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32.パーティーの前に - 莢(前) -

私とミッチーは、翼竜3匹と精霊1匹と一緒に遊んでいた。


最初、警戒していた翼竜3匹も私と精霊ドラゴンがミッチーと親しげにしているのを見ているうちに、徐々に警戒を緩めていった。

それでも、先ほど攻撃された恨みを忘れた訳ではなさそうで、警戒を解くだけで自分達からミッチーへ近付くことはなかった。

ミッチーも慣れ合うつもりもないのか、距離を保ちつつ、私と会話をし、楽しんでいる様子だった。



なんだかんだで、異世界へ来て2日目となるわけだけど、私の心情は嵐のように激しくて、いつもドキドキ・ハラハラ・イライラ・サメザメといったように、休む暇がなかった。

1泊目の夜に眠っているときですら、女神であるティア・マティヤの心情が流れ込んできた。


今迎えているこの一時ひととき、翼竜3匹と精霊ドラゴンちゃん1匹、ああ、あと忘れちゃいけないのが私のラーゴ。

この子達と戯れるがなんと癒しであることか……。

私の表情は恍惚と、そしてだらけた顔をしていたと思う。

だって地球にいた頃もこんなこと味わったことがない。


地球にいたときはいずれ異世界に行くのだからと、動物を飼うことは自らの意思で控えていたのだ。

でも異世界へ来た今は、歯止めが効かなくなっている気がする。


いろいろ我慢していた鬱憤が破裂してしまった感じかもしれない。

この感覚を知ってしまった今はもう動物好きの血は抑えられないかも。


不意に、『警戒心』というミッチーの言葉がよぎる。


う、それは……。

はい、そうですね。

えっと、私がどうにかなると死ぬのでしたっけ?

相手が………。


ええっとどうしろと。


私ですらコントロールできない感情をどうしろと……。

そう言いたくても不甲斐無いのは事実で、それに見かねたミッチーが、自分ですら殺される可能性がある術を私にかけたのでありまして…。

うん、反論できない……と思ってしまった。


そういうことで、私は新たな決意を元に救世主として頑張りたい!

……頑張りたい!!本当に!!!

もう、みんな、かわいいだとか、好きだとか、言わないで!

救世主として世界を救いたいのよ、私。

そしてゆくゆくは動物ライフ!

私のことは放っておいて、お願いだから。



******



どの位、翼竜達と戯れていたのか…。


当たりの空はすっかり茜色に染まっていた。


「サヤ、そろそろ屋敷に戻るぞ」

ミッチーはさも当然のように言う。


「………」


私はというと、何というか、帰ることを考えるといろいろ気まずい。

先程取り乱したから。

特にトーヤやアヤメさん、ヒュリヤには醜態を見られている。


ミッチーがフゥッと溜め息をつくと言う。

「サヤ。こういうことは引き延ばせば引き延ばすだけ気まずくなる。それに気にしてるのはお前だけで、みな心配はしていても他のことは気にしていない。だったらお前は開きなおるくらいの気持ちで、早く顔を見せてあげた方がいいんじゃないか」


