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05.精霊 - 道久 -

ミッチーのターン。

ここからは1話ずつ投稿します。

目が覚めると、サヤがいない。


「…ッチ」


舌打ちをし、すぐさま状況の把握にかかる。

サヤの元へすぐに行きたいのはやまやまだが、訳が分からず飛び出してもろくなことにならない。

そう、まずはこの身体の感覚の違和感。


俺は一度瞑想する。


1分ほどで、何となくわかった。


俺は風と闇を使える。

その辺はこの世界で何というのかわからないが、多分、精霊というものだろう。


「おい、出てこい」

ただ、直感だけで声をかける。


すると、俺の前に漆黒の髪と瞳の幼女が現れた。

ただ幼女は幼女でも、その大きさは手のひらに乗る程度。


「あなた器用すぎよ」

軽やかに笑いながら幼女は言う。

真っ赤な唇が、幼女なのに妖艶さを放っている。


幼女は俺の言わば分身のようなものだろうことはわかっていた。

とりあえず、使えるものは使う。

幼女がなんであるかなどの詳しいことは後でいい。


「御託はいい。サヤの居場所はわかるだろう。どこだ」


鋭い声に、幼女は不服そうに口をとがらせながら漆黒の髪をいじる。


「……後でちゃんと名前つけてよね」

普通は呼び出したときにつけるのに……とぶつぶつ言っている幼女にさらに睨みを利かせると、慌てた様子で指さす。

「あっちよ、あっち」


方向を確認し、俺は飛びあがった。

木々の頂上を超え空まで飛び、そのまま飛行してサヤがいる場所へと向かう。


「ちょっ…!置いていかないで!!」


幼女は更にあたふたとしながら、追いかけてくる。

さすが精霊というべきか、すぐさま俺を追いこした。

といっても、その位でなければ困る。

使えない者など、正直いらないのだから。


「初めてでそこまで使いこなすって……」

漆黒の幼女は半ばあきれたように俺の先を行く。


空を飛んでいるだけあって、サヤがすぐ見えてきた。


見えたと同時に会話が聞こえる。

おそらく無意識のうちに風の力で音を伝わせたのだろう。


サヤが銀髪の男に抱えられている。

その男がつぶやいた。


「おまえ……」


「サヤ……俺の嫁にこい…」


俺の中で何かが切れた気がした。


より飛行速度があがる。

そして風と同化した。


「わ!まって!!」

後ろで漆黒の幼女が叫んでいたが、そんなことは無視だ。


「なに言ってんだ、ませガキ」

怒りで思わず言葉が出た。


俺は銀髪の少年からサヤをうばうことに成功する。

闇の力で気配を絶ち、風と同化した俺であるならそれは容易いことだった。


サヤを奪うと同時にサヤの状態を確認する。


あきらかにおかしい。

身体に力が入っておらず、かといって意識をなくしているわけではない。

ぼんやりとしたまなざしでどこかを見ている。

それだけならまだいい、サヤの瞳の色が金色に変化していた。

とろりとしたまなざしから、金色の瞳がユラユラと瞬いている。


「サヤに何をした」

なるべく怒りを抑えて問いかける俺に対して、銀髪の野郎はふざけた言葉を返してきた。


「求婚していた」


ニヤニヤと笑う銀髪野郎の赤い瞳が更に怒りを誘う。

だが、怒りにまかせてはいけない。

銀髪野郎は幼い外見とは裏腹に、その内に占める力が未知数なのがわかる。

パワーもさることながら、俺よりも明らかに熟練した経験値を感じる。


ちっ、異世界仕様か、角まであるしな。

鬼や悪魔の類であれば、人ともまた持っている能力が違う可能性があるわけで…

異世界へ来た早々、なんでこんな奴とサヤが関わっているのか………なんとなく想像できるが。


奴のバカな発言は無視し、なお睨み付けた。


「面白いな。お前もサヤと同じく異質だな。……ふーん、おまえはサヤと違ってその力は使いこなしていると見える」


ニヤニヤとしながらも、その赤い瞳は鋭かった。

内心、ヒヤリとするものがあったが、平静を保ちつつ、すぐにでも逃走できるような状態を保つ。


「まぁ、警戒するな、異世界人。サヤももう目覚めるよ。……ほら」


不意に抱いていたサヤの身体に力が入るのがわかった。

思わず、抱いたサヤを覗き込むとぱっちりとしたサヤの金色の瞳と目があった。


「ああ、ミッチー、目が覚めたんだね」

ふんわりと笑うサヤを俺は睨み付ける。


「勝手な行動をとるな」


「ごめんごめん!」


サヤはそう言いながらへらへらと笑ったかと思うと、俺からするりと降りて立ち上がった。


「…っ!」


ふらりとよろけるサヤを支える。


「無理するな」

自然と声が不機嫌になってしまった。


「あー、ちょっと車酔いみたいな感じだから、大丈夫だよ。…ちょっと身体が馴染みきれなくて」

俺を少しつかみ、体勢を持ち直そうとするサヤはやはりどこか危なっかしい。


こういうサヤは見た記憶がほぼない。

サヤはほとんど風邪をひかない健康優良児だ。

俺は不安げな顔をしていたのかもしれない。

まぁ、サヤだからわかる微妙な変化だと思うが。


「本当に平気なのよ。」


サヤは目線を銀髪野郎に移すと言葉を続ける。


「あの二人を助けたのだけど、オウシュがそのお礼にって私の力のあり方を導いてもらったのよ。いきなりすぎて身体がついていかないからフラフラするけれど、そのうち慣れるわ」


