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仮面の中  作者: 高見 リョウ
仮面の中は別の顔
2/12

1-2

 由姫は会場を飛び出すと、その足で福岡天神の繁華街へと向かった。そしてそのまま地下街へと下った。その日は日曜日ということもあり、普段から人が多い天神の地下街は、さらに多くの人でごった返しており、普通に歩くのでさえ困難な状況であった。しかし、由姫にはそんなことはどうでもよかった。とてもかっこいい男性、大杉剣士のことを知ってしまったからだ。由姫は信頼のある藍佳が上手く仲介をしてくれて、剣士と対面できる日が近く来ると思うと、浮足立つのを抑えずにはいられなかった。「もう少し、可愛くなりたいな」と言いつつ、由姫は天神地下街にあるファッション店を回っていた。

 地下街で今年イチオシのファッションアイテムを所持金の許す限り購入した由姫は、その場を離れると実家近くにある美容院へと急行した。

 この美容院は由姫が子どものころからよくお世話になっている美容院であった。店は昭和のころから続いているらしいが、店長は3年ほど前に2代目に変わったばかりで、若者のヘアスタイルに詳しい美容師がヘアカットやその他サービスをしてくれることで有名になりかけていた。

 由姫が店内に入るなり、「おお、由姫ちゃん久しぶりだね!」と店長に声をかけられた。由姫も笑顔で、「お久しぶりです!」と返した。

 「今日もまた一段と可愛くなりに来たの?」と店長が言ってきたので、由姫は「そうだな、私ショートが似合うと思うんだよね!」と注文を付け、セミロングにまで伸びていた髪をショートヘア―までカットしてもらうことにした。

 日曜日なのにすぐにカットしてもらえたのはラッキーであった。大体美容院は、日曜日になると客でごった返しており、電話予約をしないとカットしてくれないのが普通である。しかし今日は不思議と客が少なく、由姫はすぐにカットしてもらうことができた。それを不思議に思った由姫は、「今日はお客さん少ないんですね?」と店長に聴いた。

 店長は、由姫の問いかけに対して大きくため息をつきながらこう言った。「いや~最近というかここ数年、たまに日曜日がこうなってしまうことが増えたんだよ。不景気とか、まあ消費税が上がったこともあるのかな?」

 店長もその後は終始浮かない顔をしていたので、由姫は悪いことを聞いてしまったといういたたまれない気持ちに立っていた。

 謝らないといけないかなと由姫が考えていると、「そういえば、今日の由姫ちゃんは気合が入ってるね!」と店長に言われた。

 その店長の言葉に由姫は笑顔になり、「分かりますか店長」と言った。店長は「まあ由姫ちゃんのことは子どものころから見てるから、大体機嫌がいい時とか分かるよね」と胸を張った。

 それから由姫は、今日、剣道の試合を見に行ってすごくかっこいい選手に会ったことを店長に話した。それを聴いていた店長は「やっぱり由姫ちゃんはイケメンには引き寄せられるようだね!」と言った。

 イケメンに引き寄せられるという店長の言葉を聴いた由姫は、こないだ小日向先生に「人間に恋をできなくなっている」と指摘されたことを皮肉交じりで話してみた。それを聴いた店長は「なるほどね…」と言い、しばらく考え込んでいた。

 店長は由姫の前髪を整え、仕上がりをチェックしながら「人間の体は物か…それって、カテゴリーで考えてみたら分かり易いのかな」と呟いた。由姫は「どういうことですか?」と聞き返す。

 店長はカテゴリーについてこう言った。「カテゴリー、例えばイケメン系とかかわいい系とかブサイク系とか…」店長は、真剣な表情で答えていた。由姫はその説明に対して、「ああ、分かる気がします」と答えた。

 店長はカットに使っていたハサミを由姫が座っている場所の横にあったテーブルにおき、「由姫ちゃんが今、髪を切って可愛くなろうとしているように、自分の人間として足りない部分を補っているんだよ…。現代の人は、その部分にしか恋をすることしかできないっていうことじゃないかな?」と話した。

 「はい!こんなんでどう?」店長が急にそう言って、鏡を由姫の顔の前に差し出した。由姫はショートヘア―になった自分の顔を鏡で見て、「わあ!ありがとうございます」と笑顔で答えた。

 会計の時、店長に由姫は「しっかりと頑張ってね!」と励まされた。由姫がそれに対して、「ありがとうございました」と答えると、店長はすかさず「その人の精神まで好きになれればいいね!」と言った。

 由姫は少しうつむき、そして店長の優しい顔を見た。それから「そうですね!頑張ります」とだけ言って、店を後にした。


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