真面目な顔で優しくミッチーは言ったのだが、「う、心配ばかり掛けているということか…」とネガティブ思考がフツフツと…


「はいはい、お前は深く考えすぎるな。もうすぐ夕食時だろ。ハルスが用意しているだろうから帰るぞ」


そうミッチーに言われ、私は素直にうなずいた。

とりあえずみんなの元へ戻ろう。

心配は掛けたくない。


「ほら、いくぞ」

そう言われながら、ミッチーに腕を掴まれる。


私は思わず、ビクッとしてしまった。


「………」


お互い沈黙が流れる。

それを破ったのはミッチーだった。


「サヤ、それは敏感過ぎなんじゃ……」

呆れた感を出しながらミッチーは言った。


「……!?だって、わかんないんだもん」

私は思わずふてくされる。


ドキドキの加減なんかわかるわけないじゃないか。

だったら、徹底的に避けるのみ。


そんな私にミッチーは薄く溜め息をついた。


溜め息をつかれようが、こればっかりはしようがないのよ。


「わかった。ほら行くぞ。触れないから安心しろ」

そう言ってミッチーは遠くの山で沈もうとしている太陽の方へ目を向ける。

「飛んで帰っても夕飯には間に合うだろう。どうせなら夕日に染まった景色でも眺めながら帰ろう」

そう言うと、ミッチーは率先して空を飛んで行った。


ミッチーに言われて空から下を眺めると、茜色に染まった世界が広がっていた。

ミッチーの転移で帰ることは簡単だけれど、この昼間とは異なる幻想的な景色を眺めながら帰ることは、確かに良い考えだと思った。


私は翼竜達に笑顔で「またね」と言いながら、その場を後にした。



******



ハルスの屋敷に着き、ロビーに行くと大人版のオウシュが待っていた。

なんだかとっても機嫌が良さそうだ。


私に気が付くと、すぐさま私の方へ向かってくる。

下手なことをされると相手が『死ぬ』という考えが頭をよぎり、思わず身構える。

そんな私の態度を気にもする様子もなく、オウシュは私に大きめの箱を渡してきた。


紺色に星を散らばめたような箱には金色の大きなリボンが付いていた。

差し出されて反射的に受け取ったものの、状況がよくわからない。


「サヤ、それには俺が見立てたドレスが入っている。今日は小さいとはいえパーティが開かれるから、その時、どうかこれを着て欲しい」


オウシュにしては珍しく態度が控えめだ。

なんというかちょっと照れているし、受け取ってくれるか不安にも思っているようで、願うように私を見つめている。


何事かとオウシュの顔をまじまじ見て、気付いた。


オウシュの耳元には、オウシュの瞳と同じ色をした鮮やかな紅玉が煌めいていた。

その紅玉は縦に細長いために子供版オウシュであると身体とのバランスが合わず、多少違和感を感じるかもしれない。

けれど大人版のオウシュにはバランスよく、その上、オウシュの色香漂う姿にとてもよく似合っていた。


私は箱の件には答えないまま、思わず感嘆の声を漏らした。

「オウシュ、すごくきれいね…」


本当に、綺麗だった。

輝く白銀の髪に陶磁器のような白い肌。

そして煌めく鮮やかな瞳と耳元の紅玉。

白と赤のコントラストがとても美しかった。


オウシュは一つの芸術品のように美しい。


私が見惚れて見ていると、最初オウシュは何を言われたのか分からなかったみたいだった。

察しの良いオウシュにしては珍しく少し間があったから。

けれど途中気付いたようで、オウシュの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


オウシュは片頬を隠すように手を添えながらそっぽを向き、私から視線を逸らす。

「とにかく、着てくれ。……アヤメ、サヤを着付けてやってくれ」


そうして、足早に別の部屋へ行ってしまった。


その場を見ていたミッチーがちょっと唖然とした様子でつぶやく。

「なんだあれ、ガキみたいだな」


私は答えなかったけれど、オウシュにしては珍しい態度に驚きを隠せなかった。


