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27.周辺調査 - 道久(後) -

俺は聖闇球の調査を終えた。


思った通り、地中を探るように闇の気配を探れば、聖闇球から地中へ向かって闇の気配が流れていっているのがわかる。


ふーん、そういうことか。

ということは、今はなくてもジワジワとその影響が出てくる頃なのかもしれない。


俺とシルフィアの二人が納得顔でいる。

シルフィアの場合、俺がやっていることは基本心が通じているので納得できるが、ダイセイと心が通じている訳ではないので、奴一人だけが何をしたのかわからない顔をしていた。


「あの……」

多分、ダイセイにとっては勇気を出しての声掛けだったのだろう。

だが、俺は不機嫌だ。


「悪い、俺は先急ぐから。お前ここで待機」


「え…」


間抜けな声が一瞬聞こえたが、俺は無視する。

そして、シルフィアがすかさず出した転移の門ですぐにその場から去った。


悪いな、ダイセイ。

お前はいい奴みたいだが、盗聴から聞こえてくる声のせいで、俺は今すこぶる機嫌が悪いんだ。


ピラートと言う奴が、自己紹介している。

そして、明らかに違和感のある「いやいや、まさかこんな……」発言。

嫌な予感に俺は急ぐ。


というか、嫌な予感しかしないだろ。


俺はファードの壁外へ転移後、検問には行かずに町の上空へ飛んだ。

そして辺りを見渡し、町のはずれにある屋敷を視認し、転移する。

ファードの町は結界が張っているようだが、俺の転移の力の前では意味がない。


そうこうしている最中にもピラートの声が続いている。

「大変失礼致しました。どうぞよろしくお願い致します。……ではご案内致します。どうぞ後についてきて下さい」


サヤ、お前、これでどうしてついて行こうと思うんだよ。

サヤの足音を聞く限り、嬉しそうについて行っているだろ。


俺は屋敷の外壁にある外門を探し、視認後すぐに転移をした。

だが、遅かったようだ。


「サヤ!待って」

と聞こえる、トーヤの声。


「バカだな、サヤ」

そして、トーヤよりも近くに聞こえるオウシュの声。


チッと舌打ちをし、その場へ到着したときにはもうサヤはいなかった。

そして、予想通りオウシュも。


あああ!畜生!調査なんて中断してすぐに来れば良かった!


到着した俺が髪をむしりながらしゃがみ込むと、ラーゴが俺の肩に降り立ってくる。

そんな俺にラーゴは心配しているのかも知らないが、俺はおまえにも怒っているんだよ。


この役立たずとばかりに肩に乗っているラーゴを睨みつけると、ラーゴは逃げもせずしょんぼりと顔を伏せた。

反省はしているらしい。


「道久」

トーヤが情けない声音で俺の名を呼ぶ。


俺はトーヤの顔を見て溜め息をつき、立ち上がる。


「別にお前のせいじゃないよ。一番悪いのはサヤだから」


トーヤの人を疑うことはしない点はサヤ並みだが、トーヤの場合は警戒の心を忘れることはない。

ただ、それがサヤの行動まで警戒・監視できるかといえば、サヤを自由に行動させたいトーヤではできないだろう。

だからこういうことは防げない。


そう、サヤが気を付けるべきなのだ。

会話から察するに、この屋敷の主はオウシュと関わりがある。

そして、ピラートが幼い声をしていた様子から、サヤ好みの外見をしていたのだろう。

だからって、こんなことだけであの無防備さ加減。

アホか!


