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41.神闇国キサイト - 莢-

私、トーヤ、道久、オウシュ、アヤメさん、ヒュリヤ、トリィの7人は、道久の転移の門で神闇国キサイト近くに移動した。

到着してすぐに道久は協力者を探したけれど気配がしないようで、引き続き周辺を探っている。


しかし改めて思うけれど、道久の転移の門は本当に便利だと思う。

道久というより実際はシルフィアが力を使い、私がそれに協力をしているのだけど、既に私の協力なんてもういらないのではと思う。

どうも道久もシルフィアも力が増しているようで…。

いや、力というのは語弊があるかもしれない。

力というより、二人の応用力が増して、少ない力で行使していると感じたからだ。


私にも転移の門が出せるのかと肩に止まるラーゴを見てみると、ラーゴは私をきょとんとした顔で見るだけだった。


…かわいい。


思わず顔がにやけてしまうと、ラーゴは嬉しそうにすり寄ってくる。


うう、本当にかわいいんだから。


ラーゴの喉元を撫でていると、落ち着きのある澄んだ美声が聞こえてくる。

「とても可愛らしい精霊ですね」


その美声の方へ目を向ければ、木の上の枝に腰かけてこちらを眺める青年がいた。


アメジストのように神秘的な紫の瞳は優しい光を放ち、無造作に後ろに束ねられている長い髪はキラキラ輝く水面のような水色を主とし、光の加減によってところどころ紫を差しこんだような不思議な雰囲気を持つ。

中性的なその顔立ちは、その不思議で神秘的な雰囲気をさらに演出しているようだ。


彼こそ道久が先ほど言っていたその協力者なのだろうとわかった。

彼の耳が長く尖がっていたからだ。


私は初めて見るエルフの姿に感動する。

彼の外見は不思議で神秘的なのに、感じるのは清らかなものでしかなく優しさが溢れているようだ。

清流のような潔さも感じる。


私が思わずポーッと感動にふけっていると、その人はクスリと笑うと木からスッと飛び降りてくる。


「貴方が救世主でしょうか?想像と違って随分可愛らしいお嬢さんなのですね」

そしてニコリと微笑みを浮かべる。

その微笑みはとても柔らかく優しい陽だまりのようだった。


「はい、そこで口説くな、ユーリー」

そこへ突然、道久が私の間に入るように現れた。

視認転移をしたきたようだ。


「どうして出てこなかったんだ。気配を消して見ていたのか」

道久は訝しげな表情でユーリーさんを見ながら鋭く言った。


「申し訳ありません。先ほど転移の門を見ましたので、目立たないようここ一帯に結界をはらして頂いておりました。私の結界は私自身の気配を消す効果もありますので、私の気配は勝手に消えてしまうのです」

ユーリーさんは素直に謝るのだけれど、道久はなお食い下がる。

「だが、出てくることはできただろう?」


それはごもっとも。

先ほど道久は探していたのだから、そのときに出てきても良かったと思う。


「フフフ、いえ、神鬼の代表に案内者、そして救世主。誰が誰なのかを見極めておきたかったのですよ。どうやら救世主は当たったようですね」

ユーリーさんというと、悪びれもせずニコニコと答えている。

どうやら、本当に悪気はなくそういうつもりだったらしい。


道久は何か企んでいるのではと疑ったようだけれど、その様子にすぐさま思い直したようで溜め息をついていた。

ユーリーさんはその溜め息に対し不思議そうな顔を向けている。


あれ、もしかしてこんなに綺麗で真面目そうで出来そうな人なのに、ちょっと天然さん?

以外に可愛らしい人なのかもしれない。


ユーリーさんは気を取り直すように顔を上げるとまた微笑みを浮かべて言う。

「申し遅れました。私は第四守護隊所属のユーリー・スルコフと申します。これから私が神闇国キサイトへ先導させて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。」

