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FIGURE SELLER  作者: shino
4/15

S.K&T.H

 執平と乃南が森でジェニーと戦い、街に帰ってノームに遭遇してから数週間が経った。

 時刻は午後2時。空が青々として、廃れた街に色合いをつけていた。


 ジェニーとの戦いの傷痕きずあとがとっくに完治していた乃南は、モンスターを倒しに何処かへ旅に行っている。

 一方執平はあの時から、住み込んでいる廃屋には帰っておらず、ずっと灯馬の店でお世話になっていた。

 病院には、一応隣街まで行ったのだが、執平にとって手術費や入院費はとても払える金額ではない事は分かっていた為、傷を見て血相を変えた医者達を片足でかわし、手術をせず、入院もせずに灯馬の店で安静にしているという現状だった。


「……暇だ」


「暇だなー」


 カウンター席に座って、うなだれる執平と灯馬。灯馬の店には最近、乃南以外のフィギュアセラーが来ていない。廃れた街である故、人の通りが希少なのはしょうがない事だった。

 だからと言って金に困る訳では無かったが、何日も不況だと流石に灯馬も不安が募っていった。


 ちなみに執平の脚の具合の方は、病院で治療しなかったにも関わらず、なんと奇跡的に治って来ていたのだった。

 既にその右脚を何回も見て呆れている灯馬は、用意していたブラックコーヒーを飲んで再び呆れ返る。


「しっかしいい加減な身体だな。牛乳飲んで骨折が治るかよ普通……」


「ノリだよノリ。“ノリで生きる人金要らず”!  今の名言ね!」


 席を立って両足を床に付いている執平が、腕を組んで嬉しそうな顔で断言した。

 その時、そんな2人の平和な時間の流れを、突然の大声が埋め尽くして妨害する。



「邪魔するぜぇ!!」



 聞くだけで悪どい感じのする声と共に、灯馬の店の扉を強引に押し開ける音がした。鈴が暴れる。

 見るとゴロツキが3人、店をジロジロ嫌な顔で見回しながら入って来たのだった。


「何だよこのきったねー店! こんなんで本当に儲かってんのか!?」


「噂によればフィギュアバイヤーってのは裏でヤバイ事して儲かってるらしいからな。……オイお前!!」


 執平と灯馬がカウンター席に座りながら無表情で3人を見ている中、ゴロツキ3人の内の1人が呼んで指指したのは、灯馬ではなく執平だった。


「あ、俺?」


「大人しく金よこしなぁ!」


 困った、と言わんばかりに彼はこめかみ部分をぽりぽりと掻いて隣の灯馬を見る。


「……だってさ灯馬」


 そして自分では返答出来ない為、バトンタッチという正しい判断をとったのだった。

 対して灯馬は先程ゴロツキの1人に自分の店を罵られたのを早くも根に持っていたのもあってか、険しい顔つきで早速喧嘩腰だった。



「誰がやるか。モンスターフィギュア持って来いってんだハゲ」



 ゴロツキの中の1人の、太陽の様に輝くハゲ頭を見て立ち上がった怖い物知らずな灯馬は、恐ろしい睨みで唐突に挑発を吹き掛けた。

 そんな彼の思わぬ態度に対し、ハゲは自分の頭を指指しながら怒り出した。



「テメェゴルァ!! これはハゲなんじゃねぇ! スキンヘッドだ、覚えとけ!」



 ちなみに、他のゴロツキ2人がこっそり笑っているのは誰も気付いてなかった。


 するとハゲは咄嗟に上着の内ポケットから拳銃を取り出し、執平と灯馬の2人に怒りの形相で銃口を突き出す。


「うわっ、何処で手に入れたんだよそんなの?」


「いくらこの国に銃刀法が無いとは言え、銃に関しては入手は難しい……。ハゲの癖に密輸か?」


 しかしながら拳銃を向けられても、まるで驚かない2人――寧ろ興味津々だった。



「テメェ等……撃たねぇと思ってナメてんじゃねぇぞ!!」



 ハゲはいきり立ち、とうとう2人の足元周辺の床に銃弾をぶっ放った。サイレンサー無しの大きな銃声が街中に響き渡る。


「えぇー!? マジで撃って来やがったコイツ!!」


「オイオイ、ハゲ! 店傷付けんな!! オイ、ハゲ!」


 立っていた場所から思わず1歩退く執平に対し、灯馬は店に小さな穴が空いたのを見て、カウンターを掌でバンバン叩きながら更に挑発する。

 そしてハゲ以外のゴロツキ2人は、ハゲがまさか本当に拳銃を使うとは思っていなかった為、笑うのを止め、焦った顔をし始めた。無論、執平も焦っていた。


「へへへ……。次はテメェの眉間に当ててやるぜ!!」


 灯馬以外の3人が端に寄って震えているにも関わらず、怒り狂ったハゲがしわが寄った灯馬の眉間に向かって、再び拳銃を放った。銃口を向けられた時点で、誰もが彼の死を予感する。


