と操れるようだ。


「そらそら、鈍間。図体でかい分、的当てより簡単に当たっちゃうぞ」


 興奮しているホブゴブリンを的に、僕は次々と矢を放つ。奴の装備では敵に近づかないと攻撃出来ないので、遠距離から攻撃を仕掛けていれば、向こうから近づいて来るしかない。それに、ホブゴブリンにとって致命傷にならない攻撃であれば、躊躇なく近づけるだろう。


「ぐぐぎゃうああああ」


 案の定、ハンマーを振り回しながら近寄ってくるホブゴブリン。

 これも、事前に十分な情報を集めたから、その習性や特性を利用してこちらに思惑通り動くように誘導した結果だ。

 ただ、膨れ上がる筋肉の鎧を纏ったホブゴブリンは、近づくほど本来の大きさよりも大きく見える。

 僕はその迫力に若干気圧されて、喉がカラカラになり、身を引いてしまいそうになるのを意思を強く持って耐える。

 今回即席で作った罠は荒が多くて、何カ所か人の手で補わないと十全に動作しない。その中で、僕はホブゴブリンを引き付ける餌役なので、ここで逃げ出すわけにはいかない。

 括り罠を確実にはめるには、餌の存在は必要不可欠で、今動いてしまっては折角誘い込んだのが無駄になってしまう。


「ぐぐりゃああああ」


 目前まで迫ったホブゴブリンは、汚らしく涎をまき散らしながら僕に向かって一直線に向かってくる。

 後三歩。


「まったく、森をボロボロにしてくれて」


残り二歩。


「好き勝手暴れた代償は」


 最後の一歩。


「その命で償えよ」


 零。


「今だっ」


 ホブゴブリンが大きくハンマーを振りかぶり、深く踏み込んだ瞬間括り罠が発動して、その右足に魔糸で編まれたロープの輪が括られる。

 僕は合図を出すと同時に、身体を後方に倒れるように反らすと、ホブゴブリンが振り下ろしたハンマーが鼻先をかすめるように通り過ぎる。


「「ハァッ」」


 それと同時に、木の上に待機していたジェモさんとミーニャさんが、この罠の肝になる仕掛けを発動する。

 すると、枝の隙間から幾つもの丸太が落下してきて、その丸太に括られたロープの先に繋がっているホブゴブリンは足を取られて前のめりになりながら宙へと釣り上げられていく。

 そこに、駄目押しとばかりに、僕は後ろに倒れる寸前に輪っかにしたロープをホブゴブリンの首に掛けて、ホブゴブリンの身体が枝と地面の中間に来るように繋ぎとめる。


「ぐぐぎぃゃう、ぎぁゃう」


 ホブゴブリンは、首にロープが食い込み、苦しそうにもがくが、自分の体重を持ち上げるような力に引っ張られている為に、そのロープを解く事が出来ず、無防備な姿を晒す。


「仕上げだあああああ」


 身動きが取れなくなったホブゴブリンに、追撃とばかりに至近距離から矢を放ち、木の上に陣取る二人も、即席の投げやりを投げつけ、先程まで姿を消していた引き込み役の二人も、其々の投げナイフや手斧で、四方八方から過剰ともいえる攻撃を加える。

 それから暫く、こちらの得物が底を尽きるまで攻撃は続き、最後の仕上げに全身から血を吹き出すホブゴブリンの魔石を魔糸で切り落とした。


「ふぅ、——排除完了」


 こうして一連のゴブリン騒動は幕を閉じた。




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