Episode:82
ガラスの破片を何重にも重ねて作った独楽に、何本ものガラスの紐をつけたような、妙にキラキラした生き物がスクリーンに映った。
ヨーヨーア人だ。
今もそうだが、たいてい高速で回転していて、鞭のようなガラスの鱗付き触手でなぎ払われると、炭素系は大怪我どころではない。
「『二人の地球人』の片割れは、我ら同様数字に秀でていると聞いてはいたが……素晴らしい操船技術だ。賞賛する」
「ありがとうございます」
イノーラが嬉しそうに返す。
「皆様の船も、素晴らしい定位置です。
これだけきちんとした幾何模様を描けるなんて、皆様よほど数を理解なさっているのかと」
「炭素系にしておくのは惜しいな。そなたはとてもよく物事を理解している」
姪っ子とヨーヨーア人の軽快な(?)やり取りを見ながら、エルヴィラは置いてきぼり感を味わっていた。
珪素系の間では、数字に強いイノーラのほうが評価が高い。
彼らはエルヴィラたちを育ててくれたベニト人はじめ、生きたコンピューターのような種族が多かった。
だから地球で言う「理系」が優勢で、何でも数字が基本なのだ。
もちろんエルヴィラも、その機転や駆け引きの上手さを認められてはいる。
だが数字が苦手なせいで、イノーラに比べて評価は低かった。
あの時は気づかなかったが、自由になりたかった理由の一つに、「評価されたい」というのもあったのかもしれない。
そんなことを、今更ながらに思う。
重厚長大で論理と数式が評価される珪素系と、短小軽薄でスピードと機転が評価される炭素系。
エルヴィラに向いているのは後者の世界だ。そして商売の世界の主力は、機転が利く炭素系だ。
だから自分は、この道を選んだのだろう。
もっとも自分の隠れた本心に今頃気づいても、後戻りなど出来ないのだが……。
「いずれにせよ、そなたたちを歓迎する。そして守ろう。
それにしても、何故あんな輩に追われる羽目になったのだ?」
ヨーヨーア人から問われて、姪っ子がこちらを見た。こういう交渉ごとは、やはりやりたくないのだろう。
一息置いてエルヴィラは話し出す。
「この近隣にあるベテルギウスという星が超新星爆発を起こしたのは、ご存知ですよね?」
「もちろんだ」
当然の答えが返ってくる。
エルヴィラたちのように不慮の事故で遠方から突然来たなら別だが、宇宙を航行する際に周辺の情報を逐次チェックするのは、必須事項だ。
「で、その超新星爆発があのゴレモラス人共と、どういう関係がある?」
エルヴィラは、今までに起こったことをかいつまんで話し始めた。
ここへいきなり飛ばされたこと、移住の仲介をしたこと、報酬として本来立ち入り禁止の第四惑星へ着陸させてもらったこと……。
「そうして私たち、とある座標を見つけたのです」
第四惑星の様子は伏せたまま、エルヴィラはそう告げた。