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仮面の中  作者: 高見 リョウ
デート
12/12

2-7

 剣士が運転する車は海ノ中道海浜公園の駐車場で停車した。この公園は、福岡県にある国営公園で17時30分まで営業されている。由姫たちが公園についたのは、16時であったためそのまま園内に入り、公園を散策することにした。

「今はどんな花が咲いてるんですかね?」

「コスモスとかじゃないですか」

 10月も中旬になり、ようやく秋めいたころであった。公園内を歩いていると、剣士が言った通りコスモスがきれいに咲いていた。由姫は思わずうれしくなって「きれい!」と声をあげた。

「本当にきれいですね!コスモス好きなんですか?」

「いや、花が好きなの!」

「花が好きなんですね、良かったです!」

剣士はこのように、度々、由姫がどう感じているのかを尋ねてきた。由姫が楽しんで知るかどうかが気がかりになっているようだった。実際には、由姫はすごく楽しかった。

 公園内のため池には、渡り鳥が浮いていた。きれいなコハクチョウだった。2匹で水の上を泳ぎ、なぜだろうか身を寄せ合っている。人間で言ったら夫婦だろうかと由姫は考えた。

「コハクチョウ、きれいですね」と剣士が言ってきた。

「きれいですね」

 2人はお互いが進む方向について全く話し合うことはなかった。お互いが進む方向がたまたま気が合い、一緒だっただけかもしれないが、話し合いをするまでもなかった。由姫は不安に思っていたが、剣士と過ごすことに何の苦痛もなかった。

 あっという間に閉園の時間になった。

「そろそろ行きましょうか?」

「そうしましょう!あの、お腹すかない?夕飯食べて帰りません?」と由姫の方から夕飯を一緒に食べる提案をした。

「いいんですか?」

「是非に!」

 2人は車を市街地方面へと向け走り出した。その途中にある、少し有名なうどん屋で車を停めた。

「あ、ここ行ってみたかったんです!」と由姫は声を弾ませた。そこは以前テレビで紹介されたうどん屋であり、由姫は前からその店のうどんを食べてみたいと思っていた。これも特に話し合ったわけではないが、剣士が「うどんってそうですか?」と言ったので、由姫が任せていたのであった。

 店内に入ると、中には芸能人や野球選手のサイン色紙がたくさん飾られていた。

「ここそんなに有名なんだ」

「そうなんですよ!」と剣士は微笑んで言った。

 野球選手のサイン色紙があるのは分かる気がする。海ノ中道の近くには、プロ野球球団、ソフトバンクホークスの2軍の本拠地があるのだ。常勝軍団の野球選手は、このうどん屋で力をつけて1軍の舞台へと這い上がっていったのだろうか。意外だったのは、全国放送のテレビで活躍する芸人やタレントのサイン色紙があったところだ。福岡で収録をすることがあったとしても、わざわざこの市街の外れまでうどんを食べに来るのであろうか。由姫の期待は高鳴った。

「よかった」と由姫の横で、剣士が一言つぶやいた。

「何がですか?」

「楽しそうだから」

「うん、とっても楽しい」と由姫は微笑んだ。不細工な剣士の顔も、髪が薄い剣士の頭も、由姫はすでに見慣れていた。

 しばらくしてうどんが運ばれてきた。由姫が一口食べた時、一瞬にしてその麺の風味が由姫の意識全体を乗っ取っていった。

「おいしい!」

「でしょ!」

 由姫は、そのうどんをわずか10分足らずで平らげてしまった。

「ご馳走様でした!」と由姫は剣士に向かって言った。剣士は安どの表情を浮かべ、由姫に頷いた。

「あの、僕とデートしてくれてありがとうございました」と剣士が急に謙遜した。

「それはこちらこそです」

「あの、伊藤さんは、本当は不細工な僕のこと彼氏候補とか思ってないんですよね…」

 急に核心に迫られた由姫は、何も言えなかった。

「藍佳から聴いています。剣道をしている素顔が見えない僕に惚れているだけで、伊藤さんはい興味がないって」

「ごめんなさい、そうなんです、本当にごめんなさい」

 もとはと言えば、剣士が由姫に一目ぼれしたのも自分のせいだと由姫は思っていた。あの大会で素顔を見せない剣士に惚れていまい、「会いたい」などと思わなければ、剣士も自分に一目ぼれすることはなかったのだ。

「それでも、あなたは私と話してくれました。あなたはとても優しい人間です」

「はい?」

由姫は剣士が何を言っているのか分からなかった。

「だから、あなたを好きになりました」

「はい」

「でも、僕は不細工だから」

「ごめんなさい」と由姫は必死になって謝った。

「なら、友達としてこれから1カ月だけ、週に1度デートしてくれませんか?」と剣士が真面目な表情で言った。由姫にはこれがどういうことかよく分からなかった。

「1カ月、ですか?」

「1カ月後、全国剣道大会があります。あなたに見てほしい。頑張れる気がする」

「そんなこと言われても」

由姫はよく考えてみた。1カ月、たった1カ月だ。好きになることはない。

「分かりました、でも条件があります」

「なんでしょうか?」と言いながら、剣士は身を乗り出した。

「今、授業で1人の人を取材して記事を書けと言われているんです。その大会まで、取材させてください」と由姫は剣士に交換条件を提案した。

「分かりました」

剣士はこれを難なく承諾した。

 こうして、由姫と剣士の奇妙な友人としての交際が始まった。


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