プロローグ
なぜ、日本のアニメやライトノベルが人気があるのか。これについて考えたことはあるだろうか。
『和の国』だ『長寿の国』だと色々言われているが、日本が今世界に一番誇れるものと言ったらアニメやライトノベルだろう。
ならば、なぜこんなにも世界から圧倒的に人気を誇れるのか。そして若者たちがこんなにもハマってしまうのか。
俺はこう考えている。『現代の日本があまりにもクソすぎるからだと』。
考えてもみてくれ。今の日本の現状を。9年間の義務教育。高校、大学卒業は当たり前。社会人になれば毎日同じ作業をひたすら続ける地獄のような毎日が待っている。
しかも最近はディスクワークの仕事が多いし、残業なども当然のようにある。肉体よりも精神が追い詰められる。
そして学校や職場でのいじめ。若者の自殺者の増加。こんなクソみたいな世界から一時的でも逃げ出せる。それがアニメ、ライトノベル。ファンタジーなら異世界で剣と魔法で魔物から世界を救う。恋愛物語なら誰もが憧れ、涙するような青春。
誰しもそんな日々に憧れ、妄想を抱く。しかしどれだけ願っても現実は無情だ。
そんな現実を俺は嫌いだ。
いや、俺は人間が嫌いだ。
そうだ、こんな世の中が出来上がったのは人間のせいじゃないか。こんな世の中を作らなければ、俺はこんな妄想に逃げ込むような真似をしなくてもいいじゃないか。こんな思いをしなくてもいいじゃないか。
俺、『青木 涼太』は平凡の両親のもとに生まれた。俺も平凡の両親通り、平凡に育っていった。しかしおれが2歳の時、妹の『青木 三春』が産まれたのが問題の始まりだった。妹は俺とは真反対と言っても過言ではなかった。俺の顔はフツメンだった。しかし妹は美人だった。俺の成績はいつも真ん中あたりだった。妹はいつも学年5位に入った。俺の体力テストはいつもDかCだった。妹はいつもAだった。俺の性格は人見知り気味だった。妹は明るくリーダーシップがあった。
両親は俺なんかよりも妹を可愛がった。周りの人間もみんな妹にいった。親戚も、学校の生徒も、先生も。みんな口を開けば三春のことばかりだった。そして俺はいつもみじめな思いをし続けた。両親は無能な俺に愛想を尽かし始めた。学校の連中はみんな三春の方に行く。俺に近づいてくるのは三春とのきっかけを作りたいと思っているヤツばかりだった。
『三春が』『三春が』『三春が』
気がつけば俺の周りに人はいなかった。みんな、俺のことを邪魔だと言わんばかりの目をしていた。俺に信頼できる人はいなかった。小さい時はそれが寂しくて、悲しくてたまらなかった。しかしそれは成長するにつれ、怒りや憎しみへと変化していく。
人間なんて嫌いだ。
三春なんて………妹なんて大嫌いだ!
「………ただいま」
11月の秋、寒さが身に染みてくる季節。マフラーを巻いた青年、涼太が帰ってきた。今年で大学受験生をむかえた彼は夜遅くまで残り、学校で勉強していた。辺りは既に暗くなっており、家の明るさや温かさがより目立つ。
「あっ、おかえりリョウ兄!」
しかし涼太はリビングから出てきた妹、三春の顔を見た途端、目つきが鋭くなり気分も悪くなった。そんな涼太とは逆に三春はニコニコと笑っていた。
「今日の夕飯はクリームシチューだよ!リョウ兄好きでしょ?寒い時期にはぴったりだよね」
ちなみに両親は共働きをしており、夜遅くに帰ってくる。そのため夕飯はいつも三春がつくっている。
「あぁ………」
不機嫌そうに返事をし、リビングに入りシチューをつけて食べ始める。美味い。余計に腹がたつ。
「美味しい?」
三春は嬉しそうにこちらを見ながら感想を聞いてくる。しかし涼太は無視してシチューを食べ続ける。
「もぅ〜無視しないでよ」
「………………」
三春はどれほど声をかけてきても涼太は無視を通す。両親がいたら返事くらいだが反応はする。しかし三春とは口どころか目も合わしたくない。
思えば三春はいつも涼太についてきた。遊びに行く時も、学校の部活でもとにかくついてきては自分との実力差を見せつけてきた。まるで自分を崖から突き落とそうとしてるかのように。
「ごちそうさま」
食事を終えたら急いで自分の部屋に向かう。いつもなら部屋でこもって過ごすが今日は違った。三春が回り込んできたのだ。
「リョウ兄、どうして私を避けるの?」
三春はなんの悪気もなさそうに、本当に理解できてないように聞いてきた。
(どうして、だって?)
