第1話 異世界転移
□桜蘭高校 2-A:一ノ宮和樹
放課後になり夕日が教室を照らす中、ほとんどのクラスメートは部活に行ったり家に帰宅したりするものだが、クラスには5人の人物が残っていた。
俺、秀一、翔吾、陽菜、昴と特に仲のいい5人のグループだ。他のみんなが喋っている間、俺は何かが見たいわけでもないが、ただなんとなく窓の外をボーっと見つめていた。
「おい和樹。......一ノ宮和樹!」
「うぉわ! ビックリした」
俺は慌てて椅子から立ち上がる。秀一は驚いた顔をしたかと思うと呆れた顔になる。
「ビックリしたのはこっちだぜ。ボーっとしてるけど何かあったか?」
「別に何もないよ。悪いね心配させて」
俺は秀一に謝ってわざとらしく笑ってみせる。光ヶ崎秀一はこのクラスの学級委員だ。成績優秀で運動能力が高く、クラスのリーダー的存在を担っている。とても頼りになる奴だ。
しかも金髪に青色の目、整った顔立ちを備えた爽やか系のイケメンであるためもう超人なのではないかと考えるほどである。
「それで何の話をしてたんだっけ?」
「和樹ってほんとに昔から少し抜けたところがあるよな」
「そうかな? 結構普通だと思うけど......」
「アホか。『ひなにゃん』のライブに行く話をしているのにボーっと窓の外を見ていられる奴がまともなわけないだろ」
「そんな和樹君も可愛くて私は好きだな」
「あ、ありがとう」
「おい、和樹てめぇ」
翔吾はムッとした表情で俺の脇腹を小突く。西﨑翔吾は俺の中学のときからの親友だ。その短く刈り上げられた髪と強面な顔、がっちりとした体格はとある方面の怖いおじ様達を連想させる。だが、その実態はノリが軽くいつもクラスを明るくするムードメーカーのような性格をしている。ただし少し馬鹿なところがあるため翔吾の言動に対して俺は内心でため息をついてしまうことが多い。
そしてこの桜蘭高校のひなにゃんファンクラブ会長を務めるほどのひなにゃんファンである。
そして翔吾に脇腹を小突かれる原因を作ったのがそのピンクのゆるふわな髪をいじりながら喋っている野々宮陽菜である。
そのピンクのゆるふわで肩にかかるくらいの長さの髪と愛嬌のある顔立ちの彼女は現役のトップアイドルだ。そして翔吾の推して止まない『ひなにゃん』その人である。いつも明るく学校のアイドルとして学校全体でファンクラブが余裕でできる程にファンが多い。実は俺もファンクラブの一員だったりする。
「宿泊施設の予約や飛行機の予約も全て完了しましたよ」
「さっすがは昴だな。よっしゃー今からテンション上がってきた!」
「今からテンションを上げてたら身がもちませんよ」
予約をとった後、なぜかハイテンションになっている翔吾を鎮めているのは結城昴だ。
丸い縁の眼鏡とは昴がかけるために存在しているのではないかという程に丸い縁の眼鏡が似合う奴だ。顔だけならこのクラスで秀一よりも学級委員に似合いそうな顔をしていると俺は思う。
昴はこの学校に入学してから最初に出来た友達であり今では親友である。真面目な性格で学力だけなら秀一と肩を並べられる程に高い。だが、残念なことに運動音痴なため成績では体育の評価が悪く、いつも秀一に負けているため成績表が来る度に悔しがっている。
「陽菜のライブへ行く計画も整ったしそろそろ帰ろうか」
「あっ! 駅前に新しいパフェのお店が出来たんだけど寄って行かない」
「もちろんいいよ」
そう言って俺は荷物を鞄に入れて学校を出る準備を始める。
「おうともよ! ひなにゃんの行くところならばどこまでもついて行くぜ」
「そうですね。たまには甘いものもアリですね」
「それじゃあそのパフェの店へ行くか!」
全員が帰る準備をしているところへ1人の人物が教室へ入ってくる。
「もう時間なんだから早く帰らないとダメなのですよー」
俺達に早く帰るように注意しに来たその人物、朝比奈薫子先生は俺達の学級担任である。
着ている黒いスーツがその幼さを感じさせる声や口調と幼い見た目のせいで似合っておらず、子供が頑張って大人っぽく見せているようだという理由から生徒達から薫子ちゃんと呼ばれて親しまれている。だが、当の本人曰くどうやら子供っぽく見られているのが嫌らしい。とても親しみやすいいい先生だと俺は思う。
「おーっす薫子ちゃん」
「薫子ちゃんもパフェ食べに行く?」
「薫子ちゃんではなく薫子先生なのですよ! それに先生はまだ仕事中なのでパフェを食べに行くことはできないのですよ」
翔吾と陽菜に対して薫子ちゃんは目尻を吊り上げて精一杯怒っているのだが、その怒っている姿ですらどうしても可愛く見えてしまう。そのため俺達はほのぼのとした表情を浮かべてしまう。
こうして俺達は他愛のない会話をしながら先生と共に教室から出て、俺達はパフェを食べに行く。
そのはずだったのだ。
「何だか床が揺れてませんか?」
「おいヤバくないか?」
昴と翔吾が慌てた顔で突然床が揺れていると言い出したため俺達は足元に意識を集中させて確かめようとする。その瞬間教室が大地震の如く揺れ始めた。
教室内に残っていたみんながパニックに陥っているようだ。俺もどうすればいいのかわからず立ち尽くしてしまう。その中で真っ先に薫子ちゃんが冷静さを取り戻したのか真っ先に指示を出す。
「みなさん早く机の下に潜るのですよ!」
俺達はそれぞれ別々の机の下に潜って衝撃に備える。
しかし、結局揺れるだけで特に何も起こらない。まったく人騒がせな地震だ。しばらくすると揺れが収まったため俺達は机の下から出てきてそれぞれの無事を確認する。
俺も含めてみんながホッとしている中で昴だけが不思議そうな顔でスマホを見ているのが目につく。
「なあ昴。何をそんな不思議そうにスマホを見ているんだ?」
「和樹も見てください。これだけの地震があったにも関わらず何のニュースにもなってないんですよ!」
俺はスマホでニュースを見るが、昴の言う通り地震があったなんていうニュースは1件もなかった。
「ほんとにない......。どうなってるんだ?」
俺は驚きの余り思わず呟く。俺達ではわからない要素ばかりが増えるため俺達の不安が更に高まる。まさかとは思うが他の人は地震に気づいていないのか。しばらく考えたが、それこそ「まさか」である。
「とにかくここは一旦校庭に出て他の先生方の指示を聞くのですよ!」
薫子ちゃんの指示に従い俺達は動き出す。こういうときに冷静な指示ができる薫子ちゃんの存在がとてもありがたいなと思いながら俺もみんなに合わせて動き始めた。
やっと安全な場所に避難できる。俺達全員がそう思っていたそのときだった。床から『ミシッ』という音が聞こえてくる。
俺は振り向いて後ろを確認すると床に亀裂が発生しており、現在進行形でこの教室の床全体に広がっていくところだった。あれは流石にマズイだろ。
「おいみんな! 後ろを見ろ! 今すぐに!」
「なんだ?」
秀一が反応して後ろを振り向こうとしたが、間に合わず床の亀裂は教室の床全体に広がってしまう。そして床は崩壊した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺達は床の崩壊に巻き込まれて叫びながら落ちて行った。
これからどんどんおもしろくなっていきますのでお付き合いいただけたらと思います。
次回更新は明日の0時頃を予定しております。