 ――だがその刹那、灯馬は恐るべき反射神経で弾を避け、すかさずハゲの懐に潜り込み、腹を殴ったのだ。

 拳が腹をへこませる、鈍い音が全員の耳に入った。ゴロツキの1人が畏怖しながら呟く。


「い、いつの間に……!?」


「拳銃なんて、銃口の向きと指の動きを見ればギリギリでも避けられんだよ」


 何という瞬発力、と全員が思わずにはいられなかった。灯馬の受けた傷は、頬に掠り傷を残すだけで済んだ。

 だが頬を掠った銃弾は、店の奥の壁に穴を開けてのめり込んでいた。



「あーぁ。また傷付けやがったなテメェ等ぁ」



 灯馬は膝を付くハゲの頭を右足で押さえる様に踏み付け、他のゴロツキ2人を憤怒の形相で睨み付けた。


「に、逃げろ!」


 その2人は身の危険を感じて慌てふためき、バランス感覚が殆ど無い様な姿でどたばたと床を踏み鳴らし、店を後にした。


「え……ち、ちょっと待ちやがれテメェ等!!」


 殴られた腹が想像以上に痛くて動けないでいた哀れなハゲは、頭を踏まれた状態のままで悲痛に叫ぶ。

 灯馬は足を頭から離すと、彼の腹を殴った時に彼が落とした拳銃を拾って当人に構えた。



「一昨日来やがれハゲ!!」



 ――再び街に鳴り響いた銃声。


 灯馬がハゲの目の前で銃弾を撃ったのだ。勿論、ギリギリ当たらない程度にではあったが。

 自分から店に穴を空ける分には別に何とも思わない灯馬の眼前で、ハゲはこの上無い奇声をあげて、床に倒れ伏して気絶した。

 執平はそんな灯馬を恐れて遠い所から、子犬の様に震えて眺めていた。



「お前怖ぇよ……、なんでそんな強ぇんだよ」


「バァカ。たった3人ぐらいどうって事無ぇよ。拳銃も、さっき言ったように集中してれば避けられるし、どうって事無ぇ」



 灯馬はハゲを邪魔臭そうに、服を掴んで店の扉から外に放り投げながら言った。



「全く。最近になってからこの廃れた街に、更にゴロツキが多くなって来てる。夜になったら相変わらず人居ねぇけど、仕事してる奴なんて殆どいねぇな、きっと」



 彼は不満気にそう言いながら拳銃を持って店の奥に入っていく。

 先程灯馬が言った通りこの国に銃刀法は無いが、拳銃を持ち帰るのが当たり前だと言わんばかりのその行動に、目を丸くした執平は思わず灯馬を呼び止める。


「え、何に使うんだ?」


「今みたいな時の為の護身用にと思ってな。無いよりかはマシだろ?」


 灯馬は指先で器用に軽快に拳銃を回し始める。



「それに俺、実は銃に興味があるんだ。前からな」



 そう明言すると、ハゲから奪った拳銃を興味深く眺めて、彼は玩具を与えられた子供の様に無邪気に笑った。



「実際、これと同じ様な拳銃持ってるしよ」


「え! 聞いてねぇよ俺?」


「言ってねぇし」



 更なる事実に驚きつつも、執平は椅子に座ってカウンターに腕を置きながら、少し軽蔑した様な目で灯馬の背中を見る。


「……実は今銃撃ったの、愉しかったとか思ってたりして?」


 それを聞いた灯馬は店の奥へと進む足を止め、からかいにも取れる不気味な笑いを絶やさないままで執平の方を向いた。



「まぁな」


「……鬼灯馬だ」



 銃を持った灯馬を危険視した執平は、自分の身にさえ危険を感じて、頭を残して扉側の方で身体をカウンターに隠した。

 それを見た灯馬は少し笑うと、銃を見つめながら彼をからかう。



「鬼灯馬? そんなんだったら馬を取って鬼灯ほおずきと呼んでくれ。ナス科の植物だけど、名前カッコイイじゃんよ」



 そうして彼は、いつまでも笑いを絶やさずに再び歩き出した。

 執平は灯馬が店の奥に消えるまで、カウンターで身を守る姿勢で呆然として眺めながら、呟いたのだった。



「……鬼灯ってお前」



 ――昼時だというのに、今日の廃れた街は結局3回も銃声が響き渡ってしまった。

