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Space Shop! ~売られた地球を買い戻せ!~  作者: こっこ
第三章 子供も逃げ出す大冒険?
62/86

Episode:62

 自分がペットとして売られた理由は、頭が良かったからだと聞いている。

 たぶん事実だろう。


 実際売られる前の時点で、教わらずとも文字は読み書き出来たし、掛け算くらいはこなしていた。

 一度聞いたら忘れないだけの記憶力もある。


 だがそれでも、「申し子」と言うには程遠い。それがイノーラの、自分に対する判断だった。

 申し子というならこの程度の数式、たちどころに解けなくてどうする。心底そう思う。


 ただ八進法だと気づいたことで、作業のスピードは上がってきた。

 銀河標準式と照らし合わせて、この星独自の演算記号もおおよそ分かってきているし、式そのものが理解できたものもある。


 恐らく、大統一式と関係があるだろう。

 銀河標準式と並べて書かれたものがあったため、これはかなり最初の時点で特定できた。

 そしてあちこちで、この変形式らしきものを見かける。


 だがその他は、見たこともない式ばかりだった。

 しかもそれらがどう繋がるのか、なかなか見えてこない。ジグソーパズル以上に難解だ。


 全体的には、何か次元を繋ぐものに見える。

 とはいえ勘でそう思うだけで、証明出来ていないから、未だ可能性のひとつに過ぎなかった。


 ため息をついて伸びをする。

 少し休憩したほうがいいだろう。

 薄布の裾を踏まないようにして立ち上がる。


(ジャマですわね……)


 叔母のエルヴィラが言うには、地球人にとっての服というのは、ベニト人のボディペイントに相当するらしい。

 だから仕方なく身に着けているが、ずっとペットとして裸で育ったイノーラにしてみると、ただただジャマなものでしかなかった。


 出来ればこの薄布は脱いで、ベニト人と同じようにボディペイントにしたい。


 だが「地球の親が泣く」というエルヴィラの一言が、イノーラに布を纏わせていた。

 もうおぼろな記憶でしかないが、母親を泣かせることは出来ない。


 ふと、いつか会えるのだろうか? と思った。

 飼い主の死という事態から銀河市民権を得るに至って、今は自由の身だ。

 ならば地球へ行くことも出来るのではないだろうか?


 ――自由。


 その言葉の持つ意味に、少しだけ気が付く。


 売られた先の環境は、イノーラにしてみればけして悪くなかった。

 たしかに母親とは引き離されてしまったが、ひもじい思いは一度もしていない。


 何より飼い主は自分のことをとても大事にしてくれた。

 望めばなんでも与えられ、学びたいと言えば大喜びで先生を探してくれ、難しい問題を解くとマスコミまでが来て、飼い主は鼻高々だった。


 そんな嬉しそうな飼い主を見るのが好きで、イノーラはさらに学んだのだ。

 だが思い返せば、すべて「箱の中」でだった。


 ベニト星の環境は、地球人が生きられる環境ではない。

 だから飼い主は莫大な額をかけて邸宅の一部を改造し、地球と同じ環境を作って、可能な限り一緒に暮らしてくれた。


 イノーラもそんな飼い主が大好きで、まさに親だと思っていた。

 けれど、箱の外へ出たことは無い。


 もちろん、連れ出してもらったことは数え切れないほどある。

 但しそれも別の箱へ入ってのことで、自身でどこかへ行こうとしたわけではない。常に行き先は、誰か他の人間が決めていたのだ。


 それに疑問を持たなかったのは……知らなかったからだろう。

 地球に居た頃も、ベニト星へ来てからも、自分で何か決める必要などなかったのだ。

 だが今はその気になれば、自分で決めることが出来る。


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