Episode:61
「もうひとつの、発生星系……」
非常に珍しいケースだが、これならば辻褄が合う。
そもそも発生星系というのは、恒星が変光星ではないとか、連星ではないとか、惑星の軌道がどれも真円に近いとか、宇宙規模で安定した環境のところが多い。
この星系も同じで太陽系によく似た環境だからこそ、木星型惑星だが、ネメイエス人が居るのだろう。
ならば地球によく似た第四惑星に、地球人に近い炭素系生物が生まれたとしても、おかしくはなかった。
なによりこれなら、第四惑星とその種族のデータが消せたことも納得がいく。
だが気づくと同時に、怖気が背中を伝った。
この星を植民惑星だと判断したのは、生命体の種類がとても少ないからだ。
発生星系は地球もそうだが、生命の宝庫といえるほど、どこも多種多様の生物であふれかえる。
なのにそれが植民惑星と間違うほど、生命体の種類が少ないということは。
「壊滅、だよね……」
あのホールで死を撒き散らし都市の隅々まで虐殺した「何か」は、最後はあふれ出して全土を覆ったのだ。
(い、今は平気だよね)
ちょっと震えてくる。
が、もうしばらくここに居るのになんでもないことに気づいて、少しほっとした。
あのホールの様子からして、その「何か」に掴まったが最後、かなり短時間のうちに死ぬのだろう。
だが自分もイノーラも災禍の中心と思われるところに足を踏み入れながら、いまだになんともない。
だから災禍は惑星を死に追いやった後、その効力を失ったに違いない。
「――イノーラ、呼ばなきゃ」
そんな言葉が口を突いて出た。
ただの推論だ。
何か根拠があるわけではない。
けれど、否定ができない。
いずれにせよこんな大きな事柄を、姪っ子に伝えないわけにはいかなかった。
ネメイエス星系第四惑星。名は知らない。
そこから収集した膨大な数式と、イノーラは文字通り格闘していた。
何しろホール全体に、居合わせた人が手分けして書いたとおぼしき状態だったのだ。
どれがどこにあったかは記録してあるが、それにしてもすべてが細切れで、何がなにやらという状態だった。
しかも一部は、数式でなく文字だった。
数式の間の文字だから、何か意味があるのだろうといろいろ調べてみたが、結局、銀河標準文字で書かれたただの文章で、時間の無駄になっただけだ。
加えて数式は、ほとんどがこの星独自の数字や記号で書かれていた。
そのためこの星特有の進法や記号の解明からになってしまい、ともかく効率が悪いことこの上ない。
ただ幸い、一部銀河標準式で書かれたものがあったので、それを頼りに少しずつ解いている。
とりあえずここまでで分かったのは、この星が八進法だということだ。
銀河標準式と並んでいたものをつき合わせて、やっとそれに気がついた。
そんな自分をイノーラは、どうしようもないと思う。
やれ神童だの何だの言われはしたが、たかが進法の違いに気づくのにこれだけ掛かっていて、何が数字の申し子なのだろうか?
体調不良により更新ができず、大変申し訳ありませんでした。
またしばらくの間、夜のみの更新とさせていただきます。
よろしくお願いします。