Episode:70
何かヒントはないかと次々読み進める。
『時間、無い』
『失敗、惑星全滅』
『実験中、暴走』
『安全なはずだった』
並ぶ物騒な言葉は、当時の状況をよく現していた。
情報屋やイノーラの言うとおり、ここで何かの実験が行われていたことは間違いない。
そして噂どおり致命的な失敗をし、星をあっという間に全滅させたのだ。
そうやって読んでいくうち、少し長めの文をエルヴィラは見つけた。
『星間戦争に備え武器を開発中、失敗。理論自体は重要にて、皆で書き残す。経緯詳細、端末内。駆動形式は……』
思わず小さくガッツポーズをとる。これで端末から情報を引き出せるかもしれない。
エルヴィラはすぐに船のメインコンピューター(地球のそれとはずいぶん機構が違うのだが)に、今見つけた駆動形式を入力した。
今度は該当星系が出る。
「そっか、そういうことだったんだ」
データでは、ごく一部で使われていただけの、しかも今は使われていない古い型だとある。
たぶんネメイエス第四惑星の、仕事や何かで星系外に居た生き残りが、この型の動力を使っていたのだろう。
そしておそらく、銀河連盟と交流を持ってから日の浅い文明だった可能性が高い。
だから植民惑星もなく、星系外へ出ていた人数も少なく、故に容易にデータベースから消せたのだ。
そうなると今度は、銀河連盟が何を消し去りたかったのかが気になってくる。
まぁ状況から見て、開発していた武器なのだろうが……。
ともかくヒントは得た。あとはこの形式に従って、端末を動かしてみるのが吉だろう。
エルヴィラは急いで貨物室へ向かった。端末を引っ張り出し、判明した駆動形式に従ってエネルギーを充填する。
(動くかな……?)
エルヴィラが心配しながら見守る中、端末がかすかな音を立てて動き始め、パネルに明かりが灯った。
「動いた!」
思わず声をあげる。が、それも一瞬だった。
「……読めないじゃない」
こともあろうに、中身が現地語だったのだ。
だがそれでも、データが生きていたことには変わりない。急いでエルヴィラは、端末のデータを片っ端から取り込んだ。
(これで、何かわかればいいんだけど)
そう思う目の前で、端末のパネルから明かりが消えた。
「あれ、壊れた?」
慌てて簡易スキャンをかけてみると、予想通りの答えが出る。あまりに古いものを稼働させたために、あっという間に壊れてしまったようだ。
(まぁ仕方ないか)
それにデータは既に転送してある。これだけでも相当違うはずだ。
こうなると残る端末も回収してこなくてはいけないが、それは明日以降だろう。
機械を見ていたり通信が入ったり文章を読んでいたりでつい忘れていたが、地球で言うならもう相当遅い時間だ。
明日は起きたらすぐ動こう、そう思いながらエルヴィラは、動かなくなった端末を片付けた。
動くもののない、何も音のしない巨大ホール。エルヴィラはまたあの場所へ来ていた。
昨日はあのあと、もう少しだけ写し取った文字を読んだ。
『反対したのに』
『実験場壊滅、ここも時間の問題』
『生体エネルギーを取られる』
『コントロール不能』
出てくる言葉はやはりどれも物騒で、絶望的な状態だったことがよく分かる。
――勝つためのはずの実験の、結末。
書いてある言葉が本当なら――嘘とはとても思えないが――この星はどこかと一触即発の状態で、起死回生の兵器として新しい理論を使うことを思いついたのだろう。
だがその矛先が向いたのは皮肉にも自分たちだった、ということのようだ。