流れるように美しい所作でユーリーさんはお辞儀をした。


私も慌ててお辞儀をする。

「こちらの突然の申し出にありがとうございます。私はサヤと申します。至らない点があるかもしれませんが、よろしくお願い致します」


そう言う私にユーリーさんはクスクスと笑った。

「救世主さんはとても謙虚でいらっしゃるようですね。そしてとても可愛らしい。……そちらの方は?」

そう言って、私の少し後ろに控えていたトーヤに視線を投げかける。


「俺はトーヤといいます」

そう簡潔に言い、ニコリと微笑むトーヤ。


「えーっと、トーヤ様は……案内者ですか?」

自信なさそうにユーリーさんは聞く。

トーヤは微笑んだまま頷く。

「ええ、よくわかりましたね。私が案内者です」


「消去法で言っただけですよ。髪色もお名前も違ったので自信なかったのですが……。そしてその方は神鬼の代表者様ですね。隊長に聞いたことがあったのですがその通りの方です。お名前を伺ってもよろしいですか?」


オウシュは興味なさそうに答える。

「オウシュだ。こいつは従者だ」

傍に控えていたアヤメさんも紹介するものの、名前までは告げなかった。


「そうですか。よろしくお願い致します。そして…」

ユーリーさんの視線がトリィに向かうと、トリィはにっこりと微笑み言う。

「私はトワイリィ。よろしく」


「よろしくお願い致します。トワイリィ様のお名前は聞いたことがあります。隊長の盾は確かトワイリィ様に作って頂いたと記憶しております。いつか私もお願いしたいものです。……そしてそこの可愛らしいお嬢様はどなたですか?」


そう言われたヒュリヤは顔を赤く染め、ポーッとしているようだ。

「……わ、わたくしはヒュリヤと申します。以前、神殿キサイトで修業をしたことがあります」

そしてやはりポーッと見つめている。


「神殿キサイトで修業を?……ヒュリヤさんのお名前聞いたことがありますね。はて、どこだったでしょう?」

ユーリーさんが考え込むようにして言う。

すると途端にヒュリヤの表情が引き締まった。

それでいて笑顔を浮かべてヒュリヤは言う。

「いえ、私なんて、ただの下っ端の巫女でしたわ。きっと気のせいですわ」


ヒュリヤ…何かしたのかしら?


ユーリーさんはというと気にしていないようで「そうですか」と微笑みで返してサラリと流す。

「さて、まず私がする協力というと、まずは入国となりますね。その後のご希望はありますか?」

そして道久に向き直る。


「そうだな。安心できる宿屋を確保しておきたいものだが、そういった場所はあるか?」

道久がそういうと、ユーリーさんは答えた。

「エルフ系列の宿屋がありますのでそちらを紹介致しましょう。そこであれば、いろいろ融通がききます。ではまずはそちらに向かいますか?」


「そうする。そこでもう少し込み入った話をしよう」


「わかりました。では早速参りましょうか」

そう言うと、ユーリーさんは何か力を開放させたようで、微かであるけれどその場の空気が変わった。


「結界は解きました。ここからは言葉を選んでお話し下さいね」

ユーリーさんがニコリと微笑むと、その肩にはいつの間にか恥ずかしそうにしている男の子が現れた。

手の平サイズからすると、ユーリーさんの精霊ということか。


なんてかわいい!


私が思わずキラキラした目で見つめていると、その子はユーリーさんの方から離れてこちらへ向かってくる。


私の肩に止まっていたラーゴが嬉しそうに迎えに行き、自分の背に乗せた。

するとその子が満面な笑みを浮かべて私を見る。


「僕はティティ。ユリの精霊です。よろしくです」

水色の髪をフワリと揺らしてぺこりとお辞儀をする姿がかわいい。

ユーリーさんと一緒で瞳もアメジストのように綺麗だ。


「よろしくね、ティティ君」


私が手を出し握手を求めると、顔を赤くして私の指を掴んでくる。


か、可愛すぎる!

何この子!

天使みたいに可愛い!


