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42.作戦会議 - 莢-

サンドウィッチを頂き、紅茶を飲む。

エルフの紅茶は爽やかにハーブが香り、口に入れるとさっぱりしていて美味しい。

食べて飲んだことで少し落ち着くことができた。


そうして一息ついた後、ユーリーさんが話し始める。


「聖闇球についてでしたね。申し訳ありませんが、私も聖闇球が今どうなっているのかわかりません。以前は一般公開していた聖闇球ですが、現在は一般公開はしておらず、キサイトでも幹部のみが許可されている状態です。それは守護隊であっても同等の扱いを受けます。隊長クラスでようやく申請が通るか通らないかというところです」


その答えに私は若干血の気が引く思いがした。

それって結局、聖闇球は悪い状態にあるとしか考えられないと思ったからだ。

だって悪くなければ、どうして一般公開していない?

それも一部の者のみって…。


私は質問をぶつける。

「一般公開されていないって……それはいつからです?」


ユーリーさんは私の顔をじっと見つめて言う。

「私はエルフの里の者です。私がここへ滞在している理由は、キサイトへの友好関係の証しとしてもありますが、真を言えば監視役として任を受けています。キサイトが道を外さないようにする為です」


一呼吸おいて、ユーリーさんは言葉を続けた。


「私は監視役として独自に動いてきました。ですから、あくまでここからは私の個人の見解です。まず、聖闇球は壊れているでしょう。そしてその影響が闇の女神を信仰している幹部達に出ていると考えられます。聖闇球の一般が公開されなくなったのが5年前であり、幹部達への影響が本格化したのもその頃かと思われます」


私は息を呑み、そして思わず言葉が出た。

「そんな前から?ではどうして…」


私から見たユーリーさんはできる人だ。

天然にも思えるけれど、仕事も精霊使いとしての腕もかなり上なのだろうと思う。

だからこそ、その言葉が出てしまった。

そして「どうして、5年もあって何もできなかったのか…」と言いそうになった。

いや、ユーリーさんの言葉と表情からして何もしていないわけがないと、途中で言葉が止まる。

ユーリーさんは微笑みを消すことはなかったけれど、微かに辛そうにも見えた。


「私の力では聖闇球を直すことはできません。聖闇球に潜り込んで現状を調べたとしてもどうにもならなかったでしょう。代わりに、聖闇球の仕組みの管理を調べることで糸口をと計りましたが、いろいろ邪魔が入りましてね。私の権限では限界がありました。仲間の協力がありましたが、キサイトでのエルフは軽視されているので、上とのつなぎが厳しいのです。また、私は第四守護隊の隊員であると共にエルフから監視役としての立場であるということは、中立を保たなければいけないことも示しています。そんな私が己の勝手な見解を述べて国交に悪い影響を及ぼすわけにはいきません。明確な証拠がなければ動けなかったのです」

そう言い切ると、ユーリーさんは一息つく。


すると道久が冷えるような口調で言う。

「そうか。ユーリーの事情はわかったよ。ようするに聖闇球へ行く権限はないわけだな」


私がその冷たい言い方にいきどおりを感じ、道久を睨みつけるようにして振り返ると、道久は私の視線を受け止めるように待ち構えていた。

「事情はその現状を表す。現状は整理しなければならない。今はユーリーの言葉を要約しただけだ。そういう確認をしなければ作戦も立てにくいだろう?」


私が口を開きかけたとき、ユーリーさんが先に言葉を発した。

それも随分明るい表情だ。

「ええ、その通りです。ただサヤ様たちと出会い、立場など捨てる覚悟が出来ました」


「覚悟?」

私が聞き返すと、ユーリーさんは花が咲くかのような笑みを浮かべた。


「ええ、サヤ様達をお会いして展望が見えたのです。立場など小さいことを考えて納まっている場合ではないと思いました。正直申し上げますとと、サヤ様は力はありますがお優し過ぎて頼りないところがあり、一緒に協力となると少々不安を覚えます。ですが、今の道久様のように、周りの方々の補佐が素晴らしく、これならどんな困難でも立ち向かうことができるでしょう。・・・そしてそんな皆様と対峙して、作戦として一つ思いついたことがあります。聞いて頂けますか?」

