Episode:53
昨日と同じように出入口をくぐり、宙を歩く。
そうやってたどり着いた建物は、今まで見たどれよりも大きかった。
「何に使ってたんだろ」
「シミュレーションでは、何かの行政施設関連か、大型の集会場と出ましたわ」
姪っ子が淡々と説明した。
「確率からすると、大型の集会場の方が可能性が高いですわね。
部屋の広さが相当あるようですから」
「なるほ……すごっ」
そんな会話を交わしながら広めの通路を抜け、開口部をくぐって踏み出した先は、確かにホールかそれに類するものだった。
球場か劇場を思わせる造りで、中央部分が低く、周囲が階段状に高くなっている。
エルヴィラたちが出たのは、その一番上の部分だ。ここから下へと降りていく構造らしい。
言葉を失ったのは、そのスケールだった。
建物の大きさを考えれば十分あり得るのだが、子供の頃連れて行ってもらったドーム球場くらいある。
ただ地球なら付き物の、通り道に当たるものは見当たらなかった。
ここの住人は飛べたようだから、通路は空中そのものだったのだろう。
「ここで何、してたんだろ」
「議会でも開いていたのでは?」
そっけない答えをイノーラが返す。
「……せめてオペラ座とか、競技場とか言おうよ」
「種族によっては存在もしないものを、例に挙げてどうするのです」
本当にこの姪っ子、ひねくれている上に夢がない。まるでコンピューターだ。
まだ探索が始まったばかりなのに、少し疲れを感じてため息をつきながら、エルヴィラは辺りを見回した。
さっきも思ったが、銀河文明というのは本当に何もかもが「大きい」。
このホールと同じようなものは地球にもあった。
だがあくまでもそれは、地べたに建てたものに天蓋をつけただけで、こんな逆さづりビルの中に作る技術はない。
だがここも今はがらんとした、ただの空間でしかなかった。何に使われていたかさえ、もう分からないのだ。
これだけの技術があっても、時の流れの中に消えてしまうという事実に、自分の小ささを感じてしまう。
(銀河文明レベルのソドム人に対抗なんて、やっぱり無謀なのかな……)
一瞬そんな考えが頭を過ぎったが、エルヴィラは首を払って追い払った。
何もしないうちから諦めていては、何も出来ない。
軽く床を蹴って、ホールの真ん中へと向かう。足元に広がるのはたぶん座席で、そこには無数の物体が転がっていた。
冷たいものが背筋を伝う。
「あれ、たぶん全部、そうだよね……」
「意味がわかりませんから、主語をちゃんとおっしゃってください」
空中でコケそうになったが、エルヴィラは何とか持ちこたえた。
とかくこの姪っ子、空気やら雰囲気やらをぶち壊すのが上手い。
「えーとだから、あの座席みたいなとこに、転がってるもの」
「それが『そう』とは?
ともかくおばさまの言うことは、言葉の形を成していませんわ。銀河標準語を一からやり直されてはどうです?」
本当に地球のコンピューターのようだ。
ため息をつきながら、エルヴィラは言い直した。