思わず顔がにやけてしまう。

そんな私にティティ君もニコニコして嬉しそうだ。


「サヤ様、僕、会えてとても嬉しいです」

さらに赤くするティティ君の様子がまたかわいくて、私はラーゴから私の手の平に乗せて思わず頭をなでなでしてしまう。

ちょっとくすぐったそうにする様子がかわいらしい。


するとユーリーさんが私に近付き、ティティの方へ手を差し伸べる。

「ティティが大変失礼を。さぁ、こちらへおいでティティ」


色白なユーリーさんの手は、男性にしては細めであるけれど、しっかりとしていて長く伸びる指先がとても美しかった。

私もその手にティティ君が移りやすいように手を動かす。


ティティ君はふわりと飛ぶとユーリーさんの手へ嬉しそうに移った。

そんなユーリーさんの元へ戻るティティ君を、私は微笑ましく見守っていた。


その際、少し私の手がユーリーさんの手に触れ、一瞬、ユーリーさんの身体が強張った気がした。

ユーリーさんは優雅な動作でそのままティティを自分の肩に移す。

そうして私に顔を向けると、優しく微笑みかける。

「ティティがこんなに積極的に行動するなんて初めてです。それに……なんていうか。あなたの慈愛溢れる表情に魅入られそうになりました」


そういうユーリーさんは微笑みを崩さないままに、私の瞳を真っ直ぐと見つめている。


優しげな瞳の奥には意思の強さをはっきりと感じることができ、私をその中に引きづり込もうかとしているように感じる。

私がその美しいアメジストのような瞳に魅入いってしまい、視線をそらせないでいると、不意に左の髪の束を引っぱられた。


「ゥッキャ!」

引っぱられたのとびっくりしたので、声が出た。

そう言う私に、不機嫌そうな口調が聞こえてきた。

「いい加減に行くぞ」

道久だった。


私は道久を確認すると、

「い、いたいよ!みっち…」

「道久」

「……。道久、痛い」

咄嗟だとやはり「ミッチー」と言いそうになり、途中注意された。


道久は私の髪を離し、肩を押すようにして私を前へ行かせると、後ろのユーリーさんへ振り向き言う。

「あまり、こいつに近付くな。救世主がそんな気軽な存在でないのはわかるだろ?」


いえ、私そんなたいそうなものじゃないよね。

いつから道久の中で救世主がそんな存在になったのかな?


そう言い返したかったけれど、道久の不機嫌オーラに圧倒されて言えない。

意気地なしですみません。

いや、ほんっっっっとーに不機嫌極まりなくて、怖い!

なぜ?どうして?

訳がわからないと思いながら、とりあえず私は素直に歩いた。

流されている、私。

……私は本当に救世主なのかと、心底疑問に思うわ。


そうして道久に促されるまま歩き始めると、後ろでクスリと笑う声が聞こえた。

多分ユーリーさんだろう。


なんだか、恥ずかしく思った。



******



正門での入国審査はユーリーさんのおかげで余計な詮索をされることなく無事に済み、聖闇国キサイトへ入国することができた。


入国してしばらく歩くと、開けた場所に行き着く。

その開けた場所の中心には、花時計となっている花壇があり、その花壇周りには四方に平がる道があった。

キサイトは道も壁も家も全てが白を基調としたレンガで構成されており、その分、花壇は鮮やかな色彩を放っていた。

また、聖闇国キサイトの者もやはり白を基調とした服装をしており、旅人・商品等とはすぐに区別がつくようだった。


「少々歩きますが、ご了承くださいね」

ユーリーさんがそう言うとにこやかに微笑み、私達を案内する。


私達はユーリーさんに案内されるまま、道を歩いた。


道行く人、優しげな表情の人が多い。

キサイトの住人は、私達のような見知らぬ人にも挨拶をしてくれる。

「おはようございます。まぁ、随分とかわいいお嬢さんね」

「キサイトは初めてかな?ここは良い所だよ。ゆっくりとしていってね」

そんな風に声をかけてくれた。


そんな人達に心が気持ちよくなり、私も自然と笑顔が溢れた。

「ありがとう」

何度かそんな言葉が自然に出る。


しかし私がそんな穏やかな時間を感じる中、近くを歩む道久からビリビリとした空気を肌で感じる。

機嫌が悪そうだ。


道久、怖い……。

どうしたものか。


だいたい30分程歩いただろうか。

ユーリーさんが大きな屋敷の門の前で止まった。


「ここがエルフの宿屋です」

ニコニコするユーリーさんの顔を思わずまじまじと見てしまった。


ユーリーさんは宿屋と言うけれど、全くもって“宿屋”という雰囲気はしない。

地球でいう、超高級旅館、又は洋風で言えば、超高級ブティックホテルという感じだった。

この異世界では地球にあるような大きい高層ホテルはないと思う。

この宿屋は高層ではないにしろ、ハルスの屋敷と同等かそれ以上の敷地と大きさをもっていた。

異世界のイメージでは、ここまでの大きさの宿屋はないだろうと思っていたんだけど、それは私の勝手なイメージで、大きい都市に行けば宿屋以外にも大きい施設があるのだろうか。