そう穏やかに話しを続けているけれど、ユーリーさんは少し興奮したらしく、ほんのり顔を赤らめていた。


「それは何ですか?キサイトの内情を知っているのはこの中でユーリーさんが一番だと思いますから、どうぞおっしゃって下さい。」

私の言葉を聞き、ユーリーさんは言葉を続けた。

「あくまでまだ思いつきの段階です。今、聖闇球にたどり着くには何かしらの権限が必要なのは確かです。侵入を除きですが…」

その言葉の後、ユーリーさんは道久を見る。


道久は先にユーリーさんと会っている。

その際、道久はユーリーさんに侵入を呼びかけたのかもしれない。


道久は憮然とした表情で言う。

「ユーリーの話を聞いている限り、侵入が得策とはいえないんだろ?他に何か案があれば言えばいい」


偉そうな言い方であったけれど、ユーリーさんは全く気にならないようで、笑顔で「では」と一言いうと、私の方へ向き直る。


「私の案には足りないことがあります。それを踏まえてお聞きください。まず、聖闇球にはサヤ様本人が行かなければなりません。それには神殿キサイト内部の奥へ行く必要があります。そのとっかかりとして、サヤ様をエルフ一族内での重要人物としてキサイトへ紹介致します。サヤ様の外見は耳の長ささえなければ、相当上級のエルフに見えますから」

そしてにこやかに私を見る。


すみません、もしかして髪の色ですか?

それだったらそれは間違いなのですが……。


私は内心汗をかきつつ、ユーリーさんを見つめ返す。

するとユーリーさんはトリィの方を向いて言う。

「トワイリィ様は変装・扮装の玄人くろうとだとお聞きしています。サヤ様の耳をエルフのようにすることは可能ですか?」


するとトリィさんが目を輝かせて答えた。

「もちろん、それは容易いことだよ。耳を長く見せることなんて簡単な術式を組めば終わりさ」

トリィさんはそう言い終わると、オウシュが笑い出した。

そしていたずらの目を輝かせてオウシュが言う。

「ならば、私の耳も長く見せるのは容易いな?トリィ」

「それを言うなら、私の耳を長く見せる方がよっぽど容易いよ♪」

オウシュの問いに、トリィさんは嬉しそうに答えた。


んん?なんだ、この流れは?


「ユーリーよ。俺とトリィもそれに加えろ。そうだな、サヤはエルフの将来を担う重要人物、さながら深窓の姫君か。そして俺とトリィはサヤの護衛者ってことでどうだろう?ばれるようなことがあれば、俺が神鬼の代表だと言ってもいい。お前は俺に脅されたとでも言え。それならエルフの里へも被害も出ず、丸く収まると思わないか?」


その時、すっと手を上げるトーヤがいた。

「俺も一緒に同行はできないのか?」

その問いに、オウシュは無碍むげもなく答えた。

「トーヤ、お前は演技が下手だ」


うん、それは私もそう思う。


トーヤにしてもそう言われて納得がいったようで、すぐにその場を引っ込んだ。

道久はというと、オウシュのことを思いっきり睨みつけながら口を開いた。

「そうすると、俺はそのメンバーには入れない訳だな」


オウシュは意地の悪そうな微笑を浮かべて答えた。

「悪いがそういうことになる」


なぜ道久がダメなのかと一瞬思ったが、すぐに理由がわかった。

魔法石だ。

今朝、私とトーヤは髪の色を変えるためにトリィさんの魔法石を身につけた。

トリィさんとオウシュは既に身につけている。

道久だけが、トリィさんの魔法石を持っていないのだ。


「了解。じゃあ、俺は別行動を取る。トーヤは連絡係としてここにいてもらうのが妥当だろうな。それと、ヒュリヤ。」


突然呼ばれたヒュリヤはビクリと身を震わせ言う。

「何ですの?」

素直に答えるものの、道久の表情を見て、ヒュリヤの顔には汗のようなものをかいている。


「おまえは俺についてこい。やってもらいたいことがある」

ニヤリと笑みを浮かべる道久の表情は有無を言わせぬ迫力だった。


ヒュリヤはコクコクと頷く。


するとユーリーさんが考え込みながら答えた。

「ではお三方をお連れ致します。その設定であれば、聖闇球へお連れする確率が上がりますね。そもそもエルフの里では、サヤ様のような鮮やかな髪色はエルフの上位者の存在であることを示しています。エルフ族は年功序列的ではなく、実力主義的思考が強い種族であるということは周知の事実です。トワイリィ様には失礼ですが、髪色はもちろんのこと、身を通して感じる精霊的な力はサヤ様の方が断然強く、いや、凄まじいのです」


