6月20日 PM1:52 食堂
人類の食への意識は過去から現代に渡って変わってはいない。食べるという行為は生きる為に不可欠なことであり、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、人類はこの行為に愉悦を求め発展させてきた。調理法を生み出し、多種多様な料理を生み出した。時には命をも犠牲にしてまで。現代において美味なる料理というのは、一種の広報材料になりうる。学食の味の良し悪しというのも重要なファクターへと昇華されたのだ。
現代の流れと相反するように、目布高校の学食は味が良いとは言えない。しかし、馬場紫花は学食のラーメンが好きであった。化学調味料がふんだんに使用されたスープが舌を刺激し、いわばカップ麺中毒に近い感覚を得ている。
例の如く、紫花は学食で醤油ラーメンを一所懸命に口へと運んでいた。
「……香奈、会長にフられちゃったらしいよ。」
紫花が食事に夢中になっているうちに隣席には女子生徒のグループが陣取っていた。発言から察するにバレー部の宇多香奈の話をしているのだろう。彼女が生徒会長、五百旗頭武人に告白をしたというのはあまりに有名な話だ。
「えー、かわいそう。なんでふられたんだろうね。」
「正確に言うと、一度はOKされたんだけど、そのあと突然にことわられたらしいよ。」
「何それ、酷いね。」
彼女達の話は紫花にとって意外であった。五百旗頭にそのような軽佻浮薄な印象を抱いていなかったからだ。加えて、生徒会長が自らの評価を下げるような行動をとるだろうかという疑問も生まれた。
紫花はその後も、聞き耳を立てるも、女子生徒達の会話は他愛ない内容に挿げ替わり、五百旗頭に関する情報は得られなかった。 そして、ラーメンのスープを一気に飲み干し、席を立ち上がった。