Episode:79
「通話の依頼が入りました。応答しますか?」
「お願い」
答えながら、囲まれた理由を考える。
(やっぱり、この星系のことだろうなぁ……)
他にもいろいろ商売は重ねてきたが、どれも些細なものばかりだ。わざわざ船団で取り囲むには値しないし、だいいちそれなら、もっと以前にやられているだろう。
ネメイエスの移住先を零細の自分たちが見つけてしまったことか、それとも第四惑星の秘密を発見してしまったことか……ともかく、そのどちらかのはずだ。
ただ移住先に関しては、もう動かしようがなかった。
なにしろ既に契約済みで、両方が破棄しない限り覆せない。しかも個人間ではなく、星系政府同士の取引なのだ。
だとすれば、狙いは恐らく、あの次元接続何とか理論だろう。
(でも、渡せないよね……)
もしあれがソドム人の手に渡ったら、それこそ銀河系の危機だ。
「通信、繋がります」
「分かった。あと、短距離ジャンプで行ける範囲に居る船団、探して教えて」
そうイノーラに頼んで、エルヴィラは姿勢を正した。
映ったのは、コンパスのような生き物だった。要するにゴレモラサ人だ。
相手に合わせた合成映像を送ったりという、ネメイエス人のような細やかな心遣いは感じられない。
その彼等が口を開いた。
「我々が誰だか分かるな」
「申し訳ありませんが、分かりません」
そう答えてやる。
交渉をいきなり決裂させる気はないが、初っ端から横柄な言い方をされると、やはり腹が立つ。このくらいはいいだろう。
「なんだと! 第二ソドム人である我等を知らないと――」
「そうは言っていません。ただそちらのお名前は伺っていないので」
さっそく怒り出した相手を、適当にはぐらかす。
これがソドム人なら間違いなく問題にされて慰謝料を請求されるところだが、所詮はゴレモラサ人だ。あっさりと丸め込まれた。
「確かにそうだな、名前はお前に教えていなかったか」
「ええ。ですから分からないと申し上げました。それで、ご用件は何でしょう?」
慇懃無礼を絵に描いたような態度で、エルヴィラは対する。
もっとも向こうは星からして違うので、そういった皮肉な態度は、残念ながら伝わっていないようだった。
「用件はだな、お前達が第四惑星で知りえたものを渡して欲しい」
聞きながら、ずいぶんと常識外れだなと思う。
何かほしいなら、相応の対価を支払う。銀河のもっとも重要なルールだ。
なのにそういった交渉を全くせず、いきなり「渡せ」とは。
いずれにせよ、ほいほいと乗るわけにはいかなかった。
「景色の画像でしたらありますよ。お売りしましょうか」
「誰がそんなことを言った!」
予想通り、いきなり相手が激昂する。
(商売ヘタだなぁ……)
ゴレモラサ星人はすぐ「キレる」ことで有名だ。だからちょっと挑発すると、すぐ交渉のテーブルをひっくり返す。
――それこそが狙い目なのだが。
銀河文明は交渉のルールを厳密化することで争いを回避しているから、交渉のテーブルをひっくり返した場合には何も手に入らない。
それどころか持って行きかたによっては、賠償金騒ぎになる。
それをゴレモラサ人も分かっているはずなのだが、種族的に近視眼なのか、交渉が決裂することも少なくないとの話だった。
だから逆手にとってみたのだが、大当たりだ。
「第四惑星の秘密を、と言ったのだ!」
「初耳です。あの惑星に、そんな売れるような秘密が?」
エルヴィラの言葉に、息を呑むような声を相手が上げた。こういう返答は想定してなかったらしい。
「綺麗な惑星に見えたので、ネメイエス政府に掛け合って着陸許可を頂いたのですが……これはもう一度調べないと。政府のほうにもきちんと言わないといけませんね」
「ま、待て!」
相手が罠にかかった。