「従者とはいえ、精霊が使えない俺が一緒にいることはおかしくないのか」

オウシュが問いかければ、ユーリーさんは微笑み返した。

「ええ、あなた様場合、その容姿だけでも人を圧倒できますし、精霊の力がなくともその内包される魔力に圧倒されるでしょう。エルフの誰もが必ず精霊使いになれるわけではありません。中には魔法術などを専門とするものもいるくらいです。貴方のような方が従者であれば、よりサヤ様はエルフの貴賓客として認められ迎えられるでしょうね」


一呼吸置き、またユーリーさんは言葉を続けた。


「エルフの最重要貴賓客とすれば、キサイト側も聖闇球を見せないわけにはいかなくなると思われます。この作戦であれば、サヤ様が救世主として見られることもなく、聖闇球に近付ける要素ができるというわけです」

ユーリーさんは晴れ晴れとした表情で微笑みを浮かべている。


ユーリーさん、キサイト内の調査は大変だったのだろうな。


そんなことを思っていると、隣に座っていた道久が突然立ち上がる。

「じゃ、すぐさま実行だな。俺はさっきも言った通り独自で行動する。何かあったらトーヤに連絡するからそのつもりで」

そう宣言すると、小声で私に言う。

「サヤ、気をつけろよ」

そうして頭をポンポンと叩かれた。


何となく子供扱いされている気がして不服だ。

道久の方が年下のくせに…。


「道久こそ」

と、私は言いながら道久の手を払い、そして立ち上がって道久を見た。

道久は笑っていた。


なんで嬉しそうなんだ。


そしてまた私の頭をポンポン叩いたと思うと、クルリと私に背を向け、颯爽とドアの方へ歩いて出て行ってしまった。

ヒュリヤは慌てて道久を追い掛けていく。


ドアがパタンとしまり、部屋が静まり返った。

そこへユーリーさんが口を開く。

「では、作戦準備となりますね。皆様のその服装は、こちらが用意するエルフ族の正装着に着替えて頂きます」

そう言って、ユーリーさんはアラムさんに目配せをすると、アラムさんは頷き口を開く。

「皆様、これからメイドが各部屋へご案内致しますので、その部屋でしばらくお待ちください」

そしてアラムさんがメイドに指示していく。


「サーヤ♪」

トリィが私に歩み寄ってきた。


「エルフの正装着に合わせてメイクも直したいから、一緒の部屋で着替えよう?」

ニコニコしながらトリィがそう言う。


女性と一緒の部屋で着替えること自体普通だし、メイクやファッション性にけているトリィが同じ部屋にいるのは心強い。


私がそう思って口を開きかけると、

「却下だ。下心丸出しだ、阿呆が」

オウシュがそう言って、トリィさんの三つ編みを引っぱっていた。


「い、痛い!オウシュ!!冗談だよ。やだなぁ。ハハハ」

涙目を浮かべながら笑うトリィさん。


下心があったのか……


私はちょっと冷たい視線をトリィに送ると、トリィはウィンク一つ送りながら言う。

「じゃあ、着替え終わったらってことで!後で行くからねー」

そう言って、そそくさとメイドのところへ行き、部屋を出て行ってしまった。


「ったく。あいつは…」

オウシュが不機嫌そうな面持ちでトリィを見送ると、私に向き直った。


「サヤ、キサイトへ潜入する流れとなったが、大丈夫か?」

気遣う表情でオウシュは私に問いかける。

「大丈夫!深窓の姫君…はガラじゃないけど、演じきってみせる。それにオウシュもトリィも付いて来てくれるというから、心強いしね」

だから心配はいらないと私が笑いかけると、オウシュはフワリと微笑む。


オウシュは、始めてあったときよりも随分態度が柔らかくなった気がする。

私を見つめる眼差しが、微笑みかけるその口元が、周囲を包むその雰囲気が、すごく優しげで、ふんわりと包み込まれているような錯覚を覚える。


「俺もサヤがいると心強い。一緒に頑張ろう」

そう言い、オウシュは優しくも艶やかな表情をする。


私だけに向けられたその表情に、ドキリと胸が高鳴る。


オウシュはそんな私を気づきもせず私の頭を一撫ですると、待ち構えているメイドへ目配せし、部屋を出ていく。

私はというと、オウシュの去っていく姿を見ながらドキドキする心を落ち着かせようとしていた。


うう、オウシュの笑顔は心臓に悪い。


すると、トーヤがいつの間にか真横に立っていた。

「サヤもそろそろ行くんだろう?」


トーヤは少し寂しそうな、不安そうな目をしていた。


思わず私はトーヤの名を呼ぶ。

「…トーヤ」


私のことを心配しているのかもしれない。

私が5歳の頃に案内者として目の前に現れたトーヤ。

それまでずっと近くで私のことを見守ってくれていた。

話の流れでトーヤは連絡係としてここに留まることになったけれど、本当は行きたかったのだろう。

トーヤは演技が下手という理由で下ろされたけど、そんな理由は不本意だろうなと思う。

……私もさっきはとっさに「トーヤは演技が下手」と思ったけれど、実際はどうなのだろう。


私はジッとトーヤを見つめる。

「ねぇ、トーヤ。あなたって演技下手?」


すると困ったような表情で答えた。

「演技は得意ではないけれど、まぁ、何とかなったかもしれない」


「じゃあ、どうして?」


「うん、最初俺も行こうかと思ったよ。けど、オウシュとトワイリィさんがいるのであれば、充分な護衛になると思う。それと道久も何かしら動くつもりのようだし、アヤメさんにしてもさっき出て行ったからオウシュから何か言付かっているのだろう。そうすると、誰か一人連絡係も必要だろうと思っただけ」


「本当に?」

そんな不安な瞳をしているくせにと、私は睨んでみた。


少し答えることを躊躇してから、トーヤは口を開いた。

「……もう1つある。俺も調べたいことがあるんだ。いい機会かと思ってね」


調べたいこと?