 この1件に関係無い人にとっては、全く以て端迷惑だというのは言うまでも無かった。




 ――夜――




「いやもう本当にお世話になりましたぁ!!」


 ゴロツキのハゲ達をまんまと払い除けたその日の夜。外は三日月と星の明かりで少しばかり照らされていた。

 そんな中、執平は店の外に立ち、暫く面倒を見てもらった事に対して灯馬に深々とお礼を言ってお辞儀をしていた。



「今までの宿泊代は出世払いって事で。まぁ期待してないけどな。後は手持ちの4,000円でなんとかしろよ」



 ――4,000円とは、乃南が倒したジェニー・ワットのフィギュアが8,000円で、それを慈悲深い乃南と2分割したものである。

 執平は充分に感謝した後、玄関の前に立っている灯馬と別れて、月の明かりに照らされながらいつもの廃屋に戻る帰路に付いていった。

 気分良さげに鼻歌混じりで歩く彼は綺麗な星空の下、財布相手にじっと見つめる。


(4,000円か……。俺今リッチじゃん?)


「師匠に感謝しなきゃなぁコレは!」


 アルバイトの初給料を貰ったかの様に、嬉しそうに財布の中身の4,000円を見ながら、明日どう使おうか、等と、口角を上げながら色々考え始めていた。


 ーー言い換えてみれば、貯めよう等と言う考えは最初から執平の頭には毛頭無い。

 そんな考えが再び貧乏生活を招くという事に気付かない反省の色も何も無い執平は、スキップを始めて住み処の廃屋に入っていったのだった。




 後ろに2体のモンスターが、星が少し照らす薄暗闇に紛れて近付いて来ている事も知らずに――。




 ――廃屋――




 執平は自分が住み込んでいる廃屋の、比較的大きな扉を軋らせながら開けた。部屋にはボロボロのソファーが追加されてある。昨日、執平がこの付近に捨てられてあったのを見付け、灯馬と一緒に運んだ物だった。

 執平はスポンジが至る箇所に見えているそのソファーに一気に全体重を乗せて寝転がり、まず食費の事を考え始める。


(1日3食、これが1,800円だとして、4,000円あるから…………あれ? 2日しかもたねー!)


「リッチじゃねーじゃん!!」


 今更ながら自分の哀れな末路に気付いた執平は、ショックの余りソファーから思い切り飛び起きた。

 しかし、もしかしたら、と無駄な希望を託し、飛び起きた貧乏人はソファーを離れ、これまた近くで拾った机に向かい紙とペンを用意して無駄に計算し直し始める。


 ――その時、執平の計算を邪魔する声が廃屋に響き渡った。



「ワンワン!!」


「……え、犬?」



 その声の主の正体は、聞いた通りまさしく犬の鳴き声だったのだ。

 ふと執平が後ろを向いてみると、そこには毛が逆立っており、黄色い瞳を月の様に光らせた黒い犬がいた。

 そしてシルクハットを被った、丸い顔、丸い身体という雪だるまにも似た体型の、にも関わらず普通の型の手足を持つ人間の姿があった。


 黄色い瞳で毛が逆立った犬と、皮膚が紫で、何よりシルクハットに見合う制服を着た丸い身体の人間。

 この2体――紛れも無いモンスターに、執平は機嫌悪そうに尋ねる。



「人の家に何の用だテメェ等」


「ここが家ぇ? ひゃはははは! 君って思った通り、貧乏人なんだネ!!」



 犬の鳴き声により頭の中の暗算式を途中で見失い少しご立腹の執平を馬鹿にした様に、丸い形をかたどった妙な人間のモンスターは笑った。

 モンスターに礼儀を求めるのも可笑しな話だが、執平は勝手に人の家に上がるような、全く以て失礼な2匹をすぐにそこの槍で突き刺してやろうか、と考えていた。

 だが人語を操るモンスターと会話するのは、半ば一方的だったノーム・フォグブロを除いて初体験に近い。彼は、此処は怒りを抑えて前に立つモンスター達にまた質問をする事にした。


