第4話 職業
□アルムスフィア聖王国 ウォーデン城:一ノ宮和樹
俺は眠りから目覚めると、辺りを見回して本当に異世界転移してしまったんだなと思った事を呟く。すると次はお腹が減ってしまう。だが俺はどこで朝食を食べられるか知らないため、他のみんなと合流しようと俺は部屋を出て秀一の部屋の扉をノックする。すると秀一が扉を開けて眠そうな目を擦りながら顔を出した。
「おっ和樹か。おはよう」
「あぁおはよう秀一。突然だが俺達は朝食ってどこで食べればいいんだ?」
「お前のところにも侍女さんが来て説明してくれたんじゃないのか?」
「俺部屋入った後すぐ寝てしまったんだよ」
「後で侍女さんが朝食を各部屋に持ってくるらしいぞ」
「わかった。ありがとな」
そう言うと俺は秀一の部屋の扉を閉めて自分の部屋に戻ると、ちょうど侍女さんが俺の部屋の机に朝食を用意しているところだった。
「今ご朝食をお持ちいたしましたのでお召し上がりください」
「あ、ありがとうございます」
侍女はニコリと微笑むと俺の部屋から出て行った。俺は椅子に座ると用意された朝食を食べ始めた。
メニューはフランスパンのような硬めのパンに野菜と果物のサラダ、肉のステーキだ。朝からステーキは流石に胃にきつそうじゃないだろうかと思いながらも黙々と食べる。サラダは野菜も果物も採れたて新鮮で瑞々しくてとても美味しかった。
俺は朝食を食べ終わるとベッドで横になってこれからのことを考える。おそらく今日から俺達が魔族と戦えるようになるための訓練が始まるんだろうなと俺は推測する。更に考えを深くしようとしたところで外からサイレンが鳴り始める。
「勇者の諸君、今すぐ訓練所まで来るように。繰り返す。勇者の諸君は訓練所まで来るように」
サイレンと共に俺達に集まれとの命令が通達される。だが俺は訓練所の場所を知らないため、とりあえずみんなに合流しようと部屋から出る。
すると他のみんなも部屋から出てきていた。みんなはどうやら訓練所の場所を知っているらしく迷わず歩き始めた。俺は昨日少し頑張って侍女さんの話を聞いておけばよかったなと少し後悔しつつみんなの後を追う。
階段をいくつか降りて中庭の外れのほうにいくと、そこでは兜と鎧を身に着けた騎士達が訓練に励んでいた。どうやらここが訓練所のようだ。俺達が訓練の様子を見ていると訓練所の奥から黒髪で背が高く他の騎士と同じ鎧を身に着けた中年の騎士が歩いてくる。
「君達が勇者とその仲間達だな。私はアルデラ=マーデュクス。この国の聖騎士団の団長を務めている」
アルデラの鎧を見ておそらくこの国の騎士は皆聖騎士と呼ばれているのだろうと俺は推測する。そして俺達もそれぞれ順番にアルデラに自己紹介をしていった。
全員の自己紹介が終わるとアルデラは俺達にドッグタグのようだが何も刻まれていない銀色のプレートを差し出した。
「これは身に着けたものの職業を知るための道具だ。早速君達の職業が知りたいので身に着けてくれ」
「職業とは何でしょうか?」
昴が首をかしげながら聞く。
「職業とはこの世界において神より選ばれた天職のことだ。職業が分かればその人は何ができるか分かるというわけだ」
なるほどと俺は納得する。昨日のラウムの話と合わせて考えると、おそらく異世界転移した俺達の中に1人は職業が勇者がいるということになる。
しかし、6人の中で誰が勇者なのかはわからない。そこであのプレートを使うことでそれぞれの職業がわかれば誰が勇者かもわかる。そして他のみんなの職業も分かれば訓練しやすいということなのだろう。
俺達は1人1枚プレートを受け取り首からかける。するとプレートが白く輝き始めた。
「おぉ! このプレートめっちゃ光ってるぞ!」
翔吾は相変わらず新しいものを見るたびにこの様子である。昴のほうは突然光り出したためか驚いて尻餅をついてしまったようだ。それ以外のみんなもプレートから発生している光に目が釘付けになっていた。俺はどういう職業なのかワクワクしながら輝きが消えるのを待った。
しばらく時間が経過するとプレートの輝きが少しずつ弱くなり、やがて消えた。
「さあプレートを確認したら私に見せてくれ」
アルデラがそう言うと、みんなはそれぞれ自分のプレートを見て一喜一憂し始める。
「おっ! 俺が《勇者》か! やったぜ!」
「俺は《武道家》かぁ。勇者じゃないけど1番俺に合ってるぜ」
「私は《歌姫》ね。素敵な職業っぽいかも」
「僕は《白魔導士》だそうです。とにかく魔法使いっぽいですね」
「先生は《指導者》なのですよ! つまり先生なのですよ!」
薫子ちゃんは何言ってるのか意味不明だなと内心ツッコむ。
「ほぉ。秀一が勇者か! 他も中々の職業じゃないか! 和樹お前の職業は何だ?」
アルデラに言われて他のみんなの職業に気を取られて確認していないことに気づく。俺は急いで自分のプレートを確認する。
「俺は《死霊魔術師》だそうです」
「あ、ああ。そうか......」
俺の職業を教えた瞬間ここまで笑顔だったアルデラの顔が気のせいだろうか一瞬だけ曇って見えた。死霊魔術師っていわゆる死体を動かすやつだよなと俺は自分の職業について考えていた。不気味な職業だからアルデラさんも顔を曇らせたんだろうとため息をつきながら俺はそう思った。
「少し待っていてくれ。ラウム卿に報告をしてくる」
アルデラはそう言うと城内へと歩いて行った。
「よし! 俺が勇者になったからには何としてもこの国を救わないとな!」
「おっしゃ! 秀一について行くぜ!」
秀一達は職業を与えられてかなりやる気に満ちあふれているようだ。陽菜と薫子ちゃんも内容はよく聞こえないが楽しそうに話している。
「和樹君、魔法系の職業一緒に頑張りましょう!」
「あぁ。そうだな! 一緒に頑張ろうぜ!」
俺は昴と強く握手を交わす。そこへアルデラがラウムと聖騎士数人を連れて戻ってきた。ラウムは俺の前に立ち顔をしかめると大きな声で言い放った。
「この者は黒魔術の、更にその中でも禁忌とされる《死霊魔術師》である。よってこの者の身柄を拘束する!」
するとラウムの側にいた聖騎士達は俺を地面に押さえつけて拘束する。
「おい! ふざけるな! 何で俺が......」
「恨むのであればあなたが《死霊魔術師》の職業を持って生まれたことを恨んでくだされ」
助けを求める視線を送るがみんなは何が起こっているのか理解できずに立ち尽くして動けなくなっているようだった。そして俺はそのまま城内の牢獄へと放り込まれてしまった。
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