Episode:06
「お待たせー」
少し経って映像が入り、エルヴィラは胸を撫で下ろす。茶目っ気を出されて変なことをされたらどうしようと心配していたが、映ったのはリクエスト通りの格好だ。これなら精神的なダメージは無い。
映し出されたのは金髪に翠の目、なのに肌は浅黒く、髭を生やし――何か髭に思い入れがあるのだろうか――腰に長い布を巻いただけの、割合精悍な中年男性という、やはり組み合わせ的にはどこか間違った姿だ。
ただそれでも熊オヤジのバニーガール姿に比べれば、破壊力はゼロと言ってよかった。
情報屋の種族は変幻自在、どんな姿でも取れる。
何でもかつて大きな星間戦争の際に、生き残りを掛けて種族全体を改造進化させ、この能力を得るに至ったのだそうだ。そして敵対するものに敵味方の区別がつかないようにさせ、同士討ちを多発させて戦争終結に持っていったのだとか。
その消極的かつ種族改造という手法は手段としてどうなんだ、と地球人のエルヴィラは思う。
だがいずれにせよ戦争はそれで終わりを迎え、彼らは今は銀河の中で、調停者や外交官として活躍していた。
なにしろ変幻自在だから、相対する相手と同じ姿がすぐ取れる。これが交渉の場で親近感を持たせるのにはとても有効で、彼らが間に入ると、話がまとまる率が非常に高いのだ。
ただ目の前の彼は、そういう「仲介者」は性に合わないらしい。交渉の場で有利に立つべく能力を利用するところまでは同じだが、その果実はもっぱら自分のために使っている。
そして好意を持った(ビジネス的にだが)エルヴィラたちには、能力を存分に使って破格の待遇をしてくれているわけだが……。
その結果が、時々ものすごい破壊力を持つのが困りものだ。
「こういうのが好みなのか?」
見た目は別人になった、好奇心いっぱいの顔で問いかけてくる情報屋に、エルヴィラは答えた。
「好みってわけじゃないけど、地球人感覚的にはまだアリかな」
「へぇ、覚えとくわ」
これはおかしな知識を植えつけたか……そう思ったが、エルヴィラは何も言わなかった。彼が地球人と関わることは当分無いだろうし、そうなれば改めてこっちに訊きにくるだろう。
「で、何の用なんだ?」
唐突に言われて首をひねる。熊オヤジバニーガールが頭の中に居座っていて、考えがまとまらない。
情報屋が続けた。
「そっちから連絡してきたんだから、なんか知りたいことがあるんだろ?」
「あ、そうだった」
やっと思い出す。宇宙蝶の売り先のことを訊こうと思っていたのだ。
エルヴィラは今までのいきさつをかいつまんで話した。
「そういうわけで、売り先を探してるの。どこか知らない?」
「んー、だったら俺が売ってやるよ」
珍しく情報屋のほうから、仲介を言い出す。
エルヴィラは警戒しながら、だがそれを見せないように茶化して問いかけた。
「どういう風の吹き回し? というか、仲介料ふっかけられても、あたしたち払えないわよ。貧乏なんだから」
「知ってるって。てかあんたから毟り取ったって、タカ知れてる。取るなら持ってるとこから取るさ」
こうもあっけらかんと本当のことを言われては、言い返す気にもならない。
苦笑しているエルヴィラへ、情報屋が続けた。
「実はさ、前々から宇宙蝶を追っかけてるヤツが客にいるんだ。そいつなら絶対高く買うぜ」
なるほど、と思う。
その相手が誰かは知らないが、面識の無いエルヴィラたちでは売りようが無い。だが情報屋が間に入れば確実に売れる。
売り物は欲しがっている人の居るところへ。商売の鉄則だ。