私がそんなことを考えながらびっくりした表情をしていると、ユーリーさんが私にニコリと微笑みかけ言う。

「エルフが経営する宿屋ですのでエルフ以外の一般の客が泊まることもなく、いろいろ都合が良いのですよ。極稀に賓客を泊める目的でキサイトに使われることもありますが、現在は誰も利用していないはずです。ですので思う存分にご利用下さい」


「あの、いろいろ気遣って下さりありがとうございます」

私がぺこりとお辞儀をすると、ユーリーさんがクスリと笑った。


あれ、さっきもこんな風に笑われていた気がする。

今の、何かおかしかった?


「いえいえ、どう致しまして。私は一度管理人に話をしてきます。すぐに戻って参りますが、あちらの個室でお待ち頂けますか?あの部屋は防音室にもなっておりますから、どんな話をしても大丈夫ですよ」

そう言うと、ユーリーさんは屋敷の扉に控えていた執事のようなエルフのおじ様に何やら言いつけると、颯爽と行ってしまった、


私がふと道久の顔を見上げると、道久は私の顔を見ていた。

一瞬かなり鋭い目つきで睨まれた気がしたけれど、私の手をひっぱりうながす。

「ほら、いくぞ。あいつがああ言ってくれていることだしな」


その道久の一声で、その執事さんに防音室となっている個室を案内してもらった。


その案内の前に、軽く自己紹介をしてくれた執事さん。

名前はアラム・パニンさん。

エルフ族だという。

背の高い美丈夫な方で、深みのある焦げ茶の髪をオールバックにし、薄墨色の瞳は微笑みを浮かべているかのように細めている。

物腰が滑らかで、落ち着いた大人の雰囲気が溢れていた。


アラムさんに案内された個室は、高級そうなテーブルとイスが並ぶ部屋だった。

各人が適当な場所に座る。

私の隣には不機嫌な道久とニコニコした青髪のトーヤが座った。


もう少し離れてもいいんじゃないかな?


そう思いつつ、道久に言う。

「……道久…は、朝食何かとったの?お腹減ってない?」


うーん、道久と呼ぶのはちょっとまだ慣れない。


すると道久は私の方を見て微笑んだ。


あれ?機嫌が直ったようだ。

少しばかり安心する。


「いや、まだだよ。サヤ達は何か食べたのか?」


「うん、ポタージュスープを飲んだよ。ごめん、いつも道久が先に行ってくれているから私ばっかりらくして」

私が優雅に朝食をとっている間は、大抵道久が動いているのは知っている。

正直、申し訳ないなと思っているのだけど、急いで聖闇球巡りをしたいと考えるとやはり道久を頼ってしまう。


「いや?俺が好きでしているだけだしサヤが気にするようなことじゃないよ」

そう言って私の頭をポンポンと叩く。


すると紅茶を入れていたアラムさんがちょうど私達の所へ差しかかっていたときで、声をかけてくる。

「サンドウィッチであればすぐにお出しすることができますよ。よろしければお召し上がりになられますか?」

深いバリトンの美声が響く。


ユーリーさんも美声だったけれど、エルフ族は美声なのかな?