すると、アヤメさんが笑みを浮かべながら私に言う。

「さぁ、サヤ様。あちらの部屋に行きましょう」


「え?あ、えっとごめん。状況を飲み込めていなかったのだけど」


「着付けをしながら説明致します。道久様はあちらのメイドがご案内致しますので、お着替え下さい」

そう言いながら、アヤメさんは何気なく私から箱を奪い、私の手を恭しくつかむと笑顔を向ける。

暗に行きましょうと言われたと思ったので、私はこくりと頷く。


ミッチーは気にくわない顔をしていたものの、案外素直にそのメイドの方へ向かっていった。

そのミッチーを見て「郷に入っては郷に従え」という言葉が頭をよぎる。

よくよく屋敷を観察すると、先ほどよりもメイドさんや執事さん達の人数が少し増えていたのだ。

観察して初めて何かの準備をしているのがわかるくらいで、決して忙しそうにしているようには見えない。

これがプロというものなのだなと感じた。

こんなにも頑張っている人達がいるのに、水を差すような行為はしたくない。


周りをよく見ているミッチーのことだから、従ったのはそんなところだろうと思う。


私はというと、それもそうなのだけれど、パーティーやドレスという言葉を聞いてから女の子として興味が沸いてしまった。

地球にいた頃、着物等は着る機会はたくさんあった。

神社の家系だから、何か特別な日は着物、もしくは巫女服で参加することが多い。

着物の良さはよく知っているし、もちろん大好きなのだけれど、やはりドレスだって着てみたい。

実をいえば一生着れないものだとも思っていたくらいなので、ちょっと…、いやかなり嬉しいかも。



私はアヤメさんの後をついて行きながら、ちょっとドキドキしていた。

そんな私につられてかなのか、ラーゴも少しウキウキした様子で飛んでいくる。


しばらく屋敷を歩くと、私は案内されるまま部屋に入った。

部屋には大きな鏡、化粧道具などもそろったドレッシングルーム。


「さて、サヤ様、私が着付けをさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します」

艶やかに微笑みを浮かべてお辞儀をするアヤメさんはなんだか嬉しそうだ。


「いえ、私こそよろしくお願いします」

私も慌ててお辞儀をする。


アヤメさんはフフと笑うとテキパキと私を着飾っていった。



******



私は姿見鏡を見て驚いた。


誰だこれ。

どこのお姫様だ。

オウシュ、やりすぎなんじゃないかな。


オウシュが私に見立ててくれたのはスクウェアネックのAラインドレス。

乳白色のサラリとした生地に金糸の刺繍と小さな金剛石ダイヤモンドの粒が上品にあつらえられている。

胸元を飾るネックレスにはびっくりしてしまった。

くさり部分には小さな金剛石が並び、トップには太陽なような黄金色の入った金剛石を中心に、別の金剛石がそれを引き立てるようにまた飾られている。


髪型はというと、頭部横の髪一房を細めに編み込み、華奢きゃしゃな金色のチェーンと小さな金剛石でさり気なく黒髪を彩る。

編み込みしない部分の長い黒髪は丁寧にかされ、流れるように私の肩や背中を飾る。


化粧に関してはアヤメさんがとてもうまい具合に仕上げてくれた。

あまり化粧らしい化粧はしたことがない私だったけれど、こんなにも腕の差が出るのかと驚いてしまった。

私はせいぜい少し色をつけたりする程度だったのだけれど、アヤメさんは違う。

顔の特徴をうまくいかした強調をほどこしつつ、差し引きでうまいバランスをとっている。

私は少しつり目であることを気にしていたのだけど、アヤメさんはそこをあえて活かして意志の強そうな目元で印象付けた。

私は、ああ、こういうやり方もあるのか…と納得する化粧だった。


「サヤ様……とてもお綺麗です」

アヤメさんはというと、頬を赤らめ恍惚としている。

すごくやってやった感を出している。


ええ、本当に良いお仕事です。

アヤメさんてプロですか?

しかし、これは大げさにならないですか?