「………けんな」
「えっ?リョウ兄なんて言っt」
「ふざけんな!」
涼太は怒鳴りつけていた。今までの怒りが火山のように爆発したかのごとく。三春は体をビクッと震わせていたがもう涼太は溢れ出す感情を止めることができなかった。
「いつもいつも俺についてきては出来の差を見せ付けやがって!そんなに俺のことが嫌いなのか!」
「えっ、リョウ兄?急になにを」
「急だと!?なにが急だ!俺がみじめな様を楽しんで見ていただけなんだろ!」
「そ、そんなことない!私はリョウ兄ことが………」
「黙れ!三春なんて………三春なんて大嫌いだ!!」
「………っ!!」
しばらくの沈黙が流れた。涼太は怒りで呼吸が荒くなっていた。三春は少しの間呆然としていた。しかしその目からは涙が流れ始めた。
「うぅ………ひっく!」
「ただいまー」
「っ!!」
そこで最悪なことが起きたてしまった。両親が帰ってきてしまったのだ。両親はリビングに入ると、三春が泣き崩れており、涼太は顔を赤くしており、目つきも鋭くなっている。つまり。
「涼太!お前なにをしている!!」
「三春、大丈夫!涼太これはどういうことなの!」
「なっ………!ち、ちがう!これは」
「なにがちがうんだ!!お前はいつも三春に迷惑かけてばっかりで!」
「なんであなたはいつもそうなの!?兄として恥ずかしくないの!!」
両親の非難する声がひたすら続く。最初は戸惑っていた涼太もすぐに自嘲するかのように笑い出す。
「なにを笑っている!!」
「ちょっと涼太、真面目に聞きなさい!」
「………いやなに。昔からこんなことばかりだったなーと思ってさ。例え俺に非がなくて、三春が完全に悪いことをした時でも父さんと母さんは俺に怒鳴りつけてたね。そして決まってこう言う。『兄として恥ずかしくないの!!』ってさ」
「当たり前だ!お前は三春の兄のくせにいつも三春の足を引っ張ってばかりじゃないか!」
「………お、お父さん。やめて、今回は私が」
「いいのよ三春。涼太を庇わなくても、お母さんたちはちゃんとわかっているから」
「………あぁ、そうだよ。ちゃんと理解しているよ」
瞬間、涼太から笑みは消え、今度は鬼の形相のような顔へと変化した。
「俺が、ただの邪魔でしかないってことがなー!!」
そして涼太は走り出し、玄関を飛び出していった。もう怒りなのか悲しみなのか、はたまた虚しさなのか。ぐちゃぐちゃになった感情を発散させるがごとく走り出した。しかしそれが良くなかった。涼太の家は大通りの道に面してできている。つまり玄関の先はすぐ道路なのだ。つまりなにかというと。
ドンッ!!
「リョウ兄!!」
後ろから三春の泣き叫ぶような声が聞こえた。涼太は玄関を飛び出した瞬間、たまたま通りかかったトラックにはねられたのだ。
(あっ、これは死ぬ………)
死ぬかもしれないという状況でも、涼太はいたって平常心だった。痛みや自分の体の現状とかどうでも良かったのだ。意識が遠のく中、彼は最後にニヒルに笑ってこう呟いた。
「生まれ変わったら人間以外のものになりたいな………」
青木 涼太18歳。彼は人生を終えたのだった。