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16. 海辺の町シールヒ - オウシュ-

俺と道久の言動に何やら開き直り、加えて怒りで燃えていたサヤはすごかった。


俺達のことはまったく無視をして、ラーゴと半ば無理やりにヒュリヤを連れてモヒュケの村へ入る。

入ったものの、闇にのまれた心の獣人達はいい顔をするわけがない。


当初、ヒュリヤを仲介として村の獣人たちを穏便に治療するつもりだったのだろうが、いかんせんヒュリヤを仲介者にしたのが悪かったのだろう。


そう、ヒュリヤは全く村の者達から信用がなかった。


こんなにも闇に浸食されていることがなければ、まだ良かったのかもしれない。

それにしてもひどいものだ。


「ヒュリヤ!おまえは今度は人間なんぞに!どうして帰ってきた!?」


「人間を連れてくるだと!お前寝返ったか!」


「この魔女め!村へまた不幸をおよぼすつもりか!」


「この疫病神が!!」


などと、村の者は口々に言葉にしていたのだから。

止まない罵詈雑言に、さすがのヒュリヤも青ざめ硬直してしまったようだ。


そんな様子をサヤが黙っているわけもなく、先ほどの怒りもこの状況に上乗せして力を行使した。


いやはや、さすがサヤ。

普通はこういう治療系の力を使う場合、こんな怒り任せはありえないのだが、サヤは見事に怒り寄りの力任せだった。

手を前に突き出すと、それと同時に闇を光へ変える波動が村人を貫いていった。

あんなに激しい波動であったのに、闇に浸食した心をきちんと治す波動。


ちなみに俺とアヤメを助けるために闇の化け物を消した力とは似ているようで全く質が異なっている。

あれは攻撃につきる力であったが、これはちゃんと獣人たちを守ろうとする力で成り立っていた。


しかし不思議に思うよ、どうやったらそんな風に怒り任せで治療ができるのか。

俺がもしサヤと同じ力を持っていたら殺しているだろう。


不思議なサヤ。


サヤを知れば知るほど惹かれてしまう。

道久の閉じ込めたい気持ちもわかるが、俺はやはりサヤを自由に飛ばして愛でていたい。

こんなに面白いのに、鳥籠に閉じ込めてしまってはもったいない。


まぁ、もしサヤが俺の元で落ち着いて暮らしたいと言えば、大歓迎だ。

そのときは俺がサヤをかき回してやろう。

それもきっと楽しい。


道久に視線を移せば、丁度欠伸をしていた。

俺の視線に気付いた道久は、面白くなさそうな顔をしながらこちらに寄ってきた。


「オウシュ、どうせこの村はすぐに去るんだろうから改めて言っておくが、シールヒはおまえがどうにかしろよ。俺がトリヒに復興の為の人員を派遣しようとしたら、おまえのせいで町が機能していなかったんだからな」


「………大体予想はできるが。考えたくないな」


「……着いたら面白いものがみれるかもな」

ニヤニヤした顔で俺を見る道久。


最悪だ。嫌な予感がする。

気分が一気に萎えた。

詳しく知りたい気もするが、ここで道久が情報をくれるわけもないので詮索するつもりもない。


本来の俺であればそんな町無視しているのだが、いかんせんそれはサヤが認めてくれない気がする。

今回サヤの俺への評価が下がっている恐れもあるので、無難に解決するべきなのだろう。


「それはいいとして、トリヒにはなぜいかない?復興が必要なほどの打撃を受けているということだろう?」


俺の問いに道久は面倒臭そうに答えた。


「怪我人が多く、復興作業が間に合っていないのが現状だ。だが、サヤはそこに行かせるべきでない。あいつがいけば、簡単に怪我人を治療してしまうんだろうが、一般の奴にあの力を見せたらどんな反応が返ってくるかわからない。あの力、異常なのだろう?」