くそ、なんであんなに力があるのに、あんなに能天気なんだ。

力と能天気さ加減が比例しているぞ。


俺の中で怒りがフツフツ湧いてくる。


「すまない、俺の責任でもある。オウシュがついているから大丈夫だと思うが…」


俺にとってはオウシュだけ付いているっていうのも心配なんだよ。

盗聴の術は何やら妨害されているのか、聞こえないしな。

あああ、イライラする。


俺のイライラ加減にラーゴも恐れたのか、トーヤの方へ飛んでいった。


「申し訳ありません、道久様」

すると、息を切らしたアヤメが現れた。


おそらく俺を町で待っていたが、俺が町へ着くなり一瞬で屋敷に移動したので、慌てて追ってきたのだろう。


俺はアヤメを睨みつける。

アヤメに恨みがないが、オウシュの従者だ。

俺にとっては、アヤメもこの屋敷へ向かおうとうながしたオウシュと共に同罪と言える。


「で、何なの?この屋敷」


俺が鋭く質問を投げかければ、アヤメはすぐに答えた。


「はい、ここは遙か昔の救世主が住まわれていたという屋敷です。現在はその子孫であるハルス様が当主なっております」


「ということは、この怪しい林の小道はそいつが作っているというわけか…」

俺は辺りの気を探った。


さっきから感じる闇の気配。

だが馴染みのない気配だった。

そして、空間に違和感を感じる。

多分、俺の視認転移ではここは突破できないと感じる。


「シルフィア」


「ええ、ご主人様の思う通り、ここは見た目は林ですが異空間で捻じ曲げられております。普通にこの小道を歩いても屋敷につくことはないでしょう」


「じゃあ、そいつも闇の精霊の使い手か」


シルフィアがこくりと頷き、次には笑みを浮かべていた。

「ご主人様よりも使役している精霊数は1つ多いようですが、私よりは格下の精霊ですね」


「じゃあ、どうにかしろ」

俺が不機嫌丸出しに命令すると、シルフィアは嬉しそうに微笑む。


「かしこましました。少々粗っぽいことを致しますので、皆様、少しこの中へ入って頂けますか?」

そう言うと、シルフィアは数人が入れる長方形の小部屋を出現させる。

その小部屋の壁は半透明の黒い膜のようになっていた。


俺はすぐにその小部屋の壁を突き抜けるようにして通る。

この小部屋には扉がない。

しかし、壁自体には実態もない。

要するに生身では触れない壁なので、すんなり入ることができるのだ。


俺にならって、トーヤ、アヤメ、ラーゴも小部屋へ入ってくる。

それを確認すると、シルフィアは俺達に向かって恭しく一礼した。


「では皆々様、少々お待ちくださいませ」


そう言うと、シルフィアは屋敷の方へ向き、何やら力を集め出した。

シルフィアに闇の精霊が集まり、その場を支配していくことがわかる。


ここの林は、闇の精霊が多く存在していた。

闇の精霊は空間を操る能力にけている。

その闇の精霊の空間能力を軸に、他の精霊、おそらく光と土の力を借り、更に何かの術式を組み込んでその場を作っていたんだろう。


だが、それもシルフィアがここの闇の精霊を傘下に置くことにより、バランスが崩れていく。

バランスが崩れれば、その空間は壊れる。


空間が壊れる手前に、一瞬だけ闇がその場を覆った。

そして、次には何かがはじけたような感覚が身体を突き抜けた。

このシルフィアの闇の小部屋がなければ、その衝撃に巻き込まれていたことだろう。


その一瞬の衝撃後、景色が変わっていた。

そこに林はない。

屋敷まで続く一本道と、ところどころに生えている木々のみ。


仕事を終えたシルフィアは、満足そうに頬を染め、俺達に向き直った。


「どうぞ、皆様お通り下さいませ」

そう言うと、一礼する。


俺は自然に笑みを浮かべた。


さすが俺の精霊。


その気持ちが伝わったのか、シルフィアはにっこりと俺に笑いかけた。


後は……


「トーヤ、サヤの場所はわかるか?」

サヤの気配に一番敏感な男に問いかけた。


