09.案内者と神鬼 - 莢 -
トーヤがこちらを伺うように見て言う。
「あとは……サヤはどうしてそんなに弱っていたんだい?こんなところで…」
はっと、先ほどの出来事を思い出してしまった。
一瞬にして顔が赤くなることがわかる。
恥ずかしさで思わずトーヤを怒鳴ってしまう。
「それは……。部外者なんだからトーヤはそういうこと聞かないの!!」
赤い顔も見られたくなくて、トーヤから顔をそむける。
だって恥ずかしいのよ、もういろいろと……。
そんなことをトーヤに話すことも恥ずかしい。
話せるわけがない。
私は恥ずかしさを振り払いたくて、思わず首を振り、気合を入れたくて頬を叩く。
うん、大丈夫。
私にはやることがある。
今はそれに集中しよう。
トーヤの話を聞いている限り、あまり悠長にしている時間はなさそうだし、気合いよ、気合!
「行くわよ!」
私はトーヤに声をかけて立ち上がる。
そして戻ろうと考えれば、自然とトーヤ達がいるあの場所へつながる道が見えてくる。
様々な力が完全に自分自身に同調していることがわかる。
これなら息をするように、簡単に力の使うことができるだろう。
シルフィアをチラリとみると、微笑み頷いた。
「ご主人様の方へ戻りましょう」と言っているかのようだ。
私は力を使い、ミッチー達の元へと戻った。
******************
私は力を使い、空間を移動した。
それは本当に簡単だった。
空間移動ってこんなに簡単なのかと、正直簡単すぎて混乱しそうだ。
………。
こういう力を使えると戸惑いの方が大きい。
私の中の常識が一気に覆されるから。
でも、そのせいで傲慢にはなりたくない。絶対いや。
………うーん、こういうのっていわゆる“チート”とかいう奴なのだろうけど……。
求めていません、チート。
普通がいいです、いろいろとね。
空間移動後、すぐにミッチーとオウシュが私に気付く。
気付くの速すぎ…コンマ何秒ですか……。
二人を肌で感じつつ、私は叫びました。
「私はこの世界を完全に救世するまでは、色恋沙汰は一切受け付けません!!」
私が戻ってきた早々に宣言したことにびっくりしたのか、ミッチーもオウシュもアヤメさんも目を見開いていた。
びっくりしようが、関係ない!
私はそもそもこの世界を救わなければ自分の世界も滅びるだろうことがわかったから、素直に来たのだ。
世界を救うことができなくて、何が恋だ、愛だってーの!!
まずは世界平和よ!混乱させるな!!
私は宣言後、ミッチーとオウシュに睨みを利かせた。
牽制のつもりなのだけど………二人の反応は薄い。
むしろ若干嬉しそう???
おかしいね……(泣)
まもなくシルフィアが戻り、その後すぐにトーヤが戻ってきた。
トーヤはその場の様子に気付き「何かあった?」と顔で訴えてきたが、私は無視する。
「トーヤ、ここからどこへ向かえばいいの?出発しましょ」
少し言い方がきつくなってしまったが、トーヤは気にせず穏やかに答える。
「わかるよ。ただ、一度神鬼達の話を聞いてからにしよう」
トーヤはオウシュへ顔を向けた。
とても真剣で私には向けないような厳しい目つきをしている。
「もうわかっているとは思うが私は案内者。トーヤという。情報開示を求める」
とても完結な自己紹介。
トーヤは記憶が戻ったということだから、神鬼族についてもよく知っているのだろう。
トーヤはそれは当たり前のようにオウシュに向かって言う。
「ほう……名前が変わったな。…………いろいろと記録と若干ずれがあるようだが、おまえ本当に案内者か?」
オウシュは赤い瞳を揺らめかせてトーヤを見ている。
真眼を使用しているのだろう。
それに対し、トーヤは目を細めた。
それはとても冷ややかな視線だった。
「生意気なことをいう。………証拠が欲しいか」
トーヤはそう言うと、私をちらりと見た。
何か伺うような、恐れるようなそんな目線のように感じた。
「証拠はほしいよ。我々神鬼は世の事象を記録していく一族。しかもそれをつくったのはおまえだろうが。それが今までとは明らかに異なっているおまえに素直に話すわけがないだろう」
オウシュにそう言われ、トーヤの顔が一瞬だけ歪んだ。
本当に一瞬でわからないくらいだけれど、姉弟として一緒に暮らした私をなめるな!