「ええ、じゃあ、お願いします」

道久が珍しく丁寧な口調でお願いした。


そういえば、道久は年長者に対しての態度はきちんとしていることを思い出す。

異世界へ来てからはぞんざいな態度が多いと思っていたけれど、ちゃんと時と場所を使い分けるということか。


アラムさんはいつの間にか傍に控えていたメイドに声をかけ、そしてそのメイドはすぐさま部屋を出ていく。

数分も経たないうちに戻ってきたメイドさんのその手にはサンドウィッチがあった。

その間に、アラムさんはみなの紅茶を配り終えようとしていた。

アラムさんの手付きはとても優雅なのに、仕事がかなり早い。


「ありがとう」

道久はメイドからサンドウィッチを受け取ると礼を言い、食べ始める。


さっきは不機嫌だったくせに、今は完全に機嫌が良さそうだ。

とりあえず、良かった。

しかし、お腹でも空いていたのかな。


私が道久の顔を見ていると、道久が急にサンドウィッチを私の目の前に寄こす。

「美味いよ。ほら、一口食べれば?」


人を食いしん坊か何かのように……


と思いつつも、そのサンドウィッチはとても美味しそうだった。

赤みを帯びた薄い肉と野菜がたくさん入っており、香草の匂いが鼻をくすぐる。


お、美味しそう。


途端にお腹が減ってくる。


「ほら、あーん」

道久にそう言われ、私は思わず目の前のサンドウィッチにパクリとかぶりつく。


美味しい!

肉にはクセがあるのだけれど、一緒に添えられていた香草がそのクセを上手に生かして、肉の旨味を倍増させている。

野菜も新鮮そのもので、朝を感じさせる爽やかさ。


私が口に広がる美味しさに目を輝かせていると、道久は満足そうに私を見ながら食べ始めた。


その様子を見ていたのか、アラムさんが微笑ましそうにしながら言う。

「喜んで頂いているようで何よりです。エルフの里で定番のサンドウィッチなのですよ。ユーリーから皆様がいらっしゃるということを聞きたくさん作っておきました。まだまだございますので、よろしければ皆様もいかがですか?」

部屋に綺麗なバリトンボイスを響いた。


朝食をとっていない道久はともかくとして、話し合いを始めるだろうこのときに食べていいのだろうかと思っていると、トーヤが言う。


「なら、少しもらえますか?サヤがそんなに美味しそうにしていたから食べたくなってしまいました」

トーヤはあまり食べ物に執着心を示さないけれど、珍しく興味を示したようだ。


「俺も追加で」

道久は先ほどもらったサンドウィッチを既に平らげていたようで、手を挙げて言う。


「こちらも3人分お願いできますか。……いえ、4人分で」

アヤメさんも言う。

最初、オウシュとトリィと自分の分をお願いしたようだけれど、その後トリィの近くに座っていたヒュリヤが私もと自己主張したので追加したようだ。


そうお願いしていくみんなを見回せば、いつの間にか私に注目が集まっていた。

みんな、ニコニコとした様子で私を見ている。


………いや、そんな見ないで欲しい。

頼みにくいじゃないか。


私は若干顔が赤らんでいるのを感じつつ、アラムさんに言う。

「私もお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」

アラムさんは私に微笑みを送りながら頷いた。


すると、美声が響く。

「アラム、私にもお願いします」

ユーリーさんだった。


ユーリーさんはニコニコした様子で部屋に入りながら私へ向かって話した。

「と、その前に確認ですね」

そう言うと、表情が一変して真剣なものとなる。

「私も話し合いに加わってもよろしいでしょうか?私にもどうか協力させて頂きたいのです」


真っ直ぐ射抜くような真摯な瞳が私を見つめる。


なんだか挑戦的……。


私は慌てて言う。

「あの、是非私達の話し合いに参加して下さい。ご協力頂けるなんて嬉しい限りです。こちらからお願いしたいくらいですから…」


そう言い終わると、道久が微かに溜め息をついた気がした。

はっきりとはわからなかったけれど、気にくわないという雰囲気が伝わってくる。

その道久とは反対に、ユーリーさんの表情がパッと明るくなった。


「そうですか。そう言って頂けるととても心が軽くなります」

そう言いながら、ユーリーさんは私の斜め向かいの席に着く。


道久がまた機嫌が悪くなったように感じつつ、気にしないふりをして、私はユーリーさんに問いかける。

「あの、ではご協力頂けるのなら、質問に答えて頂けますか?」


私の問いにユーリーさんは感じよくコクりと頷いた。


「ここの聖闇球はどうなっているのでしょう。私は本来すぐにでも闇の神殿へ向かうべき存在です。けれど、その前に人々へ直接被害が及んでしまうだろう聖闇球の暴走を止める方を最優先としてきました。その治すべき聖闇国キサイトの聖闇球の状態がよくわかりません。何かおかしいとは思うのですが……。何か知っていることがあれば教えて下さい」