「それはここにいて出来ることなの?」


「ああ、可能だよ。留まることさえできれば場所は関係ないから」

そして微かに微笑んだ。


なんとなく不安だ。


「何を調べるか聞いてもいい?」


「調べてわかったら教えるよ。何もわからない可能性の方が高いから」

微かな笑みを浮かべるトーヤの瞳は私の真っ直ぐにとらえていた。


こういう時のトーヤは絶対に口をわらない。


私は一つ溜息をつき、トーヤを睨む。

「よくわからないけど、一人で突っ走り過ぎないこと!協力が必要ならするんだから、ちゃんと言いなさいよね!」

私がそう言って、トーヤの額をデコピンする。


「…!」

トーヤは頭を押さえながらも、笑っていた。


「サヤこそ無茶しないでね。…ほら、あそこにいるメイドがサヤを待ってる」

そう言うと、私をメイドの方へ追いやった。


私は振り向きざまにトーヤへ「まかせて」とばかりに力こぶを見せる。

トーヤは微笑を見せながら、手を振ってくれる。


私はメイドさんの案内に従った。

アヤメです。


私も作戦会議に参加したかったですね。

それとオウシュ様の着付けもしたかったです。


ですがオウシュ様の命により、一人エルフの宿屋を後にしました。

もちろん、サンドウィッチは食べましたよ。

あれは大変美味しゅうございました。


オウシュ様に何を言付かったといいますと、キサイトへ派遣されているはずの神鬼と会って情報があれば聞きだしてこいとのことでした。

しかし、今回は期待できないでしょうね。

キサイトは厳重な警戒態勢を常にとっている国です。

部外者が簡単に入り込めるようなものではないのです。

……オウシュ様は「一応聞いておけ」といったお顔をしてました。



さて、落ち合う場所に着きました。


こうなることを予想し、キサイトへ到着した早々に術式を飛ばし連絡をつけておきましたので、落ち合う場所はもうわかっていました。

そこは神殿よりだいぶ離れた喫茶店です。


ドアを開けると、カランとベルがなります。

店内は狭く、入るとすぐに目的の人物がわかりました。

フードで隠していますが、チラリと見える鮮やかな橙色の髪ですぐにわかりました。


「お久しぶりね、スミア」

私がそう言うと、スミアがにこりと笑います。

「お久しぶり、アヤメ」


そうして、スミアの方へ向かいながら珈琲を注文します。


スミアは私の数少ない友人です。

先日、ファードの町で髪飾りをおみやげとした相手です。

早速渡してしまいましょう。


スミアの向かいの席へ座る頃には珈琲が入れられました。

席に置かれた珈琲からはとても良い香りがします。

スミアは、オウシュ様が珈琲好きだと知ってからというもの、町へ行くと美味しい珈琲屋を探すようになったことを思い出しました。

そう考えると味は保障できそうですね。

私は一口珈琲を飲み、口に広がる豆の炒った香ばしさ、そして苦みと旨味を楽しみます

これはオウシュ様にも飲ませてみたいレベルのものですね。


……と、ついつい珈琲に思考がとられました。


私は髪飾りを取り出しスミアに渡すと、スミアが小首を傾げながら私に聞きます。

「これは?」


「ファードであなたに似合いそうな髪飾りがあったので購入しました。どうぞもらって下さい」

そう言うと、スミアは顔を輝かせました。


「ありがとう、アヤメ!……ねぇ、ちょっと」

そう言うと、声を潜めます。

「つい前にファードだったのにどうしてもうここにいるのよ?」


「それは、いつか話します。こちらもいろいろあるのですよ」

私が笑顔で答えれば、スミアは不服そうでした。

