コロニー討伐、参戦?
僕はケリーさんの問いに返事をすることなくハンドサインで木の下に降りる様に促す。
そんな僕の行動に、流石斥候として動けるケリーさんは問い返す事なく静かに木を降りていく。
僕も、できるだけの情報を集めてから何時もの様に木を下りる。
「何があった?」
傍から見るとヒヤリとする僕のバンジー下降に驚きこそ見せたけど、二人とも冷静にこちらの言葉を待つ。
「ゴブリンが戻ってきました。確認できただけで数は五、一匹は斧を持っています。それと……」
「「それと?」」
「簀巻きが一です」
「「はい?」」
僕の報告に、二人は目を点にする。確かに、この言い方では訳が分からないかもしれない。
「多分攫われた人です」
「「!?」」
ゴブリンの習性を考えたら、簀巻きの中には女性が入っていると考えて間違いない。
ミミが攫われた時のように、普通はそんな事しないのだが、ゴブリンに攫われた後自分の身に、なにが起こるのか知っている人は全力で抵抗する。
そんな時は、暴れられないように周囲の物を使って拘束するくらいの知能はゴブリンも持ち合わせている。
ゴブリンが二匹がかりで簀巻きを運んでいたので、その中は成人した女性だろう。子供並みの力しかないゴブリンには成人女性の力も十分脅威になるので、抵抗できないように簀巻きにされていたのだと思う。
「場所は分かるか?」
「この方角、距離は100メーター先です」
僕が指し示した方向は、森が濃くて視界の確保が難しく、今の段階で確認はできない。
「わかった。俺が先行する。二人は周囲を警戒しながら付いて来てくれ」
「了解」
「うん」
そこから僕たちは姿勢を低くして物音を立てないように森を進む。幸い、コロニーの戦闘音がここまで聞こえてくるので、多少の物音はごまかしがきくので速さ重視で進める。
暫く進むと、昨日からよく聞く不快な鳴き声が聞こえてきた。
「ぐぎゃっ、ぎゃぎゃっ」
「「「ぎゃうぎゃー」」」
「ぎゃうー、ぎゃ」
そして見えてくるゴブリンたちの姿。そこには、細めの丸太に括りつけられている簀巻きにされている物が一つ、それを運ぶゴブリンが二匹、さらに先頭に斧を持ったゴブリンと、木の枝——こん棒を持ったゴブリンがその左右を固めていた。
昨日の纏まりのないゴブリンと違って、目の前のゴブリンの集団は統率が取れている様に見える。その様子から、斧を持ったゴブリンがこの集団を纏めている様に見える。
魔物の世界では、暴力こそ正義といった風潮があり、力の強い者に従う習性がある。
だから、あの五匹の中で先頭のゴブリンだけ一段上の強さを持っているのが予想出来る。
「本当にいやがったな。……人質を無傷で助けるのは難しいか」
このまま考え無しに突っ込んだら、簀巻きを盾に使われかねない。だが、僕にちょっとした秘策がある。
「大丈夫。簀巻きの確保は僕に任せて」
「……分かった。——ケリー、アル坊が簀巻き回収後ゴブリンを殲滅する。頭はおれがやる、行けるな?」
「了解」
手短に作戦を共有して、各自の行動を細かく決める。こういった作戦では、『もしもの時』の行動を細かく決めておくことで、咄嗟の状況にも連携を保つことができる。
「よし、救出はアル坊のタイミングに任せる」
「うん、分かった。スリーカウントでいくよ。3……2……1——」
僕はカウントダウンに合わせて魔糸を木の上を通して簀巻きに絡めていく。
そして、ゼロカウントと同時に簀巻きを上空へと巻き上げた。
なんの難しい事も無い。普段獲物を吊るしているのと同じ要領で簀巻きをゴブリンの手に届かない所に持ち上げただけだ。
しかも、投擲物への保険に、簀巻きの下に魔糸を張り巡らせる手厚い保証つき。
「行くぞ」
僕が簀巻きをゴブリンから奪ったのを確認した後、小さな声で合図をして、ゴモンのおっちゃんとケリーさんは静かにゴブリンたちに近寄って行った。