そういうことか。

確かに一般人に見せた場合、どんな噂が広まり、どんな輩につけ狙われることになるかわからない。

この一団の力は常人を凌駕し過ぎていて、そう簡単に何かされることはないと思うが、下手な面倒事はさけたい。


納得はしたが、道久と珍しく真面目な会話をしているので、もう少し会話を続けてみようか。


「あの力は異常だ。神の力と同等と考えていいのだろう。長年生きてきた俺でもあんな力は見たことがないよ。お前達の世界でどうあったかはしらないが」


「あっちの世界にいた頃はあそこまでの力はなかった。そもそも精霊とか魔法とかはないからな。まぁ、それにしてもサヤは別格だったよ」


「別格ね…。お前達はあちらの世界で何をしていたのだ?」


「ん?学生」


答えが短すぎる……が、それも事実なのだろうし、道久はこれ以上答えるつもりはなさそうだ。


それにしても、サヤ達の世界はこちらと大分違うようだな。

精霊も魔法もないとはな。

その割にサヤも道久も精霊を使いこなしているようだが、…そうだな、サヤに関しては慣れているとはいえない。

だが、道久に至っては術と精霊をうまく応用して、使い慣れている。

あれはもう熟練された精霊使い、いや何やら術との応用までしているのだから、それ以上。

加えて希少な闇の精霊を使役しているあたり、こいつの力もいい加減に異常だ。


案内人も救世主も元から繰り返し現れてきた者達だから、サヤが特別といってもたまたまサヤの代で女神の力が如実に出たとも考えらえる。

だが、道久のような者が一緒に来ることはなかった。

道久は異分子。

さてこれがどう世界に影響するのか。

案外、拍子抜けする結果になったりしてな。

どちらにしても今回の救済は楽しみだ。


俺がそんなことを考えていると、道久も何やら考えているようだった。


そしておもむろに言う。

「思うに異世界へ飛ばされるときに力を加えられた、もしくはこの異世界であるべき姿にされたか。この異世界語もその時に付与されたのはあきらかだしな。オウシュ、過去の救世主を見ていたんだろ?どんな奴らだった?」


過去の救世主は奴ら扱いか。

サヤ以外どうでも良さそうだな、同感だが。


「救世主はいろいろだ。サヤのような人の姿をしている者もいれば、獣人、エルフ、魔族だったりもする。しかし、覚醒して金瞳になる者はいなかったように思う。元々から金瞳の者はいたが、それもサヤの瞳の輝きに比べるとくすんで見えた」


「ふーん、今回はイレギュラーだらけってことか」


自分自身もそのイレギュラーとわかっているのか。

いや、道久のことだわかった上での発言なのだろう。


「そういえば、俺達が現れたこの場所が世界の中で一番闇の気配が濃くなっていた場所だったと判断していたけど、合ってる?」


この質問からすると、案内者であるトーヤが転移先としてこの場所になった理由、こいつも考えていたのだろう。


道久は知らないだろうが、今までの案内者は神殿近くに転移していた。

今回のことで、俺は“案内者は神殿に現れる”という認識を改め直した。

おそらく“闇が一番濃い場所に転移していた”という方が正しい。


道久は過去を知らなくても、似たようなことを考えていそうだ。


「お前の予想通りだよ。ここが一番ひどいから俺とアヤメが調査しにきていた。おそらくここより悪い所はないと思うが、別の場所に調査へ行かせた者達と一度連絡を取らないと断言はできないな」