私は先程、着付けをしている最中に小さいパーティーとはどういうことなのかを聞いていた。

アヤメさんが言うには、今回は身内で行うので形式はいらず、更に立食型にしたということなので気楽なものなのだということ。

私が気楽とはいえ礼儀作法があるのではと心配していると、「こういったパーティーは余り考えずとも大丈夫です」と笑顔でサラリと言われた。


気楽と言うのならいつもの服装でもいいくらい何じゃないかと思ってしまう。

さすがに冒険者姿はダメかもしれないけれど。


「あの、小さいパーティーだと聞いたのですが…。これってやり過ぎとかないですか?」


私の問いに、アヤメさんはかぶりを振る。


「とんでもございません。小さいとはいえパーティーなのです。しかもサヤ様が主役なのですからこれくらいは当然でございます」


えっと主役だからいいとか、そう言うのではなく、私は余り目立ちなくないのですが……

アヤメさんの嬉しそうな表情を見ていると、何も言えなくなってしまった。


不意にアヤメさんの表情が引き締まったかと思うと、機敏な動作でドアに向かっていった。


すると、ドアをノックする音がする。

その音を確認するようにワンテンポ置いた後、アヤメさんは言う。


「どうぞお入り下さい、オウシュ様」

そうして扉は開けられ、オウシュが部屋へ一歩踏み出してくる。


私はアヤメさんのプロの動きに感嘆の思いで眺めていたのだけれど、オウシュの様子に気付き目を向けた。

そのまま近づいてくるかと思えば、なぜか、私からまだ2~3mほど離れた距離でオウシュが歩を止めていたからだ。

多分、数歩しか歩いていないと思う。


オウシュは目を見開くようにして、私を凝視し、固まっていた。


私もというと、思わずオウシュの姿に魅入ってしまった。

オウシュは、深いボルドー色の襟の立った服に身を包んでる。

少し着崩した首元から見える黒シャツの生地の裾には、さり気なく白銀の糸で刺繍が施されている。


今までのオウシュはシンプルな色味がない白を基調とした服装だったので、その対比に戸惑う。

それ以前に子供版ではなく大人版のオウシュだから、服装との相乗効果で物凄い色香がこの部屋に漂っていた。


月のように光を受けた白銀色の髪が優しく光り、鮮やかな赤い瞳と耳元の紅玉は煌めきを見せる。

オウシュは私をじっと見つめて動かない。


居心地が悪くなってきた私は、意を決してオウシュの元へ近づいた。

慣れないヒールなので、早くは歩けないのがもどかしい。


ある程度近づいてから声をかけてみる。


「オウシュ?」


名前を読んでも反応がどうもないので、そのままお礼を言うことにする。


「お礼を言わせてね。こんなに素敵なドレスを私に用意してくれて、ありがとうございます」

私は戸惑いながら一度お辞儀をする。


反応がないことに不安を覚えながら、恐る恐る顔を上げた。


「その…似合わない、かな?」


何も言わずに硬直しているところからすると、オウシュは気に入らなかったかもしれない。

見立ててくれたというくらいだから、私に似合うだろうと思っていたはず。

それが似合わなくて戸惑っているとか…。


そんなことを考えながらしばらく答えを待っていると、オウシュがようやく口を開いた。


「いや、違うんだ、サヤ。お前が……」

不意にオウシュは、じっと見つめていた視線を逸らした。


「その、あまりにも美しすぎて言葉を失った……」


そう言うオウシュの頬はほんのり赤い。


いえ、芸術品のように美しいオウシュに言われたくないんだけど。

オウシュの方がよっぽど……

でも、そんなことオウシュに言われたら……


私の身体がみるみる赤く染まっていく。

咄嗟にオウシュに背を向ける私。


オウシュの反応がなんか想像と違う。

もっと余裕ある表情で、しかも笑みでも浮かべながらキザなセリフでも言うのかと。

それが何?

さっき箱を渡されたときも思ったけれど、オウシュの反応がなんだか可愛い…。

何、このギャップ!


私は火照る頬を手で押さえ、必死に冷まそうとする。


後ろで、オウシュが何かを押さえつけようとするような苦しい口調で言う。

「…アヤメ、やり過ぎだ。…他の者に見せたくなくなる」

そして熱のこもった溜め息。


後ろで更なる色香を漂わせないで下さい。

こういうのって、どうしていいのかわからない。

えっとお礼を言うべき?

美しいって言ってくれてありがとうとか?

いやいやどんな顔して言えっていうの?

どうやってこの場を乗り切ればいいのー!


不意に、私の視界に影が落ちる。

そして頬に充てていた手は掴まれ、そっと頬から離された。


目を向ければそこにはミッチーがいた。


いつの間に!?


ミッチーがため息交じりにつぶやく。

「あぁ………」


私がびっくりしてミッチーを見上げると、ミッチーはそのまま黙って私を見ている。


ミッチーはやはりというか、黒で統一した服装だった。

それでも鈍く光る銀の装飾や、ほんのり光る銀糸の刺繍、白いシャツを飾る黒曜石が落ち着いた華やかさをかもし出していた。

そしていつも無造作にストレートで流していた髪型は、ワックスか何かを使って大人っぽく整えられている。

こういう着飾った大人っぽいミッチーは見たことがなく、将来そうなるだろう姿を垣間見ているようで、少しドキドキする。


って、ドキドキ!?まずいじゃないか!

さっきだってオウシュでドキドキしていたのに!!


私は咄嗟にミッチーの手を振り払い、一歩下がる。

振り払われたミッチーは一瞬呆然とした表情を浮かべ、その後納得したのかニヤリと笑みを浮かべる。


そうよ!ミッチーが私にそういう術をかけたんでしょうが!


ニヤリとした表情が少しムカッときたので、軽く睨む。

しかし、ミッチーは嬉しそうだ。


「サヤ、化けたね」


く、ムカつく。

開き直ってやる。


「そうよ。化けたでしょ」

そう言って、私は笑みを返した。


しばらく笑みを浮かべながら睨むように見つめ合っていた私達だったが、不意にミッチーが真面目な顔に戻し、オウシュに向き直った。


「オウシュの趣味は良いと思うけど、俺も同感。やり過ぎ…。今日のミニパーティー…だっけ?誰が来るの?」


オウシュが溜め息をつきながら言う。

まだオウシュの顔がほんのり赤い。

「文句はアヤメに言え。俺だってまさかここまでになるとはさすがに思わなかった。パーティーは身内のみだ。元々ディナーの予定だったからな。主に先程円卓で囲んだ者だったんだが、急遽ハルスの叔母であるトワイリィも挨拶をしたいということで参加することになった」


「叔母ね……。後は執事やメイドか」

そう言って少し考えるようにするミッチー。


ねぇ、何がそんなにあなた達に危機感を与えているのでしょうか。

私はちょっと白い目でこいつらを見た。


ふと、ヒュリヤを思い出した。

あの子は参加しないのだろうか。

というか、あれからどうしたんだろ?


