Episode:55
「何が起こったんだと思う?」
「見当もつきませんわ。
でももしかしたら、どこかに記録くらい残っているかもしれませんね」
さしもの姪っ子も、原因までは特定できないらしい。が、解明する気満々だ。
「そもそも、ここで何をしていたのか……あら?」
周辺をスキャンしていた姪っ子が、一点に視線を向けた。
「何かあったの?」
「ええ」
イノーラはそれだけ答え、ふわりと少し右下へ降りていく。
慌てて追うと、彼女は別の遺体――あまりそう思いたくない――のそばに舞い降りて、傍らを覗き込んだ。
「何か、引っ掻いた跡がありますわね」
「ほんとだ……」
姪っ子が指さす先を見ると、確かに薄い機械らしきもの――たぶん情報端末――の横、平らな表面を、何かとがったもので引っ掻いたような跡があった。
「文字ですわね。銀河標準文字かと」
イノーらが顔を近づけて断言した。
読んでみる。
「中……かな? それとも上かな」
引っかき傷の文字は歪んでいて、判別がうまくつけられない。
「――あら、こちらにも」
姪っ子がどこか嬉しそうに、別の死体の傍へと移動した。
「やっぱり端末の隣に……これは銀河標準数字?
大統一理論式と、何でしょう……?」
「……あたしパス」
早々に白旗を揚げる。
エルヴィラは、ともかく数字や式が苦手なのだ。
銀河文明の機械類は地球と同じで、根本原理など知らなくても使えるように出来ている。
だからエルヴィラは、宇宙船を勘と経験で操ることは出来ても、細かい計算は出来なかったりする。
ただ姪っ子は、そういう数式などに天賦の才があった。
それが宇宙を自在に駆ける銀河文明の中で、超高度な理系の教育を受けた結果、恐ろしいことになっている。
「見たことのない式ですわね……それにところどころ、間違っているような?
数字の書きかたが乱暴ですから、焦っていたのでしょうけれど」
死体の傍らで数式についてつぶやく若い娘というのは、見なかったことにしたくなるほどシュールだ。
なんだか頭痛を覚えながら、エルヴィラは少し辺りを歩き回ってみた。
(あれ……?)
よく見ると、死体らしきものはみな、傍に引っ掻き傷がある。
すぐに気付かなかったのは、引っかき方が場所によっては薄くて、光線の加減で見えなかったからだ。
「イノーラ、ごめん、ちょっとこっち来て!」
姪っ子を呼ぶ。