私はトーヤに近づき、トーヤの顎をつかんだ。
「トーヤ、まだ私に何か遠慮している?いろいろ隠し事があるのはわかってる。でも、トーヤはトーヤって言ったでしょ!昔も今もトーヤは私の弟よ!!」
私の言葉に、トーヤは一瞬固まった……と思う。
しかし、その瞬間、ため息をついた。
更に私はオウシュに向き直り言い放つ。
「ちょっとオウシュもオウシュよ。あなたトーヤのこと“案内者だ”って言っていたわよね。それって認めているってことでしょ。それなのに何言いがかりつけているの」
そうしてオウシュを睨みつける。
めいいっぱい冷たい視線を送っている私に対し、オウシュは楽しげだ。
……どうしてだ。
「クックック。サヤは面白いな。案内者を弟と言うか。……サヤの言う通り、案内者であろうことはわかるが、私が言うように今までの案内者とはあきらかに違うこともわかるのだよ。ならなぜ違うのか、それは偽物だっていう可能性もあるだろう?」
オウシュの答えも一理あるけれど……
「……サヤ。いや、いいんだ。いずれわかってしまうことだろうし、でもできればあまり驚いて欲しくないな」
トーヤはそう言い、なんだかうなだれていた。
そして、私から少し離れるとオウシュを睨みつける。
「これで問題ないだろう」
トーヤがそう言うと、身体を白い光が包み込む。
トーヤが見えないほどまぶしいけれどやさしい光。
そしてその光は形状を変えていく。
人型から別の生き物に。
それは、しなやかでいて強靭さが伺えるスラリと伸びた前足と後ろ足。
鬣がさらさらと輝く。
光が収まると、トーヤがいた場所には真っ白な馬が立っていた。
いや、これは
「…ユニコーン」
私はぽつりとつぶやく。
そう、額辺りのほんのり金色に色づいた鬣から、虹色にきらめく一本の角が長く伸びていた。
ふせめがちな鬣と同じ金色のまつ毛から除いているのは、優しげで温かみのある双眸。
私のよく知っているトーヤの瞳。
私はトーヤに近づき、鬣を易しく撫でる。
「トーヤ、すごくキレイ」
自然で出た言葉。
本当にきれいだった。
神々しかった。
『……サヤ』
頭の中にトーヤの声が響く。
思念波だろう。
ためらいがちに、そして不安そうな声。
『ごめん、サヤ。俺は人ではないんだ』
そう言うトーヤの首元へ私は抱きついて言った。
「言ったでしょう。トーヤは私の弟よ。だってトーヤのにおいがする」
少しふんわりした鬣に顔をうずめるとトーヤの香りがした。
小さいころから知っている匂いだ。
『……ありがとう、サヤ。………でも、ちょっとくすぐったい』
私があまりにくんくんとにおいを嗅いでいるものだから、トーヤが身じろぎしている。
いい匂いと共にふんわりした柔らかな毛がまた肌触り良く、気持ちが良かった。
トーヤとわかってはいても、ユニコーンというのがなんだかこう、心浮き立つ。
かわいーかっこいーとか、もういろいろ。
顔をうずめているので誰にも見えないけど、多分私の顔は恍惚としている。
ごめん、トーヤ。
知っていると思うけど、私は動物好きなのよ。
馬も大好き。
「はいはい、サヤ。そろそろ離れよーね♪」
にこやかな声と共に私は首根っこをつかまれトーヤから引きはがされた。
ふりかえるとミッチーがいた。
顔は笑っているけれど目が怖い。
「いや、だってすごく柔らかくて気持ちがよ…イタ!」
私の言葉をさえぎるように、ミッチーはデコピンをかましてきた。
結構痛くて、涙目。
ほんとに気持ちが良かったのよ。
真務家で飼育していた馬の毛並なんて比較にできないくらい。
そう思っているのがわかるのか、ミッチーが笑みを崩さないまま、更に冷たい視線を送ってくる。
う、調子に乗りました。
ごめんなさい。
そう心から反省をすると、ミッチーの気配が和らいだ。
ミッチー…、超能力者ですか……。
それも知ってか知らずか、頭を軽くポンポン叩かれた。
……考えるのはよそう。
ミッチーに逆らうことをやめようと思ったそのとき、トーヤはオウシュに顔を向け話しかけていた。
『これで満足したか。……大方、証拠見せろは言い訳で、サヤの反応が見たかっただけだろう…』
半ばあきれ、少し不機嫌そうな口調だった。
