やっと帰れました。
「いやー、やっと戻ってこれたな」
「本当ですよー。この作戦、アル君居なかったら悲惨な事になってましたよー」
「それは言えてるわね。知ってる? ゴブリンの臭いって直ぐに取らないと、数日臭いが染みつくらしいわよ」
「げぇっ、本当ですか!?」
なんだかんだあったけど、夜はぐっすり寝られ、次の日は皆多少の疲労が見えたけど、順調に村へと帰還できた。
それでも、村が見えてくると皆の顔に明るさが戻ってくる。帰って来た実感を持つと違うのだろう。無駄口も増えると言うものだ。
シーラ姉ちゃんも、確りご飯を食べたおかげか、朝には元気を取り戻していて、自分の足で歩く事が出来た。意外と丈夫なのかもしれない。
「よーし、皆コロニー討伐お疲れ様。今日は早いがこれで上がりとする。各リーダーは報告書の提出だけ頼む。それ以外はゆっくり休んでくれっ。それじゃあ解散っ」
後半完全に空気になっていたケント兄ちゃんだけど、最後は確り締めてコロニー討伐部隊長としての役目を終えた。色々不備もあったけど、この後シーラ姉ちゃんの事や、事後処理なんかの仕事が残っているから、そちらで挽回してもらいたい。
「おう、アル坊。今回は本当に助かったぜ。なんなら、このまま警備隊に入っちまわねーか?」
「どういたしまして。僕には狩人の仕事の方が向いてるから、警備隊は遠慮するよ」
「アル坊なら大活躍すると思うんだけどなー……」
こうやって必要とされて誘われるのは嬉しいけど、やっぱり僕は父さんの仕事を継いで狩人をしたい。それに、警備隊になれば気軽に森に入れなくなるから、やっぱり狩人が一番だね。
「もーう、ゴモンさんみたいな勧誘じゃアル君入ってくれませんよー。もっとメリットを示さないとー」
「メリットかぁ……なんかあるか?」
「ふっふっふっ、例えばですね。ワタシみたいな美人と一緒に仕事ができます!」
ケリーさんは、それはもうへし折れないか心配になるほど、胸をそらして堂々と宣言する。
「デメリットだろ」
そして突き刺さるジェモさんの一撃。そして仲良く鬼ごっこが始まりました。
「本当、あの子は馬鹿な事ばっかり言って……。アル君、もし気が変わったらいつでも警備隊に来てね。君ならいつでも警備隊の門は開いてるわよ」
ミーニャさんからも誘われてしまった。可愛いウィンクを残して。
「そうだっ、アル坊。明日から俺達も森に入ってゴブリンの残党を探すから、森を騒がしくさせたら済まん」
「大丈夫だよ。どのみち数日は森も落ち着かないだろうから、残党狩りに集中してね」
「ああ、そうさせてもらうわ。それじゃ、またな」
明日から斥候部隊のメンバーは、安全が確認されるまで森の探索をする事になるのだろう。これが一つの村で完結する話なら、ある程度きりが良い所で切り上げるのだろうけど、隣村との兼ね合いもあるから、確りゴブリンが排除された事が確認されるまで続くだろう。
ゴモンのおっちゃんは、片手を上げて、ひらひらと揺らす。その傍ら、ケリーさんに追いかけられているジェモさんもちゃっかり手を振ってから詰所の方に走って行った。多分ジェモさんが斥候部隊メンバーの中で一番要領がいいのだろう。
「アルム、今日はこれからどうするの?」
他の人への挨拶を終えた姉さんが戻って来た。僕よりも警備隊の人と係わりが多いから、色々挨拶をしないといけない人が多くて大変そうだ。
「えっとね。肉屋にボア肉を納めるくらいだよ」
折角狩って来た獲物を無駄にする訳にもいかない。昨日大人数で食べたとは言ってもまだまだ残っているボアの肉を、ミガートのおっちゃんに引き渡さないと肉を無駄にしてしまう。
「そう、それじゃあお肉を引き渡したら今日はゆっくりしましょうか」
「そうだね。今日くらいゆっくりしよっか」
コロニー討伐に当たり、姉さんも治療院から休みを貰っているようなので、半日とは言え、久しぶりに二人でゆっくりするのも良いだろう。
「あっ、アルム少し待ってくれないかっ?」