あいつらの力量なら余程のことがない限りは無事だと思うが、予想外ということもありえる。

早々に一度連絡を取るべきだろう。


「しかし、お前の力は便利だな。今度手合わせしろ」


ダメ元で試合を申し込んでみる。

途端に道久の顔がゲッと歪んだ。


「お前、唐突だな。絶対やだね。考えるまでもないだろ。お前の方が明らかに力量が上だしな」


「いや、お前の力は変わっているからいい線までいくだろ」


「勝つこと前提で言ってんじゃねーよ、腹立つな。俺じゃなくてトーヤにでも相手してもらえ。あいつは暇人だ」


確かに今回の案内者であるトーヤは暇人だ。

道久が動きまわっているから、動く必要がなくなっている。

だが……。


「トーヤの力は大体予想できるうえに、戦い方が正統派過ぎてつまらん」


「……わがままいってんじゃねーよ」


「じゃあ、サヤにでも頼むかな」


俺の発言は珍しく予想外だったようで、道久は目を見開いていた。


「……おまえがサヤに攻撃できるとは思えないが」


「もちろん通常の攻撃するつもりはないよ。傷つけない術も多数知っているからな。罠にかけて閉じ込めて、いや、拘束する方が楽しいかな」


力も術の種類も多いサヤだが、変に裏をかくような攻撃はしないだろうし、そもそもその単純さ所以から簡単に俺の策に嵌まりそうだ。

とはいえ、力任せに術を破られることも考慮しておかないと痛い目にあうのも事実。

それもいくつかの術を組み合わせて雁字搦めにすればそれも防げるか。


いろいろ頭で想像するだけで、これは結構面白いと思ってしまった。

何より、サヤを捕えるという過程も、その後もそそられる。


思わずにやける俺を道久は呆れと共に冷たい視線を送ってくる。


「わかったから変な想像してんな。」

そして道久は溜め息をついた。


「俺がやる」


道久の了承を得られた。

これは俺にとっては結構嬉しいことだ。


「けど、おまえもわかっているだろ。あの二人のおりをするのは結構労力いるんだよ。だから、暇なときにな」


「では、早く救済をしてしまおう」


道久の答えは、救済をしなければ俺に暇はないと言っているようなものだ。


昔の案内者なら違っただろうが、今の案内者であるトーヤはサヤを守ることを主においており、周りのことはまったく気にしていない。

そうなった理由として、信頼できる道久がいることにより、サヤ周辺だけ守ればよいと認識しているだろう。


この関係性は、おそらく3人で過ごした前の世界での生活がそういう役割にしたのだろうが、道久とやり合いたい俺としては少しばかり不服だ。


「そんなに俺とやり合いたいのかよ」


道久が俺の不機嫌そうな表情に溜め息をつく。


「お前だってサヤが優先だろう?救済さえうまくいけば、なんとでもなるさ」

そして不敵な笑みを浮かべる。


道久は口は悪いがサヤが認めた者ならば面倒見が良……なんて思ったことは心にしまっておこう。

顔に出したものならば、何されるかわからん。


「お、サヤ終わったみたいだな」


道久の目線を追えば、モヒュケの獣人族全ての者に土下座されているサヤがいた。


サヤの顔はまだ怒っている。

闇に浸食されていたとはいえ、ヒュリヤに対しての発言が許せていないみたいだ。