私はユーリーさんの瞳を見つめて最後まで言い切った。


ユーリーさんはというと視線を逸らさないままに、何かを考えている。


私はユーリーさんを良い人だと思っている。

ティティのような精霊を持っている人が悪い人であるわけがない。

そう思った今までの私ならすぐにユーリーさんを信用したのだけど、ファードでの件がある。

だから今回は“警戒心”を持つことを心がけ、質問をしてみたわけだけど…。


そんな私にユーリーさんは意を決したように表情を引き締め、口を開いた。

「いえ、失礼。もう少しポヤッとした方かと思っていました。最初すぐに私を受け入れたものですから。改めて私に協力させて下さい。いえ、違いますね……」

そうして頭を下げた。

「ご協力を願いたいのは私なのです。どうかお願い致します。救世主、サヤ様」

更に深く頭を下げる。


私は慌てた。

私は大したことは言っていないのだから、そういうふうに頭下げられたりするのはおかしいというものだ。


「顔を上げてください。困ります、そういうの。私がユーリーさんにご協力して頂きたいという話のはずです。その為に聖闇球を教えて下さいと頼みました。それに答えて頂ければいいんです」

私がそう言い切ると、ユーリーさんは顔を上げて目をパチクリと瞬きさせた。


「本当にサヤ様は謙虚な方なのですね」


「いいえ!謙虚なんて!!」

謙虚などではなく事実そうなんだという気持ちが前に出て、つい興奮した口調になってしまった。


すぐ私を特別視するのはやめてほしいというのが、本音なのに…。

普通のことをいってもどこかみな大げさに取り過ぎなんじゃないかと思う。

確かに救世主と聞けば特別視するかもしれないけれど、私なんてちょっと力があるバカな子なんだってば!

簡単に頭を下げされるような存在ではないんです。

最近実感しているんです!


…いろいろな失態を思い出し、ちょっと涙目になりそう。


「そういうのを謙虚というのだと思うのですが……」

ユーリーさんはそう言って私を見つめるので、私は少し睨むようにして頭を振ることで返事をする。

「わかりました。私が協力するという形で、必ずサヤ様のお力になりましょう。」

爽やかな微笑を浮かべてユーリーさんが言う。


そこへ突然、オウシュが試すような口調で言い放つ。

「どうせなら誓いを立てたらどうだ?そうだな、古代語で誓えるくらいでないと俺は信用できないな」


対してユーリーさんは、間髪入れずに聞き取れない言葉を紡ぐ。

『私は決してサヤを裏切らない。例え他を裏切ろうとも』

そう言い終わると、オウシュへどうだと言わんばかりに極上の笑みを浮かべる。


オウシュは若干呆気にとられたかと思うと、溜め息をついた。

「大丈夫だ、サヤ。こいつは完全に信用できる。というか……。相当お前を気に入っているようだ」


そういうオウシュに私はどんな顔をしていいのかわからない。

私はそもそもそこまでユーリーさんに警戒心を持っていたわけではないのだけど。


いささか変な空気に戸惑いを感じていると、アラムさんが丁度よいタイミングでサンドウィッチを持ってくる。

「皆様、一度話を中断して、お食事にされたらいかがでしょう?」

アラムさんのバリトンボイスの美声が響いた。


私はその申し出にうんうんと頷く。


私の心の中でこっそりと「ナイスタイミングです、アラムさん!」と賞賛していた。

ティティです。


良かった。

サヤ様とっても良い人。

全然怖くない。

撫でられるのがすごく気持ち良かった。

傍にいるだけで安心する。


ユーリーも見た瞬間に気に入っているくせに、どうして一歩引いているのかな?


立場とか?何か?


好きなら好きでよいと思うのだけど、人ってよくわからないところある。


でも、ユーリーも僕と一緒でサヤといるのが嬉しいのはわかるよ。

僕と一緒。


僕もサヤを裏切らないよ、絶対。


僕はサヤに比べたら力が足りないけど、それでもたくさんたくさん、力になりたいな。


ねぇ、ユーリー。

ユーリーもそう思うよね?

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