Episode:68
このへんの感覚が自分はやっぱり違う、エルヴィラはつくづくそう思った。
確かにワープ航法まで持つような文明なら星系内は庭のようなもので、侵入した宇宙船を察知できる程度の警戒網は持っている。
そういう文明が、星を滅ぼすような隕石を見逃すわけがない。
「じゃぁ、いったいなんだろ……」
「さーなー。てか分かったら、噂のまんまになってないだろ」
情報屋の言葉は明るかったが、状況を知っているだけに、エルヴィラには事の大きさがよく分かった。
と、姪っ子が珍しく自分から口を開いた。
「その滅びた原因、次元理論かそれに類するものに関係する、という推測はありまして?」
「あれ、よく知ってるな。そういう説あるぜ」
情報屋が感心しながら話し出す。
「一応出処は、当時星系外に出てた人物が、死ぬ直前の友人から受け取った一連のメッセージってなってるんだけどさ。何でも、大掛かりなその手の実験をしてたらしい」
聞けばその人物は友人とかなり仲が良かったらしく、結構な量のメッセージがあったのだとか。
そしてそれには、異次元と繋ぐ実験をするとか、それがこれから行われるとか、そんなやり取りが記録されていたという。
「で、最後に〝実験が失敗したようだ。暴走して惑星が死滅するかもしれない〟で終わってたそうだ」
「へぇ……」
エルヴィラは初めて聞く話に感心しきりだったが、イノーラのほうは無言だった。
情報屋が軽く付け加える。
「けどこれも、噂だからなー。何か裏付けでも取れりゃ別だけどさ。ま、脱線しまくったけど、だいたいそんなとこだ」
「ありがと、また何かわかったらよろしくね」
頷く姿を最後に、情報屋からの通信が切れる。
要は自滅したことと、それが一夜にして起こったということを、知らせたかったのだろう。
となりの姪っ子はまだ無言だった。何かを真剣に考えているようだ。
「イノーラ、どしたの?」
「おばさま、今の話ですけどね……おそらく、本当ですわ」
そして彼女は「おばさまに理解できるか分かりませんが」と毒舌を前置いて、説明しだした。
「あの写し取った数式、ありましたわよね?」
「あの山のようなやつ? 何か分かったんだ?」
エルヴィラにしてみれば数式など、何があっても関わりたくないものの筆頭だ。
だがその中にヒントがあるというのは、ありえない話ではない。
「あの数式は大統一式からの派生と変形がかなり多く散見されます。そしてその最終行は次元理論の式に酷似していますのよ」
「えっと……」
それが滅びることとどう関係あるのか。
エルヴィラが悩んでいると、案の定姪っ子から冷ややかな視線が返ってきた。
「やっぱりおばさまには無理でしたわね。
――つまりあの会場では、平行宇宙か異次元に関するものを、研究していた可能性があるんです」
そう言われてもまだピンと来ない。
イノーラが大きくため息をついた。
「先ほど情報屋の方が、噂を披露してくださいましたよね?」
「あー、そうか」
やっと繋がる。
何か大規模な実験をしていた相手と、今回の会場。両方に共通して出てくる理論。
「あそこで研究されてたことが、滅びた原因かもしれない、ってことね」
「理解するのが遅すぎます」
「しょうがないでしょ、分かんなかったものは」
姪っ子は気づいた側で、こちらは説明を受けている側なのだ。同じ速さで分かるわけがない。
そもそもイノーラにだって苦手なことも出来ないことも山ほどあるのにそれは棚に上げて……とも思ったが、エルヴィラは言わなかった。
言えば言ったで後が面倒だ。
――それにしても。
地球人が考えつくような事態をはるかに上回る災害とは、なんだったのだろう。
もしかしたらここにこれ以上留まるのは、ブラックホールのシュヴァルツ半径ギリギリを歩き回るくらい、危険なことではないだろうか?