また俺に視線を戻したサヤはニコリと微笑んだ。


銀髪野郎は未だにニヤニヤ顔を崩さず、こちらの様子を見守っているようだ。


居心地が悪い。

とっとと、この場所から離れたい。


「そういえば、トーヤは?」


…あ、忘れてた。


「あいつはまだ目を覚ましてないよ……きっと」


状況を把握するとき、そういえばトーヤが転がっていたなと思い出す。

放置していたことはトーヤに悪いが、優先順位があるからな。


「そっか、とりあえず、トーヤのところに戻らなきゃ。えーっと、オウシュ、動けるかしら?」


そうですよね、連れて行きますよね。


弱っている人間(鬼とか悪魔だろうけど)を放っておくなんて、サヤが認めるわけもない。

正直、ここで関係を断ち切りたいところだが、しょうがない。


「うん、俺はもう大分回復した。移動することくらいわけないよ」

銀髪野郎―オウシュは嬉しそうに答えた。


ダメだ、こいつの笑い顔はむかつく。

なるべく見ないようにしよう。

冷静でいられなくなるのは困る。


「おい、風子ふうこ


俺は漆黒の幼女を呼んだ。


いつの間にかいなくなっていた幼女が、ポンと現れたかと思うと途端に泣き叫んだ。

「いやいや、ご主人!その名前適当でしょ!てきとー!!いやーーー」


漆黒の髪と瞳を持っているものの、幼女の容姿は西洋系の顔立ちであり、風子という名前はあっていない。

ただ単に、考えるのがめんどくさかった。


そんな様子を嬉々としてサヤが見ている。


「かわいい…」


思わずつぶやくサヤに風子(仮)が睨み付けながら言った。


「うるさい!気安く私にかわいいなどと言うな」

風子(仮)は「私はかわいいじゃなくて美しいんだ!」と更にふんぞり返っている。


………ん?なんだこいつ。


「おい、ブー子」

俺の言葉にブー子(仮)は固まった。

若干顔を青ざめ、こちらの様子を伺っている。


俺の力を受けた精霊のくせして、バカなのか……と俺の目線が暗に語っていた。

ブー子(仮)は冷や汗を垂らしはじめる。


「申し訳ございません、ご主人様。ブー子でかまいません。……あの、御用はなんでしょうか」

反省したらしい。


「かわいい…」


サヤにとってはやはりかわいいようだ。

喜んでいるようで何より。


「ああ、おまえはあそこに寝ている女を運び、オウシュもろともトーヤの場所まで案内し…」

俺の言葉にハッとした様子のサヤが俺の言葉をさえぎる。

「ちょっと、ミッチー待って待って!ブー子じゃあんまりよ」


うーん……めんどくさい。


「じゃあ、サヤがつけてやってくれ」


俺の言葉にブー子(仮)の表情は輝いた。

本当に、ブー子が嫌なんだな。


サヤはブー子(仮)に私でいいのかと確認を取ると、ブー子(仮)はブンブンと頭を縦に振る。


「お願いします!サヤ様!!どうか、かわいい名前を!!!」

神に祈るかのように手を前に組み、懇願している。


一瞬悩んだサヤだが、すぐに思いついたようだ。

サヤは直感型だからな。


「シルフィア。あなたの名前はシルフィアでどうかしら?」


ブー子(仮)改めシルフィアは気に入ったようだ。

満面の笑顔を浮かべた。


「シルフィア…」


俺が改めて命令をしようと名を呼んだ瞬間、シルフィアが光に包まれる。

俺は咄嗟にサヤの腰に手を回し身構えたが、数秒でその光は消え、シルフィアが現れた。

しかしその姿は若干成長していた。

幼女から少女へ。

幼稚園生から小学校高学年といったところか。


「ほう、珍しい。精霊の成長か。名が体に合っているということもあるが、サヤがつけたというところが大きいだろうな」

感嘆した声をあげつつ、説明してくれた。


ダメだ。こいつにはイライラする。

ってか、そもそも情報が少なすぎるんだよ。

気に食わない相手ほど上位に立たれるのは許せないのだが、いかんせん今は無理だ。

体勢すら整えていない。


「おい、オウシュ」


俺がそう呼びかけると、オウシュは睨むように俺を見た。

サヤの呼び捨ては良くても、俺からの呼び捨ては嫌だということはわかっているので、今後も呼び捨てをやめるつもりはない。


俺はにこやかに言う。

「サヤに助けられたというが、助けたのはおまえとその女の二人なのだから、礼をするなら2回分はあるよな」


「ちょっと、ミッチー」

そんな礼など望んでいないサヤが、抗議の声と共に身じろぎする。