闇に浸食された心は、汚い心の部分を肥大させ攻撃的になるのだが、すなわち心の奥底の本音ともいえる。

ヒュリヤが“疫病神”なんて言われたということは、過去何かしら問題を起こした。

それで村から追い出したとかそんなものだろう。


しかし、サヤはお人好しだな。

ヒュリヤのことがかわいいと思っている為か、何をされても許している節がある。


ヒュリヤの本質を見ると結構などす黒さの心の有り様で、あれでよく闇耐性が強いなと感心するくらいなのだが、…いや、元々どす黒いからこそ闇耐性が強いのか。

ん?少し普通と体質が違うようだが、それが関連しているのか。

まぁ、どうでもよいか。


道久がヒュリヤに対して下していた評価は概ねその通りだ。

あれは我が身かわいさに平気で寝返るような者。

サヤの傍に置いておくのはあまり良いとは思わないが、サヤはどうも気に入っているようだから俺は良しとしている。

何かされたとき、報復すればよいだけだ。

そもそもあんな小者程度に何かできるとは思えないしな。


そうだな、あれは小間使いに丁度良さそうだ。


道久が瞬時にサヤの元へ動いていた。

あれも道久のオリジナルの技だろうな。

俺にはできそうもない。


神鬼は元々自分の中に神力や魔力といった力を持っているが、精霊を使役することはできない。

代わりに過去を見るという特殊能力から、古代語や古代魔術等を使用することができるのだが、俺としては精霊も使役してみたかった。

いちいち式を組む必要もなく力を行使できる技はうらやましい。

無式もできることができるが、大きな技ではやはり式は必要だ。

紙に書いておけば取り出しての使用が可能だが、戦いの場ではそれも煩わしい。


なんてことを考えていると、道久はサヤから拳をくらいそうになっていた。

そこは受けずに避けるところが道久だ。

サヤが悔しそうな顔をしながらどうにか当てようと頑張っているようだが、全て避ける道久。


俺ならサヤの拳くらい全て受けてもいい。


しかし、まだサヤは俺達を少し怒っているようだな。

良かれと思って言い合いをしていたが、実際、自分があれを言われていたらバカにされた気分になっただろう。

ましてや半分からかっていたのも事実だから、怒って当然だ。


不意にシルフィアがサヤの近くに現れ、転移の扉を出す。

そして、シルフィアと共にサヤはさっさと扉をくぐってしまった。


「アヤメ」

俺は近くに控えている者の名を呼ぶ。


「はい」


「シールヒはどうなっていると思う?」

あまり想像したくないので、アヤメに聞いてみた。


「……そうですね。道久様の口調から察しますと、未だオウシュ様の美貌に酔っている女性達だらけということですかね」

そしてふと思いついたのか、言葉を付け足した。

「変なもの、出回ってないといいですね」


なんだ、変なものって。


思わず溜息がもれる。


「行くぞ」


置いて行かれないうちに扉を潜らなければな。


俺とアヤメは転移の扉へ向かった、途中、フードを目深にかぶりながら。



******************



俺は着いた早々辟易していた。


道久が言う“面白いもの”

アヤメが言う“変なもの”