「いいなぁ、アヤメ。そっちは楽しそう…」


ちなみに珈琲の件で想像できるかもしれませんが、スミアは「オウシュ様を見守る会」の会員です。

単純にオウシュ様の近くで仕事をしている私が羨ましいのですね。


「仕事ですからね。大変なこともたくさんありますよ?」


スミアに「命令されるの好きなくせに…」とつぶやかれましたが、私はとぼけました。


「スミア、仕事の話をしましょう。で、どうです?」

少し言葉をひそめて言うと、スミアの表情は途端に曇りました。

「…ごめん」


その言葉で情報がないことを察します。

ここに派遣されたこと自体かわいそうに思います。


すると、スミアがぽつりと言います。

「怒られるかしら…」


暗にオウシュ様に怒られるのではないかと恐れているのでしょう。


私は事実を答えましょう。

「いえ、半ば予想していらっしゃるでしょうからお怒りになることはないでしょう」


「期待されていないってことか…。それはそれで悲しいかも」

そう言うと溜め息をつきます。


「ああ、何にしても久しぶりにあのお顔を拝みたい…」

スミアはオウシュ様のお顔を思い出しているのか、恍惚とした表情をしています。


さてそれは無視することにして、話を進めましょう。

「わかりました。引き続き調査は続けて下さい。ただし、こちらに助けが必要になった場合を連絡しますから、すぐに動ける準備は怠らないよう」


その言葉にパッと表情を輝かせるとスミアが答えます。

「まかせて!そのときはすぐにでも飛んで行くわ!」


「……水を差すようで悪いのですが。多分、そういう事態にはならないので、あまり期待しないで下さいね」

私はあの規格外集団を考え、スミアに助言しました。


期待させるだけかわいそうというものでしょう。

スミアを呼びつけるということは、猫の手も借りたい状況というわけで……。

ありえないですね。


「なら言わないでよ~」

スミアがテーブルに突っ伏しました。


「一応業務連絡ですからね。義務です」


突っ伏したスミアが、少しだけ顔を上げて私を睨みました。


「ここの件終わったら、何とか会わせてよ」


「努力します」


その言葉にスミアが涙目となり、またテーブルに突っ伏します。

そもそも、オウシュ様にお願いして会ってもらうこと自体難しい話なのです。

一部下でしかないスミアの場合、限りなく無理でしょうね。

私が「労いを」とお願いしても、オウシュ様の「面倒くさい」の一言で一蹴されるのは目に見えています。

それはスミアもわかっていることなので、ダメ元で私に言ったのでしょう。


しばらくスミアがテーブルに突っ伏しているので、私がつぶやきます。

「この珈琲はあの方が好きそうな味です。散歩に出掛けるようなことがありましたら勧めてみましょうか…」


すると、スミアがパッと顔を上げます。


私は言いました。


「その時は連絡しますので、仕事を頑張ってくださいね」


スミアが嬉しそうな顔でうんうんと頷きます。


部下のケアも必要なのです。

直接会わせることはできないかもしれませんが、遠くで見守らせるくらいは許されるでしょう。

まぁ、散歩があるかどうかはわかりませんが…。


そうして、私は珈琲屋を後にしました。


さて、私なりに少しこの辺りを調べてみますか。

スミアは仕事ができないわけではないのですが、私に比べてしまえば大分力が衰えますから、見落としがあるかもしれません。



では皆様、この辺で失礼致しますね。

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