そう言われたオウシュはというと、すごく楽しそうだ。
「いや、サヤの反応が目的なのは間違いないが。案内者、おまえの反応も存分に楽しめた。今までにないな、こんな案内者は。本当面白い」
そう言いながら、クツクツと笑いをこらえようとしている。
「すまん、ついな。認めよう、案内者トーヤ。私の記憶を開示しよう」
すると、オウシュの2本の角がほんのり薄紅色に染まる。
オウシュもトーヤもその間、じっとしていた。
すごく関係ないけど、このとき、私の精霊のドラゴンがトーヤの鬣がある背中辺りでスヤスヤ寝ていることに気付く。
いつの間に……。
うらやましい……。
しばらくしてオウシュの角の色が乳白色に戻ると、不意にトーヤが言う。
『理解した。今後も記録を頼む』
オウシュはニヤリと笑う。
ドラゴンは置いといて…。
一体何があったのだろう。
何気なく隣にいるミッチーを見上げると、ミッチーは特に何の表情の変化もなく……多分察しがついているのだろう。
だって、ミッチーはエスパー(笑)だ。
「多分、あれだよ。記憶装置やらそんなところにアクセスでもしたんだろ。情報共有したんだよ」
ミッチーが答えた。
やっぱりえすぱーだ。
そんな会話(一方的ですが)を聞き取ったのか、トーヤがこちらを見た。
『概ね合っているよ。神鬼は昔から世の事象を記録していく一族だ。創世の頃からずっと記録している為にその量は膨大すぎて、個人が受け継ぐにはあまりにも重すぎる。だから神鬼のみ扱える魔石で記録媒体をつくったんだ。神鬼の角にはその媒体とつながっている。といっても、誰でもできるわけでもなく、一族の代表一人だけがその権限を与えられている。……このシステムを作られたとき俺も関わっていたけれど、その記録媒体にアクセスする許可は、やはり神鬼の代表に願わなくてはいけない。今回、理由はなんであれ、断られるとは思わなかったけど』
「いや、断る理由がなければ過去の代表達も断りたくても断れなかっただろう。そういう契約だったわけだし。今回は運よく断る理由が見つかったわけだ。サヤには感謝してもしきれないな」
苦々しい顔のトーヤとは対照的に、オウシュの顔は晴れ晴れとしている。
『好奇心旺盛の種族にも困ったものだな…』
溜息交じりにトーヤは声を漏らす。
どうも、トーヤとオウシュの一族は長年(創世っていつだろう?)に渡り、付き合いがあるようだ。
「しかし、本当面白いな。過去の案内者から比べたら随分感情表現が豊かだ。……それで、案内者トーヤとは認めたが、本来のトーリヤータ様と呼ぶべきか、それとも…」
『トーヤでいい。敬称もいらない』
クツクツと笑いながらオウシュは言う。
「これからもよろしく、トーヤ。あなたとは仲良くなれそうだ。私はオウシュ」
『あまり仲良くしたくないな……』
思わず本音が漏れたのか、わざと声に出したのか……
とりあえずは和解したらしい二人。
トーヤは私に近づいてくる。
『サヤ、このドラゴンどけてくれるかな』
そうして、私に背中を差し出した。
ドラゴンは相変わらずスピスピ寝ている。
私は頷き、ドラゴンを抱いた。
するとトーヤは白い光に包まれ、さっきとは逆にユニコーンから人の姿へと形を変えた。
その様子を、ちょっと名残惜しそうに見ていた私に気付いたのか、トーヤは若干溜息交じりに
「また、変身するから…」
と言いながら、頭をポンポン叩かれた。
トーヤといい、ミッチーといい、人を子供か何かかと思っているのか。
まぁ、トーヤは昔の記憶が戻ってきて実際相当年上なのだろうし、ミッチーはそもそも食えないところはあった訳だし、家や学校といった縛りもなくなったわけだし……これが現実かな。
でもやっぱり二人の姉的な存在だと思っていたので、ちょっと不服。
ミッチーがトーヤを睨むように見つめて言う。
「で、トーヤ。闇の化け物とやらを早々にどうにかしなければいかないんだろう。オウシュから情報をもらってどうなんだ?」
「ああ、いろいろわかったよ。ここは人族と獣人族の地域の間ほどにいる。その地域の聖闇球が不安定になっているようだ。とりあえず、そこを治めないといけない」