これがわかったからだ。

何を考えているんだ、人間の女共は。

いや、中には獣人や魔族もちらほら混ざっているが、これをした首謀者は人間で間違いないだろう。


「これ、オウシュよね?何かしたの?」


売っている肖像画を見ながら俺に聞いてくるサヤ。

どうやら、この肖像画で怒りはどこかへ置いてきたらしい。


サヤは町へ到着するなり、あきらかに俺だとわかる肖像画が目に入り、びっくりしていたようだ。

俺が到着したときにはすでに怒りはどこへやら…といった状態だった。

そろそろ怒りを鎮めようかと思っていた矢先だったので、そこはこの肖像画に少しだけ感謝しよう。


しかし、似てない、俺を彷彿とはさせるが、下手くそだ。

……腹立たしい。


俺は苦々しく答える。

「町を歩いただけだ」


「歩いただけでこれって……。もしかして大人の方?」


サヤはわかっていても、つい確認を取りたいのだろう。

肖像画を見れば一応青年版の方だとわかりそうなものなのだが、サヤの表情は戸惑っていたからな。


サヤの問い掛けに俺は頷く。


俺の頷きに、サヤは町を見回した。


そして目に映るのは何かに取り憑かれたかのよう町の女共の姿。

肖像画を持っている者は見ては溜め息、持っていないものも宙を見ては溜め息、店番をしているものもお客そっちのけで椅子に座って溜め息。


なんだこれは、本当に取り憑かれているんじゃないか。


すると、後ろで道久が笑いながら言う。

「クックック。お前に取り憑かれてるんじゃないか?」


こいつは心読の術でも持っているのか。


憮然とした顔で道久を睨むも道久は笑っている。


「ねぇねぇ、本当に何もしていないの?」


サヤが曇りのない瞳で問いかけてくる。


周りがひどいだけに、サヤの表情がまぶしいな。


「断じて何もしていない。しかも早々に町は出ている」


すると、すかさずアヤメが余計な口を挟んだ。

「ええ、私が保証致します。オウシュ様は町へ入って早々に行列を作られたので町から退散致しました」


それを聞いた道久が吹き出していた。

放っておこう。


というか、アヤメ、お前少し面白がっているだろう。

覚えていろ。


「トーヤ以外でこういうの初めて見た」

サヤが感心したようにつぶやいていた。

そして「トーヤよりすごい」と小声で言っていたのも聞こえた。


こんなところで感心して欲しくなかったな。


そのトーヤに目を向ければ、少し考え事をしているようだ。

何か思うところがありそうなので声をかけてみる。


「おい、トーヤ」


俺が呼びかければ、トーヤは答えてくれた。


「うん?ああ、これ多分…、若干だけど闇に心が侵食されていたから起こったんじゃないかな?といっても、それはただのきっかけだと思うけど」


やはり闇のせいじゃないか……


「じゃあ、私の浄化でこれ治るの?」


「いや、サヤの浄化が必要なほどではないよ。したとしても、現状は変わらないだろうね」


そこへ道久が笑いながら俺の肩に手を置いてきた。


「そういうこと、これお前がどうにかしてくれないとどうにもならないだよ。頼むな」


馴れ馴れしいので、肩の手は払う。


「女共をどうにかすればよいのだろう?言っておくが人員の手配はしないぞ」


ハイハイと頷きながら俺から離れる道久。

僅かだが俺の殺気を感じ取ったんだろう、勘が鋭い奴だ。


さて、さっさとこの状況を変えるか。


「サヤ、お願いがある」


「ん?」

俺の呼びかけにサヤは若干小首を傾げて俺を見つめる。


「ラーゴを借りたい」


宙から街並みを観察していたラーゴが、俺の声に反応してサヤの元へ降りてきた。


「いいよ。ラーゴ、オウシュの言うこと聞いてあげてね」

何も疑問を持たず、素直に了承してくれるサヤ。


サヤ、もう少し用途を聞くとかした方がいいと思うぞ。

俺としては、それだけ俺に気を許しているのかと嬉しいが、他の者にもこれだったらと考えると心配だな。

…確かにこれでは道久も心配で怒りもするだろうな。


視界から外れた場所で道久の溜め息が聞こえた気がした。


苦労人という言葉が頭をよぎり、内心笑いを堪えながらラーゴに話しかける。


「ラーゴ、よろしく頼む」


「キュゥイ♪」


ラーゴは元気に返事を返した。

素直なところがサヤに似ているな。

別段動物好きというわけではないのだが、サヤの精霊だと思うと途端に可愛く思えるのだから不思議だ。

思わず、自然な笑みがこぼれた。


面倒だと思っていたが、サヤの精霊を借りられるのなら悪くないな。

さて、行ってくるか。


俺は一団から離れた。



******************



一団から離れ、人気のない小道に移動する。


「アヤメ、お前はとりあえず、仮面を買ってこい」


後ろについてきたアヤメを促す。

アヤメは仮面の意図を組んだようだが、仮面を購入するだけというのには不服らしい。