突然自分たちの戦利品が上空に巻き上げられてしまって、慌てふためいているゴブリンたちの視線は上を向いている。
それは、リーダー格のゴブリンも同じで、姿勢を低くして背後から忍んできたゴモンのおっちゃんに気が付く事無く、その首に刃を受け入れた。
それに続く様に、ケリーさんがこん棒持ちの一匹にバックスタブを決め、一撃のもとにゴブリンを鎮める。
こうして二匹が無抵抗のままに殺されたところで、ようやくゴブリンたちは自分に迫っている脅威に気がついた。
「うらあああ、おせぇ!」
でも、気がついた処で状況を打開できるわけではない。
威圧を乗せた低い呻き声のような雄叫びを上げて、ゴモンのおっちゃんは腰の鉈剣を抜いて木の棒——こん棒を持ったゴブリンをそのこん棒ごと切り裂く。ゴブリンの持つ手入れのされていない粗雑な武器と違い、研ぎ澄まされたゴモンのおっちゃんが持つ鉈剣は、容易にそれを可能にする。
「ふっ」
そして、最小限の動きで相手の死角に入り、簀巻きを運んでいたゴブリンの背にナイフを突き立てるケリーさん。さらに、蛇のようにもう一匹のゴブリンにもう一本のナイフでその首を切り裂いた。
えっ? ちょっと、今一瞬視界に捉えていたのに見失いかけたんですけど? そう言えば戦闘に入ってからケリーさんの気配を殆ど感じなかった。
それに今の動きは、昔少し習った熟練の暗殺者が持つ技術じゃないですかー。うん、ケリーさんの専門が少し窺える戦いでした。
「ふんっ、口ほどにもない」
「あはは、ゴブリンは喋りませんよー?」
全てのゴブリンを一撃確殺で下した二人は、既に何時ものように振舞っている。的確に急所をやられたゴブリンは既にこと切れていて、ケリーさんに至っては返り血一つ浴びていないほど手際のよい殲滅だった。
「お? アル坊どうした?」
「アル君大丈夫―? どこか怪我しちゃった~?」
僕が驚きで茫然としていると、それに気づいた二人が話しかけてくる。
この切り替えの良さは、プロの嗜みなのかもしれない。先程まで命のやり取りをしていたなんてまるで感じさせない二人に、驚愕と少しの尊敬を覚える。
「い、いえ、大丈夫です」
「本当~? 無理しちゃ駄目だからねー」
ケリーさんが僕の身体をペタペタ触りながら確認してくるので、頷いて答えを返す。二人の動きに圧倒されていましたなんて恥ずかしくて言えない。
「おう、アル坊。できればあの簀巻きを確認したいんだが、降ろしちゃくれねーか?」
「あっ、わかりました」
二人の動きが凄すぎて、簀巻きの事はすっかり忘れていた。
僕は促されて、簀巻きをゆっくりと卸す。実はこの簀巻き、先程から少しだけうねっていて、小さなくぐもった声も聞こえる。
この時点で、簀巻きの人が生きているのが確認できたし、結構騒がしいので元気なのだと分かる。だから優先順位を下げたのですっかり忘れていた。
「しっかし、見事にグルグル巻きだな」
「近くにあった布で手当たり次第ですかね? あれ? これ男性物の下着ですよ」
この簀巻き、本当に節操なく様々な物で巻かれていた。
そのほとんどが、戦闘を生業にする者が好んで着る服で、所々乾いた血がついているのを見るに、何か大きな戦いでもあったのかもしれない。
「取り敢えず、ひん剥くか」
「うえー、なんかゴモンさんヤラシー」
「っんでだよっ! 他に何て言えばいいんだよっ!?」
「えー……脱がす?」
僕は知っている。
姉さんが言っていたんだ。こう言うやり取りを夫婦漫才って呼ぶらしい。
「ねぇ、遊んでないで早く解いてあげよ」
「「あっ、はい」」
じゃれ合っている二人を促して、簀巻きさんを解いていく。
何十にも巻かれた布を解くのに苦戦を強いられたけど、作業をするのは大人二人なので僕は横で傍観する。
そして、巻かれている布を取り除くと、そこから現れたのは可愛い女の子でした。
「うえーん、助かったでありますー」
あっ、この姉ちゃん知ってるわ。




