Episode:60
もちろん地球のように銀河文明に参加していない種族のものなら、こういう結果はあり得る。
文明が存在を知らない種族のデータが、あるわけがない。
だがこの第四惑星は違う。
文字だけでなく、標準式までが使われているのだ。銀河文明と付き合いがあったのは間違いないはずだ。
が、データは無い。
(どうなっちゃってるんだろう……)
もう一度よく考えてみる。
この惑星の情報が銀河政府のデータコアに無いのは、ここ数日の検索で分かっていた。
だがこの星は、おそらく植民惑星だ。だったら必ず住人が本来居た母星があり、機械類は概ねそこと共通のはずだ。
なのに、その情報さえも出てこない。
(けど種族丸ごとってのは、ちょっと大きすぎるよねぇ)
エルヴィラがいちばん引っかかるのはそこだった。
物事というのは規模が大きくなればなるほど、隠せなくなるものだ。
だからこのネメイエス第四惑星の情報は消せても、いくつもの星系にまたがる文明は消せないだろう。
必ず噂になるし、そもそも全員を虐殺しない限り根絶はさせられない。
けれど現状、見事なくらいに消えている。
なにしろこれだけ決定的な手がかりが在っても、母星がどこかさえ割り出せないのだ。
(もうひとつは、あんなにはっきりしてるのにさ――あれ?)
何かとても重大なことを、見落としている気がする。
この星系にあるもうひとつの文明、ネメイエス。発生星系だ。
そして目の前の、植民惑星。
(待って、待ってよ……発生星系に植民惑星って、ふつうはあり得ないよね)
「発生星系への植民は不可」。
契約の概念と並んで、銀河文明では最も重要視される不文律だ。
過去幾多の種族を滅ぼし、大規模な星間戦争の引き金ともなった植民の問題。
だからこれに関しては細かく明確に定められていて、生命体が存在すると認められた星系は、一切の植民が不可能になる。
地球が高度な科学力を持つ異星人に侵略されずに済んでいたのも、この不文律があればこそだ。
同じ理由でネメイエス人の生まれ故郷であるこの星系も、植民は不可能なはずだった。
なのに、もう一種族居る。
しかもネメイエスの神話に足跡を残しているから、少なくとも数千年前まで存在したはずだ。都市の保存状況とも、それならほぼ合致する。
星間戦争時代、十万年以上前にここへ植民して、それからずっと住んでいたという可能性も、もちろんゼロではない。
だがそうだとすると、かなり長期間栄えている種族ということになる。
星間戦争時代から文明が続いているようなところは、どれも有力種族だ。
悪名高いソドム人をはじめ、超高度な科学力で他を圧倒するナレプタリトゥア人、生身で宇宙を駆け一人で戦艦をも駆逐するというラルピニ人、生体演算機の異名を持ち珪素系生物の代表格といえるベニト人等、とても敵に回せるような相手ではない。
十万年という時間は、それだけの重みを持つ。
その名だたる大手種族を綺麗さっぱり、政府だけでなく民間のデータベースからも消すことなど不可能なのは、子供だって分かるだろう。
逆に言うならこの惑星の住人は、大手種族でもなく長い歴史を持っていないということだ。
だとすると、可能性は一つしか残らなかった。