「お力添えは入りませんか?」


「今はいらん。早く行け」


俺は憮然と答える。

それに対し、アヤメは軽く会釈するとその場から離れていった。


「ラーゴ、俺を空に上げてくれ。そうだな、とりあえずあの辺かな」


俺が指さす方向をラーゴは確認すると、「キュ」と律儀に返事をした。


やはり、ラーゴはかわいいな。

サヤといるみたいな感覚を感じる。


ラーゴは一度俺の周りを旋回したと思ったら、俺の身体が宙を浮く。


「キュイ?」


どうやら様子を訊いているようだが……なるほど、これは面白い。

てっきり、ラーゴが俺を飛ばすと思ったのだが、少し違うようだ。


簡易的にだが、ラーゴは俺に風の精霊の加護を授けてくれたらしい。

俺の意思で自由に空を駆け回れる。


俺は面白くなって、無意味に空を駆け回ってしまった。

いや、完全な無意味ではない。

一応町の中心地を探してもいたのだから。

ただ、途中探していることを若干忘れただけだ。



「ここだな」


俺は町の中心となる上空へ来ていた。

ラーゴも傍にいる。

先ほど一緒になって空を駆け回っていたせいか機嫌が良さそうだ。


ラーゴが一緒になって駆け回ったのは楽しいという理由だけでなく、おそらく自分が離れると風の守護が切れるのだろうことがわかった。

途中、俺が突然方向変換をした際にラーゴがついてこれないときがあったのだが、その時一瞬ではあるが風の加護が弱まったのだ。


しかし加護を授けられるとか、そんなこと聞いたことがない。

精霊使いといえばエルフが代表だが、エルフがその技を秘匿しているかのどうか……。

今度調べてみよう。


ついつい余計なことに思考が行きがちな俺は、気を改めた。


宙で座禅を組み、町の気配を探る。

座禅する必要もないのだが、この恰好が一番集中できる。

今回使用する技は、個々に対してなら何度か使用したことがあるのだが、こんな町全体に対して行使したことがない。

おそらく集中力がものを言う。


俺の真眼は人の本質を見ることができる.

これはその応用だ。

個人を見るのではなく見る範囲を広げることで、その範囲にどういう者がいるのかを知ることができる。

範囲にもよるがある程度であれば情報を見ることも可能。

今回は町全体にかけるので、さすがに男女の区別と、あとはサヤ達位だろう。


ん?気付かなかったが、ヒュリヤもついて来ていたのだな。

サヤの周りをうろちょろしているようだ。

勝手に扉をくぐったのだろうが何が目的か……。

まぁ、いい。


俺は目的に集中する。


結構な量だ。

町一つなのだから、当たり前か。


俺は人差し指と中指を前に突出し、空に式を書き始める。

この式は人心を操る術式。

禁忌として封印されたこの術は、現世では既に忘れ去られている。

しかし、この式は神鬼の書庫に眠っていた。

おそらく好奇心旺盛な先祖が書き写したのだろう。

神鬼の里にはそんなものがたくさんある。


術式が完成した。

俺は更に古代語で呪を唱える。


『忘却』


その言葉は術式に組み込まれた。


本来、人心を操る術式に古代語は必要ないのだが、今回はこの大人数だ。

てっとり早くする為にも古代語を組み合わせたのだ。


「さぁ、俺のことは忘れろ」


俺はそうつぶやき、先ほど真眼で認識したこの町の女共の心にこの術を発動させた。



******************



「お疲れ様でした。オウシュ様」


地面へ降りると、アヤメに出迎えられた。

そして差し出される仮面。


目と鼻を覆うタイプだ。

鈍く光る白銀に小さな赤い宝石が煌めいている。

俺の髪と瞳を彷彿とさせ、違和感ないだろう。

まぁまぁなセンスだ。


俺はそれを受け取り、装着する。


「お似合いでございます」

俺を褒めるアヤメは無視し、先ほどの飛行で外れたフードを被り直す。


フードはしていた方が無難だろうな。

青年版までにいかないにしろ、美少年騒ぎにでもなったら面倒だ。

念には念をだ。


「さーて、アヤメ。俺は戻るがお前には仕事を言いつける」


アヤメが何事だろうと俺の顔色を窺っている。


「俺の肖像画を全て処分してこい。1枚でも残っていたら……わかっているな」


微笑を浮かべる俺に、アヤメの顔色は一気に青ざめた。

が、そこは慣れたもので、

「かしこまりました」

と一礼するとその場から消える。


正直、肖像画は放っておいても良かったのだが、これはアヤメが先ほど余計な口をきいた報復だ。


「ラーゴ、サヤのところへ戻ろう」


俺はラーゴに笑いかけ、サヤの元へと向かった。

お読み頂き、ありがとうございます。

ここのタイトルがどうも決まらない。

オウシュの回は少し長くなりがちな気がする。


アヤメさん涙目で回収+処分中。


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