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仮面の中  作者: 高見 リョウ
デート
8/12

2-3

 剣士は剣道部のエースで、しかもキャプテンであった。デートの約束は取り付けたが、いつどこでデートをするかということまでは決まらなかった。由姫はそのまま自然消滅してくれてもいいと考えたが、それは少し心苦しいと感じる面もあった。

 好きでもない人とデートをするということは考えてもいなかった。しかも、その人は由姫の彼氏としての条件から大幅に外れるブサイクで頭が薄い男子なのだ。並んで歩いたら周りからどう思われるだろうかなんて、世間一般的に言われていることは考えなかったが、由姫が理想として掲げる駿馬英からは大幅に外れている。

 由姫が物思いにふけ、気付いたころにはすでに日付が変わる時刻になっていた。ずっと剣士とのデートのことを考えていたが、夕食を食べたことだけは覚えている。それからお風呂には入っただろうか。由姫はそんなことを考え階段を下りバスルームへと向かった。バスルームを覗くと、由姫がお風呂に張った後に漂っている、ハーブの匂いが全くにおわなかった。由姫はハーブの香りがするシャンプーやボディーソープを使っているので、由姫の入浴後は2時間くらいハーブの香りが漂っているのだ。

 由姫は少しぬるくなっていた風呂水を温め、体を洗い流した。その後、一日の疲れをとるかの如くゆっくりと温まった湯船に入った。静かに目を閉じると、瞼の裏にはあの時見た、剣士が剣道をする姿が映し出された。

かっこいい。

ただただかっこいいのだ。しかしこれは仮面をつけたうえでのカッコ良さである。実際にあの仮面をとれば、ブサイクな面を拝むことができる。

 しかし、剣士の剣道をする姿はかっこいいのだ。藍佳は剣士のことをめちゃくちゃ強いと言っていたが、実際にはどのくらい強いのだろうか知りたい気にもなった。剣道をしている彼なら、好きになれるのではないかとも思った。

「剣道だ」

 由姫はふと我に返った。由姫はずっと、剣士とデートをすることになったらどういう話をして場を持たせようか悩んでいたのだ。剣道をする剣士はかっこいいということで、剣道の話題に持ち込んでみたらどうだろうかと考えた。しかしそのようにするならば、由姫自身が剣道の知識を身に付けておかないと失礼に当たると感じた。

 したがって、由姫はこれから剣士とのデートまでに剣道の知識を身に付けることにした。


 翌日は由姫と藍佳が所属する小日向先生のゼミナールが行われる日であった。由姫は、数週間前に小日向先生から言われたことをまだ気にしていた。「由姫は人ではなくて、物しか愛せなくなっている」ということである。簡単に言うと、小日向先生が言ったことは人を物として見ているということになるのである。美容院の店長はそれを“カテゴリー”ということを使ってその意味を考えていた。

かっこいい系が由姫のタイプで、ブサイク系は由姫の彼氏の条件からは外れるタイプなのだ。

 小日向先生のゼミでは、引き続き人間の恋愛について議論が続けられた。恋愛は学問として低俗なものとして捉えられるかもしれないが、プラトンやアリストテレスなどの古代ギリシアの大哲学者やルソーやカントといった近世の大哲学者も大きく取り上げている、人間にとっての重要課題でもあるのだ。

 人を好きになるとはどういうことかということについて、本日の藍佳はよく発言をしていて、その発言は実に的を捉えているように思えた。

「人を好きになることは、人間を排他的に見ること」

「つまり、その人しか愛せないということかな?」

と小日向先生は藍佳の発言の意味を藍佳に問う。すると藍佳はすかさず「そうですね」と答えた。

「確かに、ルソーはそのようなことを言っておる」と小日向先生は藍佳の発言を支持した。

「それから、」藍佳は話を続けようとした。

「人を好きになることは、怒りの感情や恐怖の感情まで付いてくるものです。その人の外見とかではなく、官能とは違った、精神を愛するわけですから」

「ほう、それは面白いな」と小日向先生が答える。

「デートの待ち合わせに好きな人がなかなか来なかったら、私はその人がそうかなったのではないかと不安になるでしょう、しかし彼が遅れてくると、私には怒りの感情が芽生えるはずです。“心配してたのよ”って。私の怒りに彼は恐怖心を抱くこともあるでしょう。彼は私に事情を説明します。そして徐々に私は彼のことを許しているのです」

 藍佳がこの会話をしている時、由姫は何度か藍佳と目が合っていた。藍佳は自分に何かを訴えようとしているのかと由姫は感じた。


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