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仮面の中  作者: 高見 リョウ
デート
6/12

2-1

 由姫は優しいとか言われたことがなかった。それ故に、藍佳の言葉を聴いた時は絶対に嘘だとしか考えることができなかった。

「大杉くん、由姫は優しくて、可愛くて、一目ぼれしたみたいよ」

藍佳の衝撃的な一言であった。

 それから由姫は、3日間そのことばかりを考えていた。特に由姫のことを惑わしていたのは、藍佳が由姫に注文したその後の言葉であった。

「一度デートをして、大杉くんの人間的な部分を見てやりなさいよ!」

それは由姫が小日向先生に、「伊藤さんは人間を愛せなくなっている、物を愛するようになっている」と言われてから、毎日考えるようになっていたことであった。

 由姫はずっと、「私は人間のより人間的な人間的な部分を愛することができるのだろうか?」と考えていたのだ。由姫にこれまで恋人ができなかった最大の要因であるとも考えられる。

 その一方で、由姫は駿馬英という架空の人物のこともよく考えるようになっていた。「私は、駿馬英の人間的な部分に惚れてはいないのだろうか?」ということであった。

 駿馬英はイケメンだ。それは由姫が彼氏の条件としているものに当てはまる。由姫が駿馬英を好きになった要因の一つには、駿馬英がイケメンであるということが間違いなく挙げられよう。しかし、それだけではないはずなのだ。駿馬英は多様な言語を操り、ケンカが強く、勉強ができる。これは駿馬英の人間的な部分ではないのかということである。

 したがって、由姫は駿馬英の人間的な部分に惚れているのだという結論を一度は導き出すことができた。

 しかし、由姫は気づいてしまったのだ。駿馬英は架空の人間であることから、由姫は結局虚像で作り出された物に恋をしているに過ぎないと気づいてしまったのだ。されに言えば由姫は、駿馬英がバイリンガルである、ケンカが強いと言っても、それは美容院の店長が話していたカテゴリーというものに入ってしまうのではないかということも考えさせられた。例えば、駿馬英は「バイリンガル系男子」、「ケンカ強い系男子」と言う風に。

 結局由姫は、このような途方もない疑問を考えに考えた結果、思考回路がショートし、思考のバーンアウトに陥ってしまった。


 それから1週間が経って、由姫は久しぶりに藍佳に会った。

「へ~博識で、プラトンやアリストテレス、ニーチェについて語りつくせる由姫が、思考のバーンアウトなんてすごくレアだね!」とあの時が嘘のように機嫌のいい藍佳が言った。

「私は博識でもないし、ニーチェとかあんま分かんないよ」と由姫は眉間にしわを寄せて謙遜する。

「そんな顔したら、イケ女が台無しだぞ!これはまさに“悲劇の誕生”だ」

「うるさいな、ニーチェは禁止!」

 しかし、由姫がこんなにハイテンションな藍佳を見たのは初めてのことであった。由姫はこないだのこともあり、藍佳が無理やり明るくふるまっているのかもしれないと考えた。

「なんか、こないだごめんね」と由姫はそっと藍佳に謝ってみた。

すると藍佳は、「何、謝ってんの?もういいとよ!」とあっけらかんと答えた。

「本当に?」

「本当、本当バイ!もう諦めとるよ、由姫は不細工な人は生理的に受け付けないタイプだもんね」

「いやそういうわけでも…」と由姫は静かに藍佳の言葉を否定した。

由姫は不細工が生理的に受け付けないということではないのだ。彼氏の条件には入っていないということである。電車の横の席に不細工な男性が座ってきても、別に嫌になることはない。嫌と言うより、冬は不細工な男性が座ってきても、暖かくなるからありがたいとさえ思っている。

「生理的に受け付けないってわけじゃないんだ」

「そうだよ」

藍佳は、由姫の言葉に深々と頷いた

 すると藍佳は、次の瞬間人差し指を一本立てて、「じゃあ!」と声をあげた。

「何?」と由姫は恐る恐る聴く。

「じゃあ、大杉くんとデートすることには全くノープロブレムだね!」

藍佳が笑顔でそう答えたので、由姫は愛想笑いを浮かべて「いいよ」と言った。


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