トーヤとミッチーはそのまま、話し合いをし始めた。
主にこの辺の地理に関してみたいだが、私は正直地理は苦手だ。
一緒に話に参加しても、覚えられる自信はない。
それをわかっているのだろう。
2人とも私のことは無視だ。
これは昔からそういうものなので気にならない。
小さい頃の話だが、私がこうしたいということに対し、二人がいつも作戦を練ってくれていたのだ。
パワー押しする私をそのままにしておくと、後が大変だとかなんだとか。
ここ2~3年は交流も少なかった為、そんなことはなかったけれど、小さい頃に馴染んでいたこの体制に違和感がない。
なので、眠っているドラゴンを抱えながら静観していた。
「サヤ」
そこへオウシュが話しかけてくる。
「オウシュ…」
反射的に名前を呼ぶ。
ミッチーはオウシュをとても警戒しているし、トーヤはトーヤで仲が良いわけではなさそうだけれど、私はそこまで嫌いではない。
求婚されたのは置いといてね。
「体調は…、もう落ち着いたようだな」
オウシュは柔らかな笑みを浮かべた。
私よりも年下な外見であるはずなのに、とても大人びた表情をしている。
思わず、ドキリと胸が高鳴る。
オウシュはその外見と内面の意外性のせいか心臓に悪いと思う。
「おかげさまで。力の使い方・見方ももうわかると思う。あの時はびっくりしたけどね。……オウシュのおかげよ。ありがとう」
ドラゴンを抱えていたので、軽くぺこりと頭を下げる。
「うん、サヤは風のように爽やかだ。…かわいいよ」
愛おしげに私を見つめるオウシュに、私は思わず後ずさる。
本当に恥ずかしいから……やめて!
「それ以上そういうこと言うと……」
私が拒否しようとすると、オウシュの後ろに控えていたアヤメさんが割って入ってきた。
「お待ちください、サヤ様」
そして私に迫る勢いで言う。
「オウシュ様のサヤ様へ思う気持ちは本物です。今までサヤ様のような、オウシュ様が認められるような方はいらっしゃいませんでした。このようなことは本当に初めてなのです。どうか、サヤ様、世界を救済された後でもかまいません。オウシュ様のことを嫌わず、その時にまた考えて下さいませんか」
アヤメさんの必死の訴えだった。
私は戸惑った。
「一族みなオウシュ様のお相手をずっと望んでおりましたがもうあきらめていたのです。それがまさか、この年になって気に入られる方が現れるなんて……」
アヤメさんが涙ぐむ。
オウシュの態度はとても手馴れていて、私はてっきりオウシュはタラシなのかと思ったけれど。
「オウシュっていったい何歳なの?」
私はずっと気になっていたことを聞いてみたが、ほぼ同時に、オウシュが言う。
「…アヤメ、いい加減にしろ」
するどくアヤメさんを睨むオウシュ。
「しかし、オウシュ様!今後サヤ様のような方が現れるとは思えません。そもそもオウシュ様は理想が高過ぎなのです。自分ほどの力の持ち主で、純情で素直で、見た目も美しく。しかもオウシュ様は一番に求めていたのが自分ほどに力の強い娘!そんな娘そうそういるわけがないでしょうが!しかもこんな性格がひねくれて扱いにくい……」
アヤメさん、オウシュの従者だったよね。
そこまで言っていいのか……
と思ったところ、アヤメさんはオウシュに首根っこ捕まえられて、後ろに飛ばされました。
激しいな。大丈夫かな、アヤメさん。
「ハァ。ちなみに俺は大体200歳だよ。アヤメはああ見えて150歳。神鬼は人より長命だ。力が強い者ほど長命になる傾向があるから俺は多分300歳は生きるだろうな。普通は150歳から長くても200歳で死ぬんだがな」
私の質問を覚えていたようで答えてくれた。
私は素直にびっくりした。
見た目よりも随分…というかなんというか、想像以上に年をとっていたから。
年齢通りではないとは思っていたけれど、これほどまでとは。
だってオウシュの見た目は中学生くらいだし、アヤメさんは25歳ほどじゃないかと思う。
アヤメさんよりもオウシュの方が断然若く見えるのに…。
「ん?ああ見た目か。俺は力が強いからな。見た目の年齢なんて操作できる。本当の姿を見せてやろう」
そう言うって、ニヤリと笑うオウシュ。
……!!