「ねぇ、ヒュリヤは参加しないの?」


私の問いにミッチーが答えた。

「ああ、さっき廊下で会った。俺見て逃げて行ったけどドレス着ていたよ。あれは忍び込んででも参加する気満々だな。追い払う?」


「いやいや待って!私、ヒュリヤには参加して欲しい。だってさっき私を励まそうとしてくれたんだから」


ミッチーがその言葉を聞くと、オウシュに目配せる。

オウシュが頷くとアヤメさんが即座に部屋を出た。

アヤメさんが行ってしまい、残された女性は私一人。


「でだ、道久。お前、認識阻害の術が使えるんだろ?」


「……無茶言うな。こんなの阻害できるか」


傍から見れば、美しい・かっこいい男二人と密室なんて、羨ましいと思うかもしれない。

けれど、この二人の会話の内容を聞いていると、私って何かの害なんじゃないかという気がしてくるのでドキドキなんて沸きようがなく、どちらかというと、少し腹立たしい。


オウシュが部屋の時計をチラリと見る。


「まぁ、大丈夫だろ。……ああ、でもトワイリィが心配だから気をつけろ」


「ん?叔母なんだろ?」


「そっちのがある」


「…ああ、了解」


二人して、謎の会話をする。

本当、この二人って仲いいよね。


私がじと目で見ていると、不意に二人が手を差し出す。


ん?


「さぁ、行こう」

「行くぞ」


ほぼ二人同時に言葉を発した。


私は戸惑い、二人の手を見ていた。

アヤメです。


ダイセイに会い、いろいろ手配を終えた後、オウシュ様の気配を探しますといらっしゃいました。

私が急いで向かいますと、オウシュ様はなんだか浮足立った様子です。

何をされているのか尋ねてみれば、トワイリィ様がミニパーティーを開くと豪語していたのでサヤ用のドレスを選んでいるとのこと。

やはりトワイリィ様と落ち合っていたのですね。


いえいえそんなことより、こちらの言葉に思わず反応してしまいまいた。

パーティーですか!


私は内心喜びました。

私が着飾ることはないのですが、オウシュ様かサヤ様の着付けができるだろうと踏んだからです。

普段のオウシュ様はシンプルなものを好み、加えてあまり服装には頓着しない性質たちです。

こういう機会でなければ、美しく着飾るなんてことはしないでしょう。


ちなみに遊んでいた頃のオウシュ様は絶妙な派手さ加減でお洒落だったのですが、今は面倒臭くなったそうです。



オウシュ様にお願いをしてみました。

「オウシュ様の服装は私が見立ててもよろしいですか?」

オウシュ様はやはり自分はどうでも良かったようで「好きにしろ」との言葉を頂きました。

フフフ、役得です。

オウシュ様を自分の好みに仕立て上げることができるなんて、何十年ぶりでしょう。


オウシュ様は一生懸命にサヤ様のドレスを考えていらっしゃいます。

その考えているお顔があどけない少年の表情にも見えて、失礼かもしれませんが可愛らしいと思ってしまいました。

こんなオウシュ様初めてです。


あれ?……

余りにも自然すぎて気付きませんでしたが、オウシュ様は大人に戻っておられますね。

その割に、結構普通にその場に溶け込んでいます。

どうしてでしょう?

ふと、耳元の紅玉の耳飾りが目に入りました。

紅玉の耳飾りでオウシュ様の魅力は上がるくらいなのに、今のオウシュ様は不自然に普通です。

これは、紅玉が作用してのことだろうと察しました。

トワイリィ様は宝石と術式を組み合わせることにけた方だったはずです。


フフフ。

オウシュ様、いろいろ考えていらっしゃるのですね。


オウシュ様の恋、どうにか実って欲しいところですが、どう転ぶかわからないのが恋愛なのですよね。

私は陰ながら応援するしかありません。


頑張ってください!オウシュ様!

そして神鬼の里の花嫁に!!


オウシュ様がサヤ様のドレスを決めたようで、私に言います。


「サヤの着付けを頼むぞ、アヤメ」

にこやかに微笑むその姿は、我が主人ながらなんと美しいことでしょうか。

オウシュ様のそのお気持ちに報いられるように、全力を尽くしましょう。


「ええ、お任せください」

私は恭しく一礼しました。



そうしてオウシュ様の服装は手配をし、サヤ様が屋敷に到着後、約束通り着付けをしたわけですが、私としては大満足でした。

こういう仕事は大好きです。

フフフ、またサヤ様はやりがいのある方でした。

正に救世主、又は闇の女神の名にふさわしいといえます。

本人が無自覚なのが困りものですがね。

そこも魅力の一つとして受け取っておきましょう。

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