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Space Shop! ~売られた地球を買い戻せ!~  作者: こっこ
第一章 世話焼き飛行は損のモト?
8/86

Episode:08

「チェック終了しましたわ。もともと老朽化している部分以外は、目立った損傷はありません」

 言いながら入ってくる姪っ子を見て、エルヴィラはため息をつく。まただ。


「イノーラ、その格好はダメって、前にも言ったよね」

 危険がないことが分かったからだろう、スペーススーツを脱いで身軽になっている。


 知的という言葉がよく合う端正な顔立ち。エキゾチックな黒髪と黒い瞳。スタイルも悪くはない。もう少しボリュームがあってもいいとは思うが、これは好みだろう。

 だが問題は、そういうことではなくて……。


「ベッドルームとバスルーム以外は、服を着なきゃダメ」

「でもおばさま、服というのは防護や保温、あるいは装飾のために着るものですわ。ここは安全で快適ですし、飾る必要もありませんから、着る必要を認めません」


 ペットとして育ったいちばんの弊害は、これではないかとエルヴィラは思う。


「だからさ、あたしたちもう、ペットじゃないんだから。動物みたいなマネやめなって」

「よく分かりませんわ。服を着るのが知的生命の条件なら、わたしたちの飼い主だったベニト人は、知的生命ではないということになります」


 イノーラの言うとおり、二人の飼い主だったベニト星人は服を着ない。堅牢な外殻を持つ珪素生命体なので、そもそも服を着る必要がなかった。

 納得しそうのない姪っ子にエルヴィラは頭を抱えたが、上手い説明を思いつく。


「ともかく着なきゃダメ。地球人のその格好は、ベニト人がボディペイントせずに外へ出るのと同じなんだから」


 イノーラの顔色が変わる。彼女の中で何かが繋がったらしい。

 チャンスを逃さず、エルヴィラはさらに畳み掛けた。


「それにそんな格好してるの見たら、地球の母さんたちが泣くよ?」

 先ほどの言葉と合わせて効いたようで、イノーラは硬い表情のまま身を翻し、自室へ戻った。


 そんな姪っ子の後姿を見ながら、エルヴィラは腹立たしさを覚える。

 イノーラにではない。あの子をそうさせてしまった、いろいろなことに対してだ。


 金魚か何かのように、作られた小さな環境の中で食べ物をもらい、やることすべてを鑑賞される生活。エルヴィラは頑として脱ぐのを拒んだために免れたが、服さえも与えられない、まさに「ペット」の扱い。

 幼かったイノーラは割と簡単に慣れてしまったが、それなりの年齢だったエルヴィラにとっては、それらは屈辱でしかなかった。



「このデータ、どこへ売る気ですの?」

 イノーラが服――正確に言うと薄布を巻いた程度だが――を着て、戻ってきた。

 これで流行の清楚な服でも着たら、地球ならモテるだろうに。姪っ子の姿にそんなことを思いながら、エルヴィラは答えた。


「もう情報屋と交渉して手配済み。思ったより高く売れそう」

「おばさまにしては、無難ですわね」

 服に引っかかった黒髪を整えながら、姪っ子は言い返す。


「あたしがいつも、妙なことしてるみたいな言い方じゃない」

「違いますの?」

 ああ言えばこう言うばかりで、本当にひねくれている。だが、責める気にはならなかった。


 要するにイノーラは、これが楽しいのだ。

 あまりにも幼いうちに親から引き離されたイノーラの、数少ない楽しみを、エルヴィラはやめさせようとは思わなかった。


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