「ああ、だいたいわかる。サヤはあの屋敷の中央3階あたりだ」

そうスラリと答えるトーヤ。


さすが案内者だけあって救世主に敏感だ。

救世主を求めて、異世界を何十億年と探していただけある。


そのとき、突然俺の盗聴の術が復活し、声が聞こえてくる。


「………なら尚更たちが悪い。何をするつもりだった」

最初に聞こえてきたのはオウシュの声だ。


「いえ、ただちょっといろいろ質問を……アチッ!」

そして、聞き覚えのない声。

おそらくこの屋敷の当主ハルスだろう。


「アチ!って、わ!アツ!」

ハルスはオウシュ何かされているのか、ひたすら熱がっている。


俺はその声を聞き、とりあえず、オウシュが事を済ましていることに安堵した。

この様子だとサヤに何かが起きてはいないだろう。


「オウシュ様、申し訳ありませんでした。今後、このようなこと絶対にしません。誓います!」


「信用ならないな」


二人の会話の攻防が続き、熱がっているハルスの声。


すると、サヤの声が聞こえた。

「ねぇ、オウシュ」


サヤの声掛けに答えないオウシュに、俺は悪い予感を感じた。


「オウシュってば!」

さらにムキになるサヤの声。


俺はトーヤのマントのえり部分を無理やりつかみ、トーヤの言う場所辺りに転移する。

少し焦ったせいか、サヤの気配がどの部屋なのかすぐに判断できない。


「サヤから責まられるというのもいいものだな」

すると、オウシュが愛しさと嬉しさが混ざる声を発した。


サヤのいる部屋をようやく確認した俺は、チッと舌打ちをしながらその場へ転移した。

転移した部屋で目に映るのは、オウシュに抱き抱えられて頬を染めて見つめ合っているサヤだった。


俺はトーヤの襟を離し、怒りにまかせてサヤをオウシュから奪い去る。

その時の俺は無意識に風と同化していた。


自分の腕の中にいるサヤを見つめる。

びっくりした顔であったけれど、可愛く頬を染めて潤んだ目をしていた。

身体も熱がこもっている。


そうさせたのがオウシュだと思うと、怒りでどうにかなりそうだ。

今の俺には“はらわたが煮えくり返る”という言葉がしっくりくる。


しかし、同時に自分の腕の中に納まっているサヤに安堵も覚えた。

サヤの匂い、体温が俺を冷静にさせる。


「はぁ、本当やだ。少し目を離すとこれなんだよな」

溜め息と共に思わず本音が漏れた。


すると、サヤが戸惑いながら俺の名を呼ぶ。

「…ミッチー」


俺はその声で、サヤの無防備さ加減などを思い出したので、とりあえず睨みを利かせた。

多少反省してもらわないと気が済まない。


そして、何か言ってやろうかと思っていたところ、水を差すように素っ頓狂な声が響き渡った。

「す、素晴らしい!どうやってここに!しかもオウシュ様からサヤ様をいとも簡単に奪うとは!!先ほどはいらっしゃいませんでしたよね?貴方様はどなた様なのですか!?」


これが救世主の子孫ハルスか。


俺は無視し、サヤを睨み続けていた。

というか、ハルスのせいで言葉が出てこず、睨むしかなかったのだが。


………。

睨みながら、俺にびくついているサヤがかわいいと思ってしまう自分が憎い。

だめだ、怒りが持続しそうもない。

内心、自分に呆れるものの、サヤがびくついて俺から目を逸らさないので、その機会に甘んじて俺は睨みをやめない。


これって、今のサヤは俺しか見えていない状況だろ?それってすごい独占じゃないか。


すると、トーヤの落ち着いた声が響く。

「みんな、落ち着いて」


正直、トーヤが仲裁に入るとは意外だ。


「オウシュ。あなたはサヤを守ろうとしたことにはお礼を言いたい。けれど、サヤのその様子だとやりすぎたこともあるだろう?そこは反省して怒りを治めてくれ。道久。君はサヤを睨み過ぎだ。とうのとっくにサヤの許容範囲を超えているんだよ。そこで睨んでもはっきりいって無意味だ。サヤを困らせるだけだよ。そして、君は……」