「うん?」
僕と姉さんがミガートのおっちゃんの肉屋に向かおうとすると、後ろから声が掛かり、振り向くとケント兄ちゃんとシーラ姉ちゃんがこちらに向かってきた。
「ケント兄ちゃんとシーラ姉ちゃん、どうしたの?」
「ああ、私はシーラ嬢とは別件なんだが……。今回のコロニー討伐成功に当たって、後日祝いの席を設けるから参加してほしい。勿論、アリスさんにも是非参加して頂きたい」
なんだか僕と姉さんで温度差があるように感じるけど、確かに全開もコロニー討伐の後、ちょっとしたお祝いをしたから、それと同じようなものだろう。村人皆を集めて上げる祝勝会は、コロニー討伐に参加してない人達にも、安全の確保が出来たと事を伝える為に一緒にお祝いする。
田舎の村なんて、真実、嘘関係なく様々な噂が飛び交う。そんな中で、確実に伝えるには、その事実を実感できることを体験させるのが一番だ。この祝勝会も、みんなの不安を払拭する事と、コロニーの討伐が確実に終わった事を伝える為だと思う。
「うん、僕は大丈夫だよ。姉さんはどう?」
「そうね。アルムが参加するなら行くわ」
やっぱりお祝い事はみんなでしないとね。それに、祝勝会では領主様から、珍しい食べ物の差し入れなんかも期待できるから、ちょっと楽しみだ。
「よかった。私からは以上だ。あとはシーラ嬢の話を聞いてあげてほしい」
ケント兄ちゃんに促され、シーラ姉ちゃんを見ると、背筋をしっかり伸ばして直立していた。昨日まで腹ペコで歩けなかった人には見えない。
「アルム君、アリスさん、今回は本当にお世話になったであります。このご恩はいずれ返すでありますっ」
「シーラ姉ちゃん大げさだよ。困った時はお互い様だからね」
「そうね。私も治癒師として当然の事をしただけだわ」
やっぱり、人は持ちつ持たれつ、困った時は誰かに助けてもらって、誰かが困っていたら助けてあげる。
村の生活では当たり前の事だからね。
「うぅぅ、二人が優しいであります。自分……じぶんっ」
何故かシーラ姉ちゃんは、穴という穴から色々な汁を垂らして泣き始めた。うん、貴族令嬢がしていい顔じゃないと思う。
「ごのごおんば、がならずズズッ、かならず返すであ゛りま゛ずっ」
今回の事で一つ分かった事がある。多分、シーラ姉ちゃんは涙もろいタイプだ。姉さんに弄られた時なんか、いつも目の端に涙を溜めていたし、ご飯を食べる時もうれし涙を流していた。ただ、ビジュアル的に問題がある。
「ほら、シーラ姉ちゃん、顔拭いて。気長に待ってるから、そういったのは何時でもいいよ。それより、時間が出来たら、ウチにも遊びに来てね」
「グスッ、ズズー。はいでありますっ。必ず伺うでありますっ!」
その後、再びシーラ姉ちゃんがグズグズと泣き出してしまったので、会話が成り立たなくなり、ケント兄ちゃんに引っ張られるように去って行った。
今回はシーラ姉ちゃんの意外な一面が見れたので良かった……のかな?
二人が去った後は、誰にも引き留められることなく、ミガートのおっちゃんの所に着いたけど、美味しい部位を警備隊の皆で分けた事を話したら、少しガックリしていた。
最近の肉不足もあって、ボアのロースなんて人気の部位は高く売れるので、僕の話を聞いて楽しみにしていたらしい。
ちょっと申し訳ないと思った。
それでも、無い物は仕方が無いので、残りのお肉を全て引き渡しておいた。
「アルム、もう直ぐお昼ご飯の時間だけど、何か食べたい物あるかしら?」
肉屋を後にして、家に向かおうとしたところで、姉さんがこんな提案をしてきた。
森で一泊してから帰って来たから、少し早いけどお昼の時間が迫ってきている。昨日から泊りがけだったこともあって、食材の下拵えも何もしていないので、ここは外食するのがベストだろう。
「エイダ食堂で食べるってどうかな?」
「そうね。偶には外食もいいわね。それじゃあ行きましょう?」
そう言って姉さんは手を差し出してくるので、僕はその手を取って歩き出した。