「テメェ等、俺の後を付いて来たんだな? 俺に何の用だコノヤロー」


 丸い人間のモンスターは笑ったままの、三日月の様な形の口で、シルクハットの鍔を摘みながら自己紹介をした。



「俺は初心者のフィギュアセラーを殺して廻る、通称“初心者キラー”の“サクフマン”! そしてこの犬が俺の相棒の“スレワド・グンリトル”!」


「ワンワン!」



 サクフマンの紹介に応えるかの様に鳴いた黒い犬、スレワド。

 その隣でサクフマンがにやけながら言った事を聞いて、フィギュアセラー初心者である執平は確信を得た。


 サクフマンとスレワドは自分を殺しに来たのだ、と。


 そしてサクフマンからもう1つ軽々しい気持ちで、だが執平にとっては重大な事実を告げられる。



「更に、お前には少々きつい宣告かも知れないけど、俺ら2匹ともLv.3だからねー」


「……は」  


 ――少しばかり静寂が訪れた。

 執平は窮地に立たされた様に、彼等の眼前で固まったまま、動こうとはしなかった。



「れ、Lv.3……!?」



 それもその筈、苦戦したあのジェニー・ワットと同じレベルだからだ。

 今の実力では勝てない、と執平の脳裏では奇しくも負の方向に結果を悟ってしまう。その様子を見て、サクフマンは尖った歯を剥き出しにして更に笑みを浮かべた。


「いっ――!」


 更に、Lv.3と聞いてジェニーの姿を思い出すと、追い討ちをかける様に脚がジンジン痛み始めて執平を襲う。


(そうだった、まだ完治してなかったんだ。……昨日もソファー運んだ時に少し痛かったけど、何もこんな時にまた……チクショー!)


 汗を顎から少し垂らしながら脚を見つめる執平を眺めて、サクフマンは目を見開かせて不適な笑みをこぼす。


「んん? その脚痛むのか? 残念だなァ。全力のお前と勝負してみたかったのになァー。その脚どうしたノ?」


 その嫌な気分になる笑いを絶やさない丸い身体のモンスターは、身体に仕込んである、倣う様に縦に弧を描いた扇形の刃物3枚を中からカシャッと音を鳴らして出すと、しばらく質問に答えそうにない執平に対して溜め息をつき、幅跳びの如く飛び込んだ。



「――もういいや。死んじゃえ初心者!」


「クソッ!」



 右脚に気を遣った執平は、身体から3枚の刃物を出した状態でのしかかろうとするサクフマンを、左脚だけで横に避けようとした。


 ――丁度その時だった。



「執平!!」



 誰かが入口の方から、執平の名を叫ぶ。

 それと同時に、2回の銃声がテンポ良く街にとどろき、跳んでくるサクフマンの頭とスレワドの背中を貫いた。


「まさか」


 執平は銃声の発生源の方を素早く振り向く。

 そこには1人の見慣れた姿が、銃口から出る煙を吹いて大気中に流していた。その発砲した人物の正体は、執平が思った通りだった。



「おう執平! やっぱり脚を自由に使うのはまだ早かったみたいだな!」



 銃を指で回し、ちょっとばかり低い声で話し掛けながら歩いて来たその人物。それは言わずもがな、先程まで店に一緒にいた灯馬だった。


「灯馬!」


 執平は銃弾に撃たれてもそのまま不時着体勢で倒れて来るサクフマンを前転でギリギリ避けながら、廃屋の入り口付近から歩み寄っていく灯馬を半ば嬉しそうに笑顔で迎え入れた。



「無事だな。良かった。お前の後を付いてる奴を窓越しに見つけたもんで、心配になってな。まさかモンスターとは……。暗闇で、シルクハット被った何かと犬としか認識出来なかったからな」


「灯馬が心配性で助かったー!」



 執平は脚の痛みに耐えながら灯馬のもとへ向かい、彼の肩を叩く。対して灯馬は部屋の全景を眺めると、溜め息をついた。



「しっかし、お前の家具の少なさから見て、やっぱり無駄に広いなこの廃屋はよ。2階と、屋上まであるし。お前1階しか使ってないし。もっと家らしく構えりゃあモンスターだって入ってこねぇってのに」