冷静に分析して、オウシュと俺に説教をするトーヤ。

こういったことは地球にいた頃はなかった。


トーヤの言葉に継ぎ足すように、ハルスは言う。

「ハルス・ホシプリットと申します。以後お見知り置き頂ければ光栄です」


喜びが混じるハルスの紹介であったが、トーヤの声は一気に冷たくなる。

「ああ、そうか。君が子孫ということか、ハルス。確かにあのの面影があるね。雰囲気もどことなく似ているよ」


そして、その冷たい声に怒りが混ざる。

「けれど、今回はやりすぎだよ。俺の存在に気付いているのなら尚更だ。サヤが救世主だということはわかっての行動なのだろう?世界を滅亡させるつもりか?」


シンッとその場が静まった。


トーヤ、本当に変わったんだな。

今のお前はイキイキしているよ。

これが本当のお前だったのか。


地球にいた頃のトーヤを思い出す。

俺とサヤに対しては多少感情を表していたがどこか不自然だった。

どこか何かが足りていない。


そんな違和感をなくそうと、俺はいろいろトーヤへ世話をしたり、からかったりしていたのだが、あまり功を奏していなかったようで、ある意味俺の操り人形のようになってしまっていた。

まぁ、それも面白かったというのも事実だが、本当のトーヤが見たかったというのも事実だ。


それをやっとここで見た気がした。

トーリヤータとトーヤの融合の結果というわけか。


俺は思わず嬉々としてその場を眺めていた。


「滅相もございません、トーリヤータ様。貴方様は私の祖先の恩人でもあります。貴方様が御怒りになるようなお姿、誰が望むでしょうか」


「確かに俺はトーリヤータだった。だが、先ほどトーヤと紹介しただろう。なのに俺をトーリヤータと呼ぶのは失礼に値すると思わないか?」


「申し訳ございません、トーヤ様」


うまいやり取りだ。

怒るとそう言う風になるんだな、トーヤ。


すると、トーヤはサヤに顔を向けた。

サヤに顔を向けたということは、俺に向けているようなもので。


その表情は、先ほどの怒りはどこへやら、愛しさに満ちあふれた表情をしていた。


「サヤ、君は余りにも無防備すぎだよ。これでは周りがいくら心配してもしきれない。……でも、そうやってすぐに周りを信頼してしまうサヤは心配ではあるけれど、そういうサヤが好きだという気持ちがあるんだ。どうしたらよいのだろうね」


トーヤは困った表情を浮かべる。

だが、本当には困っていない。

むしろそういうサヤに対し、喜びを感じている顔だ。

愛しくて仕方がないという喜びの顔。


これは…………。


「うん、俺はとりあえずサヤが笑ってくれることが嬉しい。だからサヤはサヤのままでいて」


俺は驚きで見ていなかったが、サヤが多少なりとも笑みを浮かべたのだろう。

それに答えたのだろうトーヤの表情には、純粋で清らかな微笑みが浮かんでいた。


これが本物の王子スマイルか。

地球でファンの女共へ送っていた笑顔とは似ても似つかない、本物の笑顔。


トーヤがサヤを姉なんて思っていないのは気付いていた。

トーヤにとって大切な存在なのはサヤ。

それは地球のトーヤもかわらない。

でもトーリヤータと一緒になったトーヤ。

二人が一人になったトーヤ。

そのトーヤは……。


俺がもう一人のライバルを認識した瞬間だった。

シルフィアです。

皆様、お楽しみいただけましたか?

「前編よりも後編の方がテンポよくできた」などとミモリが呟いていましたが、さてどうでしょうね。


ミモリはいいとして、私の力はすごいでしょう?

闇の精霊でも上級ですからね。

あんな下品な色のウサギごときに負けるわけがありません。

道久様にもお喜び頂けたようで何よりでございました。


フフフ、でも喜び頂いている顔もいいのですが、嫉妬に駆られる道久様も一興ですね。

あら、口が滑りました。

内緒ですよ。


それでは皆様ごきげんよう。

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