私は目を見開いた。
目の前でオウシュが一瞬にして成長したからだ。
スラリと引きしまった身体、伸びた白銀の髪がサラリと風に揺れる。
トーヤが身長188cmだったはずだが、同じくらいか、もう少し高いか…
幼さが残る顔立ちはすっかり消え失せ、妖艶さ漂う大人の男の人になっていた。
というか、フェロモンが溢れ返ってるんじゃないだろうか。
こういうのをエロスというのか…
「この姿だと女共がうるさくてな。あえて子供の姿を取っていたのだが、サヤになら見せてもいいだろう」
私を見つめるオウシュ。
その表情はうっとりと恍惚としていて、色気が増していた。
私はそんな気に当てられ、顔が赤くなっていることがわかる。
体は硬直する。
オウシュの赤い瞳から視線が離せない。
オウシュの手が伸びてくる。
私の頬にオウシュの手が触れるほど近くなったとき…
「キシャアアア!!」
いつの間にか起きたのか、抱いていたドラゴンが私から飛び出てオウシュを攻撃していた。
同時に私は後ろに引っ張られていた。
バランスを崩し、倒れそうになるところをミッチーが支える。
「おまえ、オウシュには気をつけろ」
多少呆れた声でミッチーは言った。
呆れつつ、しっかりと私を支えるミッチー。
「オウシュ、おまえ、どうせ事象を記録するとかなんか言って、俺達についてくるつもりなんだろ。だったら今後こういうことはやめろ」
静かだけれど迫力のある声だった。
「……それは難しいな。ついついからかいたくなる」
「あのな、サヤは男慣れなんてしてないんだよ。免疫ない奴にそんなフェロモンふりまきやがって…」
「人の年としたら、サヤだって1つや2つの恋やら愛やらをしているのではないか?」
「……おまえわかってて言ってないか。こいつは良くも悪くもまっすぐなんだよ。救世主として任があると知ってからずっと鍛錬やら術式やらに没頭しているせいで、そんなの入るすき間ねーよ」
「うん、ますます気に入ったな。それなのに俺の気に充てられてもあそこまで抵抗できるのか」
オウシュは嬉しそうに笑いながら、片手でドラゴンを追っ払っていた。
「今も精霊で抵抗しているようなものだし…面白い」とつぶやきながら。
そこへトーヤも口を挟む。
「オウシュ、サヤをいじめるのはやめてくれ」
「いじめねぇ……確かにサヤはもういっぱいいっぱいかな?」
クスリとオウシュは笑うと、また一瞬にして少年の姿に戻った。
「これで良いだろう?だが、アヤメが言ったように俺のサヤへの気持ちは本当だよ。これを抑えろというのは正直難しいが極力努力しよう。その変わり世界を救済したときは抑えないから覚悟しろ」
いじわるそうな顔で微笑むオウシュ。
「チッ…」と舌打ちするミッチー。
静かに睨むトーヤ。
勘弁して下さい。
普通に世界の救済をさせて下さい。
私は神様にそう願いました。
涙目。
お読み頂きありがとうございます。
白銀髪・赤目の少年オウシュでしたが、実は青年姿が本当です。
じゃあ、なぜわざわざ少年姿でいるんでしょう?
それはまた後日。