ああ、そういえば、サヤの腰に手を回し、密着状態のままだった。

サヤの腰は細くしなやかだ。

普段、制服か袴姿が多かったので見た目だけではよくわからなかったが、サヤの体型は理想と言っても良かった。

程よい胸のふくらみ、細い腰、引き締まっているだろう丸い尻。


一瞬ではあるが、俺が堪能しているのがわかったのか、オウシュが不機嫌そうに言う。

「おい、そろそろサヤから離れろ」

不機嫌丸出し、今にも攻撃してきそうだ。


サヤは今そのことに気付いたようだ。

頬をほんのり赤く染める。


お、かわいいな。


サヤの性格上、礼の云々で抗議しようとしていたことはわかっていた。

俺と密着していることは頭から抜けていたことも。

サヤは単細胞だ、良くも悪くも。


しかし、頬を染めるなどというレアな反応が返ってくるとは思わなかったので、俺の顔がにやけていたかもしれない。


そんな俺の様子にサヤはムッとして言った。

「そ、そうよ、ミッチー。私もう一人で立て…」

「いやいや、そういうわけにはいかないよ、サヤ。俺はオウシュなんて奴を信用したわけではない。それにサヤはまだフラついている。いつでも逃げられる体勢にいるのは必然だろ」


最もらしいことを言うとサヤは押し黙る。

ちょっと怒っているかもしれないが、そこはがまんしてもらおう

オウシュの不機嫌そうな顔をやめさせるのはもったいない。


現状、こちらが優位に立ったのを認識しつつ、念を押す。


「もう1回の礼はあるよな」


本来、サヤがやるべき確認であるが、黙ってしまったサヤの代理人としてならこれは有効であろう。


オウシュは苦々しくうなずいた。


「うん、正立。シルフィア。あの女と男をトーヤの元へ案内しろ。俺たちは先に行く」

俺がサヤを連れて行くことを前提に命令すると、思わぬ答えが返ってきた。


「いえ、サヤ様が少しだけお力を貸して頂けるなら、全員で一瞬にしての移動が可能でございます」

恭しくしている一方、その赤い唇の喜びの表情は隠せない。


…俺とサヤを二人にすることを邪魔するか、こいつ。


新しく生まれたシルフィアは俺に似て性格が歪んでいそうだ。


「…私が?力になれる?」


少し不安げなサヤがつぶやくも、シルフィアは表情を崩さない。

先ほどの幼女のときとは別人のように落ち着いている。


「今のサヤ様なら可能でございます。私の風を感じて下さいませ」


俺の腕の中でこくりとうなずくサヤ。


うん、どうしてか、異世界に来てからサヤが異常にかわいく思える。


いやいやちょっと待て、落ち着こう。

俺はサヤをずっと見守ってきた身だ、いまさら恋愛感情もないだろう……。


そういえば俺は、サヤが中学に通い始めたあたりから一線を超えないよう近づかないでいた。

俺はサヤを守護する者だと昔から言い聞かされていたことで、余計な感情は守護の邪魔にもなるとどこかで思っていたからだろう。

といっても、ストーカー以上の行為をしていたといえばしていたので、サヤのことはほぼ知っているといって過言ではないけれど。


しかし思い返せば、俺がサヤの守護を当たり前と思っていたこと自体おかしくないか。

俺は親父に守れと言われても「いや、おまえに言われるまでもねーよ」と、元からサヤは俺の唯一無二の守りの対象にいた。

小さい頃、出会ったその日から、サヤを気に入っていたから。


…………。


我ながら自分の鈍感な気持ちに思わず溜め息が出るが、うまくばれないように済ます。


体を密着させ、サヤの顔を間近に眺めて気付くなんて、どこぞの中学生だよ……中学生だけどさ。


加えて、オウシュが現れたこともこれに気付くきっかけになったのだろう。

地球ではそういう輩はサヤに近づく前に排除していたからな。

オウシュがライバルとして俺を意識させた……。


自分で自己分析し、嫌気がさした。


シルフィアのみ、俺の溜め息に気づいたようだが無視しよう。

あいつは俺の分身みたいなの者だろう?隠すだけ無駄だ。


そんなやり取りを知らずに、サヤはうなずいた。


「わかった。シルフィアお願いね」


そのサヤの願いにシルフィアは妖艶な笑みを浮かべたのだった。

シルフィア、成長早すぎ?いろいろチート使用なので。

ミッチー、今まで恋心に気付かなかったていう。

気付いちゃったら暴走しやすい男。

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