 ――執平が勝手に住み込んでいる廃屋は縦横20m程の部屋が1階と2階に1つのみ。外から大きな扉を開ければその部屋が眼前に広がる。窓は長方形の少し小さい型が幾つもある。

 その妙な構造から、ごく普通の1軒家では無い事は確かだ。


 その部屋の真ん中で、赤く濃い血を流しながら倒れているサクフマンとスレワド。

 そして、倒れた衝撃でシルクハットが脱げて晒されたサクフマンの髪は黒く、少し長い。

 灯馬がそんな2匹にとどめを刺そうと銃を向ける。



 ――その時、間もなくして2匹は撃たれた箇所を痛そうにしながらも、難無く起き上がって来た。


 スレワドは撃たれた場所が場所なので立ち上がるのはまだ分かるが、サクフマンに関しては頭を的確に貫き、眉間にまで穴を通したのに生きているという現状だった。


 それはまさにモンスターといった、奇怪な姿、光景だった。



「アァ、誰だよ突然……あ、何処だよ俺のシルクハットはヨ」


「グルル……! ワンワン!!」



 それぞれ、銃弾を貫かれた痕から流れ滴る血を舌でまずそうに舐めながら、真剣な眼差しの執平と灯馬を、怒りの形相で睨み付ける。

 サフクマンは自分のシルクハットを拾って被りながら銃を構えている灯馬を見付けると、少し長い髪を丸くはない指でクシャクシャと掻き回しながら憤りを見せた。



「テメェかァ」


「フン、“鬼灯”ただいま参上ってな」


「地獄で見た“初心者データ”の中にはテメェみたいな不完全銀髪は無かったが……一体誰だ?」



 不完全銀髪と言われて少し眉間にしわを寄せた灯馬だったが、平静を取り戻しつつ答える。



「俺はフィギュアバイヤーだ。文句あるか殺し屋」


「フィギュアバイヤー……。なら“サクフマン”が殺し屋と呼ばれてるのを知ってるのも頷けル」



 シルクハットを被った灯馬は銃を腰にしまうと、サクフマンのもとへ勢いを落とさずに走り出した。


「と、灯馬!?」


「弾が勿体無い」


 灯馬の思惑を理解した執平もサクフマンに槍を突き付けようと走り出す。

 だが彼は、横から視界に現れたスレワドの噛み付きを脇腹にくらい、そのまま古い床に押し倒された。



「クソ、この犬! いくらお前がLv.3でも、俺がただの黒い犬に敵わない訳無ぇ!」


「ただの黒い犬? それはどうかナ?」



 サクフマンは灯馬の飛び蹴りをかわしながら、噛まれている執平を見て嘲笑った。執平はサクフマンの言っている意味が解らず、眉をしかめる。

 そんな彼の目の前に、スレワドがただの黒い犬では無い証拠が映し出された。


 ――スレワドの口内に目で確認出来る程までに、何やら放射能を凝縮した様なエネルギーが球体で集められていた。


 攻撃を避けられて素早く後ろを振り向いた灯馬は、偶然捉えたその光景に目を見開く。



「犬から離れろ!」



 灯馬はスレワドが何をするのか即座に判断し、執平のもとへ駆け付けようとした。だが背後を見せた灯馬の隙を見て、サクフマンが彼の被っているシルクハットを、彼の頭が見えなくなる程まで無理矢理押し付けた。

 執平と灯馬は各々慌てて、狼狽うろたえ出す。



「クソ、この黒犬離れねぇ!!」


「何だ!? ……この帽子、抜けねぇぞ!」



 サクフマンは動けない2人を見て、悪戯好きな悪魔の様にケラケラと笑いながら、スレワドに合図を送るかの様に指を打ち鳴らした。


 ――その瞬間、スレワドの口からは黒い光線が、シルクハットの中からは爆発音が鳴り響いた。

 部屋辺り一面を覆い尽くす煙が、シルクハットから、そしてスレワドの放った光線の矛先から舞い上がる。鳴り響いた轟音は、まさに銃声よりもたちが悪い。

 サクフマンは晒された髪の毛を爆風に任せながら、それをいつまでも笑って眺めた。



「……ジ・エーンド」

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